いつかまたあの丘で

genayoko

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いつかまたあの丘で

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大学の近くには小さな丘のある公園があった。
丘は今日も昨日観た映画のように静まりかえっていた。
木々は秋の風に梢を鳴らし、僕は一歩づつ丘のてっぺんまで登っていった。
頂上にたどり着くとそこには小さな屋根付きのベンチがあった。
僕はベンチに一人腰かけて遠く澄んだ秋の夕暮れを見渡した。

都会の真ん中にあるはずの風景はなぜか秘密めいて
これから起こることに僕は微かな期待を込めて待った。

沢山のビルが小さく空気にかすむ中、僕は一つの白い塔が真っすぐ空を指しているのをみとめた。

あの時と全く変わらない。

「教会だよ。温度計みたいな形をしているだろ。」
彼はごく小さな声で僕に言った。
そして少し頬を強張らせながら僕に告げた。
「時々考えがまとまらない時に、よくここへ来るんだ。いろんなことが難しくて。」

「佐野さんでもそんなに悩むことがあるんですね。」
僕は少し横柄な態度だったかもしれない。
「何か俺に話があったんじゃないんですか。」

彼は僕を真っすぐに見て低くつぶやいた。
「秋山は鈴木が好きなの?」
「わかりません。」
僕は吐き捨てるように言った。
「鈴木さんが好きなのは佐野さんだって知ってて俺に聞くんですか。」
公園の木々がざわめいて風が彼の前髪を揺らした。
一呼吸おいて彼は言った。
「鈴木は多分秋山を選ぶと思う。」
「何でですか?」
「そんな気がするだけだよ。」
彼は本当に寂しそうに笑った。

「秋山が好きな人は俺も好きなのかもな。俺の想いはいつも届かない。」

僕は少し困惑して彼を眺めた。


その時黙って彼は僕にサン・テグジュペリの「星の王子様」を手渡した。




今僕は夕暮れのなか彼を待ちながら一人王子の言った言葉をつぶやいた。

「ぼくはあの花との約束を守らなきゃいけない」

街の明かりが遠くぽつぽつと灯り、塔も一層鋭く紫がかってきた天を指した。




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