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放浪開始・ブドパス編

39.情報交換してみるよ

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 そんな感じでステータスチェックを済ませた俺たちは、ちょうど同じくらいにギルドカードの発行を済ませたレニさんと合流してレストランに向かった。エステルの総合職ギルドはレストランが2階にあったけど、ここブドパスは地下にあるらしい。ただ、それだけにこちらの方が面積が広い。
 ……まあ、もともとの面積もめっちゃ広いんだけど。

「さてと、何食べよっかなー……やっぱりブドパスは首都だけあってエステルと食べてるものが違うのかな」
「その発言もどうかと思いますしそう変わらないと思いますよ? でも地域差がある可能性はありますよね……どれどれ」

 話しつつメニューを見ると、思った通りエステルに比べて少しばかり料理の種類も豊富でレベルが高そうに見える。その分値段も……金属貨幣表記に慣れた俺にはフィラー表記がちょっと分かりづらいものの、やや高めの印象を受ける。
 まあ食べられなさそうなものは見当たらないけど……問題はレニさんだな。

「レニさん、確か鳥関係はダメなんですよね」
「私たちにとって鳥は食べ物じゃありませんから」

 ああ、やっぱりそういう感じなんだな。ムスリムにとっての豚肉、ヒンズー教徒にとっての牛肉と立ち位置としては同じなんだろう。十分予想出来たことだけど、肝心のメニューがマジェリア語とジェルマ語しかない。

「レニさん牛肉や豚肉は大丈夫ですか?」
「ええ、鳥類の肉や卵でなければ。野菜や果物、飲み物についても何でもいただきます」
「それじゃ、レニさんにはこれがいいかね……俺はこれにするとして、エリナさんはどうする?」
「私はこれにします。エステルではこの手のものは食べたことなかったので」
「どれどれ? おっけー、これね。……すいませーん」
「はい、ご注文お決まりですか?」
「ローストポークの茹でパン添え、ロールキャベツのトマトソース煮、川魚のピリ辛パプリカスープをお願いします。それと温かい麦茶も3つと適当にパンを」
「かしこまりました、少々お待ちください」

 注文を取った店員さんがにこやかに去っていく。エステルよりも観光客向けの接客のような気もするけど、そこら辺は首都だからなのかな? ……さて、注文も終わったことだしそろそろ色々話をするか。

「そう言えばエリナさん、お風呂に入ってた時に言葉による会話がないのって結構辛くなかった? レニさんはジェルマ語も喋れないんでしょ?」
「ああいえ、トーゴさん、実は少しですけど言葉通じたんですよ」
「え、そうなんだ!? でもどうやって……?」
「それがですね、私たちが英語と認識している言語がこちらではアルブランエルフ語として認識されているそうです。流石に全く同じではないと思いますけど、高地マジェリア語も流れとしてはアルブランエルフ語を一部汲んでいるみたいだったので……」

 ……知らなかった。というかそんな事実なかなか聞き逃せない。アルブランエルフ語とやらが英語とかなり近い……というか同じ言語と認識されるほど近似のものなら、もしかして源流はそちらにあるんじゃないかと疑いたくなる。
 それにしても、だからと言って高地マジェリア語との間でそこまで意思疎通が可能なのかは疑問が残るところだけど……ああ、もしかして?

「エリナさん、それで言語把握初級ってスキルを取ったのか」
「……多分そうだと思います。言語把握初級っていうスキルの説明文に、こんなことが書いてありましたから」



 言語把握初級
  認識した言語の構造および他言語との関連性を把握する。未知の言語の場合、完全な意味の把握は不可能。



 ……つまり見聞きした言語と何となく似ている言葉と照らし合わせて、ある程度話を通じやすくする事が出来るってわけだ。そうなると俺の多方向翻訳認識能力が何でスキルの欄に書かれていないのかが気になるけど、もしかして転生の時に神様から特別にもらったものでこの世界には本来ないもの、だったりするのかな?

「とにかく、完全で流暢でないにしてもコミュニケーションは取れたってことでいいの? それならよかったけど」
「はい。……まあ通じなかったら通じなかったで私は別に構わなかったんですけど」
「ちょいちょいちょいちょい」

 いくら英語以外で言えばレニさんに通じないからってそういう誤解されかねない発言するのやめようか。……フィンランド人っていうのは、通常日本人が想像するような欧米人と違ってコミュニケーションを積極的に取ろうとしない、いわば内向的な性格の人が多いらしく、エリナさんみたいなやや外向的な人はむしろ少数派なんだとか。
 だからエリナさんはレニさんと喋れないのが寂しいんじゃないかと勝手に思っていたんだけど……やっぱりフィンランド人はフィンランド人ということなんだろうかね。
 そういう背景を知っているからさっきの言葉も笑って済ませられるけど、何も知らないままあんな言葉投げられたら驚くわ!

「でも英語が通じそうなのがお風呂に入る前に分かったので、情報収集出来るかもしれないとは思ってましたけどね。……ああそうだ、さっきアルブランエルフ語って言ったじゃないですか。ジェルマの向こうにルフラン、ルフランと海を挟んでアルブランという国がそれぞれあるらしいですよ?」
「ルフランとアルブラン? ややこしいね?」
「やっぱりトーゴさんもそう思いますか」

 そりゃ名前の感じがほぼ丸被りだしねえ。……でも、これで目的地にすべき場所の選択肢が広がったわけだ。

「あ、そうだレニさん。さっきハイランダーエルフ用のギルドカードもらったんでしたよね? どんな感じのか興味あるからちょっと見せてもらえます?」
「あ、いいですよ。ただセキュリティ上手渡しは出来ないので、私が持っていていいのであれば、ですけど」
「大丈夫大丈夫」

 むしろギルドカードがクレジットカードやキャッシュカード的なものだと考えると、俺としてもそうしておいてほしい。

「では……こんな感じです。上の大きい……文字? 模様? その下にある小さい文字が私たちの文字です。多分同じことが書いてあると思うんですけど、私たちの文字ではハイランダーズギルドカードって書いてありますね」
「ええ、確かに。こっちはマジェリア語とジェルマ語でハイランダーズギルドカードって書いてあります」

 ちなみに当然のことながら、ハイランダーが持つギルドカードといったニュアンスのハイランダーズであってハイランダーズギルドというのがあるわけではない。とにかく、それとちまちま書いてある高地マジェリア語以外は券面の色も含めて大きな違いはないように見える。

「大体使い勝手としては普通のギルドカードと変わらないらしいんですけど、券面のランクが金庫の使用状況にのみ応じて変わるところが違うらしいです。依頼をこなしてランクを上げるのが普通なんですよね?」
「ええ、そうです。なるほど、そうなると本格的に決済専用のカードなんだな……」

 まさかエルフの人たちが総合職ギルドの依頼が全く受けられないってことはないだろうけど、そもそもとしてエルフと人間との間で言葉がほとんど通じない時点でその辺りの問題は出てこなかったんだろうな……ブドパスのギルドで掲示されてる依頼書に高地マジェリア語が併記されてるかどうかも分からないけど、その辺りも明日以降ちょっと確認してみようか。

「それにしてもトーゴさん、金庫の使用状況でカードのランクが変わるってますますクレジットカードっぽいですね? もしかしてキャッシングの枠なんてのもあったりして」
「いやそれはどうだろう……」
「キャッシング? って、何ですか?」
「ああ、このカードを使ってお金が借りられるかどうかって話ですよ」
「ああー……そういう機能もあるらしいです。金庫にお金が足りなくなった時なんかは、一時的に総合職ギルドのツケになるとか……あとはギルドの窓口でお金の形で引き出せるとか……」
「……想像以上にクレジットカードですねトーゴさん……」

 全くだ。ただ俺たちがギルドカードを発行してもらった時はそんな説明一切なかったんだけど……もしかしてハイランダーエルフ用にだけある機能? それはそれで何かきな臭い話のような気がするけど……
まあ考えても仕方ないかな。ただひとつだけ言っておかないと。

「レニさん、使い過ぎには注意してくださいね」
「もちろんですとも、そもそもここに来る機会自体があまりありませんけど」

 だから怖いんだけど……と言っても、レニさんは実感が沸かないだろうから難しいところなんだけどね……



---
牛や豚がダメってのはあっても鶏や卵がダメって戒律はなかなかレアなんじゃないかなあ、と。
となると今の人がいかに鶏を食っているかという事にもなったりならなかったり。

そして明日12/30、冬コミよろしくお願いします!

次回更新は01/01の予定です! いよいよ新年突入ですよ!
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