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第9話 目撃

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 私欲溢れる大人たちの群れにダレスはうんざりしていた。どうにか此処から離れたい・・・、その一心で助けを求めるようにダレスはウルソンを探した。周囲に視線を回すと、見覚えのある金髪が目に入った。

 ダンレン兄上も、来ていたのか。

 壁際に自分よりも大きな誰かを追いやっている。また騎士の男でも口説いているのだろう。一体どんな男か、と気になって相手を見た。

 兄と居るのは、見覚えのある黒髪の男だった。

 ま、まずい! ウルソンが兄上に狙われている! 思えば屈強で真面目なウルソンは兄上の好みだ。“いつか組敷きたい”と言っていたのを思い出して青褪める。ダレスは自分の専属騎士を助けるべく、大人たちの群れから抜け出そうと試みた。

「すみません、喉が渇いたのでお酒を取りに行ってきます。」
「んん?酒ならウェイターに頼めばいい」
「色々見て、選びたいのですよ。」
「それなら、私が持ってきた隣国の名酒タリリアンをいかがですか?」
「は、ははは・・・。」

 中々、この輪の中から抜け出すことができない。困ったものだと悩んでいると、何やらウルソンの様子がおかしい。あの強い男がふらふらとしている、それをダンレンが受け止める。

「あ、兄上だ!すみません、挨拶してきます。」

 焦ったダレスは半ば強引に、その場を後にする。ウルソンとダンレンに近付こうと走った。

「キャッ!」

 高い声のすぐあとに、パシャっと水の音がした。見ると、客人のドレスと自分のタキシードに真っ赤なワインが広がっていた。

「申し訳ありませんっ。」
 
 すぐにハンカチを取り出し、女性のドレスを拭き、メイドを呼ぶ。 やってしまった・・・、今すぐにでもウルソンを助けに行かなければならないのにっ。でないと、僕の専属騎士の処女が危機だ!!
 
「ダン、レン・・・様っ、・・・・・・たすけ、て、ぇっ。」

 彼からは、おおよそ聞いたことのない“ねだる声”が聞こえた。
 ダンレンの首に腕を回し、頬を赤らめている。

 一瞬、頭が真っ白になった。

 あんな顔、見たことない。
 あんな声、聞いたことない。

 ねだる声は、切なげに兄の名を呼んでいた。

 ダレスの思考が固まっているうちに、ダンレンはメイドを呼び止め何かを頼む。それからすぐに、自分よりも大きなウルソンを横抱きにしてダンレンはパーティー会場を後にし、自室のある方へと消えて行った。
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