【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

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男だらけの異世界転生〜学園編・第二部〜

成人の儀と婚約発表

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 ついにこの日がやってきた。
 今日は成人の義。
 正装に身を包んだ俺達は、背筋が伸びるのを感じていた。
 今日までみっちり叩き込まれた動きをぎこちなく辿り、ずらりと成立した俺たちは王の祝福の言葉を受けた。

 王の開催する成人の儀に参加できるのは、学園に通う成人を迎える者と第二部生の限られた貴族だけ。第一部生や貴族の直系でない者は参加できない。よって、成人の義には、父上、母上、ベェルやアシュルもいない。皆、酷く残念がってくれていた。俺も両親や皆に晴れ姿を見せられないのは、何だか残念に思う。

「フランドール様っ!」

 柔らかで可愛らしい少年の声に振り返ると、フリルの装飾の美しい真っ白な正装に身を包んだリアゼルがいた。リアゼルの髪に合わせたのか、明るいブラウンが服の縁を彩っている。首元に飾られたリボンはウェルの髪色に似た黄金。派手では無いが目を引く、まるでウェディングドレスのようだ。

「リアゼル、良い衣装だな。とても似合っている。」
 
 素直な気持ちで、そう告げるとリアゼルは少女のように頬を染めた。
 照れているのだろうか、うん、可愛い。

「……っ、嬉しい。フランドール様も漆黒のご衣装、ご自身の黒髪にすごく似合っていらっしゃいます。とても…っ、とても、お美しいです!」
「ははっ、お美しいだなんて、俺には似合わない言葉じゃないか? でも、案外嬉しいものだな。ありがとう。」

 にっこりと歯を出して笑う。
 手をぎゅっと握りしめ、俺を褒めるリアゼルが必死で子犬みたい。
 途端に小さな悲鳴が上がった。
 どうしたのかと辺りを見渡すと数人が倒れ、扇で扇がれている。

「なんて、笑顔なのっ、僕、死んじゃう。」
「羨ましい、あの平民めっ。」
「不思議そうなお顔も素敵っ!」
「フランドール様ぁっ!」

 話し声が小さくて、よく聞こえない。
 数人が俺に向かって手を振っている。 
 違和感を感じながらも何となく微笑んで振り返してみる。

「きゃあっ、ぼくにっ、ぼくに返してくれたっ!」
「何言ってるんだ、この私に決まっているだろう!」
「いいや、絶対に僕だね!」

 何かを叫びながら青年たちが取っ組み合いの喧嘩を始めた。
 えっ? 何? どういうこと?
 怖い怖いっ。

「君たち、喧嘩はよせっ……、ん? おい、リアゼル。」

 ふと、首元のリボンが解けていることに気がついて、俺は手を伸ばした。

「んっ、フランドール様…?」

 リアゼルは不思議そうにこちらを見ながら、俺の行動を受け入れる。いつの間にか喧嘩の声も消え、辺りは少し静かになった。結び直したリボンの端をクッと引っ張り、整える。うん、我ながら上手く結べた。

「ふっ、綺麗だ。」

 そう言って、つい癖でリアゼルの頭を撫でる。
 すると、途端にリアゼルの身が一歩、ぐいっと後退した。
 リアゼルは、首根っこを掴まれた猫ような格好になった。

「おい、気安く触るな。」

 低く、苛立ちを含んだ声。
 青年の声は、こんなにも低かっただろうか。
 
「…ウェル。悪い、君の恋人に触れるつもりじゃなくて、、。」
「……ちっ、行くぞ、リア。」
「わ、あっ、ウェル様っ。ふ、フランドール様、ではまたっ!」

 明らかに不機嫌な様子のウェルは、リアゼルの腰を抱いて、早歩きで去っていった。

「俺に嫉妬するほど、好きなのか…。」
「逆だと思うケド?」

 突然背後から現れた男に俺は、ワッと声を上げた。

「キルトか、驚かせるな。」
「全く、鈍感男には呆れちゃうね。」
「なっ、人と話をしていたからだっ。いつもならすぐ気が付く!」
「ハハッ、やっぱり鈍感じゃーん。」

 俺を馬鹿にするキルト。
 うるせー、剣術で俺に勝てたことないくせにっ!
 俺がムスッとした表情を浮かべているとキルトは、まぁまぁと言いながらグラスを手渡してきた。

「成人したんだよ、僕たち。」

 眼前にあるのはただのグラスではない。細長く背の高い、シャンパングラス。飴色の水の中をシュワシュワとした気泡が登っていく。それを見て、俺のノドがコクリと鳴った。

 この世界に転生してから筋トレと同時に切望していた飲み物。
 筋トレの次に大好きな、その名も「酒」!
 飲みたかった、ずっと…!
 自慢じゃないが前世の俺はかなりの酒豪だった。
 どんなに飲んでも記憶を失うことなんてなかったし、酔って立てなくなるなんてこともほとんどなかった。
 俺は、酒が好きだ!

 いや、でも、これから婚約発表が…。
 だが……、だが…っ。
 成人を迎えた今、酒が俺を呼んでいるっ!

「いい、のか?」
「もちろん…、さあ、どうぞ。」

 俺を見上げ、俺の口元の位置までキルトがシャンパングラスを持ち上げてくる。
 上等な酒の品のある香りが鼻腔をかすめる。
 一杯ぐらいなら、いいよな?
 俺は、ついにキルトからシャンパングラスを受け取った。

「成人おめでとう、フランドールくん。」
「成人おめでとう、キルト。」

 グラス同士をぶつけると、チリーン、と風鈴のような音が響いた。
 それはそれは、心地のいいサウンド。





 それから、3杯ほどシャンパンを飲んだ。
 うまい!うまい!うまい!
 シャンパンボトルを一本開けるくらい、俺にはどうってことない!
 前だって、2、3本はよゆうだったしな~。

「フランドールくん、大丈夫? 耳、真っ赤だよ? そろそろやめにした方がいいんじゃない。」
「はぁ? 馬鹿にしてんのかぁ、キルト!」
「してないよっ、あ、痛たた、フランドールくんっ、力加減!力加減!」
「まだ、3杯だぞ? もっとのめる、キルトはもう降参かー?」
「ああ、降参だ、降参。ほら、僕、呼ばれちゃったから行かなくちゃ。フランドールくん、お酒はほどほどにして、ね? 飲ませ始めちゃった僕が悪いんだけど…。」
「いい、行ってこい。俺はひとりでのむ。」

 ひらひらと適当に手を振って、キルトを行かせる。
 さり際、歩きながらもキルトがうるさく小言を言う。

「本当にもう飲んじゃだめだよ!」
「は~い。」
「誰かに渡されたお酒は、絶対に飲んだらダメだからね!」
「え~、きるとが最初にくれたんじゃん。」
「つべこべ言わない! ダメったらダメだからねっ!」
「ふふっ、はーい。」

 キルトは、何度も振り返り心配そうに俺を見ていた。
 まるで、送り迎えをするお母さんみたいだ。
 その様子が面白くて、しばらくクスクスと眺めていたが、そのうち広い会場と人の波に呑まれて見えなくなった。

 いま、何時だろう?
 そろそろ婚約発表の時間か?
 ぼんやりそんな事を考えていると、誰かがこちらに歩いてきた。

「君、フランドール・メディチくんだよね?」
「?はい。」
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