【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

文字の大きさ
上 下
59 / 65
攻略:ウェルギリウス

なんだこの胸の高鳴りは!

しおりを挟む
 
 慌ただしい日々が過ぎ、平穏が戻ってきた頃。
 俺は、とある症状に悩まされていた。

「? 東の国から取り寄せた茶菓子なのだが…、口に合わなかったか?」
「ぅぐっ、いやいや! とても美味いな! 俺の好きな味だ。」

 ウェルを見ていると胸が苦しくなる…。
 走っても居ないのに心臓がバフバフするのだ。

「そうか! なら良かった。」
「ぐぅっ」

 笑顔があまりに眩しすぎる。
 俺は、いよいよおかしくなったみたいだ。
 ウェルの笑顔が俺に対する攻撃に変わった。
 しかも、百発百中。

 もう、茶菓子の味なんて全然わからない。気がつけばウェルの顔を眺めてしまうし、そんで瞳が合ったら合ったで気絶してしまいそうになる。なんなら、一定の距離を空けたいくらいだ。ウェルは距離感が近くて、心臓が持たない!

「大丈夫か…? 体調が優れないようだが。」

 そういって、ウェルが顎を指先でそっと持ち上げる。労しい気に額に掌を押し当てる。ち、近いっ、さ、触られている…っ。いよいよ俺の目がぐるぐる周りはじめた。

「熱は無いようだが顔が赤い、大変だっ。」

 か、顔が良すぎる…。
 ふらぁ~~と後ろに倒れようとする俺の手を取り、素早く背に腕を回す。
 お、王子様すぎないか。
 こんな、少女漫画みたいなことに…っ、この俺が、ときめくわけが…。

「大丈夫だっ。すまん、少し疲れているみたいだ。部屋で早めに寝るよ。今日はありがとう! 茶菓子、美味しかった。じゃあ、また!」

 高鳴る鼓動に危機感を感じた俺は、これ以上ウェルの側には居られないと立ち上がった。今日は、もう無理!致死量に達する! 寒くなってきた季節に合わせ実家から持ってきたコートを素早く着て荷物を持つ。王族用の広く豪華な部屋を飛び出し、足早に自分の寮へと向かった。ちなみに俺の部屋は、先月一人部屋になったので少しさみしい。

「フラン…!」

 慌てて飛び出した俺をウェルが追いかけてくる。
 後ろで呼び止める声がするが俺は聞こえないふりをして、更に足を早めた。
 途端にぐっと腕を引かれ、歩みが止まる。
 そして腰に腕がぐるりと抱かれた。
 ぎゅっと強い力で抱き込められる。
 背に感じる暖かな感触に、絶対に振り向いてはいけないと本能が言う。

「泊まっていけば良い…。君を一人にするのは心配だ。」
「…っ、こんな大男に何をおっしゃいますか、殿下。」

 態とからかい混じりに言うけれど、ウェルは離してくれない。
 
「フランドール…。」

 咎めるように耳元で囁かれる名。
 
 俺は、耐えられなくなって腕を振りほどいて走った。そりゃもう本気で走った。俺が本気で走ったら、さすがにウェルも追いつけない。無我夢中で全力疾走。気がつけば、自室のベッドに寝っ転がっていた。じんわりと熱い耳。さっきのウェルの声、吐息、全部思い出してしまう。左耳をぎゅっと掴んで俺はベッドにうずくまった。

「恋って…、やばいな…」









 『恋の病』とはよく言ったものだ。

 最近、ウェルを見ていると息苦しくなって仕方がない。ウェルが、美少年に囲まれていると異様に苛立つ。街で金髪を見かけるだけで、思い出してドキドキしてしまう。瞳が合うと心臓が痛いくらい騒いで、こっちに来られると頭の中が簡単に沸騰する。だから俺は、ここ最近、こんなでかい図体で必死にウェルから隠れている。こんなのまるで乙女だ‼

 自覚した途端これかよ…、とほほ。

「どうしたフラン? 遠くからオレを見つめていないで、こっちに来い。」
「みっ、見てない!ウェルの気の所為だろ。」

 逃


「フラン!」
「ウェルっ、調子はどうだー? 俺は最高。じゃあ、用があるからまたな!」

 逃

「フランっ! 会いに来てやったぞ!」
「き、今日も用事があってだな…。」

 逃

「フランではないか!」
「っ、急いでるんだ」

 逃

「フ~ラァ~ン~?」
「さ、さようならぁっ!」

 逃


 とにかくウェルから逃げるばかり。そして一日の終りには必ず後悔する。
 今までのように接することができない。
 話しかけられてもドギマギして、何を喋れば良いかわからなくなる。
 触れられると、そこが熱くなる。

 お、おまけに夜、眠る頃になるとウェルを思い出して身体が……。

「う、うわああああ!」

 ダメだ、ダメだ!考えるな俺!
 あれはちょっとした事故だしっ。
 それに…、それに…。 

「ウェルはきっと俺みたいなデカイやつより、可愛い子が好みだろ…。」
「オレがどうした?」
「ぎゃんっ‼」

 突如背後に現れた王子。
 俺の情けない悲鳴が廊下に響く。

「や、やあ、ウェル。」
「オレは弱々しい男より、凛々しい男が好きだな。組み敷きたくなる。」
「~~~っ!」

 低音で囁くなっ。
 咄嗟に耳をガバっと覆い手で防御した。
 な、なんでこんなところに!
 ここは、上流貴族の寮で王子様の来るところではない!
 
「ははは、ウェル、偶然だな。誰かに用事?」
「ああ、レフィンスくんに会いに。」
「そ、うか…。じゃあ、な。」

 誰だよ、そいつ!
 あからさまに落ちる自分の肩。
 しょげながら、俺はとぼとぼ歩いて部屋に戻ることにする。

「フラン。」
「な、に、、」
「何故、逃げる?」
「何が?」
「逃げているだろう、オレから。」

 うっ、わ、腕、掴まれて…。やばい、触られんのやばい。
 また、首まで熱い…っ。

「…はぁ。」

 ウェルのため息に思わず身体がびくりと反応する。
 怒ったか…?それとも呆れた…?
 掴まれた腕が自由になって、不安が一気に全身を覆った。

「さすがのオレも傷付く。」

 そう言って、ウェルは静かに離れていく。

「ま、待ってくれっ!」

 俺は慌てて、叫ぶように呼び止めた。




しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

処理中です...