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第5話 成人の儀
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月日は目まぐるしく流れ、ダレスの成人の儀が行われることとなった。この国では19歳が成人だ。
今夜の主役であるダレスの周りには可愛らしい美少年たちが群がっていた。性に奔放すぎる三男、ダレスは曲がりなりにも貴族だ。成人の儀は派手に行われる、そのため多くの人が集まった。中には、かつてダレスに抱かれていた女達も多い。
「今夜は息子、ダレスの成人の儀にお集まり頂き、誠にありがとうございます」
ダレスの父、ロルダンが乾杯をする。ダレスの兄二人も成人の儀に駆け付けた。成人の儀は、社交とお見合いを兼ね備えている。裕福な商人は、たとえ三男であろうとも貴族であるダレスに娘を嫁がせたい。ダレスのかつての“お友だち”である女達も成人になった彼との結婚を目論む。そんな私利私欲溢れる一夜。皆がダレスに襲いかかる獣のようだ。
「ダレス様ぁ、私、ずっとダレス様をお慕いしておりましたのよ・・・?」
たわわな胸を青年の腕に擦り付けながら、一人の女が言う。彼女はダレスのお友だちだった者だろう。
「そうか、ありがとう。」
ダレスは彼女の肩をそっと掴み身体を離すと微笑んだ。
「キャッ・・・ご、ごめんなさいっ。」
今度は、わざとらしく転んだ女がダレスに抱きつく。ダレスは思わず、彼女を支えたがまたもすぐに離した。女性たちの燃え上がる競争心や火の粉が恐ろしい・・・。けれど、ダレスはもう女などには飽きている。優しさはあるが、そっと突き放す様子に周囲は噂が本当であることを認識する。
ふらふらと一人の美しい少年がダレスの側で、へたりと座り込んだ。うるうるとした瞳でダレスを見上げる。その姿に男には興味のなかったはずの男達までもが、ごくりと生唾を飲み込んだ。この国では男色がタブーと言うわけではない。
「あ・・・ダレスさまっ、なんだか酔っちゃったみたいなんです。」
明らかに噓であろう甘えた声。美少年にダレスは優しく手を差しだし、腰に手を回し立ち上がらせると目を細めた。
「そうか、ならば僕の部屋を使うと良い。ウルソン!」
不意に名を呼ばれ、ウルソンは「はい、お坊ちゃま。」と答える。主の側には美少年。ああ・・・貴方は今夜、その少年を選んだのですね、と心の中呟く。
「彼を僕の部屋へ。」
「承知いたしました。」
痛む胸を押し殺し、平然とした態度で頭を下げる。もう幾度となく、ダレスが少年達を抱くのを見ているし、優しい口づけをするのも、甘い言葉を掛けるのも見てきた。きっといつか慣れるはずだ・・・。そう思いながら、もう半年は経っている。相手が男に変わってから、恋心という名の毒は心を蝕むばかり。
部屋に送り届けた少年は、色仕掛けが上手くいったことを喜んでいた。果実を用意するとご機嫌に頬張り「湯浴びの準備をしてくれ。」とウルソンに命令する。ウルソンは言われた通りに湯浴みの準備をした。
その後も何人かの少年をダレスは選び、部屋へと招いた。思い返せば、ダレスが一対一で抱き合ったのはルーアくらいだ。いつも、3人以上に自分の相手をさせている。もちろん喧嘩にもなったし、揉め事も絶えなかったがダレスがそれを嫌うので、彼の前では皆穏やかだ。
準備を終えたウルソンは、まだ続くであろう成人の儀のパーティーに戻る。いつの間にかダレスの相手は、女や美少年から大人に変わっていた。
この恋心を俺は一体いつまで、押し込めていられるだろうか。
トントン、と肩を叩かれ振り返ると金髪の貴婦人が申し訳なさそうにこちらを見ていた。その女性にダレスの専属騎士は頭を下げる。
「これは、ヘレン奥様。どうかなさいましたか?」
「ごめんなさいね・・・、ウルソン。いつも貴方にダレスの閨事の準備までさせてしまって・・・・・・。」
そう言うとヘレンはウルソンの手を握った。彼女の優しい手が好きだ、伝わる温もりにいつも心が暖まる。
「いえ、お坊ちゃまの為ですから」
ヘレンは眉を下げた。けれど、すぐに笑顔になるとパッと手を離す。パンパンと音を鳴らし、自分の従者を呼ぶと「用意したものをお願い」と言う。何だろうと不思議に思っていると、大きなリボンの付いた箱を渡された。ダレス様へのプレゼントだろうか、と考える。しかし、ヘレンは首を横に振った。
「ふふ、ダレスのじゃないわ。これはウルソン、貴方へのプレゼントよ。いつもありがとう」
そう言われ、差し出された箱を受け取る。自分へのプレゼント・・・、奥様から。ウルソンは嬉しさに溢れる涙を我慢できなくなった。
この人の愛情が、俺を支えてくれる。
ウルソンの母は彼が小さい時に他界した。それからすぐ、騎士団に入れられたウルソンは、その腕前を見込まれ、ダレスの専属騎士に。騎士団で育ち母を亡くしたウルソンにとってヘレンは本当の母親のような存在だ。
「ありがとう・・・、ございます」
今夜の主役であるダレスの周りには可愛らしい美少年たちが群がっていた。性に奔放すぎる三男、ダレスは曲がりなりにも貴族だ。成人の儀は派手に行われる、そのため多くの人が集まった。中には、かつてダレスに抱かれていた女達も多い。
「今夜は息子、ダレスの成人の儀にお集まり頂き、誠にありがとうございます」
ダレスの父、ロルダンが乾杯をする。ダレスの兄二人も成人の儀に駆け付けた。成人の儀は、社交とお見合いを兼ね備えている。裕福な商人は、たとえ三男であろうとも貴族であるダレスに娘を嫁がせたい。ダレスのかつての“お友だち”である女達も成人になった彼との結婚を目論む。そんな私利私欲溢れる一夜。皆がダレスに襲いかかる獣のようだ。
「ダレス様ぁ、私、ずっとダレス様をお慕いしておりましたのよ・・・?」
たわわな胸を青年の腕に擦り付けながら、一人の女が言う。彼女はダレスのお友だちだった者だろう。
「そうか、ありがとう。」
ダレスは彼女の肩をそっと掴み身体を離すと微笑んだ。
「キャッ・・・ご、ごめんなさいっ。」
今度は、わざとらしく転んだ女がダレスに抱きつく。ダレスは思わず、彼女を支えたがまたもすぐに離した。女性たちの燃え上がる競争心や火の粉が恐ろしい・・・。けれど、ダレスはもう女などには飽きている。優しさはあるが、そっと突き放す様子に周囲は噂が本当であることを認識する。
ふらふらと一人の美しい少年がダレスの側で、へたりと座り込んだ。うるうるとした瞳でダレスを見上げる。その姿に男には興味のなかったはずの男達までもが、ごくりと生唾を飲み込んだ。この国では男色がタブーと言うわけではない。
「あ・・・ダレスさまっ、なんだか酔っちゃったみたいなんです。」
明らかに噓であろう甘えた声。美少年にダレスは優しく手を差しだし、腰に手を回し立ち上がらせると目を細めた。
「そうか、ならば僕の部屋を使うと良い。ウルソン!」
不意に名を呼ばれ、ウルソンは「はい、お坊ちゃま。」と答える。主の側には美少年。ああ・・・貴方は今夜、その少年を選んだのですね、と心の中呟く。
「彼を僕の部屋へ。」
「承知いたしました。」
痛む胸を押し殺し、平然とした態度で頭を下げる。もう幾度となく、ダレスが少年達を抱くのを見ているし、優しい口づけをするのも、甘い言葉を掛けるのも見てきた。きっといつか慣れるはずだ・・・。そう思いながら、もう半年は経っている。相手が男に変わってから、恋心という名の毒は心を蝕むばかり。
部屋に送り届けた少年は、色仕掛けが上手くいったことを喜んでいた。果実を用意するとご機嫌に頬張り「湯浴びの準備をしてくれ。」とウルソンに命令する。ウルソンは言われた通りに湯浴みの準備をした。
その後も何人かの少年をダレスは選び、部屋へと招いた。思い返せば、ダレスが一対一で抱き合ったのはルーアくらいだ。いつも、3人以上に自分の相手をさせている。もちろん喧嘩にもなったし、揉め事も絶えなかったがダレスがそれを嫌うので、彼の前では皆穏やかだ。
準備を終えたウルソンは、まだ続くであろう成人の儀のパーティーに戻る。いつの間にかダレスの相手は、女や美少年から大人に変わっていた。
この恋心を俺は一体いつまで、押し込めていられるだろうか。
トントン、と肩を叩かれ振り返ると金髪の貴婦人が申し訳なさそうにこちらを見ていた。その女性にダレスの専属騎士は頭を下げる。
「これは、ヘレン奥様。どうかなさいましたか?」
「ごめんなさいね・・・、ウルソン。いつも貴方にダレスの閨事の準備までさせてしまって・・・・・・。」
そう言うとヘレンはウルソンの手を握った。彼女の優しい手が好きだ、伝わる温もりにいつも心が暖まる。
「いえ、お坊ちゃまの為ですから」
ヘレンは眉を下げた。けれど、すぐに笑顔になるとパッと手を離す。パンパンと音を鳴らし、自分の従者を呼ぶと「用意したものをお願い」と言う。何だろうと不思議に思っていると、大きなリボンの付いた箱を渡された。ダレス様へのプレゼントだろうか、と考える。しかし、ヘレンは首を横に振った。
「ふふ、ダレスのじゃないわ。これはウルソン、貴方へのプレゼントよ。いつもありがとう」
そう言われ、差し出された箱を受け取る。自分へのプレゼント・・・、奥様から。ウルソンは嬉しさに溢れる涙を我慢できなくなった。
この人の愛情が、俺を支えてくれる。
ウルソンの母は彼が小さい時に他界した。それからすぐ、騎士団に入れられたウルソンは、その腕前を見込まれ、ダレスの専属騎士に。騎士団で育ち母を亡くしたウルソンにとってヘレンは本当の母親のような存在だ。
「ありがとう・・・、ございます」
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