28 / 65
男だらけの異世界転生〜学園編・第一部〜
異変
しおりを挟む
数日前………
早朝の生徒会室では、会長と副会長が小さな会話を交わしていた。互いの距離には間隔があり、空気は強い威圧の魔力で重苦しい。座ることもなく、立ち尽くしたような二人は静かだ。
「知っていたのか、君は。」
「何がですか?」
「とぼけるのか?」
「…フランドール様の魔力のことですか。」
「そうだ。」
ベェルシードは一瞬、迷いを見せたがすぐに視線をウェルギリウスに戻すと、一呼吸置いて言葉を紡ぐ。
「フレンディ様もルルーシュ様も、魔力のことでフランドール様を案じていたのは事実です。お二人共、魔力が多いものですから想像していなかった事だったようで…。お二人の過保護は、フランドール様の魔力の少なさ故と言えます。」
「少ないとは感じていたが、魔力はあるのだろう? まさか仕置魔法で気を失うほどだなんて…、今どき平民でもあり得ない。医者や神殿の者には診せたのか?」
「何度も診せていますよ。お二人の子であることは確か。ならば呪いか病ではと手当たり次第診せましたが、それでもフランドール様の魔力が少ない理由は分かりませんでした。隠していたわけではありません。ただ、フランドール様の身を守るためには安易に公開すべきでは無かったのです。」
「……そうか。」
「結婚する気が失せましたか? であれば、いつでも私が…。」
「あ゛ぁ? 誰がお前などにやるものか。オレにとっては、むしろ幸運だ。己の権力と魔力に任せて、フランドールを手籠することだってできるのだから。」
「…卑怯ですね。」
「なんとでも言え、そうしてでも手に入れたいほどに……、本気なのだ。」
黙り込んだ後、威圧を消し、ウェルギリウスはソファに身を沈めた。それから深く溜め息を吐き、両腕を脱力させると天井を仰いだ。
「面倒なことになっている。」
その一言で大方、保守派が動いたのだろうとベェルシードは考える。フランドールの魔力について保守派が婚約破棄すべきだと騒ぎ立て、王がその意見に意思を傾けているとウェルギリウス自ら愚痴を溢していた。フランドールとウェルギリウスが婚約破棄すること自体はベェルシードにとって何の問題もない、むしろそうなれば自分のモノにできるのではないかとすらと思う。
それでも、フランドール様の身に不利益が降り掛かるのなら…、危険が及ぶとするのなら話は別だ。もしくは、フランドール様がウェルギリウス殿下とのご結婚を心から望まれ、それが幸福だとおっしゃるのならば。
「どのような?」
「保守派と父上が新しい婚約者を寄越してきた。魔力が莫大で美しいと噂の平民だ。」
「そうですか。平民とは驚きですが、王も認めるほどの魔力ならば国も安泰ですね。」
そう言ってウェルギリウスに皮肉を投げれば、言葉の代わりに舌打ちが返ってくる。
話を聞けば、婚約者として選ばれたらしい平民が近く学園に入学してくるそう。昨日までは『成人の儀式に合わせた、二年後からの入学が好ましい』との意見があったのだが、『すぐにでも入学すべきだ』という強い意見に変わったそうだ。明後日には顔合わせが行われる。このままいけば、フランドールとの婚約が白紙になるかもしれない、と…。時間がない上に、今のウェルギリウスの力ではどうしようもない。
「どうなさるのですか?」
「身を預ける。」
ウェルギリウスは不服そうに言った。
そりゃそうだ、どうしようもないことなのだから。
「保守派も父上も慎重になるはずだ。何せ、現婚約相手は上級貴族であり外交に強いメディチ家の長男、ルルーシュ殿に限っては隣国王家のご子息だ。ただ破棄だというわけにはいかないだろう。」
「それにしては、どこか焦りと言うか…、急いでいるようにも感じられますね。」
ベェルシードの吐いた素朴な疑問にウェルギリウスはドクリと心臓が脈打つのを感じた。ここ最近の騒動と言い、それを見計らったように現れた莫大な魔力を持つ少年、動き出した保守派。見えないところで何かが蠢いている。
「一部の人間が、その平民を『神子』と呼んでいる。」
神子、神聖にも聞こえる言葉だが何か不穏な音を感じてベェルシードはウェルギリウスに向き直った。
「神子? それは、あの古文書などで描かれる世界を救うと言われる伝説の少年ですか?」
「そうだ…。少年は慈悲深く、その力を私利私欲ではなく人のために使うらしい。不治の病を治したり、重い呪いをいとも容易く解き、落とした腕をくっつけ元通りにしたという噂まで流れている。そんな中、おまけに最近、悪魂が確認された。著しい治安の悪化と魔獣の活性化が問題視されているのだ。」
「それは随分とタイミングが良いですね…。」
タイミングが良いばかりでない。あまりにも出来すぎた人間の存在など正直、疑わしい。噂が本当ならその力は、それこそ神にも等しいだろう。けれど、噂には尾鰭が付くものだ。
自分の婚約が悪いことの引き金になり得ると、ウェルギリウスは考えていた。フランドールだけではなく、この国の未来をも失うほどの恐ろしいことが目前に迫っているような気がしてならなかった。
一切を口外するなと口止めを受けた後、半ば追い出されるようにベェルシードは部屋をあとにする。ウェルギリウス殿下の『身を任せる』とは、つまり様子を見つつ探るということなのだろう。殿下は今、王すらも疑っている。以前の父上とは、まるで別人のようだと呟いていた。この国が危うくなっている。本当に何かが起きようとしている。
小さな不安や焦燥に、悪寒が背筋を走り、ベェルシードの胸をざわつかせた。
早朝の生徒会室では、会長と副会長が小さな会話を交わしていた。互いの距離には間隔があり、空気は強い威圧の魔力で重苦しい。座ることもなく、立ち尽くしたような二人は静かだ。
「知っていたのか、君は。」
「何がですか?」
「とぼけるのか?」
「…フランドール様の魔力のことですか。」
「そうだ。」
ベェルシードは一瞬、迷いを見せたがすぐに視線をウェルギリウスに戻すと、一呼吸置いて言葉を紡ぐ。
「フレンディ様もルルーシュ様も、魔力のことでフランドール様を案じていたのは事実です。お二人共、魔力が多いものですから想像していなかった事だったようで…。お二人の過保護は、フランドール様の魔力の少なさ故と言えます。」
「少ないとは感じていたが、魔力はあるのだろう? まさか仕置魔法で気を失うほどだなんて…、今どき平民でもあり得ない。医者や神殿の者には診せたのか?」
「何度も診せていますよ。お二人の子であることは確か。ならば呪いか病ではと手当たり次第診せましたが、それでもフランドール様の魔力が少ない理由は分かりませんでした。隠していたわけではありません。ただ、フランドール様の身を守るためには安易に公開すべきでは無かったのです。」
「……そうか。」
「結婚する気が失せましたか? であれば、いつでも私が…。」
「あ゛ぁ? 誰がお前などにやるものか。オレにとっては、むしろ幸運だ。己の権力と魔力に任せて、フランドールを手籠することだってできるのだから。」
「…卑怯ですね。」
「なんとでも言え、そうしてでも手に入れたいほどに……、本気なのだ。」
黙り込んだ後、威圧を消し、ウェルギリウスはソファに身を沈めた。それから深く溜め息を吐き、両腕を脱力させると天井を仰いだ。
「面倒なことになっている。」
その一言で大方、保守派が動いたのだろうとベェルシードは考える。フランドールの魔力について保守派が婚約破棄すべきだと騒ぎ立て、王がその意見に意思を傾けているとウェルギリウス自ら愚痴を溢していた。フランドールとウェルギリウスが婚約破棄すること自体はベェルシードにとって何の問題もない、むしろそうなれば自分のモノにできるのではないかとすらと思う。
それでも、フランドール様の身に不利益が降り掛かるのなら…、危険が及ぶとするのなら話は別だ。もしくは、フランドール様がウェルギリウス殿下とのご結婚を心から望まれ、それが幸福だとおっしゃるのならば。
「どのような?」
「保守派と父上が新しい婚約者を寄越してきた。魔力が莫大で美しいと噂の平民だ。」
「そうですか。平民とは驚きですが、王も認めるほどの魔力ならば国も安泰ですね。」
そう言ってウェルギリウスに皮肉を投げれば、言葉の代わりに舌打ちが返ってくる。
話を聞けば、婚約者として選ばれたらしい平民が近く学園に入学してくるそう。昨日までは『成人の儀式に合わせた、二年後からの入学が好ましい』との意見があったのだが、『すぐにでも入学すべきだ』という強い意見に変わったそうだ。明後日には顔合わせが行われる。このままいけば、フランドールとの婚約が白紙になるかもしれない、と…。時間がない上に、今のウェルギリウスの力ではどうしようもない。
「どうなさるのですか?」
「身を預ける。」
ウェルギリウスは不服そうに言った。
そりゃそうだ、どうしようもないことなのだから。
「保守派も父上も慎重になるはずだ。何せ、現婚約相手は上級貴族であり外交に強いメディチ家の長男、ルルーシュ殿に限っては隣国王家のご子息だ。ただ破棄だというわけにはいかないだろう。」
「それにしては、どこか焦りと言うか…、急いでいるようにも感じられますね。」
ベェルシードの吐いた素朴な疑問にウェルギリウスはドクリと心臓が脈打つのを感じた。ここ最近の騒動と言い、それを見計らったように現れた莫大な魔力を持つ少年、動き出した保守派。見えないところで何かが蠢いている。
「一部の人間が、その平民を『神子』と呼んでいる。」
神子、神聖にも聞こえる言葉だが何か不穏な音を感じてベェルシードはウェルギリウスに向き直った。
「神子? それは、あの古文書などで描かれる世界を救うと言われる伝説の少年ですか?」
「そうだ…。少年は慈悲深く、その力を私利私欲ではなく人のために使うらしい。不治の病を治したり、重い呪いをいとも容易く解き、落とした腕をくっつけ元通りにしたという噂まで流れている。そんな中、おまけに最近、悪魂が確認された。著しい治安の悪化と魔獣の活性化が問題視されているのだ。」
「それは随分とタイミングが良いですね…。」
タイミングが良いばかりでない。あまりにも出来すぎた人間の存在など正直、疑わしい。噂が本当ならその力は、それこそ神にも等しいだろう。けれど、噂には尾鰭が付くものだ。
自分の婚約が悪いことの引き金になり得ると、ウェルギリウスは考えていた。フランドールだけではなく、この国の未来をも失うほどの恐ろしいことが目前に迫っているような気がしてならなかった。
一切を口外するなと口止めを受けた後、半ば追い出されるようにベェルシードは部屋をあとにする。ウェルギリウス殿下の『身を任せる』とは、つまり様子を見つつ探るということなのだろう。殿下は今、王すらも疑っている。以前の父上とは、まるで別人のようだと呟いていた。この国が危うくなっている。本当に何かが起きようとしている。
小さな不安や焦燥に、悪寒が背筋を走り、ベェルシードの胸をざわつかせた。
70
お気に入りに追加
1,961
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる