【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

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男だらけの異世界転生〜学園編・第一部〜

支配

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Side アシュル
 
 ベッドにぐったりと投げ出された四肢に、か弱さなど決して感じない。すやすやと規則的な呼吸で眠る愛しい人を、僕はいつも大切にできない。彼は、会えないうちに随分と逞しくなった。きっと肉体的な力では敵わないだろう。けれど魔力の弱い彼に、魔法を使うことで、悪戯をしてしまうのをやめられない。自分自身、どうしようもない男だと思う。そんな僕の深く長いこの想いなど、実ることは愚か、フランドールへ届くことすらもないだろう。自業自得、そう言われてしまえば返す言葉もない。

 フランドールは僕のことを弟としか思っていない。どんなに想い伝えても、触れ合っても触れたとしても、諭されて終わりだ。男として見てもらえる日は一生やって来ない。それならば、何もかも奪ってやろうと思った。隠し閉じ込めて、手足を奪い、目を奪い、僕だけのものにしてしまえばいい。

「…どうしても綺麗な兄さんを壊したくないんだよな……。」

 だから僕は計画を立てた。ゆっくり、時間を掛けて、慎重に、彼の心すらも手に入れるための計画を。精神まで犯せるほどの魔法が僕に操れたら、どれほど良いか。短時間の精神支配は誰でもできる。けれどそれは短くて数分、長くて一週間保つかどうか。長期に渡る永遠にも近い支配は禁忌魔法に等しい。それほどまでのものは魔法を得意とする僕でも、さすがに扱えない。何なら、記憶を消す方が簡単だ。だから、短時間の精神支配魔法を何度も何度も掛け直すことで繋ぎ止めることしかできない。そうやって強い執着で、誰かを支配している奴らも多くいる。だが、それらの魔法は他者にバレやすく解きやすい。誰かに気付かれ、解かれてしまえば意味がない。

 それに…、それに…。
 叶うのなら、ほんの少しでも良いからフランドールの本物の心が欲しいと思うのは強欲すぎるだろうか。
 
 薄っすらと汗ばむ頬を撫で、上気する肌を眺める。凛々しく美しいかんばせと魅惑的な黒髪、しなやかでありながら男らしい身体。誰もが振り向くほど魅力的であるのに、フランドール自身は、それに気がついていない。お人好しで優しくて、頼りになって、剣術が上手くて…。彼に抱かれたいという男が山ほどいるのと同様に、彼を犯したいという男も山ほどいる。

「また少しだけ忘れていてね、愛してるよ。」

 最中のことは忘れる仕組みになっている。

 僕を彼の潜在意識の中に刷り込ませる。正直、触れたいのをどうしても我慢できないというのもあるけれど。僕の匂いを鍵にして、フランドールの記憶を開放させ催眠中のことを思い出させる。フランドールを自分のモノするためには、魔法だけでの支配では足りない。だからと言って、すべての記憶を消して彼の人格が変わってしまうのは何となく嫌だった。記憶を完全に奪うこと、それは最終手段。

 ああ、どうか狂うほど僕に心酔して欲しい。
 僕無しでは生きてゆけないほど、心ごと僕に溺れて欲しい。
 その為なら何年でも何十年でも時間を掛ける。
 彼が僕を愛するまで待ってあげるんだ。
 できることなら、ゆっくりと時間を掛けて味わいたい。

 ……それなのに。

「アイスって一体誰なんだ…。それにリアゼルとかいう平民も気に入らない。あの馬鹿皇子といい、どいつもこいつも僕の邪魔ばかりっ。」

 どうしようもない苛立ちと焦燥にアシュルはギリギリと爪を噛んだ。





▼Sideウェルギリウス


 ここ数年で随分と老けた様子の男が光の無い瞳で見下ろしてくる。
 玉座に座るこの男はオレの父であり、この国の王だ。

 話があると呼び出されるのはいつものこと。意思があるのか無いのか…、教会の言いなりのような男だ。以前は幾分マシだった。今では、実権を握っているのは教会の大司教。王は、もはや飾り同然。こちらを見ようともしない男は、つまらなそうに口を開いた。

「メディチ家との婚約は諦めろと言ったはずだ。」
「…なんのことですか。」

 あの平民とは、それなりに付き合ってきたつもりだったが、やはり常に誰かが監視しているのか。リアゼルと恋仲になるつもりなどない。オレが欲しいのはたった一人、フランドールだけだ。それでも、彼に何かあったらと思うと無力な自分に苛立つ。今はただ、フランドールと距離を置くことしかできない。知らぬふりをしようと、何を言おうとも、この男は息子の言葉より教会の言葉を信じる。民の意思より教会の意思、自分の意思より教会の意思。教会がなければ何もできない王。

 オレはとっくに見限っている。
 オレが王なら、教会から実権を取り返す。


「禁忌魔法を知っているか? 魔力を奪って道端に捨てる、それだけで人は死ぬのだ。前にそうやって死んだ奴がいた。」

 低く紡がれた声にドクリと心臓が脈打つ。
 頬を掻きながら、ぼんやりと男は話を続ける。

「屋敷に火を着けて燃やしてもいい。」

 ドクドクと重たい心拍が上がる。
 嫌な汗が背や頬を伝う。
 何の話だ?
 一体、この男は、教会は、何をしようとしている?

「隣国には事故だったとでも言えばいい。」

 静かに紡がれる恐ろしい言葉にウェルギリウスは青白い顔で立ち尽くした。

「お前がメディチ家との婚約を諦めれば良いだけだ。それだけで君の愛する者は幸福なのだ。」

 耳鳴りがする、頭が真っ白だ。
 今、オレは一体、何を言われたのだろう。

 ふと、頭を上げると、玉座の後ろに人影が見えた。
 白装束の髪の長い男、きっと教会の者だろう。
 そんなことは、いま、どうだっていいはずなのに、やけに気になった。

「っ、父上。」
「もう良い、下がれ。」

 一言、たった一言も発することを許されず、無力なオレは玉座の間を追い出された。ただ、呆然とするだけ。父の、いや、教会の脅しに怯えるだけ。父とまるで変わらない、情けなく力のないオレは項垂れたまま歩き出した。


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