【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

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男だらけの異世界転生〜俺たち勇者一行編!〜

リアゼルの血

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 ブルボの自白が終わり、情報共有のため一度全員に集合が掛かった。娼館に見せかけた牢獄の会議室にポツリポツリとメンバーが集まる。ウェルとキルトは遅れてくるそうだ。

「兄さんっ、それでね! そいつの血が今も魔法陣に繋がってるんだって! それから、教会のユーターってのが攫った人に別の人間の人格を移す禁忌魔法ってのを試してるのをハゲが見ちゃったんだって!」

 頬や髪、服を血に染めたまま笑顔でブルボから聞き出した情報を伝えるアシュル。口調が少々荒いのは思春期の憧れのせい、きっとそう。なんとも言えぬ、血の異臭も汚れもアシュルは気にしていない。とにかく、キラキラとした真っ直ぐな瞳が「褒めて褒めてっ!」というものだから、ただただ頷く。聞かされる情報量や内容がゴチャゴチャしすぎて、頭がフル回転だ。かわいい弟の話を理解するため俺は一生懸命、耳を傾けた。

「うんうん、頑張ったなアシュル! 俺の弟は優秀すぎる、すごいぞ。国の管理職…、いや王の側近になれるんじゃないか?」
「えへへ、ホント?嬉しいな~。でも、僕は兄さんに永久就職するつもりだけどぉ?」

 数時間で、これだけの情報を引き出せたのは贔屓目でなく、素直に凄いと思う。一体、どんな方法を使ったのだろう。ブルボのいる地下には、入らせてもらえなかった。きっと色々、事情があるのだ。

 まぁ、情報が入ってきたのだから、それでいい! 
 俺の弟は優秀だ!


「それは、リアゼルくんが作った魔法陣なのかな?」

 リリーが落ち着いた様子で質問する。

「あ?」
「アシュル!先輩だからねっ、ほら、言葉遣いは、優しくねっ!」
「……教会の奴があらかじめ布に描いて作った転送用の魔法陣で、そこから攫ってきた人間を送り付ける手法です。」
「素直でえらいなぁ~、アシュル♡」
「うんっ!兄さん♡」

 アシュルとフランドールの会話にリリーは呆れた様子でジトッとした視線を送った。まぁ、そんなものが、この両者ブラコン男たちに伝わるわけがないのだが。リリーは、ため息を吐くとボソッと呟いた。

「……兄弟揃って、重症かな。」



 さて、アシュルの話を要約すると、こうだ。

 教会が人攫いをしているわけは、ユーターという教祖が主な主犯で、理由は分からないが、肉体から人格を入れ替える禁忌魔法を成功させようとしている。教祖の名がユーターであることは分かっているが、彼はいつもフードを被っており顔や髪の色は分からない。

 ブルボは、魔力を奪ったリアゼルを教会の作った布製魔法陣で教会に転送した。しかし、リアゼルが咄嗟の判断で自らの血を魔法陣に絡ませた。魔法具は魔力を奪うといっても魔力を使えない状態にするだけで、魔力そのものが消えるわけではない。例えるなら水道の元栓を閉じるようなもの。意識的に外に放出できない。だが、肉体に流れる血液中には魔力が豊富に含まれている。だから今も尚、リアゼルは魔法陣に血を流し続けているようだ。

「普通の人間にはできないですよ、こんなこと。血液中の魔力で紡ぐなんて、簡単なことじゃない…。」

 ベェルの言葉に皆が頷く。
 すると、顔を上げたレオンが深刻げに眉を顰め呟いた。

「血を流して続けるって、それ、まずいんじゃないか…? おそらく、すでに一晩と半日は経ってる。」
「体力魔力ともに限界なはずですね。体内の血液を失えば、命も危うい。」

「その魔法陣ってのは、どこにあるんだ?」

ドラルクの言葉に焦りを煽られ、急かすように問うと突然背後から声がした。

「これのことか?」

 布をヒラヒラとさせ、扉に背を預けた王子様が金髪を掻き上げながら涼しく答えた。
 いつの間に入ってきたのだろうか。
 すぐ横には、王子様の落ち着いた様子とは打って変わり、ゼーゼーと呼吸を整えるキルトがいた。

「皇太子殿下は、人使いが荒すぎです!!」
 
 と文句を言いながら怒っている。

 ウェルがマークしていた不自然な部下が魔法陣を持っていたそうだ。魔法陣の描かれた布を回収するのに手間取ったたらしい。そこで、キルトの出番。ウィチルダの家系は国の情報屋。情報を得ることに特化した魔法があるという…。疲れ切ったキルトを見るに相当な魔力を要したのだろう。

「あんなデカイ男に力技って、殿下は脳筋ですか…っ、はぁっ。」

 うん、どうやら違ったようだ。

「お前は騎士科なのだから当然だろう。オレは皇太子だしな、お前は皇太子にそんな仕事させるのか?」
「ハイハイ、そーですね! 大変、名誉な役目でしたっ。」
「構わん、大儀であったぞ。」

 キルトの恨むような目も気にせず、ふんぞり返るウェル。
 知らぬ間にふたりが仲良くなっている。
 
「神子と言われるだけある、見てみろこの糸のような光を、どうやら逆探知できるようにしてあるみたいだ。これなら居場所がすぐに分かるぞ。どうやら繋がっているのは、サフィアの丘に建つ東の大聖堂だ…。僻地だからな、馬車でここから5日、転移魔法を使える者でも地点をいくつか置いて展開し、2日と半日で着くかどうか。最も早いのは、この魔法陣で飛ぶことだが……。」

「俺が行く。」

 フランドールが迷うこと無く手を上げる。スタスタと足早にウェルに近づくと、魔法陣の布を奪い取った。この布切れの魔法陣だって国宝級。バサリと広げて陣の中に入ったフランドールは、瞬きする間に消えていった。強い魔力の残りと淡い残像のような光。一瞬の出来事に皆、ポカンとしたまま固まった。

「に、兄さん!!僕も行くっ。」

 アシュルがフランドールの後を追って魔法陣の中に入った。しかし、すでに魔法陣の絵図はボロボロと朽ちていた。布が、まるで焼けていくかのように黒くなっていき、灰を散らしながら消えていく。

「あああっ! ああっ、なぜ! 兄さんっ! 兄さんのところに行かなくちゃならないのに!」

 頭を掻きむしりながら、破綻したように叫ぶアシュル。
 魔法陣を必死に掴むが無情にも触れたところから崩れていく。

「兄さんっ、兄さんっ、兄さんっ!」

 そう言いながら、アシュルは早口に呪文を呟いた。すると、足元に転移魔法の陣が生成されていく。やがて形を成した陣は光りを放ち、アシュルを飲み込んだ。

「私も行きます。」
「オレも行く。」

 ベェルとウェルも立て続けに魔法陣を組み、消えていった。
 残ったのは、レオン、リリー、キルト、ドラルクの4人。

「…転移できる奴らが一度に集まるなんてさすがに怖いわ。あいつらどうなってんの? 転移魔法ってそんな簡単に使えるもの? えっ、使えるのが普通?」

 レオンが困惑した表情でケッと吐き捨てた。
 うーーんと伸びをしたリリーがブーツのヒールを鳴らしながらドラルクの横に立つ。頭2つ分ほど違うふたりの背丈。大きなドラルクにリリーはよし掛かりながら、ポンと拳を鍛え上げられた胸板にぶつけた。

「さて、私達も行こうかな。馬鹿3人が突っ走ったら、ベェルだけでは止められないでしょう。……それに、ベェルも彼の前では思考が鈍くなるから例外じゃないしね。キルトとレオンは、ここに残ってくれるかい?」

「おう。」
「は~い。」

「じゃあ、よろしく頼んだよ。行こう、ドラルク。私達は、残念ながら馬車だけれどね。行かないよりは、マシさ。」

 手配済みの馬車に乗り込んだリリーとドラルクはゆったりした椅子に腰掛け、束の間の静けさに瞳を閉じた。蹄の音が心地よく夜道に響き、月夜は眩しい。もうすぐ、満月なのだろう。大きく少し欠けた月は美しかった。
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