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攻略:ウェルギリウス
なんだこの胸の高鳴りは!
しおりを挟む慌ただしい日々が過ぎ、平穏が戻ってきた頃。
俺は、とある症状に悩まされていた。
「? 東の国から取り寄せた茶菓子なのだが…、口に合わなかったか?」
「ぅぐっ、いやいや! とても美味いな! 俺の好きな味だ。」
ウェルを見ていると胸が苦しくなる…。
走っても居ないのに心臓がバフバフするのだ。
「そうか! なら良かった。」
「ぐぅっ」
笑顔があまりに眩しすぎる。
俺は、いよいよおかしくなったみたいだ。
ウェルの笑顔が俺に対する攻撃に変わった。
しかも、百発百中。
もう、茶菓子の味なんて全然わからない。気がつけばウェルの顔を眺めてしまうし、そんで瞳が合ったら合ったで気絶してしまいそうになる。なんなら、一定の距離を空けたいくらいだ。ウェルは距離感が近くて、心臓が持たない!
「大丈夫か…? 体調が優れないようだが。」
そういって、ウェルが顎を指先でそっと持ち上げる。労しい気に額に掌を押し当てる。ち、近いっ、さ、触られている…っ。いよいよ俺の目がぐるぐる周りはじめた。
「熱は無いようだが顔が赤い、大変だっ。」
か、顔が良すぎる…。
ふらぁ~~と後ろに倒れようとする俺の手を取り、素早く背に腕を回す。
お、王子様すぎないか。
こんな、少女漫画みたいなことに…っ、この俺が、ときめくわけが…。
「大丈夫だっ。すまん、少し疲れているみたいだ。部屋で早めに寝るよ。今日はありがとう! 茶菓子、美味しかった。じゃあ、また!」
高鳴る鼓動に危機感を感じた俺は、これ以上ウェルの側には居られないと立ち上がった。今日は、もう無理!致死量に達する! 寒くなってきた季節に合わせ実家から持ってきたコートを素早く着て荷物を持つ。王族用の広く豪華な部屋を飛び出し、足早に自分の寮へと向かった。ちなみに俺の部屋は、先月一人部屋になったので少しさみしい。
「フラン…!」
慌てて飛び出した俺をウェルが追いかけてくる。
後ろで呼び止める声がするが俺は聞こえないふりをして、更に足を早めた。
途端にぐっと腕を引かれ、歩みが止まる。
そして腰に腕がぐるりと抱かれた。
ぎゅっと強い力で抱き込められる。
背に感じる暖かな感触に、絶対に振り向いてはいけないと本能が言う。
「泊まっていけば良い…。君を一人にするのは心配だ。」
「…っ、こんな大男に何をおっしゃいますか、殿下。」
態とからかい混じりに言うけれど、ウェルは離してくれない。
「フランドール…。」
咎めるように耳元で囁かれる名。
俺は、耐えられなくなって腕を振りほどいて走った。そりゃもう本気で走った。俺が本気で走ったら、さすがにウェルも追いつけない。無我夢中で全力疾走。気がつけば、自室のベッドに寝っ転がっていた。じんわりと熱い耳。さっきのウェルの声、吐息、全部思い出してしまう。左耳をぎゅっと掴んで俺はベッドにうずくまった。
「恋って…、やばいな…」
『恋の病』とはよく言ったものだ。
最近、ウェルを見ていると息苦しくなって仕方がない。ウェルが、美少年に囲まれていると異様に苛立つ。街で金髪を見かけるだけで、思い出してドキドキしてしまう。瞳が合うと心臓が痛いくらい騒いで、こっちに来られると頭の中が簡単に沸騰する。だから俺は、ここ最近、こんなでかい図体で必死にウェルから隠れている。こんなのまるで乙女だ‼
自覚した途端これかよ…、とほほ。
「どうしたフラン? 遠くからオレを見つめていないで、こっちに来い。」
「みっ、見てない!ウェルの気の所為だろ。」
逃
「フラン!」
「ウェルっ、調子はどうだー? 俺は最高。じゃあ、用があるからまたな!」
逃
「フランっ! 会いに来てやったぞ!」
「き、今日も用事があってだな…。」
逃
「フランではないか!」
「っ、急いでるんだ」
逃
「フ~ラァ~ン~?」
「さ、さようならぁっ!」
逃
とにかくウェルから逃げるばかり。そして一日の終りには必ず後悔する。
今までのように接することができない。
話しかけられてもドギマギして、何を喋れば良いかわからなくなる。
触れられると、そこが熱くなる。
お、おまけに夜、眠る頃になるとウェルを思い出して身体が……。
「う、うわああああ!」
ダメだ、ダメだ!考えるな俺!
あれはちょっとした事故だしっ。
それに…、それに…。
「ウェルはきっと俺みたいなデカイやつより、可愛い子が好みだろ…。」
「オレがどうした?」
「ぎゃんっ‼」
突如背後に現れた王子。
俺の情けない悲鳴が廊下に響く。
「や、やあ、ウェル。」
「オレは弱々しい男より、凛々しい男が好きだな。組み敷きたくなる。」
「~~~っ!」
低音で囁くなっ。
咄嗟に耳をガバっと覆い手で防御した。
な、なんでこんなところに!
ここは、上流貴族の寮で王子様の来るところではない!
「ははは、ウェル、偶然だな。誰かに用事?」
「ああ、レフィンスくんに会いに。」
「そ、うか…。じゃあ、な。」
誰だよ、そいつ!
あからさまに落ちる自分の肩。
しょげながら、俺はとぼとぼ歩いて部屋に戻ることにする。
「フラン。」
「な、に、、」
「何故、逃げる?」
「何が?」
「逃げているだろう、オレから。」
うっ、わ、腕、掴まれて…。やばい、触られんのやばい。
また、首まで熱い…っ。
「…はぁ。」
ウェルのため息に思わず身体がびくりと反応する。
怒ったか…?それとも呆れた…?
掴まれた腕が自由になって、不安が一気に全身を覆った。
「さすがのオレも傷付く。」
そう言って、ウェルは静かに離れていく。
「ま、待ってくれっ!」
俺は慌てて、叫ぶように呼び止めた。
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