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男だらけの異世界転生〜学園編・第一部〜
追い追われ、そして追う
しおりを挟む「兄さん!」
花の綻ぶような笑みで俺に手を振り、駆け寄る銀髪の少年。
会うたびに成長していく、俺の可愛い弟。
年に二度ほどしか実家には帰ることができず、半年ぶりだ。
また大きくなって、声も少し低くなったような気がする。
幼かったアシュルも可愛いが、成長していくアシュルを見ることができるのも嬉しい。
「アシュル、入学おめでとう! 久しぶりだな。」
飛びつくように抱きついたアシュルを受け止め、声をかける。
腕の中にすっぽりと収まってしまった弟に同時に自分の成長も感じる。
16歳、フランドール・メディチ、身長176センチです。
一週間ごとに伸びているような気がする。
面白いくらいに背が伸びて、ついに年上のベェルすらも抜かしてしまった。
「ありがとう兄さん! 会いたかった。」
小さく呟くアシュルの一言が可愛すぎる。
俺は変わらずキルトと二人だが、アシュルは一人部屋らしい。
「生徒会に選ばれたんだろう? すごいなぁ、アシュルは!」
「兄さんだって、生徒会でしょ?」
実は、ベェルとリリーさん、レオンは第一部の生徒会を卒業した。貴族学園は一応、第一部の15から17歳と第二部(成人)の18から20歳で別けられている。第二部では所謂「専攻」が選べるようになり、主に「魔法士科」「騎士科」「財務科」「教職科」の四種類のうちいずれかを選択する必要がある。掛け持ちも可。
俺は、もちろん騎士科専攻だ!
そんなわけで先輩方は第二部に進級、第一部の生徒会をご卒業されたというわけだ。第一部の生徒会長は変わらずウェルギリウス、副会長はリアゼルとなった。ちなみに俺は会計、何故か数学得意認定を受けてしまったからだ。実は前世の方の数学がやたらと発展していたようで…、あまり得意ではないのにこの様。そして書記は、我が弟アシュル。重苦しかった生徒会もアシュルの存在のお陰で少し楽しみになる。
「兄さん、ちょっと。」
ちょいちょいと手招きされて、アシュルに顔を近づける。かがみ込むように寄ると、制服のネクタイを引っ張られ驚いた。体勢が崩れる寸前で持ち直し、どうしたのかとアシュルを見れば想像以上に近い距離に心臓が大きく脈打った。
「えっ……?」
目を見開いたのも束の間、アシュルの美しい顔がより一層近づき、唇に柔らかなものが触れた。
それは、ちゅっ、と音を立てて離れていく。
してやったりな顔のアシュルは満足げに軽く笑って、チロリと出した赤い舌を見せつけるように自らの唇を舐めた。
「あぁぁ…、久しぶりの兄さんだ。我慢できなくて、つまみ食いしちゃった。」
感極まったように空を仰ぎ、アシュルが言う。
俺は呆然と立ち尽くした。
えっ、なに…?
アシュルとは、なんとなくこんな距離感だったのを覚えている。
実家に帰ると、甘えたなアシュルが可愛かった。
でも、でも…。
今のは何か違った!明らかに違った‼
ここ学園だし、めっちゃ人がいるんですけど⁉
ていうか、めっっっっちゃ見られちゃってるんですけど⁉
お兄ちゃん、腰が抜けそうだよ。
学生たちからの視線が痛い、なんなら、先生方もいるし……。
何か、キャラも変わっちゃってない?
「あ、ああ、あしゅるくん?」
「んー? なぁに、兄さん♡」
「こ、公共の場で、こういうのはちょっと…。」
「そっか、ごめんね兄さん。そうだよね、兄さんの可愛い顔を僕以外の人間に見せるなんてどうかしていました。今度からは、誰も居ない僕らだけの部屋で、ゆっくり、甘くて、深ぁーい口吻をしてあげる。ああ、早く食べたいよ。とろとろになった兄さん、楽しみだなぁ♡」
あの可愛いアシュルは幻想だったのだろうか。
色気を纏わせた俺の弟は、あの頃のあどけない弟とは別人だった。
精通しただけで、泣きついてきた可愛い弟が気が付かぬ間に獰猛な雄へと変貌していた。
俺の癒やしの天使は、いなくなってしまったのだろうか。
さらさらと靡く銀髪は、確かにアシュルのもので、抱きしめたときのお日様のような香りも変わらない。
ただ少し、大人になってしまっただけだ…。
ううん、全てはきっと思春期のせい。
きっと、そうだ。
「思春期のせいじゃないですよ?」
「こえ、出てた…?」
「ふふっ、相変わらず兄さんは、かわいいね。」
ま、マジか。
声に出てるとか俺、かなり動揺してるのか?
うーんと唸っていると、フランドール様!と聞き慣れた声が俺を呼んだ。
「リアゼル、どうしたんだ?」
わざわざ走ってきたリアゼルは、ぜぇぜぇと息を切らしながら笑顔を向ける。
「はぁ、はぁ、みつけた、からっ。」
「大丈夫か? 落ち着いてからでいいぞ。」
なかなか、呼吸の整わないリアゼルの背を撫でる。
そこまで、全力で走ってきてくれたのか。
「すみません、ありがとうございます。」
眉を下げて、へにゃりと笑うリアゼルはまるでトイプードルみたいだ。少年に犬扱いとは!と思うかもしれないが彼は本当に子犬のような愛嬌の持ち主なのだ。頭をよしよしと撫でると、ふりふりとした尻尾が見える。
「兄さんっ! そいつに触らないで下さい!」
「どうしたアシュル?」
突然、声を荒らげたアシュルに驚いて振り向く。
アシュルは毛を逆立て、リアゼルに威嚇していた。
本当に動物のように敵意を剥き出しにして。
怒りや憎悪の籠もった瞳で睨みつけ、俺を自分の背に追いやった。
「色々、掛けたつもりなのに何故かいつも解かれていて不思議だった…。そうか、お前のせいだったんだぁ。」
「な、なんのことですか?」
「とぼけるな‼」
リアゼルは突然のことに困惑した様子でふるふると震えている。
耳もしっぽも垂れ下がって見える。
大きな瞳に涙を溜めて、リアゼルは小さな声で「こわいです…。」と言った。
その声は俺の中の庇護欲と父性をくすぐった。
慌ててアシュルの前に立ち、リアゼルの頭を撫でる。
「だ、大丈夫だぞ! 怖がらせてゴメンな…? ほら、アシュル、ごめんなさいは?」
そう言ってアシュルの肩を抱き、お兄ちゃんとしての努めである『お友達との仲直り』を決行しようと試みた。
「そ、んな…、そんな、ひどいよ。」
「あ、アシュル?」
「もう、兄さんなんて知らない!」
涙を浮かべたアシュルは、そのまま走り出してしまった。
兄さんなんて知らない…
知らない……
知らない………
脳内でハウリングみたいに何度も何度も反響していく。
ショックのあまり固まって、一瞬意識が飛んだ。
数秒遅れて、慌てて追いかけた。
「アシュル⁉ 待って、待ってくれ‼」
いつも呼べば笑顔で振り向いてくれたアシュル。けれど、今日ばかりは振り向きもせずそのまま走っていく。慌てて追いかけるも人混みに紛れて見失ってしまう。ああ、どうしよう。こんなにも広い学園でアシュルが迷子になってしまっていたら!アシュルの話も聞かず、謝れだなんて、俺はお兄ちゃん失格だ。
「アシュル! アシュルー‼」
呼びかけながら必死に探していると、服の端をくいっと引かれた。
「はぁ…、はっ、リアゼル?」
「探さなくても、そのうち機嫌を直して戻ってきますよ。」
リアゼルからは聞いたこともない低く冷たい声。
全力疾走した俺に追いついてきたリアゼルは、先程とは違い落ち着いた様子で俺を見上げる。
今度は俺の方が息が上がっていて、すぐに返事をできずにいた。
「あっ、すみません。違うんですっ、その…。」
ゆらゆらと視線を動かし、しどろもどろになりながら言葉を紡ぐリアゼル。
珍しい様子を不思議に思いながらも、服の裾をギュッと掴む手をやんわり解いた。
けれど、その手は再度、思っていたよりも強い力で俺を引き止める。
「大切な弟なんだ。」
自然と出た言葉と笑みで、リアゼルを振り解き、俺はアシュルを追った。
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