【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

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男だらけの異世界転生〜学園編・第二部〜

フィアンセ様の溺愛ルート⁉

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「フラン、聞いてくれ。」

 王子様が地に膝を付き、俺を見上げる。
 白く美しいが男らしさを感じる指先が俺の手を取った。
 まっすぐと射るように瞳を見つめる姿は真剣そのもの。
 だから、俺も背筋を伸ばして王子様の言葉を待つ。

「これは、誰かが決めたことでも決めることでもない。ましてや命令でもない。」

 乱れた服や汚れた身体はウェルがあっという間に魔法で綺麗にしてくれた。先程までの異常な興奮や熱も、いつの間にか収まっている。まぁ、何となく、想像は付くけれど、心に留めておこう。
 
 少しひんやりとした冷たさを感じる手。指先で指先を、ぎゅっと握られる。神妙な空気に、なんとなく緊張しながらウェルの様子を伺う。すると、ウェルは俺の手の甲にゆっくりと唇を近づけた。ちゅっ、と音を立てて柔らかな感触が離れていく。

「愛している、フランドール。今までの全てが…、君を守るためだったと言ったら信じてくれるだろうか…。フランを誰よりも深く愛している。皇太子として生まれてきただけの無力で情けない男だが、フランを守りたい。守らせて欲しい…。オレの妻になってくれないか。」

 情報量が多すぎて混乱した。
 え?何?
 今までのって、何のこと…?
 えっ、俺を守るため?
 けけけけけけけ、結婚⁉
 つつつつつつつ、妻ァ⁉

 手を取られたまま硬直して、オドオドと視線をあちこちに巡らせた。
 何から答えるべきか、何から話すべきか、言葉がすぐには出てこない。
 
「あ、あのー、そのー。」
「フラン…。」
「その、だな。まず…、お前の言うことは全部信じる。というか、信じてるからな。ウェルの気にしていることを、俺は全然気にしてないよ。それから、ウェルは無力なんかじゃない。皇太子として生きていくことは、誰にでもできることじゃないと俺は思う。ウェルには人を動かす力や導く力がある、そうだろう? ウェルがたくさん頑張ってきたこと、俺は知っているぞ。」
「ありがとう。…いちばん大事なことの返事はくれないのか?」
「え…! その…、結婚?のことは…。」
「オレの妻になるのは嫌か…?」
「嫌、とかじゃなくてっ。まだ、心の整理がつかないというか、なんというか…。考える!考えるから…、待ってくれ、たり、するか?」

 何だか、自分がズルいことを言っているような気がする。
 すぐに答えを出せない。
 縋るみたいに握られた手を振りほどけない。
 このまま、ごめんと断る勇気がない。
 断ってしまったら、ウェルがいなくなってしまうような気がした。
 ウェルがまた自分の元から離れていくことが正直、怖かった。
 考える、そんなあやふやな返事をするだけで、引き伸ばして…。

「そんな顔をするな、フラン。困らせてすまない。」
「ちがっ……!」
「安心しろ、必ず妻になると言わせてやる。」
「え、ええ?」
「フランの処女バージンを食ってしまったことだしな。」
「なっ、あ、はぁ…⁉」

 耳まで赤くなるのを感じて、ウェルを睨む。
 クスクスとからかうのを楽しんだウェルは立ち上がると、俺を柔らかく包み込み抱きしめた。クラりと来るような香水の良い香りがする。首に顔を埋められ、髪が触れて擽ったい。

「いっ!……んっ。」

 首筋に、ちりっとした小さな痛みが走って、それからべろりと舐められた。俺は驚いて、ウェルを引き離し、吸われた首筋を手で抑える。

「ばかっ、痕付けただろ!」
「オレのものだという、しるしだ。」

 満足気に顎を上にして、ウェルが笑う。
 俺は、呆れて項垂れた。

「おい…っ、アイツはどこ行った?」
「んぇー? アイツって?」

 だらしない、覇気のない声で答えると、ウェルは案外真面目な表情をしている。

「フランに手を出した、クソ野郎だ。」
「ああー、そういえばいないな。」

    よく見ると、流血沙汰になっているカーペット。床に落ちているこの手首が、おもちゃやダミーであることを願いたい。先程まで転がしていたという場所にウェルが走り寄る。そこで、何かを拾い上げたようだ。忌々しげに何かを見つめて、唸っている。気になって覗き込めば、ウェルの手の中には長い髪の毛があった。

「見たまえ、僅かだが、魔法陣のあとが残っている。」
「俺たちの気づかない間に誰かが、連れ去った…?」
「恐らくそうだろう。」

 一体、誰が、何のために。

 ウェルの力で、すぐに魔法陣を追ったが、何も分からなかった。転移魔法は高度な魔術らしい。それを扱えるのは、ごく僅かな限られた人間のみ。だが、それを扱えるという人間の中に髪の長い男はいなかった。ウェルは考え込むように眉を寄せ、それからハッとした表情を浮かべた。

「以前、父…、王の側で髪の長い男を見たことがある。」
「髪の長い男…? 誰なんだ、それは。」
「分からない、だがやけに気になったのたのだ。一度、視界に入っただけなのだが、覚えている。白装束だったから教会の者だろう。」

 教会の者?
 白装束の長髪男なんて、ゲームには出てきていないはずだ。
 そんなキャラクター知らない。
 もしや、フランドール側の攻略対象だろうか。
 ありえなくもない…。
 
 結局、王子のいない会場での婚約発表は行われなかった。シュベルトの手首だけが残った、ボロボロで血まみれの部屋や俺の身に起きたことで案の定、大騒ぎになった。俺がシュベルトに襲われたと聞きつけた母上と父上は俺も恐ろしくなるほどの怒りを露にした。「上級貴族のホイスト家の息子がメディチ家の息子に手を出し、メディチ家を怒らせ、僻地に追いやられ下級貴族に堕とされた。」という話が国の中で民にまで知れ渡った。さすがにシュベルトのことは、まだ噂になっていない。きっと誰かが口止めをしているのだろう。心配性の父上と母上が実家に戻りなさいと言うので、さすがに焦った。どうか学園には通わせてくださいと頼み込んだおかげで、門限が短くなっただけで済んだので安心した。

 謎の男の情報は探しても見当たらない。 
 シュベルトの行方も分からずじまい。
 シュベルトを断罪できないことにウェルは酷く苛立っていた。
 なんだか、拷問がなんちゃら~、なんて不穏な言葉を呟いている気がするが…。
 うん、聞こえない、聞こえなかったぞー。
 全てが有耶無耶になろうとしていた頃、事件は起きた。

 リアゼルが拐われ、忽然と消えてしまったのだ。



    
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