【完結】専属騎士はヤリチン坊ちゃんに抱かれたい

セイヂ・カグラ

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第4話 現れた少年(微※モブ)

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 胸が酷く痛い、苦しい。
 
 主が今夜のご友人として連れてきたのは、ルーア・トリンドル。明るめの色をした、やわらかそうなの猫ッ毛。細く小さな華奢な身体。まるで少女のような可愛らしい容姿をした、庇護欲をそそる

 小さくて・・・、可憐な少年・・・。

「・・・ソン、・・・ウルソン!」

 主に呼ばれ、意識がやっと目の前の現状に戻ってくる。

「大丈夫か?ウルソン・・・、君なら分かってくれると、思ったのだけど。」


 俺なら分かってくれる・・・?
 なんだよそれ。

 なんで、寄りによって“男”を連れてくるんですか。女性なら、どうしようもないけど・・・。それに、こんな、俺とは正反対の華奢で可愛らしい少年なんて・・・。
 お坊ちゃまは、ダレス様は、彼を恋人にするのですか?
 そんなの、あんまりだ・・・。
 
 口が裂けても言えないことを胸の中で叫ぶ。今は、ここから一刻も早く立ち去りたい。そんな一心でウルソンは、できるだけいつもと変わらないよう・・・、震える手や声を必死に抑えた。

「私は、お坊ちゃまに仕える専属騎士です・・・。全ては、お坊ちゃまのお望み通りに。・・・・・・いつだって、お坊ちゃまを、応援しております。」

 ダレスの表情に安堵が広がる。そっと、肩に何度かポンポンと優しく置かれた手にウルソンの身体はビクリと跳ねた。

「私は準備を致します。どうぞ、ごゆっくりしてください。失礼いたします。」

 早口に言って、ウルソンはダレスの部屋を後にした。それからとにかく、走った。走って走って、そのうちに涙が溢れてくる。止まらない涙、ウルソンは湯浴び場に来ると嗚咽した。彼らの閨事の後のために、急いで準備をしなければならない。それなのに、胸が苦しくて仕方がない。今までできていた呼吸をあっという間に忘れてしまった。着替えの服やシーツが涙に濡れていく。

「・・・ぅっ・・・・・・ぅう、ダレス・・・さま。なぜっ・・・。なぜなのですか・・・っ。」

 まだ仕事は残っているというのに、こんなに泣いては目が腫れてしまう。騎士であるのに、強くあらねばならないのに、守らねばならないのに。

「奥様・・・、辛いです。奥様・・・、俺は・・・、お坊ちゃまのお側に仕えることが・・・・辛いです。だって、俺、ダレス様のことが・・・。」

 まるで天に告げるように一人、しゃがみこんで、胸の苦しみを告白する。けれど、あの優しい奥様の為にも。自分は、ウルソンの元に仕え続けなければならない。ああ、そうだ・・・・・。もしも、ルーア様とダレス様が本当に恋人として幸せになった時・・・、その時に仕えることを辞めよう。ルーアがダレス様の心の支えになったら、自分は必要のない人間だ。主の孤独もきっと埋まるはずだろう。そう決めてしまえば、ウルソンの少し心は落ち着いた。

「あっ・・・ぁあん! ・・・ダレスっ、さまっ!」

 ダレスの部屋の扉から、ルーアの喘ぎ声が漏れ聞こえる。耳を覆っても、ルーアの高い声はウルソンの鼓膜を揺らした。

「ルーア...、ルーアっ、くっ、」
「...ひんっ...ぁう...!」


 二人の閨事が夜の内に終わることはなかった。それは朝方まで続き、扉の前で終わるのを待つウルソンを苦しめた。けれど、ウルソンは、眠ることなく待ち続けた。・・・否、眠ることができなかったのだ。

 声が止み、寝息が聞こえはじめた頃を見計らってウルソンはいつものように部屋に入った。ベッドの側のサイドテーブルにぬるま湯と布を置く。まだ眠るであろう主達の為に斜光カーテンを閉めて小さなランプを点ける。美少年の汗に濡れた穏やかな眠り顔。「ああ、彼になりたい」と羨んでしまう。一晩だけで良いから・・・。

「・・・ウルソン、ありがとう。いつも、ごめんね。」
 薄暗さの中、ダレスが目を覚まし、声を掛けてきた。大丈夫だ、きっと自分の泣き腫らした顔など、この暗闇では、見えない。

「いえ。お坊ちゃんの世話を焼くのが、私の喜びなのです。」

 本当に
 しかし、今は・・・分からなくなってしまった。

 昼過ぎにルーアは帰って行った。その日から、ルーアは何度も別宅にやってきた。ダレスはルーア以外の美少年も抱くようになっていった。愛されたがりのダレスは、誰か一人に決められないようだ。遊び相手は女から美少年に変化した。ルーアは会うといつも「恋人にして」とダレスに言っていたが、ダレスはその度に「ごめんね」と謝るばかり。そのうち、しつこくなったルーアが面倒になったのか、ダレスはルーアを別宅に誘わなくなった。けれど、人が変わるだけで、美少年遊びは止まない。

 あわよくば・・・、自分も抱いてくれないだろうか。

 そんなことを考えても、ダレスの連れてくる男達は、いつだって華奢で可愛らしい者ばかり。もう、彼を想うのをやめてしまいたい。淡い期待を抱くことは自分を苦しめるだけなのだから。
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