50 / 65
男だらけの異世界転生〜恋編〜
見つけてくれ、ベェルシード!
しおりを挟む
この教会には、ざっと数えて120人ほどの若者がいた。
並べても並べても転がっている。
おおよそ10代から20代の者ばかり。
先程までの流れ、ユウタとの会話を思い出す限り考えられることは、入れ替わりの禁術的なものでも成功させようとしていたのだろうということ。
ここにいる若者たちは、実験の材料。
そして、おそらくこれだけの人数を失敗してきた。
細かいことを聞き出すのは後だ。
まずは、ここに居る人達をできるだけ手当していかなくちゃあならない。
教会に何人も潜んでいた白装束の男達は、ユーターという教祖を失い呆然としていた。
それに、リアゼルの魔法でやらてしまった者も多い。
暴れるものがいれば、すぐに抑える。
それを繰り返しているうちに教会の人間は皆、静かになった。
「げっ、こいつ…。」
その中に一人、見覚えのある人物がいた。
あまり良い記憶の相手ではない。
名前は確か…、シュベなんちゃらこんちゃら。
思い出す価値もない名だ。
身体は、ボロボロ…というか、なんか切り刻まれてんのか?
そんな男の頭を恐る恐る足先で突っつき、意識があるか確認をする。
ああ、こりゃあ、もうダメだな。
なんとなく、この人間がもうどうにもならないのを感じて、俺はその人形をズリズリと引きずった。
まだ他の人達の手当の途中だけれど、そいつを引っ張って階段を登る。
螺旋状の階段をぐるぐるぐるぐる。
石畳の階段の段差を人形の頭もゴツンゴツンと登っていく。
そうして俺は教会の一番高い場所、大きな鐘のある展望台まで来た。
そんで、重い思いをして運んできた人形を、そこからごろんと落としてやった。
ドサッと音がした。
草の生えた土に硬さを持った重い肉がぶつかる音が。
点みたいに小さく見えるソレを、俺は目を細めて確認した。
胸には、達成感と爽快感が広がった。
心のどこかに、憎しみがあったのかもしれない。
いや、きっとあった。
掴んでいる服にだって、気持ち悪さを感じた…。
でも良いんだ、俺はこれで満足だから。
だってもう、アイツはきっと、どうにもならなかったはずだから。
「……重かったな。」
俺は独りごちて、来た道を戻っていく。
▼
ぼんやり階段を下りていたが、やるべきことが残っているのを思い出して少し早足になる。タタタッと靴の音を鳴らし、急な曲がりカーブの階段を滑るみたいに下っていく。
「フランドール様っ!」
「ベェルっ?」
足元ばかり見ていて気が付かなかった。
俺を呼び止めた懐かしい声に、はたと動きを止め、顔を上げる。
すれ違うようにして、俺より少し高い位置にいた青年。
優しい翠の瞳は、柔らかな安堵を浮かべていた。
「良かった…! 探していたんです。ご無事でおりましたか、お怪我はありませんかっ。」
数段駆け下りて、早口に問いながら、ベェルは俺の腰を抱いた。
心配そうに、確かめるみたいに頬を撫でる手は酷く冷たい。
いつもとは違う、ベェルを見上げる視線に新鮮さを感じた。
少し乱れた新緑の髪に手を伸ばし、整え撫でる。
「ふっ、この通り何とも無い。ありがとう、心配かけてごめんな。」
「いえ…、ご無事で何よりです。」
再度、顔を埋めるようにぎゅっと抱きしめられる。
階段効果で俺の頭がすっぽりとベェルの胸に収まった。
「ベェル……?」
「………。」
ん?
何故か、ベェルが離してくれない。
固まっちまった?
「フラン! フラーンッ! フランドールっ!」
遠くから俺を呼ぶ声。
「ウェル…っ!」
ウェルが俺を探している。
ベェルの胸から離れ、声の方に行こうと身じろぐと強い力で抱き込まれた。
「ベェル?」
「あ…っ、いえ、すみません…。」
ベェルは一瞬、困惑した顔をして腕の中から俺を離した。
なんとなく、ベェルから寂しさを感じて、離れようとする手を引き止める。
「どうぞ、行ってください。ウェルギリウス様…、皇太子殿下もフランドール様を、ずっと探しておられました。」
「ベェルも一緒に行けばいいだろ…。」
「いえ、私は、やることがありますので。誰よりも早く、あなた様を見つけることができて良かった。」
俺が引き止めて掴んだベェルの凍えた手。
ベェルは手を掴み返すと、俺の手の甲にちゅっとキスをした。
「またあとで、ゆっくりあなたに触れさせて下さい。」
如何にも紳士的な態度…とは違うけれど、そうにも感じられる微笑み。
長い睫毛を魅せるように片目を軽く閉じると、ベェルは俺の背を押した。
きゅ、きゅんっ♡
ち、違う!キュンじゃない!
「ちょっとだけよ~?」
そんなベェルに俺は、服を捲り腹をちら見せし、ふざけて返した。
こうでもしないと、俺、おかしくなっちゃうっ…!
んん?
あ…、これ前世のネタだから、こっちじゃウケないんじゃね?
そう思って、恐る恐るベェルを見ると、目を見開いて硬直していた。
あああ、やばい、すげー恥ずかしい。
「じ、じゃあ、あとで!」
うやむやに!適当に!
俺は、ぶんぶん大げさに腕を振り、その場から逃げるように走りさることにした。
◯
「ああいうの…、一体どこで覚えて来るんだ。」
結局いつも自分ばかりが彼の気まぐれに弄ばれて、一つも敵いやしない。
ベェルシードは耳まで熱くなるの感じ、俯いた。
「分かっているのに…、あなたが私を諦めきれなくさせているんですよ。」
並べても並べても転がっている。
おおよそ10代から20代の者ばかり。
先程までの流れ、ユウタとの会話を思い出す限り考えられることは、入れ替わりの禁術的なものでも成功させようとしていたのだろうということ。
ここにいる若者たちは、実験の材料。
そして、おそらくこれだけの人数を失敗してきた。
細かいことを聞き出すのは後だ。
まずは、ここに居る人達をできるだけ手当していかなくちゃあならない。
教会に何人も潜んでいた白装束の男達は、ユーターという教祖を失い呆然としていた。
それに、リアゼルの魔法でやらてしまった者も多い。
暴れるものがいれば、すぐに抑える。
それを繰り返しているうちに教会の人間は皆、静かになった。
「げっ、こいつ…。」
その中に一人、見覚えのある人物がいた。
あまり良い記憶の相手ではない。
名前は確か…、シュベなんちゃらこんちゃら。
思い出す価値もない名だ。
身体は、ボロボロ…というか、なんか切り刻まれてんのか?
そんな男の頭を恐る恐る足先で突っつき、意識があるか確認をする。
ああ、こりゃあ、もうダメだな。
なんとなく、この人間がもうどうにもならないのを感じて、俺はその人形をズリズリと引きずった。
まだ他の人達の手当の途中だけれど、そいつを引っ張って階段を登る。
螺旋状の階段をぐるぐるぐるぐる。
石畳の階段の段差を人形の頭もゴツンゴツンと登っていく。
そうして俺は教会の一番高い場所、大きな鐘のある展望台まで来た。
そんで、重い思いをして運んできた人形を、そこからごろんと落としてやった。
ドサッと音がした。
草の生えた土に硬さを持った重い肉がぶつかる音が。
点みたいに小さく見えるソレを、俺は目を細めて確認した。
胸には、達成感と爽快感が広がった。
心のどこかに、憎しみがあったのかもしれない。
いや、きっとあった。
掴んでいる服にだって、気持ち悪さを感じた…。
でも良いんだ、俺はこれで満足だから。
だってもう、アイツはきっと、どうにもならなかったはずだから。
「……重かったな。」
俺は独りごちて、来た道を戻っていく。
▼
ぼんやり階段を下りていたが、やるべきことが残っているのを思い出して少し早足になる。タタタッと靴の音を鳴らし、急な曲がりカーブの階段を滑るみたいに下っていく。
「フランドール様っ!」
「ベェルっ?」
足元ばかり見ていて気が付かなかった。
俺を呼び止めた懐かしい声に、はたと動きを止め、顔を上げる。
すれ違うようにして、俺より少し高い位置にいた青年。
優しい翠の瞳は、柔らかな安堵を浮かべていた。
「良かった…! 探していたんです。ご無事でおりましたか、お怪我はありませんかっ。」
数段駆け下りて、早口に問いながら、ベェルは俺の腰を抱いた。
心配そうに、確かめるみたいに頬を撫でる手は酷く冷たい。
いつもとは違う、ベェルを見上げる視線に新鮮さを感じた。
少し乱れた新緑の髪に手を伸ばし、整え撫でる。
「ふっ、この通り何とも無い。ありがとう、心配かけてごめんな。」
「いえ…、ご無事で何よりです。」
再度、顔を埋めるようにぎゅっと抱きしめられる。
階段効果で俺の頭がすっぽりとベェルの胸に収まった。
「ベェル……?」
「………。」
ん?
何故か、ベェルが離してくれない。
固まっちまった?
「フラン! フラーンッ! フランドールっ!」
遠くから俺を呼ぶ声。
「ウェル…っ!」
ウェルが俺を探している。
ベェルの胸から離れ、声の方に行こうと身じろぐと強い力で抱き込まれた。
「ベェル?」
「あ…っ、いえ、すみません…。」
ベェルは一瞬、困惑した顔をして腕の中から俺を離した。
なんとなく、ベェルから寂しさを感じて、離れようとする手を引き止める。
「どうぞ、行ってください。ウェルギリウス様…、皇太子殿下もフランドール様を、ずっと探しておられました。」
「ベェルも一緒に行けばいいだろ…。」
「いえ、私は、やることがありますので。誰よりも早く、あなた様を見つけることができて良かった。」
俺が引き止めて掴んだベェルの凍えた手。
ベェルは手を掴み返すと、俺の手の甲にちゅっとキスをした。
「またあとで、ゆっくりあなたに触れさせて下さい。」
如何にも紳士的な態度…とは違うけれど、そうにも感じられる微笑み。
長い睫毛を魅せるように片目を軽く閉じると、ベェルは俺の背を押した。
きゅ、きゅんっ♡
ち、違う!キュンじゃない!
「ちょっとだけよ~?」
そんなベェルに俺は、服を捲り腹をちら見せし、ふざけて返した。
こうでもしないと、俺、おかしくなっちゃうっ…!
んん?
あ…、これ前世のネタだから、こっちじゃウケないんじゃね?
そう思って、恐る恐るベェルを見ると、目を見開いて硬直していた。
あああ、やばい、すげー恥ずかしい。
「じ、じゃあ、あとで!」
うやむやに!適当に!
俺は、ぶんぶん大げさに腕を振り、その場から逃げるように走りさることにした。
◯
「ああいうの…、一体どこで覚えて来るんだ。」
結局いつも自分ばかりが彼の気まぐれに弄ばれて、一つも敵いやしない。
ベェルシードは耳まで熱くなるの感じ、俯いた。
「分かっているのに…、あなたが私を諦めきれなくさせているんですよ。」
66
お気に入りに追加
1,961
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる