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第7話 金髪の美丈夫

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 ウルソンは、赤く染まっているであろう頬を冷まそうと、ウェイターに水を貰って一気に飲んだ。

「良い飲みっぷりだね。これもどうかな? ウルソンくん。」

 不意に、テーブルの上の果実を見ていた自分を呼ぶ声がして振り返る。そこには、前髪を横に流した金髪の美丈夫がグラスを持って立っていた。
 
「ダンレン様・・・! お久しぶりです。」

 ダンレン・フロート。彼はフロート家の次男、ダレスの7つ歳上の兄だ。彼の背は、騎士である自分と同じくらいある。線は細いが、肉付きや体格もしっかりしている。その美しい容姿に、勉学だけではなく剣術にも長けているというのだから、完璧と言っても過言ではない。

「この酒は、ロレッツ商が持って来た、隣国の名酒タリリアンだよ。美味しいから、飲んでごらん。」
「申し訳ありません。嬉しいのですが、酔うといけないので、今回は止めておきます。」

 そう言いながら、グラスをぐいっと差し出されだが、ウルソンは断った。ダンレンは、そんなウルソンに控えめで真面目な男なのだと思う。

 今夜くらい、酒を楽しめば良いのに・・・、不器用な騎士様だな。
 仕方がない。少し、煽ってみるか。

「何故だい? もう、酒を飲める年だろう? まさか、まだ成人してないなんて言わないよな?」

 からかうふりをして、ウルソンが罪悪感を持たず酒を飲めるよう言ってみる。が、屈強な騎士から返ってきたのは意外な返事だった。

「そりゃ、21歳なので法的には飲めますが・・・。その、私は、恥ずかしながら酒がとても弱く・・・・・。」

 恥じらいながら、ウルソンは正直に言った。なんだ随分とかわいいじゃないか、とダンレンは思う。そして、少し意地悪をしたくなった。

「・・・・・・?」

 突然、スルりとダンレンに腰を抱かれる。まるで女性に触れるような、それにウルソンは、ちょっとだけ驚いた。しかし、彼は酔っているのだろうと受け流し、そっと手から逃れた。それでも再度、腰を捕らえられる。そうして、ダンレンは耳元で囁くように言った。

「辛いだろう・・・? アイツを追いかけるのは。」
「え?」

 身体がずしりと重くなる。一体、何を言っているんだ・・・この人は。あまりの衝撃に、動揺を隠せない専属騎士は、目を見開いたまま固まった。まさか、バレるはずがない。今まで上手くやってきたはずなのだから、ひた隠しにしてきたのだから。きっと、何かの勘違いだ。

「残念だけど、ダレスは、遊ぶのをやめられないよ。」
「・・・・・何の、こと、ですか?」

 そう問うウルソンに、ダンレンは、ハハハッ! と声をあげて笑った。

「しらを切るつもりか? 気が付かない訳がないじゃないか。女や少年達に対する嫉妬・・・。恋情を抱く熱い視線で、君はずっと弟を見ている。君がどんなに隠しても、わかってしまうのだよ。苦しいだろう、ダレスの側に仕えるのは。」

 喋りながら、ダンレンは、シャツのボタンの隙間に指先を忍ばせた。けれど、ウルソンは自分の想いがダンレンへバレていたことに混乱して、その指先に気が付かない。

「ダレスは、君を抱いてくれないよ。君を選んではくれない。」

 追い討ちをかけるような、その一言でウルソンの瞳からボタボタと涙が溢れだした。自分でも分かっていたことなのに、他人の口から言葉にされると現実味が増した。ショックで硬直したまま涙を流すウルソンにダンレンは「あらら~」と楽しげに言いながら、名酒タリリアンの注がれたグラスを渡す。グラスを受け取ろうとしないウルソンに、ダンレンは、青年の口許へ無理矢理にグラスの酒を注いだ。口端から酒が溢れる。突然入ってきた酒をウルソンは思わず飲み込んでしまった。

「ゲホッ・・・ゴホッ・・・・・な!」

 喉がビリビリと熱くなる、これは・・・、とても強い酒だ。ただでなくても酒に弱いウルソンは、たった一口でくらくらとし始めた。それを見て、ダンレンはニヤリと微笑む。遊び人である性は、この兄にも分け与えられてしまっていたようだ。

 ダンレンは、自分より強いものをのが好きだ。つい先日、騎士団の副団長を犯した。そんなダンレンにとって、真面目でいつも気張っている屈強な青年、ウルソンは最上級の獲物。

 しかも、見るに彼は処女。
 最高だ。

「だ、だめです、俺・・・酔っちゃ、うから、帰ります・・・・・。」

「んー? 一体どこに帰るのかな?」

 ふらふらと力無く、そんなことを言う弟の専属騎士を、さりげなく壁との間で捕らえたままダンレンは胸ポケットから小さな瓶を取り出した。それを自分の為に用意した、もうひとつのグラスに3滴ほど垂らす。自分より屈強な男をベッドに連れていこうという時によく使う秘薬。

「まさか、もう酔いが回ってきたのかい? イタズラが過ぎたね、すまない。大変だ、この水を飲みなさい。」

 白々しく言ってグラスを差し出すと、ウルソンは素直にそれをゴクゴクと全て飲み干した。
 
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