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男だらけの異世界転生〜恋編〜
ただの従者※
しおりを挟む汚れてしまった、汚してしまった。
触れてはいけない人だと分かっているけれど。
フランドール様の胸元や顔を綺麗にしながら、どうしようもなく高まる熱に震える。
あの教会での戦いで、主フランドール様には、いくつもの傷が残ってしまった。
屈強だが、美しい肌に深く残り消えない痕。
憎たらしい。
私だって、こんな風に彼に深く残りたいのに。
「ベェル…。」
傷を辿る指先を引き止められる。
嫌でも押し戻されていく発狂にも似た興奮。
段々と理性に埋め尽くされて、苦痛のような後悔が喉を締め付けた。
このまま正気に戻るのを惜しく感じる。
「フランドール様、貴方が愛しい。」
「……ッ。」
知っている。
こんなことを告げてもフランドール様を困らせるだけだと。
この青年にこんなにも恋い焦がれるなんて思いもしなかった。
燃え尽きてしまいそう。燃え尽きてしまいたい。
だからこそ、私は終わらせなければならない。
フランドール様のお耳に、この耳飾りがちゃんと飾られる日を夢見てきた。
互いに同じ痛みを与え、針を通す日が恋しかった。
「お願いです、フランドール様。」
これで、触れるのは最後にしますから。
「フランドール様の身体にある全ての傷に口吻をしたい。」
そうすれば、たくさん触れられるでしょう。
貴方の身体は、傷だらけだから。
「く、ちづけ、? え、どうして。」
「お願いです…。」
残りたい、貴方の胸の中にほんの少しでも。
それは、ベェルシードの決意とは相反するものだった。
人間の欲がまっさらになることは、難しいのだろう。
▽
突拍子もないことを言うベェルに理由もわからず『どうぞ』と頷いていた。
そうしたらベェルは嬉しそうに微笑んで、指先から丁寧にキスを落とし始めた。
ちゅ…。ちゅっ、ちゅ。
柔らかな唇が吸い付くように触れていく。
「んっ、」
指先、腕、首、腹、背、腿、脚とにかく傷のあるところ全部。
擽ったいし、時々ぬるりと舌が触れて妙な感覚が広がった。
身体中が紅く染まっていく。
「…ぁ、、、」
ああ、どうしようか。
どうしてこうも身勝手に受け入れてしまうのだろう。
甘く落ちるキスは、『愛している』と何度も告げられているようで、ひどく満たされていく。
低く囁かれた『愛しい』という台詞に喜びとも言える何かが胸を締め付けた。
でも、俺はベェルに『愛している』と返すことができない。
分からない、分からない。
「ベェル……、ごめん。」
俺は、ただベェルに謝ることしかできなかった。
「あの日、フランドール様を教会で見つけた日。」
腹の上に頬を乗せ、こちらに身体を預けながら小さな声でベェルが話はじめる。
その小さな声を聞き逃さないように耳を澄ませて、新緑色の綺麗な髪をおずおずと撫でた。
「貴方を誰よりも早く見つけることができて、嬉しかったです」
俺も…、俺も、ベェルが来てくれて、すごく安心したよ。
「けれど、気づいてしまった」
甘えるようにくっついていた肌が離れ、今度は俺のほうが髪を撫でられる。丁寧に、慎重に、宝石でも触るみたいに優しく。
「貴方がウェルギリウス様を見ているということ…、私の想いが届かないのだと覚りました」
何故、ウェルが出てくるんだと問いたくて口をハクハクさせる。
でも、上手く言葉が出ない。
「私は…私は…、もうこれからフランドール様へ、この気持ちを向けません」
「そ、れは」
ベェルは耳飾りを燃やした。
けれどベェルの瞳は、決して弱さを感じさせない。
むしろ強い眼光が俺を射抜くように見た。
「強くて、やさしいフランドール様が好きでした。私は、貴方に幸せになって欲しい。貴方を想っています、お慕いしております。貴方の幸福を願っています」
だから
「私は、ただの従者に戻ります。」
恋とは、呪いだ。
ならば愛は、なんというのだろう。
ベェルシードは、永く考えていた。
フランドールへの想いは、恋で留まるほどのものではない。
私は、フランドール様を愛してしまった。
愛して、しまったから……。
数日もすれば消えてしまうだろう私の口吻の痕が、どうしようもなく虚しかった。
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