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異世界転生編
14.今後の方針を決定するよ
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総合職ギルドの食堂は昼に食事した時よりも目に見えて混雑していた。こういう場所だからもっとそれっぽい人が多いのかと思ってたら、意外にも一般市民らしき人の姿が多くて面食らった。
……まあ銀行代わりにもなってるみたいだし、一般市民が総合職ギルドに入っててもおかしくはないのか。昼にも確認した通りここの食堂はコストパフォーマンスもよさそうだし、元の世界でいうファミレス感覚で来る人も多いのかもしれない。
「それにしてもここほんとコスパいいよな……あ、エリナさんもうちょっと食べる?」
「いえいえお構いなく。というかちょっとコスパよすぎませんかこの店」
「……盛り方が多いのはその通りだとは思う、うん。でも大味じゃないあたり結構消費出来るでしょ」
「それは……そうですけど」
言いつつエリナさんは自分の取り皿にパスタを取り分ける。黒オーク肉のベーコンだけを具材にニンニクと脂だけで炒めたシンプルなものだが、不思議とうまい……が、量も凄い。
このパスタ、取り分けが必要という時点で想像出来る通り2人前の量が大皿ひとつに盛られて出てきている。その分安めだけど、というか2人前と言っても600グラム以上はあるんじゃないかコレ……?
そしてお互いの目の前には、普通サイズの牛肉パプリカスープ。使ってる野菜の質がいいのか、甘みが立っててほっとする味だ。昼の時とは違って水やパンは出てこないが、これで総額1穴あき銀で済むというのだから凄いと思う。
日本円に直すと1000円程度、物価水準も考えると2000円相当か。妥当と言えば妥当な値段か……?
「それで、明日以降はどうしますか?」
「ああ、明日以降か……」
まあこの店のコスパについてはいいということでよしとして、エリナさんが言う通りここで今後の方針をある程度決めてしまおう、という話になっていたのだった。……いたのだったって言うと忘れてたみたいに思われるかもしれないけど違うぞ、ちゃんとそれも考えてたぞ。
とにかく、その一環として今一度じっくりと依頼掲示板を確認したんだけど――
「流石に最初に説明された通り、簡単な依頼が多い印象だったな。その分収入もそれほど期待出来るわけじゃないけど」
「ですね……私たち軽銀ランクでは高収入はあまり見込めないシステムのような気がします。言い方を変えれば草刈りや掃除、後は何かの雑用などといったものばかりですもの」
要するに、ここはちょっと面倒なお手伝いを募集するための仲介所みたいな感じになってるのだ。ギルドからの直接の依頼だと実入りもいいが、そうでない場合は依頼人も出来る限り出し渋る傾向があるからあまり達成報酬も期待出来ない。
そのギルドからの直接依頼は常設依頼という形で常に掲示板に貼られてるけど、それにしたって総合職ギルドで達成可能なレベルに抑えれられてる印象だ。
トロリ草ひとつとっても、製薬ギルドの依頼だとあんな大雑把な感じにはならない。新鮮さや大きさ、数の指定もかなり細かい。その代わり達成報酬は総合職より多いのだ。つまり高収入を期待するなら、各専門職ギルドに複数登録しておくのがいい、ということになる。
まあもっとも専門職ギルドは入会審査があるのが普通だ。俺なら生産系のギルドに入ることくらい何てことないだろうが――エリナさんにはその方法はちょっと厳しいかもしれない。
いずれにせよここから先はちょっと計画立てて行動しなければダメな気がする。
「取り敢えず明日は図書館に行って情報収集してくるよ。製本ギルドのホール内に誰でも使える図書館があるみたいだから」
「製本ギルド、太っ腹ですね……」
「その代わり出来のいいものに関してはギルドメンバーにならないとダメな初夏に入れてあるらしいけどね。でも今回はそこまで詳しいものは多分必要ないかな。
その代わり明日以降、いくつか専門職ギルドに入るようにするよ。ここの依頼もこなしながらだけど、その方がいろいろ出来ることも多いし」
個人的な希望としては木工と鍛冶と裁縫、それとあの魔力で動いているトロリーバスやら路面電車やらに興味があるから、ああいうのを担当している魔導工学とやらに加入したいところだけど……前3つはともかく魔導工学に関しては完全に予備知識がない。電気工学と互換性があればいいけど……
「そう言うことなら私も色々勉強やトレーニングなどしようかと思います。言葉の問題をトーゴさんに解決してもらっている身で、さらに実際の仕事まで足を引っ張るとなっては迷惑ばかりかけてしまいますもの」
「ああ……ありがとう。実際そう言ってくれると俺としても助かるよ」
何せ生産系の魔法はたくさん習得してるけど、戦闘スキルに関してはからっきしだからなあ……いざ強いモンスターなんかに襲われたら対処しきれない。一応戦闘スキルはいくらか持ってはいるけど、正直使いこなせる感じがしないんだよな……
多分ディスプレイに表示されないだけで、スキルランクみたいなものがあるんだろう。それかスキル適性のような何かか。
「でも本当に、言語の問題って重要なんですね……フィンランドから出たことなかったので、全然気にしたことありませんでした」
「エリナさんはヘルシンキだっけ。確かフィンランド人って英語も相当上手いんだよね」
「大体喋れますね。場所によってはスウェーデン語も。私はヘルシンキでもトルッケリンマキってところの出身なので、喋れるのはフィンランド語と英語くらいですけど」
「いやそれでも十分凄いからね? 日本人は大体日本語しか喋れないからね?」
「そんなことありませんよ、発音は独特ですけど結構喋れる人多い印象ですよ……それにトーゴさんがそれを言いますか」
……それを言われるとぐうの音も出ないが、自動翻訳を通すと全て日本語にしか認識出来なくなる上に、こちらが言葉を喋ってもその人の一番理解しやすい言語に変換されるのが利点であり難点なんだよな……これのおかげでエリナさんにここの言葉を教えるというのが出来そうにない。
イラストか何かを活用すればそれも出来そうな気はするんだけど、そこらへんはおいおいやっていくしかないか。時間はそれこそ永遠にあるんだし。
それにさっき戦闘スキルを使いこなせる気がしないといった俺だけど、それならエリナさんと同じくトレーニングをしなくちゃな。ランクがあるにしろないにしろ、スキルの特性を把握して使っていかなきゃ成長はない。そう考えると8日間で足りるのか……? いや、宿泊日数はいざとなったら延長すればいいんだけど。
「何にせよいつまでも宿泊所暮らしだとお金を無駄に使い過ぎるばっかりだし、早めにこの世界に関する情報を収集して住まいをどうにかしないとな。……衣食に関しては何とかなりそうな感じでよかったけど」
「そうですね……でも街を見て回った感じだと、既存の家を買うのはちょっとやめておいた方がよさそうですね。ちょっとストレス溜まりそうです」
エリナさんのセリフに思わずうなずきで返す。そりゃぱっと見あんな狭いところでサウナも浴室も期待出来そうにはないからなあ……しかも不動産ギルドの表に貼られていたポスターを見る限りではとんでもない格安で10金、つまり100万円相当だ。
実際にはその10倍くらいが1部屋購入の目安なのだろうけど……ワンルームに毛が生えたような部屋にそんな金は出せない。ましてや将来的にずっとこの街に留まるかどうかすらわからないのに。
となると自分たちで家を作るというのもひとつの選択肢なんだけど……生産系のエキスパートってのを願っておいて本当によかったわ。その選択肢を選び得る時点で俺たちは相当恵まれてる。
ただ何をするにしても、明日以降に持ち越しだな……もうちょっと実入りのいい依頼があればガンガンこなしていこう。そうしないといくら節約とは言え収入が追い付かなくなってしまっては意味がないのだから。
「そろそろホテルに戻りましょうか。明日はなるべく朝早く起きて、やれるだけのことをやってしまいましょう」
「……そうだね」
言われてテーブルの上を見ると、頼んだ料理はいつの間にかすっかり片付いていた。
---
※ちょっと解説
パスタはペペロンチーノの唐辛子がないヴァージョン的なイメージですが、実は作中でふたりが飲んでいたスープは現実でも飲めます。日本ではなかなか味わえないところがまた何というか……
……まあ銀行代わりにもなってるみたいだし、一般市民が総合職ギルドに入っててもおかしくはないのか。昼にも確認した通りここの食堂はコストパフォーマンスもよさそうだし、元の世界でいうファミレス感覚で来る人も多いのかもしれない。
「それにしてもここほんとコスパいいよな……あ、エリナさんもうちょっと食べる?」
「いえいえお構いなく。というかちょっとコスパよすぎませんかこの店」
「……盛り方が多いのはその通りだとは思う、うん。でも大味じゃないあたり結構消費出来るでしょ」
「それは……そうですけど」
言いつつエリナさんは自分の取り皿にパスタを取り分ける。黒オーク肉のベーコンだけを具材にニンニクと脂だけで炒めたシンプルなものだが、不思議とうまい……が、量も凄い。
このパスタ、取り分けが必要という時点で想像出来る通り2人前の量が大皿ひとつに盛られて出てきている。その分安めだけど、というか2人前と言っても600グラム以上はあるんじゃないかコレ……?
そしてお互いの目の前には、普通サイズの牛肉パプリカスープ。使ってる野菜の質がいいのか、甘みが立っててほっとする味だ。昼の時とは違って水やパンは出てこないが、これで総額1穴あき銀で済むというのだから凄いと思う。
日本円に直すと1000円程度、物価水準も考えると2000円相当か。妥当と言えば妥当な値段か……?
「それで、明日以降はどうしますか?」
「ああ、明日以降か……」
まあこの店のコスパについてはいいということでよしとして、エリナさんが言う通りここで今後の方針をある程度決めてしまおう、という話になっていたのだった。……いたのだったって言うと忘れてたみたいに思われるかもしれないけど違うぞ、ちゃんとそれも考えてたぞ。
とにかく、その一環として今一度じっくりと依頼掲示板を確認したんだけど――
「流石に最初に説明された通り、簡単な依頼が多い印象だったな。その分収入もそれほど期待出来るわけじゃないけど」
「ですね……私たち軽銀ランクでは高収入はあまり見込めないシステムのような気がします。言い方を変えれば草刈りや掃除、後は何かの雑用などといったものばかりですもの」
要するに、ここはちょっと面倒なお手伝いを募集するための仲介所みたいな感じになってるのだ。ギルドからの直接の依頼だと実入りもいいが、そうでない場合は依頼人も出来る限り出し渋る傾向があるからあまり達成報酬も期待出来ない。
そのギルドからの直接依頼は常設依頼という形で常に掲示板に貼られてるけど、それにしたって総合職ギルドで達成可能なレベルに抑えれられてる印象だ。
トロリ草ひとつとっても、製薬ギルドの依頼だとあんな大雑把な感じにはならない。新鮮さや大きさ、数の指定もかなり細かい。その代わり達成報酬は総合職より多いのだ。つまり高収入を期待するなら、各専門職ギルドに複数登録しておくのがいい、ということになる。
まあもっとも専門職ギルドは入会審査があるのが普通だ。俺なら生産系のギルドに入ることくらい何てことないだろうが――エリナさんにはその方法はちょっと厳しいかもしれない。
いずれにせよここから先はちょっと計画立てて行動しなければダメな気がする。
「取り敢えず明日は図書館に行って情報収集してくるよ。製本ギルドのホール内に誰でも使える図書館があるみたいだから」
「製本ギルド、太っ腹ですね……」
「その代わり出来のいいものに関してはギルドメンバーにならないとダメな初夏に入れてあるらしいけどね。でも今回はそこまで詳しいものは多分必要ないかな。
その代わり明日以降、いくつか専門職ギルドに入るようにするよ。ここの依頼もこなしながらだけど、その方がいろいろ出来ることも多いし」
個人的な希望としては木工と鍛冶と裁縫、それとあの魔力で動いているトロリーバスやら路面電車やらに興味があるから、ああいうのを担当している魔導工学とやらに加入したいところだけど……前3つはともかく魔導工学に関しては完全に予備知識がない。電気工学と互換性があればいいけど……
「そう言うことなら私も色々勉強やトレーニングなどしようかと思います。言葉の問題をトーゴさんに解決してもらっている身で、さらに実際の仕事まで足を引っ張るとなっては迷惑ばかりかけてしまいますもの」
「ああ……ありがとう。実際そう言ってくれると俺としても助かるよ」
何せ生産系の魔法はたくさん習得してるけど、戦闘スキルに関してはからっきしだからなあ……いざ強いモンスターなんかに襲われたら対処しきれない。一応戦闘スキルはいくらか持ってはいるけど、正直使いこなせる感じがしないんだよな……
多分ディスプレイに表示されないだけで、スキルランクみたいなものがあるんだろう。それかスキル適性のような何かか。
「でも本当に、言語の問題って重要なんですね……フィンランドから出たことなかったので、全然気にしたことありませんでした」
「エリナさんはヘルシンキだっけ。確かフィンランド人って英語も相当上手いんだよね」
「大体喋れますね。場所によってはスウェーデン語も。私はヘルシンキでもトルッケリンマキってところの出身なので、喋れるのはフィンランド語と英語くらいですけど」
「いやそれでも十分凄いからね? 日本人は大体日本語しか喋れないからね?」
「そんなことありませんよ、発音は独特ですけど結構喋れる人多い印象ですよ……それにトーゴさんがそれを言いますか」
……それを言われるとぐうの音も出ないが、自動翻訳を通すと全て日本語にしか認識出来なくなる上に、こちらが言葉を喋ってもその人の一番理解しやすい言語に変換されるのが利点であり難点なんだよな……これのおかげでエリナさんにここの言葉を教えるというのが出来そうにない。
イラストか何かを活用すればそれも出来そうな気はするんだけど、そこらへんはおいおいやっていくしかないか。時間はそれこそ永遠にあるんだし。
それにさっき戦闘スキルを使いこなせる気がしないといった俺だけど、それならエリナさんと同じくトレーニングをしなくちゃな。ランクがあるにしろないにしろ、スキルの特性を把握して使っていかなきゃ成長はない。そう考えると8日間で足りるのか……? いや、宿泊日数はいざとなったら延長すればいいんだけど。
「何にせよいつまでも宿泊所暮らしだとお金を無駄に使い過ぎるばっかりだし、早めにこの世界に関する情報を収集して住まいをどうにかしないとな。……衣食に関しては何とかなりそうな感じでよかったけど」
「そうですね……でも街を見て回った感じだと、既存の家を買うのはちょっとやめておいた方がよさそうですね。ちょっとストレス溜まりそうです」
エリナさんのセリフに思わずうなずきで返す。そりゃぱっと見あんな狭いところでサウナも浴室も期待出来そうにはないからなあ……しかも不動産ギルドの表に貼られていたポスターを見る限りではとんでもない格安で10金、つまり100万円相当だ。
実際にはその10倍くらいが1部屋購入の目安なのだろうけど……ワンルームに毛が生えたような部屋にそんな金は出せない。ましてや将来的にずっとこの街に留まるかどうかすらわからないのに。
となると自分たちで家を作るというのもひとつの選択肢なんだけど……生産系のエキスパートってのを願っておいて本当によかったわ。その選択肢を選び得る時点で俺たちは相当恵まれてる。
ただ何をするにしても、明日以降に持ち越しだな……もうちょっと実入りのいい依頼があればガンガンこなしていこう。そうしないといくら節約とは言え収入が追い付かなくなってしまっては意味がないのだから。
「そろそろホテルに戻りましょうか。明日はなるべく朝早く起きて、やれるだけのことをやってしまいましょう」
「……そうだね」
言われてテーブルの上を見ると、頼んだ料理はいつの間にかすっかり片付いていた。
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※ちょっと解説
パスタはペペロンチーノの唐辛子がないヴァージョン的なイメージですが、実は作中でふたりが飲んでいたスープは現実でも飲めます。日本ではなかなか味わえないところがまた何というか……
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