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男だらけの異世界転生〜俺たち勇者一行編!〜
白髪の教祖
しおりを挟むなんだ、この教会は……。
あっちこっちに転がってるのは、子ども…?
いや違う、比較的、若いだけか。
10代や20代くらいだろうか。
皆、息はある。
だが、声をかけても返事がない。
眼は開いているのにボンヤリとしており、まるで意識がないみたいだ。
一体どうなっているんだ。
「うわっ!っぶねぇ…!」
少しでも気を抜くと四方八方から白装束の男達が飛び掛かってくる。もう、何人とやりあったか分からない。致命傷になるようなキズは負わせていないけれど、そろそろ疲れで加減が分からなくなってくる。というか、あと何人出てくるんだ? 剣を向けてくる男達の人数は一向に減らない。この教会、あまりに異常すぎる。
「おい!リアゼルはどこだ!」
そう聞いても誰も答えない。
まぁ、当たりまえだけど。
次から次へと来る攻撃を俺は必死で受け止める。
聴覚や視覚、全ての感覚を研ぎ澄ませ、来る敵の剣を避けていく。
鉄のぶつかり合う音や肉体のぶつかる鈍い音が止めどなく響いている。
身を翻し、数人を相手にしながらいくつもの部屋の扉を開けリアゼルを探した。
明るいはずなのに陰湿な教会の中で、俺は体力の限界を感じていた。
「はぁ……はあっ…、どうなってんの、この教会。」
すると突然、パチパチと軽やかな拍手が聞こえてきた。
そして、はたと男達の動きが止まり、ぞろぞろと撤収していく。
ゆったりとした間合いの拍手には、こちらを見下すような響きがあった。
「すごいすご~い。一人でこんなにやっつけちゃうなんて。」
拍手と声のする方へ視線を向けると、そこには眼深くフードを被った男が立っていた。布の隙間から白い髪が覗いて、反射するみたいに光って見える。愉快そうな男は、ゆったりとこちらに向かって歩いてきた。俺の呼吸は、まだ整っていない。
「君を待っていたよ、フランドール・メディチくん。」
「誰だ、お前。リアゼルは、どこにいる。」
「ヤダこわ~い。てかさ、本当にリアゼルのために来たんだぁ。」
さいあくぅ……。
小さかったが確かに聞こえた呟き。
意味が分からない、だけれどこの男が苛ついているのだということは、ハッキリと分かる。
遠くにいた男が更にこちらに近づいてくる。
俺が身構えると、男は愉快そうに笑って、背伸びをしながら無遠慮に肩を組んできた。
そうして、男はフードを脱いだ。
視界に写り込んだ真っ白な糸。
サラサラと靡く髪に目を奪われた。
髪や肌は、もちろん、まつ毛まで白い。
透き通るような紫の瞳がぱちぱちと瞬いて、その顔立ちは幼く感じられた。
思わず、ぼんやりと見入ってしまうほど、神秘的。
「ねぇねぇ、どんな女の子が好み?」
「は?」
突然の唐突な質問に理解できず、口から疑問の音が出た。
「だからさぁ、どんな女の子が好みなの? おっぱいが大きい子? 細い感じ? 髪は長いほうが好き? それともショート? うーん、君さ、なんか長男ぽいよね。だとしたら…、あっ、わかった。お姉さん系でしょ? ねっ、当たり?」
よく喋る男……、この青年に困惑する。
初対面で一体何を聞いているんだ。
ま、まぁ、たしかに、俺は長男だし、好みは甘やかしてくれるお姉さん系だが…。
こいつ、エスパーか?
「あははっ、やっぱ当たりだ!」
「う、ぅう…。」
「ねぇ、どんなお姉さんがいいの?」
「あ、や、その。」
「教えてよぉ、いいじゃん!」
「み、ミステリアスな、感じの…。」
「やっぱ巨乳好き?」
「ぅ、う、はい…っ。」
「うわぁ~~!夢見すぎっ!君、童貞でしょぉ、ギャハハッ。」
「~~~っ……!」
腹を抱えて青年が笑っている。くそ! 俺は何でこんなガキに性癖を自白させられた挙げ句、バカにされてるんだ! 顔が熱くなるのを感じて、俺は年甲斐もなく青年を睨みつける。だって、悔しかったんだもん‼
カッとなった頭だったが、ふと、違和感によって冷静さを取り戻す。
おかしい…。
確かに、おかしいよな。
だって、この世界にはありえないはずなんだ。
「なぁ、そういうお前は、どんな女の子が好みなんだ?」
そう俺が聞き返すと、青年は、ウゲーと舌を出し、顔を顰めて言った。
「女なんて嫌いだよぉ、あいつら汚いもん。だから、この世界は最高だよねぇ!」
うん、そうだよな。
この世界に『女』という性はない。
もちろん『雌』という概念すらもない。
「お前さ……名前、なんていうんだ…?」
「ユウタ、ミナモトユウタ。」
ユーターじゃなくて、ユウタか。
ああ、やっぱり。
まさか、いるだなんて想像もしてなかったよ。
同類と出会えるなんてな。
「ミナモトユウタ、転生者か。」
「当たり~♪ そう、キミと同じ転生者。」
それまでにこやかだった表情は、一瞬にして鋭い眼光を向けてくる。白く細い腕が伸びてきて、短い髪をぐんっと掴まれた。その見た目からは想像もつかないほど、強い力。至近距離にある顔は、美しすぎて恐ろしい。額に青筋を立てるほど、ユウタは怒りに満ちていた。
「フランドール・メディチはこんなんじゃない。」
ぎりぎりと引っ張られ、頭部に痛みが走る。
ユウタの腕を掴み、引き剥がそうとするが、微動だにしない。
こんなにも、か弱そうな見た目をしているのに。
いや、実際、彼にさほど力はないのだろう。
それでも、怒りが彼にこれほどまでの力を与えているのだ。
「君、このゲームをプレイしていたでしょ? 大方、妹にでも押し付けられてプレイしていたのかな。男は無理、女が好きってやつ? それとも断罪が怖かったのかなぁ。でなきゃ、大抵はストーリー通りに進むんだ。この世界には強制力があるからね。でも、やっぱり強制力は強い。この世界で生きていくうちに馴染んできちゃったんじゃない? それで男に少し興味を持ったとか~? もしくは、ヤッちゃった?でも、そりゃそうだよね、この世界には男しか存在しないんだから。おかしいことじゃない。でもね、間違ったんだよ、君は…。」
そう……、君は間違っている。
ユウタは、瞳に涙をためながら、髪を掴む手に更に力を込めた。
「この世界は、リアゼルが愛されるためにあるんだっ!」
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