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第2話 溺愛する母
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母ヘレンの突然の来訪に別宅は慌ただしく動いていた。白の上に黄金で縁取られた家紋が描かれた美しい馬車が止まる。別宅はフロート家の敷地内にあるので、馬車で来るほど遠くはないが歩いてくるには少し難儀だ。ウルソンはヘレンを出迎えるため、別宅の外に出る。馬車から金髪の揺蕩うご婦人が従者の掌を手摺にゆっくりと降りてきた。
「いらっしゃいませ、ヘレン奥様。」
「まあ! ウルソン、相変わらず男らしくて素敵ね。」
「ありがとうございます。」
ドタドタと走る音と扉の開く大きな音が後ろから近付いてくる。振り返れば、満面の笑みを浮かべた青年が息を切らしていた。
「母上!!」
「ダレス!」
大きく両腕を広げた母ヘレンの胸の中にダレスは飛び込むように抱きついた。まるで、何年も会っていないような感動の再会だが、この母子は一週間前にも二人でお茶を楽しんでいる。いつもは毎日のように会っていたが、遠い親戚の喪中でヘレンは少し長く出掛けていただけだ。いくつになっても若く美しい母ヘレンと好青年の息子ダレスが抱き合う姿は、はたから見れば恋人のよう。別宅の中に入った。二人はお茶を楽しむ。
「素敵な苺ケーキね・・・! 美味しいわ。」
「母上に食べて頂きたくて、メイドに頼んだのです。間に合って良かった!」
君、ありがとう!とダレスは一人のメイドに微笑んだ。あんなものを真っ直ぐと向けられたら、誰だってクラッとしてしまう。ウルソンは またメイドに「良いな・・・。」と羨ましく思う。
「ダレスも、もうすぐ成人ね。」
「ええ。母上。」
「今日で長期休暇も終わって、また会う時間が減ってしまうのが寂しいわ・・・。」
「僕も寂しいです、母上。」
「学園生活、頑張りすぎないでね。」
「ええ。ありがとうございます。」
母子のお茶会は長く続いた、夕暮れが近づいた頃、仕方なさそうに二人は解散することとなった。
∇
帰り際、ウルソンはヘレンに呼び止められた。「明日から学園で大変でしょう」と珍しくダレスを部屋に返したヘレンは専属騎士に馬車までの道のりを小声で話しかける。
「貴方がダレスの側に居てくれて、とても感謝しているの。」
「・・・ヘレン奥様。」
自分の忠誠が下心の元にあることにウルソンは罪悪感を感じる。
「あの子は三男だからってのもあって、誰にも求められていないと勝手に思っているの。小さい頃から周りの期待が大きすぎたのね。人一倍努力をしてきたけれど、それでもやっぱり年の離れた兄達には届かなかった。14歳を過ぎた頃からかしら、あの子はひどく寂しがりになってしまった。私がもっと、愛を伝えられたら良かったの。」
ヘレンは上りかけている月を見上げ、ウルソンに胸のうちを明かした。ヘレンがダレスに頻繁に会いに来るのも、女遊びを許すのも、ただ溺愛しているというだけではなかった。彼の孤独をなんとか埋めようとする、彼女の母としての真っ直ぐな愛情。
「だからね、どうかあの子の側にいて。女遊びは激しいし、ウルソンを困らせることもこれからたくさんあるでしょうけれど・・・。あの子には、貴方がきっと必要なの。」
ヘレンは不安げに、そして懇願するようにウルソンの手を握った。込められた力に感じたのは、柔らかな母の手だった。
最近、自分の恋心に苦しくなっていた。彼に抱かれる女の子を見る度、声を聞くたび、強く深く嫉妬した。自分の醜い感情にも耐えられなくなってきて、こんな気持ちで仕え続けて良いのかと悩んでいた。それが彼女には、バレてしまっていたのだろうか。母とは凄いものだ。
「ヘレン奥様・・・、ありがとうございます。私は、お坊ちゃまに一生仕えて参ります。この命、ダレス・フロート様のために。」
ウルソンは地に膝を付き、忠誠を誓う姿勢を見せた。それに、ヘレンは手を差し出すと、ふわりと笑った。
「ありがとう。貴方も私の愛しい息子よ。貴方とダレスは兄弟みたいなものだもの! 時々は本気で叱ってちょうだいね。」
ヘレンの言葉にウルソンは目頭が熱くなるのを感じた。
「いらっしゃいませ、ヘレン奥様。」
「まあ! ウルソン、相変わらず男らしくて素敵ね。」
「ありがとうございます。」
ドタドタと走る音と扉の開く大きな音が後ろから近付いてくる。振り返れば、満面の笑みを浮かべた青年が息を切らしていた。
「母上!!」
「ダレス!」
大きく両腕を広げた母ヘレンの胸の中にダレスは飛び込むように抱きついた。まるで、何年も会っていないような感動の再会だが、この母子は一週間前にも二人でお茶を楽しんでいる。いつもは毎日のように会っていたが、遠い親戚の喪中でヘレンは少し長く出掛けていただけだ。いくつになっても若く美しい母ヘレンと好青年の息子ダレスが抱き合う姿は、はたから見れば恋人のよう。別宅の中に入った。二人はお茶を楽しむ。
「素敵な苺ケーキね・・・! 美味しいわ。」
「母上に食べて頂きたくて、メイドに頼んだのです。間に合って良かった!」
君、ありがとう!とダレスは一人のメイドに微笑んだ。あんなものを真っ直ぐと向けられたら、誰だってクラッとしてしまう。ウルソンは またメイドに「良いな・・・。」と羨ましく思う。
「ダレスも、もうすぐ成人ね。」
「ええ。母上。」
「今日で長期休暇も終わって、また会う時間が減ってしまうのが寂しいわ・・・。」
「僕も寂しいです、母上。」
「学園生活、頑張りすぎないでね。」
「ええ。ありがとうございます。」
母子のお茶会は長く続いた、夕暮れが近づいた頃、仕方なさそうに二人は解散することとなった。
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帰り際、ウルソンはヘレンに呼び止められた。「明日から学園で大変でしょう」と珍しくダレスを部屋に返したヘレンは専属騎士に馬車までの道のりを小声で話しかける。
「貴方がダレスの側に居てくれて、とても感謝しているの。」
「・・・ヘレン奥様。」
自分の忠誠が下心の元にあることにウルソンは罪悪感を感じる。
「あの子は三男だからってのもあって、誰にも求められていないと勝手に思っているの。小さい頃から周りの期待が大きすぎたのね。人一倍努力をしてきたけれど、それでもやっぱり年の離れた兄達には届かなかった。14歳を過ぎた頃からかしら、あの子はひどく寂しがりになってしまった。私がもっと、愛を伝えられたら良かったの。」
ヘレンは上りかけている月を見上げ、ウルソンに胸のうちを明かした。ヘレンがダレスに頻繁に会いに来るのも、女遊びを許すのも、ただ溺愛しているというだけではなかった。彼の孤独をなんとか埋めようとする、彼女の母としての真っ直ぐな愛情。
「だからね、どうかあの子の側にいて。女遊びは激しいし、ウルソンを困らせることもこれからたくさんあるでしょうけれど・・・。あの子には、貴方がきっと必要なの。」
ヘレンは不安げに、そして懇願するようにウルソンの手を握った。込められた力に感じたのは、柔らかな母の手だった。
最近、自分の恋心に苦しくなっていた。彼に抱かれる女の子を見る度、声を聞くたび、強く深く嫉妬した。自分の醜い感情にも耐えられなくなってきて、こんな気持ちで仕え続けて良いのかと悩んでいた。それが彼女には、バレてしまっていたのだろうか。母とは凄いものだ。
「ヘレン奥様・・・、ありがとうございます。私は、お坊ちゃまに一生仕えて参ります。この命、ダレス・フロート様のために。」
ウルソンは地に膝を付き、忠誠を誓う姿勢を見せた。それに、ヘレンは手を差し出すと、ふわりと笑った。
「ありがとう。貴方も私の愛しい息子よ。貴方とダレスは兄弟みたいなものだもの! 時々は本気で叱ってちょうだいね。」
ヘレンの言葉にウルソンは目頭が熱くなるのを感じた。
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