【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

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男だらけの異世界転生〜学園編・第一部〜

生徒会入会お断り!

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 重厚な扉の威圧感…。

 俺は今、生徒会室の前に立っている。

 通常の授業がはじまり、魔法以外はそれなりにこなしていた。なんと言って断ろうかとウジウジ考えている間に、いつの間にか放課後になってしまった。
 
 うん、指定の時間の5分前。
 前世日本人の俺の身に染み込んだ5分前行動。 
 早すぎても遅すぎても困るので、5分前という時間は気遣いに満ちた素晴らしい文化だ。

 俺は久々に感じる緊張を押し殺し、ドアを3回ノックした。返事がない、まだ誰も来ていないのだろうか? 俺は恐る恐るドアを開け部屋の中に入った。

「失礼します~。」

 見渡すと部屋は広く、やはり誰も居ない。来客用のソファと会長、副会長、書紀、会計とそれぞれ役員名の書かれた席が設けられている。ちなみに生徒会長の席が一番豪華。うろうろ見ていると、ドアが開きゾロゾロと人が入ってくる。そこに俺は見知った顔見つけた。

「ベェル!」
「フランドール様、お久しぶりです。お早いですね。」

 実はベェルとは、あの夏以来会っていない。だから、とても久しぶりの再会だ! 俺はベェルの側に駆け寄り、手を取った、懐かしさで頬が緩む。以前よりまた大人になったベェルには色気が追加されている。くっ、美青年眩しい…。

「君、新入生? どこのクラスから来たの?」

 変声期を終えた青年の声、振り返ると、自分と同じくらいの背丈の人がいた。うお、綺麗な赤髪…。前髪を後ろに流した髪型のその人は優しく微笑を浮かべている。でも、なんか……怖い。

「あ、えっと、αクラスです。」
「ああ、フランドール・メディチくん?」
「はい、そうです。…何故、俺の名前を?」
「んー? だって珍しいじゃない、筆記と剣術だけで生徒会に選ばれる子なんて…。今年は人数は多いが優秀者が少なくて、選ばれたのはßクラスとαクラスから一人づつだけ。しかも君に限っては、魔力がよわ……むっ。」
「お前は何でも口に出しすぎだよ。少し黙った方がいい。」

 デリカシーのないことを口走ろうとする赤髪の青年の口を誰かが塞ぐ。ふんわりとした長い髪は桃色。俺より背が高いけれど色が白くて華奢で、まるで女性みたいだ…。今まで見た男の中で一番、もしかすると女性よりも綺麗なその人に俺は瞳を奪われた。その人が俺の側に近寄って来る。いい匂いがして、男だと分かっていてもドキドキしてしまう。

 こ、この世界にはこんなにも綺麗な男の人がいるのか……!
 この人なら…、俺……っ、俺っ。

「アレ…、レオンの言ったことは気にしなくて良い。僕はリリー、書紀を担っている。レオンは会計、ベェルは副会長だ。」
「会長は……。」
「ああ、会長は、このお方だ。」

 リリーが見ている方に振り向いて視線をやる。
 生徒会長の席にはいつの間にかウェルが鎮座していた。

「久しぶりだな、フランドール。」
「うぇ、ウェルギリウス…⁉ で、んかっ。」

 驚いて名前を呼ぶと、周囲の空気が一瞬張り詰めた。俺は慌てて『殿下』と取り付ける。二人きりの時は良いが、公の場では不敬罪だ。

「それでは、新入生を迎えた第一回目の生徒会会議を行う。」
「あっ! ま、待って下さい‼」

 今にも始まろうとしている生徒会会議を俺は一旦止める。
 今日の俺の目的は生徒会会議を行うことではない。

「どうしたの?」
「その…俺は、生徒会の入会を断りに来たのです。」

「…えっと、メディチくん、何、言ってるのかな?」

「選ばれた際、すぐに先生にはお話したのですが直接生徒会の皆さんにお話するようにと…。生徒会役員だなんて俺には務まりません。先程、レオン様が仰られた通り、俺は魔法が苦手で魔力も少ないです。性格だっていい加減で生徒代表だなんて立派な人間にはなれません。だから、どうか俺の席は俺ではなく、もっと優秀な誰かにお譲り下さい。」

 一息で早口にそう言った。
 俺は断固として、この意思を揺るがさないぞと強い眼差しで訴えた。
 
「ダメだ。その申し出は受け入れられない。」

 そう俺に言葉を放ったのはウェルだった。
 あのときと同じ、冷たい視線がこちらを射抜くほど真っ直ぐに見ている。
 どこかでウェルなら分かってくれる、と思っていた。

「な、何故……。」
「君に与えられた役目を、学園からの名誉を、責任を、放棄するつもりか?」
「そんなつもりでは…っ!」
「それとフランドール、君にはもう一つの役目がある。その為には担わなければならないことだ。言っている意味、分かるだろう?」

 もう一つの役目って、それは俺がウェルの婚約者だということだろうか…。
 だが、それは元々破棄する予定で…だから俺たちは親友になって…。
 ウェルは愛する人との結婚を、俺は荒波のない生活を望み、のんびり暮らす。
 そんな夢をふたりで何度も語り合った。
 でも、生徒会に入ったら俺の夢は崩れる。
 2年後には、この世界のヒロインが入学してきて最悪処刑エンド…。

「君が生徒会の役目を放棄することは許さない。」
「で、でも…っ! ウェルなら分かってくれるだろう? 俺の夢、知ってるよな? なぁ、ウェル……っ‼」

 俺はウェルの座る会長の机まで行き、ウェルの肩を掴んだ。
 けれど、ウェルの表情は変わらず冷たいまま。

「どうしちまったんだよ…、ウェル。俺、お前に何かした……? 
 なぁ、何だよ、その目はっ…。答えろよ、ウェルっ! 
 うぐぅっ…⁉」

 突然、頭に重いものが降ってきた。
 それからドクドクと痛みが広がり増していく。
 眼の前がチカチカして、何が起きたのか分からない。

「…あ、…あがっ……あだ、まぁ…っ。」
「フランドール様っ⁉」

 右頭部の血管が脈打っている。
 熱い、痛い、熱い。
 意識がぼんやりとして、遠のいて行く。
 立っていられなくなって、ふらふらと酔いながら、その場でドカリと床に崩れ落ちた。

「何をしてるっ! やりすぎだ‼」
「命に関わるほどではありませんよ、殿下。自分でどうにかできます。」
「そうですよ、皇太子殿下。今の行為、言動は貴方に対する不敬です。この程度で許されるのなら、彼は感謝すべきですよ。死罪でもおかしくない…。貴族社会の優劣を此処で学ぶべきです、彼も、殿下も。」
「ですがっ、フランドール様は体格こそ立派であれ他の貴族よりもずっと魔力が少ないのです! 魔力に対する免疫も少ない…。こんな魔法攻撃受けたら…、最悪、死んでしまうっ。」

 耳鳴りがする、音が聞こえない。
 ああ、痛い………。
 殴られた? 
 にしてもこんな、すげぇ…。
 治癒魔法ヒール、なんで効かないんだ…?
 おれ、の魔力じゃ、足りない…?
 ああ、ダメだ…。
 意識が持っていかれる。

「フラン、フラン…っ! すまないっ、今すぐ治癒魔法ヒールを施すから……っ。」
「ウェルギリウス様っ、とりあえずフランドール様をお部屋へ! 私は医師を呼んできます。魔力は大丈夫ですね?」
「あ、ああ、ありがとう、ベェル。このまま転移魔法テレポートする。魔力は大丈夫だと思うが心配だ…。」
「では、私の魔力を送っておきます。」
「頼む……。」

 フランドールはウェルギリウスによって、すぐさま部屋に運ばれ、魔力中和が行われた。ウェルギリウスはフランドールを抱きしめ、痛みに濡れた額の汗を拭った。頬を包み、涙を溜め何度も何度も謝り、名を呼んだ。フランドールの身体が、指先が、どんどん冷えはじめる。ウェルギリウスは震えながら魔力を流し続けた。

 こんなにも、恐ろしい思いをするのは初めてだ…、とウェルギリウスは思った。

 生徒会会議は一度、閉ざされ日を改めることになった。
 

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