【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

文字の大きさ
上 下
15 / 65
男だらけの異世界転生〜幼少期編〜

ウェルとアシュルと俺

しおりを挟む
 顔を真赤にした王子様が放った言葉は何とも子どもらしくて、可愛いものだった。俺はついニヤニヤとウェルギリウスを見る。

「へぇ? ウェル、寂しかったんだ?」
「う、うるさい…!」

 更に顔を赤らめ、ウェルは腕で顔を隠した。

「かわいいやつだなっ、ははっ。」
「フランに言われたくないっ。それを言うなら、君の……方が…。」
「ん?」
「な、なんでもない!」
 
 ウェルギリウスだって寂しい時があるよな。
 俺の数少ない友達、なんなら親友。
 これからも大事になくちゃだな。
 拗ねてしまったウェルの肩を叩き、ごめんな? と笑う。

 落ち着いたので二人でソファに座り、お茶といつものサンドイッチ、それからプリンを堪能する。ちなみに甘いものを好まない俺だがプリンは別だ。もうすぐ始まる学園生活や剣術、勉強の話で盛り上がっていると、不意に控えめなノック音が聞こえた。

 コンコン

「あれ、誰だろう…?」

 ウェルが来ている時は皆が気を使って誰も入ってこない。だから思い当たる人物がおらず、俺は首を傾げた。ウェルも不思議そうな顔をしている。「どうぞ。」と言って入る許可を出すと、白くて小さな手が覗いた。

「兄上…。」
「アシュル!」

 可愛い弟の登場に俺は満面の笑みで、おいで!と両手を広げた。まぁ、アシュルが抱きついてくることは無いのだけど…。そう思って広げた両手を閉じようとしたとき、アシュルがこちらに向かって走ってきた。

 そして、そのまま俺の腕の中に飛び込んだ。

「う、うそだろ…?」
 
 柔らかで、お日様みたいな幼い香りが鼻腔を満たす。
 自分より少し小さな身体のぬくもりが暖かく、くっついた。

「に、にいさん。」
「あ、ああ、あ、あしゅるぅ…?」
「あとどれほど待てば良いですか……? お勉強のときより、剣術の練習のときより、うんと長い…。」

 俺に抱きつきながら、アシュルがうるうるとした上目遣いで見つめてくる。服に顔を埋め、ぐりんぐりんと頭を振る。服を掴む手がギュッと強くなった。

「て、天使か?」

 不意打ちは、ダメだろ。
 お兄ちゃん、尊死してしまうよ。
 アシュルの可愛さに完敗だ。

「遊んでやれなくて、ごめんなぁ。ウェルが来てる日はアシュルも俺の部屋に来て良いんだぞ。」
「えっ!? フラン?!」
「紹介するよ。ウェル、この可愛い天使はアシュル。俺の弟だ。」
「弟!? フランに弟なんていなかっただろ!?」
「色々ワケがあるのだが、俺の可愛い弟であることには変わりない。かわいがってやってよ。よろしくな?」
「わ、分かった…。」
 
 驚きつつも現状を受け入れるウェルギリウス。彼はアシュルに向き直り、視線を合わせる。そして、握手を求めるように手をさし出した。

「オレの名はウェルギリウス。君の兄のだ。これから長い付き合いになるだろう。よろしく、アシュル。」

 何か、妙なことを言っているような気もするが、俺の気のせいだろう。だって何も間違ったことは言っていない。あの日、お互い交わした婚約破棄の夢と約束をウェルが忘れたわけじゃないはず。今はベェルのことで過敏になっているんだ、うん、きっとそう。

 手を差し出すウェルギリウスへ握手を返さず、アシュルはソッポを向いてしまう。

「あ、あしゅる? 恥ずかしいのか? あ、なんだ、もしかして嫉妬か? お兄ちゃんを取られたと思っているんだな! 全くかわいいヤツめ!」

 ウェルの前から逃げアシュルが俺の背後に隠れた。俺はアシュルをぎゅううと抱きしめ、デレデレする。けれど、ここで甘やかしてはイケない。悪役のフランドールのようになってしまえば大変だ。なに、けして叱るわけじゃない。

「アシュル、俺の大切な婚約者様は、実は王子様なんだ。カッコいいだろう? これからもウェルはたくさんこの屋敷に来る。だから、オトモダチになって仲良くしてやってくれないか? アシュルがウェルと仲良しだと俺も嬉しい。」

「ふ、フラン…っ! 俺を大切なこんやくっ……。」
「良いでしょう、ウェルギリウス殿。これからよろしくお願いします。」

 アシュルは俺のもとから離れ、スタスタと歩き、手を差し出した。
 俺の弟は、なんて素直で良い子なんだ!

 
「あ、ああ、よろしく。痛っ…!」

 握手をしたウェルが突然、声を上げた。
 同時にバチン!という大きな音も聞こえた。

「どうした? 大丈夫か、ウェル?」
「きっと、静電気でしょう。僕も少し痛かった。」

 心配してウェルに声をかけると、すかさずアシュルが答える。

「へっ!? 大丈夫か、アシュル!」
「僕は大丈夫です。でも、ちょっと、痛いかも…。」
「ああ、可哀想に! ほら、見せて治癒魔法ヒールを掛けてあげる。」
「フラン! オレ、オレも! でも、今、あしゅっ!」
「静電気…、ですよ。ね、ウェルギリウス殿。」
「ぁ、ああ。」

 この部屋、乾燥してるのかな。
 もう、春だというのに。 
 アシュルにプリンを食べさせ、今日のお茶会も和やかに終わった。
 少し席を外していたら、いつの間にかウェルとアシュルが二人で仲良く話し込んでいて、俺もちょっと、さみしさを感じた。 



  



▼sideウェルギリウス


「兄上の婚約者だそうですね。」

 フランが席を外すと、アシュルが話しかけてきた。先程とは、うって変わって冷たい声。つまらなそうにゲームの駒を進めながら、こちらを見ようとはしない。

「そうだが?」
「兄上はウェルギリウス殿とご結婚なさる気はありませんよ。前々から『結婚する気はない。』と言っていますから。」
「なんだ、それをオレに言ってどうする?」
「別に、ただの牽制ですよ。」  

 静かな会話の中、コツンコツンとゲームボードの上の駒が音をならす。アシュルが進ませ、オレが進ませ、会話をしながら進めていく。

「牽制? どういう意味だ。」
「兄上…、フランドールは僕のモノです。あの人の全ては僕が頂きます。」
「はっ、お前は何を言ってる? お前たちは兄弟だろう? それにフランの婚約者はこのオレだ。オレは、この国の第一皇太子だぞ? 婚約破棄などさせないさ。どんな手を使ってでもフランを妻にするつもりだ。」
「僕らは兄弟じゃない。血が繋がっていないんですよ。それに血縁かどうかは問題ではないです。」
「……へぇ。」

 駒を持とうと、手を伸ばして止める。いつの間にか、アシュルの駒がオレの陣地に入り込みオレのキングが奪われている。気がつけば、この少年に負けていたのだ。

「楽しそうだな、ふたりとも~。」

 凛とした声が響き、オレは慌てて動揺を繕った。
 目の前のアシュルは、すでに幼い雰囲気を出しており、さっきまで話していた人物が別人のように思えた。
 
 したたかで、頭の切れるやつだ。
 コイツは警戒しておいたほうが良い。

 握手したとき、痛みを覚えた。
 あれは完全にアシュルから放たれた雷魔法サンダー
 完全なる威嚇。
 いや、アシュル曰く牽制。
 鋭い目つき、そして莫大な魔力。
 フランは気が付いていないのだろうか?
 アシュルは魔力が異常に多い……、それも一つ下の年齢であるのに王族であるオレと同じくらい。
 一体、どこが天使なんだ…。











 一部、誤字がありました、指摘ありがとうございます。修正いたしましたので、よろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

処理中です...