【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

文字の大きさ
上 下
48 / 65
男だらけの異世界転生〜俺たち勇者一行編!〜

リアゼルのための世界

しおりを挟む
 えーっと………、なになに?
 全く分からん。
 なんで泣き出したんだ、この子。

「り、リアゼルのための世界ってどういうことかな?」

 分からないことは聞くのが一番! 
 俺は、小さな子どもを相手するみたいに屈んで聞いてみる。
 ちなみに、掴まれた髪の毛はそのままだよ! 
 あイテテテ…。

「フランドールは、華奢で病弱で顔はいいけど性格が捻くれていて、とにかくムカつくやつなの! リアゼルが愛されるために当て馬としての役割があるの! こんな筋肉まみれの攻めみたいな男じゃない! それ分かってる?!」

 そ、そんなこと言われましても…。
 確かに、ゲームの中のフランドールはそんな感じだった。
 でも、今のフランドールは俺だし、筋トレはしたいし。

「ボクは、王道が好きなの‼」
「お、王道…。」
「このゲーム、この世界はリアゼルが皆に愛される世界なんだよぉ!! なのになのに…、皆してお前を取り囲んで! おかしいでしょ! ウェルギリウス様はリアゼルの王子様で、アシュルはシークレットのヤンデレキャラだし、遊び人のキルトは一途になって、ベェルシードは最後にフランドールを裏切ってまでリアゼルの所へ行くの! 大人びたリリーも余裕がなくなるくらいなの! なのに!お前のせいで、何もかもめちゃくちゃ!! この世界の理が変わったんだ…、だからボクが元通りにする。みんなに愛されるためにね!」

 一息で言い切ったユウタはゼーゼーと肩で呼吸をする。
 血走った眼を向けられ、俺は困惑を隠せない。

「別に俺は取り囲まれてなんかいないよ。この世界は、確かにゲームの世界と似ている。だけど、何もかも同じなわけじゃない。ちゃんと、現実だ。それにユウタくんは、リアゼルじゃないだろ…? だから君は、君の人生を歩んだって良いんだ。」


 ユウタは、リアゼルじゃない。ウェル達との関わりもなければ面識もない。ただ、自分の知っているゲームの世界と似たような世界に存在しているだけ。それなのに何故、生きる世界が決まっているようなことを思ってしまっているのだろう。まるで、囚われているたいな執着を感じる。

「リアゼルは主人公だから、きっと強制力があってね。色々試したけれど、成り代わることはできなかった。でもね、最近、成功したんだよ。馬鹿と阿呆の中身を入れ替えるのに。」

 急にはじまった脈略のない話。

 成り代わる、嫌な響きに固唾を飲む。
 試した…?
 中身を入れ替えるって、何だよ。
 この子は一体、何をしようとしている?
 『愛されるため』って、もしかしてリアゼルの事じゃないんじゃないか?



「ボクはね、意識を持ったその日からこの教会にいたんだよ。」  







▼Side ユウタ(ユーター)


 ずっと閉じ込められてきた。親なんて知らない、ただボクの髪が人類の祖に似ているからボクは教会にいた。司教だかなんだかって人が、どこかからボクを拾ってきたらしい。そのうち、ボクには珍しい魔法が使えるのが分かって、なんだか良いように使われる毎日にうんざりしていた。それで、いつだったか、その人を綺麗さっぱり消してやった。そのとき使った魔法を見た教会の皆が喜んで…、なんとなく認められたような感じがして、気持ちが良かったのを覚えている。

 ボクね、前世も親や家族が居なかったからそういうのに憧れてた。
 けれど、早死して生まれ変わったこの世界でも親は居なかった。
 その日を境に皆がボクの言うことを聞いた。
 ボクは、はじめてんだ。
 
 ある時、ボクのもとに王様が来た。はじめて、教会の人以外の人間と会った。それからお城に呼ばれて、ボクは見つけたんだよ。とっても素敵な王子様を……、ボクの大好きな王子様を。大好きなキャラクターだったから、一目見てすぐにわかった。こんな世界に生まれて最悪だと思っていたけれど違ったみたい。ここは夢にまで見た世界。ボクが愛されるべき人達がいる世界。

 その日、教会に戻るとすぐにその他の存在を確認した。確信を得たかったから。良く知っているキャラクター達を見つけるのに、さほど時間は掛からなかった。ボクの憧れのリアゼルもすぐに見つけることができた。

 リアゼル……。
 ずっと成りたいと思っていた。
 憧れていた。
 みんなに愛されるキャラクター。
 男の子だけど、みんなにお姫様みたいに大切にされる。
 大事に大事にされて、みんなに可愛がられて。 
 羨ましくて、良いなぁっ、成りたいなぁっ…。

 計画を立てると、すぐに実行に移した。ボクには権力と魔力がある。これは、きっと神様からの贈り物。ボクが成りたい人に成れるように、みんなに愛されるように、愛されたい人に愛されるように、全部全部きっと僕のため。

 
 この国の王という人は、どこかボンヤリしている人で惑わすのは簡単だった。タイミングを見計らい、リアゼルとウェルギリウスの婚約を推し進める。だけれど予想外だったのは、ウェルギリウス様がリアゼルとの結婚を拒み、フランドールとの結婚を望んだこと。何かがおかしいと思った。それまで、フランドールのことなんて一切気にもとめていなかったのに、ボクは一つの恐ろしい仮定を確かめるべくメディチ家を調べ上げた。 

「フランドール・メディチは転生者。」

 恐ろしい仮定は、やはり確定的となった。



 ボクの今まではボクのためにある。
 フランドール、お前は分かっていないみたいだけれど、ボクはちゃんとボクの人生を歩んでいるんだよ。





「ああ、そっか。そうだよね…。」

 何か、閃いたように眼を見開いたユウタが笑みを浮かべる。先程まで、怒りを撒き散らし、涙を浮かべていたというのに。あまりの感情の波に、さすがに恐怖を感じて一歩後ずさる。ユウタはそんな俺の肩に両手を置いて、歯列が見えるほど口角を上げた。

「お前に成ればいいじゃん!」
「…は?」
「憎いけど、お前は、皆に愛されているし、それに魔力も弱い! きっと上手くいく!」

 ミシミシと音がするほど強く掴まれた肩に痛みが走る。
 思わず顔を顰めるが、ユウタはお構いなしだ。
 興奮しているのか、頬は紅潮し、掌は熱かった。

「ああ、でもお前はボクになるのかぁ…。となると魔力もそっちにいっちゃうと困るね。成功したら、この身体はいらないし~。うん、処分でいいやっ! よし、そうと決まれば今すぐやろう!」

 いとも簡単に身を引きづって、ユウタは俺をどこかに連れて行く。
 抵抗しようにも身体が動かない。
 文句を言おうにも口が聞けない。

 やばい、やばい、やばい、やばい。
 処分? 入れ替わる? 
 俺の身体が? コイツの身体が?
 
 ジタバタと抵抗するのは俺の思考だけ。
 いつか、変な男に捕まったときとはまるで違う。
 一切の抵抗を封じられ、何にも成すことができない。
 ユウタは、どんどん進んでいき、いくつもの扉をくぐり抜けていく。
 怖い。
 恐怖で冷や汗がダラダラと流れる。
 どうする、どうすればいい?
 初めて感じる今までにない強い恐怖。

 魔法至上主義のこの世界で魔法の下手な俺は、魔力の強いものには敵わない…。
 分かっていたはずだ…。
 だからこそ理性で動こうとしてきた。
 でも、つい気が焦って最後の最後でこのザマ。
 無鉄砲に飛び出したりして、俺の馬鹿野郎。
 こんなんじゃ、リアゼルのことなんか救えないだろ。
 犬死どころか、これから皆に迷惑を掛けようとしている。
 本当、俺、何しに来たんだろう。

 やがて、広い部屋にたどり着いた。そこには大きく複雑な円形模様が描かれていて、周りには人形みたいな…いや、まるで粗大ゴミみたいに人間がゴロゴロ転がっている。乱雑に並べられた人々が円形模様を取り囲む。中心には水がちょろちょろと湧き出ていた。青白い光が、ぼぉっと照らす。

 ほんの少し、小さな諦めが胸の内をコロリと転がった。






しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...