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放浪準備編
24.魔動車を作る準備をするよ
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俺とエリナさんが今後に向けて色々行動を起こしていくぞと決意を固めて、早2週間が経った。で、今は総合職ギルドの上のレストランで夕食の真っ最中。この世界に来てからこっち夕食はずっとここで食べているので、もうすっかり店の人にも顔なじみという感じになっている。
あれから俺は木工以外の複数の生産系ギルドに登録を済ませ、この国というか世界における生産関係の情報を徐々に手にしていた。
ちなみに登録した生産ギルドは他に鍛冶、服飾、魔導工学、製薬、基礎材料の5つ。どれも木工と同じ感じの審査があったけど、同じ感じだけあってどれも問題なくこなせる範囲内だった。おかげでどのギルドも軒並み銀ランクから始められるようになったのはありがたい。
……総合職ギルドは軽銀ランクのままだっていうのに。
それぞれについて振り返ると、懸念材料だった魔導工学に関しては、やっぱり最初の読み通り電気工学とそれなりに互換性があったので助かった。もっとも電気と違って化石燃料を使った発電なんかはされていないわけで、そこは魔導工学らしく原動力が魔力となっている。
懸念材料と言えば鍛冶と服飾の範囲だけど、名前こそ鍛冶やら服飾やらではあるもののだいぶ多くの範囲を内包しているらしいことが分かったのも収穫であり朗報だった。鍛冶は金属加工全般、服飾も糸や布を使用する作業全般を含むらしい。
そして最後の基礎材料。これは当初加入する予定はなかったんだけど、やることが魔法を使った錬金術に近かったので取ることにした。他のギルドの取扱品目にない材料を作るには有用かもしれないし。
エリナさんの方はギルドに登録することは出来なかったものの、その主原因であり懸案事項である言語に関してはだいぶジェルマ語が達者になった。
エリナさん曰く、
「確かに文字や語彙に関しては私たちのもともといた世界とはだいぶ違いますけど、文法に関しては私たちに馴染みの深いSVO型ですし、割合簡単に覚えられますよ」
ということだったけど、正直多方向翻訳認識能力を持っていて会話やら筆記やら読解やらに不自由を感じない俺にはよく分からない。あ、でも英語を覚えるのは楽な人は楽だって言うな。あれと同じ感覚なのかな?
「トーゴさん? どうかしましたか?」
「……いや、何でもないよ。それにしても本当にジェルマ語が達者になったんだね、凄いよエリナさん」
「そ、そんな……トーゴさんの作ったテキストが凄くよかったからですよ。何もない状態でここに来てたら、私どうなってたか」
エリナさんはそう謙遜するけど、俺は素直にこの子が凄いと思った。さっき英語で例えて思ったんだけど、普通2週間でそれなりとは言え外国語で意思疎通出来るようになるなんて無理だ。いくら文法がどうのと言っても、文字も語彙も違えば絶対混乱する。
これはエリナさんが優秀なのか、それともエリナさんの精神面での何かが後押ししてるんだろうか……まあとにかく、エリナさんは凄い勢いでこの世界に順応しようとしているということだ。
しかし、それなら――
「トーゴさん? また考えごとですか?」
「え? ああいや、何でもない。いろいろ情報もつかんだし、そろそろ魔動車を作る準備をしようかと思ってさ。前にキャンピングカー云々の話したっしょ?」
「そうですね、少し広めに車内のスペースを確保すれば十分生活出来そうだって……」
「うん。で、さっそく作っていこうと思っていろいろ情報を集めてるんだけど――」
「だけど?」
「――俺の元々の職業は全くこの手のジャンルからは外れてるんだけど、それにしてもおそらく材料がかなり足りないと思う。だからまずはそれを確保するところ時から始めないといけない、かな」
「……? あの、材料が足りないっていうのは絶対量が足りないということですか?」
「……まあそういうことだね。はっきり言って絶対量が足りない足りなくない以前の問題のもあるけど」
「?」
そう、この世界に転生してきて全く気付かなかった俺も悪いんだけど、車とその道路を構成する上で気づいておくべきだった事項がある。それは材料の希少価値……とは別に、材料そのものの概念の欠如だ。
もっとも金属加工がある以上、フレームもホイールも問題ない。木工があるから内装もそれなりに綺麗に出来るし、服飾で座席シートやら何やらを作ることも出来る。燃料は魔力を使うから、魔導工学で何とかなる。
けど、実は一番大事なものがない。
「エリナさん、この世界に来てから1回だけ依頼で魔動車に乗ったよね。あの時、気になることとかなかった?」
「気になること、ですか? ええと……ああ、そうだ! 平らにするだけして舗装もしてない道を走るのは流石にきつかったですよ!」
「そう、未舗装の道をああいう形で走って乗員乗客に衝撃が加わる、というのは、そのほぼ全てがサスペンションと舗装の未熟さ、それにタイヤの質に問題があるってことなんだよ。まああの貸し出し用の魔動車は最悪だったけど」
「それは確かにそうかもしれません……って、そうかタイヤか!」
「そう、この世界にはタイヤがない。もっと言うならゴム製品をこの世界に来てから俺は一度も見たことがない」
「言われてみれば……あれ、ということは私たちが作る今回の車も実はあんな風にサスもなくタイヤもないがったがたの出来損ないになる可能性が高いってことですか!?」
この世界の車に向けて凄いディスだなエリナさん……言ってることに間違いがないだけにこの世界の人たちが気の毒になってくる。フィンランド語で話してて周りの人たちに通じないのが幸いってところだな。
とは言え、エリナさんの不安も解消してやらねばならい。
「サスペンションに関してはどっちかって言うと金属加工の分野だから鍛冶でどうにかなると思う。スプリングやアームはもちろんショックアブソーバーもだね。オイル式にすれば材料自体は比較的楽に行けるかな……
タイヤに関しては、これはもう自分で作るしかないと思う」
「タイヤ、作れるんですか!?」
「普通は無理だけど、俺の場合は生産系の能力がエキスパートだからね……」
まあ作れたにしても、色々と考えなきゃならないことは多いんだけど。何はともあれまずは作り始めるところからだな、多分一番時間がかかるところだろうし。
「基礎材料ギルドに登録しておいて助かったよ。取り敢えず必要なものは100%エタノールと石炭、あと硫黄と亜鉛と炭の粉ってところか。……場合によっては何か追加で必要になるものもあるかもしれないけど、取り敢えずはこれだけだ」
「……あの、石炭やら硫黄やらは百歩譲って手に入るとして、100%のエタノールなんて手に入るんですか……?」
「別に買う時点では100%でなくてもいいんだよ、それでもある程度度数の高い蒸留酒である必要があるけど。そうだな、その辺りもどんなお酒が売ってるかとかもう1回確認してみようか」
本当は甲種焼酎みたいな味も素っ気もない割るの前提の蒸留酒が売っていれば一番いいんだけどね……基礎材料に関わる魔法のおかげで成分分離はもうそれこそお手の物って感じだし。
こういうところは異世界万歳と言いたくなるな、うん。
「そういえば、ゴムもそうですけどプラスチックもありませんよね? 高分子材料で存在しないものが多い印象です」
「ああ、確かに……そう考えるとこの世界は正しく中世だな」
「それも作る方法を考えましょう。魔動車作りにも絶対あった方がいいですって。まともなタイヤが確保できる保証がない以上、元の世界と同じかそれ以上に車体を軽くする必要もあるでしょうし」
「……エリナさん、結構詳しいね」
――そんな話をしているうちに、夜はどんどん更けていく。
---
さてーいよいよ技術力で無双かなー?(心にもないこと
次回更新は11/17の予定です。
あれから俺は木工以外の複数の生産系ギルドに登録を済ませ、この国というか世界における生産関係の情報を徐々に手にしていた。
ちなみに登録した生産ギルドは他に鍛冶、服飾、魔導工学、製薬、基礎材料の5つ。どれも木工と同じ感じの審査があったけど、同じ感じだけあってどれも問題なくこなせる範囲内だった。おかげでどのギルドも軒並み銀ランクから始められるようになったのはありがたい。
……総合職ギルドは軽銀ランクのままだっていうのに。
それぞれについて振り返ると、懸念材料だった魔導工学に関しては、やっぱり最初の読み通り電気工学とそれなりに互換性があったので助かった。もっとも電気と違って化石燃料を使った発電なんかはされていないわけで、そこは魔導工学らしく原動力が魔力となっている。
懸念材料と言えば鍛冶と服飾の範囲だけど、名前こそ鍛冶やら服飾やらではあるもののだいぶ多くの範囲を内包しているらしいことが分かったのも収穫であり朗報だった。鍛冶は金属加工全般、服飾も糸や布を使用する作業全般を含むらしい。
そして最後の基礎材料。これは当初加入する予定はなかったんだけど、やることが魔法を使った錬金術に近かったので取ることにした。他のギルドの取扱品目にない材料を作るには有用かもしれないし。
エリナさんの方はギルドに登録することは出来なかったものの、その主原因であり懸案事項である言語に関してはだいぶジェルマ語が達者になった。
エリナさん曰く、
「確かに文字や語彙に関しては私たちのもともといた世界とはだいぶ違いますけど、文法に関しては私たちに馴染みの深いSVO型ですし、割合簡単に覚えられますよ」
ということだったけど、正直多方向翻訳認識能力を持っていて会話やら筆記やら読解やらに不自由を感じない俺にはよく分からない。あ、でも英語を覚えるのは楽な人は楽だって言うな。あれと同じ感覚なのかな?
「トーゴさん? どうかしましたか?」
「……いや、何でもないよ。それにしても本当にジェルマ語が達者になったんだね、凄いよエリナさん」
「そ、そんな……トーゴさんの作ったテキストが凄くよかったからですよ。何もない状態でここに来てたら、私どうなってたか」
エリナさんはそう謙遜するけど、俺は素直にこの子が凄いと思った。さっき英語で例えて思ったんだけど、普通2週間でそれなりとは言え外国語で意思疎通出来るようになるなんて無理だ。いくら文法がどうのと言っても、文字も語彙も違えば絶対混乱する。
これはエリナさんが優秀なのか、それともエリナさんの精神面での何かが後押ししてるんだろうか……まあとにかく、エリナさんは凄い勢いでこの世界に順応しようとしているということだ。
しかし、それなら――
「トーゴさん? また考えごとですか?」
「え? ああいや、何でもない。いろいろ情報もつかんだし、そろそろ魔動車を作る準備をしようかと思ってさ。前にキャンピングカー云々の話したっしょ?」
「そうですね、少し広めに車内のスペースを確保すれば十分生活出来そうだって……」
「うん。で、さっそく作っていこうと思っていろいろ情報を集めてるんだけど――」
「だけど?」
「――俺の元々の職業は全くこの手のジャンルからは外れてるんだけど、それにしてもおそらく材料がかなり足りないと思う。だからまずはそれを確保するところ時から始めないといけない、かな」
「……? あの、材料が足りないっていうのは絶対量が足りないということですか?」
「……まあそういうことだね。はっきり言って絶対量が足りない足りなくない以前の問題のもあるけど」
「?」
そう、この世界に転生してきて全く気付かなかった俺も悪いんだけど、車とその道路を構成する上で気づいておくべきだった事項がある。それは材料の希少価値……とは別に、材料そのものの概念の欠如だ。
もっとも金属加工がある以上、フレームもホイールも問題ない。木工があるから内装もそれなりに綺麗に出来るし、服飾で座席シートやら何やらを作ることも出来る。燃料は魔力を使うから、魔導工学で何とかなる。
けど、実は一番大事なものがない。
「エリナさん、この世界に来てから1回だけ依頼で魔動車に乗ったよね。あの時、気になることとかなかった?」
「気になること、ですか? ええと……ああ、そうだ! 平らにするだけして舗装もしてない道を走るのは流石にきつかったですよ!」
「そう、未舗装の道をああいう形で走って乗員乗客に衝撃が加わる、というのは、そのほぼ全てがサスペンションと舗装の未熟さ、それにタイヤの質に問題があるってことなんだよ。まああの貸し出し用の魔動車は最悪だったけど」
「それは確かにそうかもしれません……って、そうかタイヤか!」
「そう、この世界にはタイヤがない。もっと言うならゴム製品をこの世界に来てから俺は一度も見たことがない」
「言われてみれば……あれ、ということは私たちが作る今回の車も実はあんな風にサスもなくタイヤもないがったがたの出来損ないになる可能性が高いってことですか!?」
この世界の車に向けて凄いディスだなエリナさん……言ってることに間違いがないだけにこの世界の人たちが気の毒になってくる。フィンランド語で話してて周りの人たちに通じないのが幸いってところだな。
とは言え、エリナさんの不安も解消してやらねばならい。
「サスペンションに関してはどっちかって言うと金属加工の分野だから鍛冶でどうにかなると思う。スプリングやアームはもちろんショックアブソーバーもだね。オイル式にすれば材料自体は比較的楽に行けるかな……
タイヤに関しては、これはもう自分で作るしかないと思う」
「タイヤ、作れるんですか!?」
「普通は無理だけど、俺の場合は生産系の能力がエキスパートだからね……」
まあ作れたにしても、色々と考えなきゃならないことは多いんだけど。何はともあれまずは作り始めるところからだな、多分一番時間がかかるところだろうし。
「基礎材料ギルドに登録しておいて助かったよ。取り敢えず必要なものは100%エタノールと石炭、あと硫黄と亜鉛と炭の粉ってところか。……場合によっては何か追加で必要になるものもあるかもしれないけど、取り敢えずはこれだけだ」
「……あの、石炭やら硫黄やらは百歩譲って手に入るとして、100%のエタノールなんて手に入るんですか……?」
「別に買う時点では100%でなくてもいいんだよ、それでもある程度度数の高い蒸留酒である必要があるけど。そうだな、その辺りもどんなお酒が売ってるかとかもう1回確認してみようか」
本当は甲種焼酎みたいな味も素っ気もない割るの前提の蒸留酒が売っていれば一番いいんだけどね……基礎材料に関わる魔法のおかげで成分分離はもうそれこそお手の物って感じだし。
こういうところは異世界万歳と言いたくなるな、うん。
「そういえば、ゴムもそうですけどプラスチックもありませんよね? 高分子材料で存在しないものが多い印象です」
「ああ、確かに……そう考えるとこの世界は正しく中世だな」
「それも作る方法を考えましょう。魔動車作りにも絶対あった方がいいですって。まともなタイヤが確保できる保証がない以上、元の世界と同じかそれ以上に車体を軽くする必要もあるでしょうし」
「……エリナさん、結構詳しいね」
――そんな話をしているうちに、夜はどんどん更けていく。
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さてーいよいよ技術力で無双かなー?(心にもないこと
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