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第18話 告白

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 早朝、痛む身体を半ば無理矢理に動かしウルソンは支度を整える。別邸を出ると、馬に乗り本邸へと走った。馬の駆ける振動が昨晩の情事で疲弊した腰に、かなりの負担を感じるが耐えた。本邸に着いたウルソンは、昨夜誘われた男の部屋をノックした。コンコン、と渇いた音がする。
 
「御早う御座います。ダンレン様。」
 
 扉を開けたそこには、頬を腫らしながらも優雅に朝食と珈琲を嗜む美丈夫が座っていた。

「…ウルソンくん」

 少し戸惑うがすぐに表情はいつもの余裕を見せ、ふわりと微笑む。

「良いの? 。」

 試すように、そしてからかうように、ダンレンはウルソンに問うた。

「何を仰いますか。私が来たくて来たのです。」

 ウルソンはそう言うと、ダンレンの方へと歩みを進めた。



∇ 

 朝、目覚めるとベッドには誰もいない。腕を伸ばした冷たいシーツで勝手に悲壮感に浸る。

 昨日、あれだけ犯したのに…。
 騎士と言うのは、随分と頑丈なモノだ。

 ダレスは起き上がり、用意されたぬるま湯で顔を洗い、用意された服に袖を通した。長く世話をされれば分かる、全てウルソンが用意したモノだろう。朝食を食べる気にはなれず、メイドに声を掛けた。

「おはよう。ウルソンは?」
「う、ウルソンさんは……」

 勿体振り、視線をそらすメイド。

「なんだ?」

 苛立つ。女に対してはいつでも温厚なダレスの威圧にメイドは慌てた。

「その、ウルソンさんに…言うなと。」
「お前の主は、僕だ。言え!!」

 焦燥に駆られ、ダレスは怒鳴った。僕には言うな、だと?何処に行った、何処に行くつもりだ。

「も、申し訳ありませんっ!、ウルソンさんはっ…」


 


 居場所を聞いたダレスは駆け出した。馬小屋を見ればウルソンの愛馬がいない。馬車を待つ時間も惜しく、ダレスは自ら馬に股がった。飛ぶように馬から降り、また駆け出す。昨夜、専属騎士を閨へと誘った忌々しい男…、兄の部屋へと向かう。

 バダンッ!と音を立て、ダレスは、部屋の扉を荒々しく開けた。目に入ってきたのは、金髪に重なる騎士の黒髪。逆光でよく見えないが、椅子に座る金髪の男に、黒髪の青年の方から顔を近づけているようだ。片手で頬を包んでいる。

「ダレス様…っ。」

 黒髪の青年は驚いて振り返った。
 やっぱり、お前も兄上を選ぶのか。

「…ウルソン。お前……」


「はぁ…。やめろ、ダレス。先走って勘違いをするな。ウルソン君は、手当てをしに来てくれただけだ。昨夜、誰かさんに殴られた、この頬をね。」

 嫌味ったらしくそう言うと、あとは君たちでどうにかしなさい、とダンレンは立ち上がる。

「ダンレン様ッ」

 まだ、坊っちゃまと二人っきりは不安だ。ウルソンは思わず、ダンレンを引き留めた。

「ウルソン君…」

 そんなウルソンにダンレンは、小さな声で言った。

「きっと大丈夫だ。ゆっくり話し合うと良い。もしも、またダレスに傷つけられたら、今度こそ、このダンレン様の処においで。たくさん甘やかして愛してあげるよ。こう見えて、一途なんだ。」

 ウルソンの頭をわしゃわしゃと撫で、ダンレンは部屋を出ていく。

 俺の周りには、いつも優しい人で溢れている。

 ウルソンは行ってしまうダンレンをぼーと眺めていた。部屋には、ダレスと二人きりだと言うのに。


「ウルソン…。」

 名前を呼ばれ、途端に意識が現状に引き戻された。緊張で肩がびくりと跳ねる。
「出ていくのか…、お前も兄上の方に。」

「出ていくなんて、そんなことはしません。私はダレス様の専属騎士ですから…」

 ウルソンは俯きながら答えた。ダレスの側を離れることなど、端から考えていない。けれど、あんなことがあって…、もし、ダレス様がそれを望むのなら。

「ウルソン…こっちを向いてくれ。」

 ダレス様の声に泣きそうになる。もし突き放されたら…、解雇だと言われたら。貴方は昨夜何を思いましたか。いま何を思っているのですか。それを聞くのはとても怖い、でも…。

「一夜の過ちと、仰いますか?」

 震える声が部屋に響いて、沈黙に取り残される。

「私は…、俺は…、上手く忘れられない。」

 どうしようもなく言葉が溢れて、止まらない。これ以上こんなこと、言ってはいけないのに。

「ダレス様が、出ていけと言うのならっ!」



「違う、すまない。ウルソン…、ごめん」

「なんで、謝るんですか…っ!!」

 耳に入ってきた言葉に、悲しみが一気に雪崩のように崩れ落ちてしまった。もう、溢れる涙を止めることができない。

 恋とは、何故こんなにも苦しいのか。
 こんなに苦しいのなら、恋などしなければ良かった。
 恋など、したくなかった。

「どうして、貴方を好きになってしまったんだろう。俺は……。」

 貴方を好きになるんじゃなかった。
 その言葉を口にするには、この恋は長すぎた。
 
 俯くウルソンに、甘い香りが近づく。涙を隠そうと覆った手を優しく掴まれた。淡い金髪と美しい顔が目の前にある。逃げるように上げた顔を下から伸びてくる腕に押さえられた。

「んっ…、やっ…ふっ。」

 触れるだけの甘い接吻キス

 よりによって何故、今、口づけなど…。沸き上がる苛立ちと哀しみでウルソンはダレスを突き放し、睨み付ける。けれど、やっとまっすぐ目を合わせた主は自分よりもずっと苦しそうで、ウルソンは何も言えなくなってしまった。
 
「ウルソン…好きだよ」

 今にも泣き出しそうな青年は、小さくそう呟いた。
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