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男だらけの異世界転生〜学園編・第一部〜
魔術の残り香
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早朝、生徒会に役員として呼び出されたフランドールはキルトより一足先に学園に向う身支度をしていた。
「じゃあ、先に行ってくる。」
そう言うと、まだ眠たげなキルトは寝癖をつけたまま扉の前まで見送りに来きてくれる。あと一時間寝ていても余裕で授業に間に合うというのに…。学生時代の眠気を思い出して、そんなキルトの甲斐甲斐しさにフランドールは思わず頬を緩めた。
「寝ていて良いんだぞ。」
「ううん。それよりさ、フランドールくん。」
「なんだ?」
「“行ってきます”のぎゅーしてよ。」
青年の声から紡がれた可愛らしい言葉にフランドールは頬を赤らめた。
「で、できない。」
「どうして…? 僕のこと嫌い?」
「っ! 好き…っ、だ、けど…。」
恥ずかしさに言葉が小さくなっていく。嫌いなわけがない、むしろ好きで好きでたまらない。この瞬間も彼から離れなければならないと思うと涙が出そうだ。どうして、何故、こんなにも好きなのだろう。不思議なほど、キルトが好きで仕方がない。
「そっか、好きなんだ、僕のこと。」
「…おう。」
耳まで赤くしてフランドールが答える。そんな彼へのご褒美とばかりにキルトはつま先立ちになり、少し背伸びをしてフランドールを抱きしめた。ぴしりと一瞬固まったフランドールは、それからおずおずと背に腕を回し抱きしめ返す。
「良かった、上手くできたみたい。」
「何をだ?」
「ううん、こっちの話。さぁ、遅刻しちゃうよ、いってらっしゃ~い!」
「ああ、そうだな、行ってきますっ。」
ニコニコと満面の笑みでフランドールは手を振り部屋を出た。
「さて、何日持つかな。」
フランドールの笑顔はキルトにどこか何故か不快感を与えた。昨夜のことで眠り足りない。キルトはベッドに身を投げると、深い睡眠へと落ちていった。
▽side フランドール・メディチ
「すまなかった。」
落ち着きのある耳障りの良い声が一言、俺にそう告げた。桃色の髪が春の風に揺れて、ほのかに花の香りがする。早朝から生徒会室に呼び出された俺を出迎えたのは、書紀のリリーだった。広い部屋にリリーと俺の二人きり。何度見ても美しいこの人の白くて細い首筋に見とれて、反応が遅れる。
「えっ…と、何が、ですか?」
突然の謝罪に、よく分からず問えばリリーはバツが悪そうに眉を動かした。
「先日の生徒会での仕置魔法のこと、覚えているかい?」
「……あ~、はい。」
自分のやらかしを思い出して、俺は恥ずかしくなる。視線が自然に床へ向かい、謝罪をすべきだったと反省する。慌てて、がばりと勢いよく頭を下げた。
「あの時分は申し訳ありませんでした! …って、何故、リリー様が俺に?」
頭を下げながら、会ってすぐリリーに謝罪されたことを思い出して、そのまま口から言葉を溢す。ほぼ独り言のような俺の言葉にリリーは、また申し訳無さそうな表情を見せた。
「貴方の魔力が弱いことは分かっていたというのに…。貴方と殿下の関係も知らず、仕置魔法を放ったのは私だ。判断を見誤り、貴方の命を脅かした…、申し訳ない。」
あの時、自分に魔法を放ったのがリリーだと知って驚く。
てっきり、あの赤髪の青年レオンだと思っていた。
「そ、そんな! 頭を上げて下さい! あれは、完全に俺が悪いですっ。ウェルギリウス殿下に対する規定や立場を理解していなかった俺がいけなかった…、だから、すみませんでした! それと、その、仕置魔法に俺は感謝しています。」
「感謝…?」
「はい、色々と気づくことがありました。ありがとうございます。」
己の不甲斐なさも、ウェルギリウスに対する立場や態度も、魔法を向けられると俺自身にはどうしようもできないってことも、自分自身の無知をも知った。俺には、改めなけらばならないことがある。
「…っ、拍子抜けしてしまうね。あの一瞬だけで想像した貴方とは違うみたいで良かった。」
驚いた表情の後、リリーはふんわりと微笑んだ。その美しさにドキリと胸が脈打った。けれど、そのあとすぐに言いようのない不安が胸を占める。何か変だ、まるで誰かに責められている気分。悪いことをしているような…、何故、だろう。
……キルト、ああ、そうだ。
おかしいな、俺はキルトのことが好きなはずなのに。
そうだ、俺はキルトが好きなんだ。
「…おや? 貴方、もしかして。」
「へ?」
リリーが一歩ずつゆったりとこちらに歩みを進めてくる。俺は動揺し、ずるずると後退りした。けれど、すぐに目の前の美しい青年に捕まってしまう。両手を長い指先がやんわりと抑えつける。髪の色とよく似た瞳がじっと俺を見つめて、視線すらも動かすことを許されない。段々と吸い込まれるみたいな感覚になる。
「すごいね…、良く出来ている。2種類あるのは…、こっちが後か、上書きしたんだ、考えるね。」
「上書きって、なんですか…?」
「魔術が掛けられているみたいだけれど、自覚はあるかい?」
「ま、魔術? ないです、ない!」
「そう…、解きたい?」
至近距離で見つめながら、小首を傾げ俺に問う。胸の奥がドクドクと音を立て、歓喜するような感覚のあと、首を締めるような何かを感じて怖くなる。それがきっと魔術なのだろう、俺は恐ろしくてコクコクと頷いた。
「じゃあ、僕の瞳をよく見て。」
指先で顎を持ち上げられ、ずっと合っている視線のさらに奥へと入り込まれる。
「後のはすぐに解けそうだけど、はじめの方の魔術が強すぎる…。解くと記憶が無くなるようになってるのは、あとの魔術?いやこれは催眠か……。まぁ、いいか。すまない、時間がないから少し横着をするけれど。」
「おうちゃく…?」
「口を開けなさい。」
「は、んっ…⁉……んっ、んん!」
言われた通りに口を開けると、口内に突然、指が入り込んできた。途端にジュワリと舌先に何かが乗った。温かい、味はしないが、重たい。
「飲み込んで。」
「んぐっ…。」
またリリーの指示に従って、言われた通りに飲み込んだ。
「…???」
「大丈夫かな? 変化は感じるかい?」
「ありがとうございます。…なんか、すっきりした気がします。」
「それは、良かった。」
ニッコリと微笑まれ、また胸がトクトクと動く。けれど、先程まで感じていた不安がない。とくに何か大きな変化を感じるわけでは無いが、何かが変わったような気もする。不思議だ、一体、どんな魔術だったのだろうか。気になって、リリーに聞こうと思い口を開きかけたその時、ぐいっと腕を引かれた。体勢が崩れ慌てて立て直していると、リリーと自分の間に見覚えのある緑の髪の青年が入り込んだ。
「フランドール様に何か?」
「そんなに警戒しなくても、大丈夫だと思うけれど?」
威圧するようにリリーに睨みを利かせるのはベェルだ。
「あばばばば、お、落ち着けぇ、落ち着くんだ、ベェルくんっ。」
「フランドール様の方こそ、落ち着いて下さい。」
冷静な声色でそう言われた。
たしかに、俺の方が焦っている、かもしれない。
振り向いたベェルは俺の肩を掴むと、真剣な眼差しを向けてくる。
「何も、されていませんか?」
「されてない! というか、むしろ助けてもらったところだ、心配するな。」
「…そう、ですか。」
まだ、訝しげな表情のベェルは納得していない様子だ。
「と、ところでベェルは、どうしたんだ。これから生徒会の仕事か?」
「いえ、フランドール様のご様子を見に部屋をお尋ねしたのですが、いらっしゃらず。ウィチルダ様が生徒会で用があると早朝から部屋を出た、とおしゃっていたので来ました。」
「そうだったのか。俺は元気だぞ! 大丈夫だ、ありがとうな!」
ベェルは心配性だな。
あの時もベェルが医師の手配をするなど、素早く動いてくれたとウェルから聞いた。
あれからベェルは事の報告や処理などで忙しかったらしく、中々タイミングが合わず、顔を合わせても話すことができていなかった。
「本当、ありがとう。色々、任せっきりでごめんな。」
「いえ、ご無事で、…良かったです。」
「ん。ん?、、えーっと…。」
良かった、と笑ったベェルは俺の腰に腕を回したっきり離れない。余程、心配してくれたのだろうか。俺も、おずおずと腕を回して、慰めるようなつもりで、抱きしめ返しながらゆらゆらと揺れた。妹は、こうやってあやすと良く落ち着いた。ぽんぽんと背中を叩いたり、さすったりしてベェルの気が済むのを待った。それから、やっと離れたベェルにはリリーと和解したことを説明し、学園の朝の鐘が聞こえ、朝食を食べそこねてはいけないと解散した。
「じゃあ、先に行ってくる。」
そう言うと、まだ眠たげなキルトは寝癖をつけたまま扉の前まで見送りに来きてくれる。あと一時間寝ていても余裕で授業に間に合うというのに…。学生時代の眠気を思い出して、そんなキルトの甲斐甲斐しさにフランドールは思わず頬を緩めた。
「寝ていて良いんだぞ。」
「ううん。それよりさ、フランドールくん。」
「なんだ?」
「“行ってきます”のぎゅーしてよ。」
青年の声から紡がれた可愛らしい言葉にフランドールは頬を赤らめた。
「で、できない。」
「どうして…? 僕のこと嫌い?」
「っ! 好き…っ、だ、けど…。」
恥ずかしさに言葉が小さくなっていく。嫌いなわけがない、むしろ好きで好きでたまらない。この瞬間も彼から離れなければならないと思うと涙が出そうだ。どうして、何故、こんなにも好きなのだろう。不思議なほど、キルトが好きで仕方がない。
「そっか、好きなんだ、僕のこと。」
「…おう。」
耳まで赤くしてフランドールが答える。そんな彼へのご褒美とばかりにキルトはつま先立ちになり、少し背伸びをしてフランドールを抱きしめた。ぴしりと一瞬固まったフランドールは、それからおずおずと背に腕を回し抱きしめ返す。
「良かった、上手くできたみたい。」
「何をだ?」
「ううん、こっちの話。さぁ、遅刻しちゃうよ、いってらっしゃ~い!」
「ああ、そうだな、行ってきますっ。」
ニコニコと満面の笑みでフランドールは手を振り部屋を出た。
「さて、何日持つかな。」
フランドールの笑顔はキルトにどこか何故か不快感を与えた。昨夜のことで眠り足りない。キルトはベッドに身を投げると、深い睡眠へと落ちていった。
▽side フランドール・メディチ
「すまなかった。」
落ち着きのある耳障りの良い声が一言、俺にそう告げた。桃色の髪が春の風に揺れて、ほのかに花の香りがする。早朝から生徒会室に呼び出された俺を出迎えたのは、書紀のリリーだった。広い部屋にリリーと俺の二人きり。何度見ても美しいこの人の白くて細い首筋に見とれて、反応が遅れる。
「えっ…と、何が、ですか?」
突然の謝罪に、よく分からず問えばリリーはバツが悪そうに眉を動かした。
「先日の生徒会での仕置魔法のこと、覚えているかい?」
「……あ~、はい。」
自分のやらかしを思い出して、俺は恥ずかしくなる。視線が自然に床へ向かい、謝罪をすべきだったと反省する。慌てて、がばりと勢いよく頭を下げた。
「あの時分は申し訳ありませんでした! …って、何故、リリー様が俺に?」
頭を下げながら、会ってすぐリリーに謝罪されたことを思い出して、そのまま口から言葉を溢す。ほぼ独り言のような俺の言葉にリリーは、また申し訳無さそうな表情を見せた。
「貴方の魔力が弱いことは分かっていたというのに…。貴方と殿下の関係も知らず、仕置魔法を放ったのは私だ。判断を見誤り、貴方の命を脅かした…、申し訳ない。」
あの時、自分に魔法を放ったのがリリーだと知って驚く。
てっきり、あの赤髪の青年レオンだと思っていた。
「そ、そんな! 頭を上げて下さい! あれは、完全に俺が悪いですっ。ウェルギリウス殿下に対する規定や立場を理解していなかった俺がいけなかった…、だから、すみませんでした! それと、その、仕置魔法に俺は感謝しています。」
「感謝…?」
「はい、色々と気づくことがありました。ありがとうございます。」
己の不甲斐なさも、ウェルギリウスに対する立場や態度も、魔法を向けられると俺自身にはどうしようもできないってことも、自分自身の無知をも知った。俺には、改めなけらばならないことがある。
「…っ、拍子抜けしてしまうね。あの一瞬だけで想像した貴方とは違うみたいで良かった。」
驚いた表情の後、リリーはふんわりと微笑んだ。その美しさにドキリと胸が脈打った。けれど、そのあとすぐに言いようのない不安が胸を占める。何か変だ、まるで誰かに責められている気分。悪いことをしているような…、何故、だろう。
……キルト、ああ、そうだ。
おかしいな、俺はキルトのことが好きなはずなのに。
そうだ、俺はキルトが好きなんだ。
「…おや? 貴方、もしかして。」
「へ?」
リリーが一歩ずつゆったりとこちらに歩みを進めてくる。俺は動揺し、ずるずると後退りした。けれど、すぐに目の前の美しい青年に捕まってしまう。両手を長い指先がやんわりと抑えつける。髪の色とよく似た瞳がじっと俺を見つめて、視線すらも動かすことを許されない。段々と吸い込まれるみたいな感覚になる。
「すごいね…、良く出来ている。2種類あるのは…、こっちが後か、上書きしたんだ、考えるね。」
「上書きって、なんですか…?」
「魔術が掛けられているみたいだけれど、自覚はあるかい?」
「ま、魔術? ないです、ない!」
「そう…、解きたい?」
至近距離で見つめながら、小首を傾げ俺に問う。胸の奥がドクドクと音を立て、歓喜するような感覚のあと、首を締めるような何かを感じて怖くなる。それがきっと魔術なのだろう、俺は恐ろしくてコクコクと頷いた。
「じゃあ、僕の瞳をよく見て。」
指先で顎を持ち上げられ、ずっと合っている視線のさらに奥へと入り込まれる。
「後のはすぐに解けそうだけど、はじめの方の魔術が強すぎる…。解くと記憶が無くなるようになってるのは、あとの魔術?いやこれは催眠か……。まぁ、いいか。すまない、時間がないから少し横着をするけれど。」
「おうちゃく…?」
「口を開けなさい。」
「は、んっ…⁉……んっ、んん!」
言われた通りに口を開けると、口内に突然、指が入り込んできた。途端にジュワリと舌先に何かが乗った。温かい、味はしないが、重たい。
「飲み込んで。」
「んぐっ…。」
またリリーの指示に従って、言われた通りに飲み込んだ。
「…???」
「大丈夫かな? 変化は感じるかい?」
「ありがとうございます。…なんか、すっきりした気がします。」
「それは、良かった。」
ニッコリと微笑まれ、また胸がトクトクと動く。けれど、先程まで感じていた不安がない。とくに何か大きな変化を感じるわけでは無いが、何かが変わったような気もする。不思議だ、一体、どんな魔術だったのだろうか。気になって、リリーに聞こうと思い口を開きかけたその時、ぐいっと腕を引かれた。体勢が崩れ慌てて立て直していると、リリーと自分の間に見覚えのある緑の髪の青年が入り込んだ。
「フランドール様に何か?」
「そんなに警戒しなくても、大丈夫だと思うけれど?」
威圧するようにリリーに睨みを利かせるのはベェルだ。
「あばばばば、お、落ち着けぇ、落ち着くんだ、ベェルくんっ。」
「フランドール様の方こそ、落ち着いて下さい。」
冷静な声色でそう言われた。
たしかに、俺の方が焦っている、かもしれない。
振り向いたベェルは俺の肩を掴むと、真剣な眼差しを向けてくる。
「何も、されていませんか?」
「されてない! というか、むしろ助けてもらったところだ、心配するな。」
「…そう、ですか。」
まだ、訝しげな表情のベェルは納得していない様子だ。
「と、ところでベェルは、どうしたんだ。これから生徒会の仕事か?」
「いえ、フランドール様のご様子を見に部屋をお尋ねしたのですが、いらっしゃらず。ウィチルダ様が生徒会で用があると早朝から部屋を出た、とおしゃっていたので来ました。」
「そうだったのか。俺は元気だぞ! 大丈夫だ、ありがとうな!」
ベェルは心配性だな。
あの時もベェルが医師の手配をするなど、素早く動いてくれたとウェルから聞いた。
あれからベェルは事の報告や処理などで忙しかったらしく、中々タイミングが合わず、顔を合わせても話すことができていなかった。
「本当、ありがとう。色々、任せっきりでごめんな。」
「いえ、ご無事で、…良かったです。」
「ん。ん?、、えーっと…。」
良かった、と笑ったベェルは俺の腰に腕を回したっきり離れない。余程、心配してくれたのだろうか。俺も、おずおずと腕を回して、慰めるようなつもりで、抱きしめ返しながらゆらゆらと揺れた。妹は、こうやってあやすと良く落ち着いた。ぽんぽんと背中を叩いたり、さすったりしてベェルの気が済むのを待った。それから、やっと離れたベェルにはリリーと和解したことを説明し、学園の朝の鐘が聞こえ、朝食を食べそこねてはいけないと解散した。
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