【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

文字の大きさ
上 下
11 / 65
男だらけの異世界転生〜幼少期編〜

恋を知りたい

しおりを挟む
side ウェルギリウス
 
 はじめてだった。
 第一皇太子である自分に歯向かうものなど。

 フランドール・メディチ。両親共に優秀な人間で人望も厚い。そんな彼らのたった一つの欠点は魔力の少ないワガママ息子。良いのは家柄と整った顔に珍しい黒髪だけ。それ以外は頭が悪くて運動もできない、ワガママで派手好きでしつこくて横暴。オレはこいつが嫌いだと心の底から見下し、嫌悪していた。

 そんな馬鹿は、第一皇太子である自分の婚約者となり更に調子に乗りはじめた。オレを好きだと言って媚を売りすりよってくるのが鬱陶しくて…、いつか婚約破棄をしてやろうと本気で思っていた。

 見下していたそんな奴に「正妻にしてくれなくて結構。」などと言われ頭にきた。
 しかし父上を引き合いに出され、何も言い返せずに握りしめた拳に下手くそな治癒魔法ヒールとオマジナイとやらを掛けられた。
 恥ずかしかった、負けたと思った。
 同じ年頃の相手に口論で負けたことなどなかった。
 しかも、あんな馬鹿に。

 何度も言うが、髪と顔が自慢で派手好きでワガママで…、印象は最悪。婚約者だということを周囲にひけらかし、オレに付き纏う。そんなイメージしか無い。フランドールとは、こんな男だっただろうか? と不思議に思った。ずっと本性を隠していたのかもしれない。もし、そうだとすれば、してやられた。敗北を認めざる負えない。

 『好きな人と結婚したい。』と言いながら笑うフランドールの顔が忘れられない。短くなった髪も落ち着いた服装も以前よりずっと似合っていた。下手くそな魔法と共に掛けられたオマジナイは優しくて、どこかホッとした。

 自由、そんなものないと思っていた。だけれど、フランドールの言う自由には少し希望を感じた。

 もう一度会いたい、会話をしたい。
 そんな気持ちになって、はじめて自分から人をお茶会に誘った。
 どこかソワソワとしながら、そんな感情を隠したくて平然を装う。ソファーに腰掛けフランドールの到着を待ちながら、王家に長年仕え続けている老夫スミスに問いかける。

「なあ、スミス。」
「はい、ウェルギリウス様。」
「恋とは…、どんなものだ。」
「恋…、でございますか?」

 スミスは、あの日のお茶会でも側にいた。婚約破棄騒動を子供の戯れだとでも思っていたのだろう。口も挟まず気配を消し、ひっそりと見守るように傍観していた。だから一部始終、知っている。スミスはオレの問いにヒゲを撫でながら、ゆったりと答えはじめた。

「そうですね…。まぁ、はじめは相手のことが気になって忘れられなくなります。朝起きた時、ふとした瞬間、ベッドに入った時、思い出してしまう。笑った顔なんかが思い浮かんで、その人が口にした言葉が柔らかく胸を撫でるのです。」
「気になって…、思い出してしまう?」
「そうです。恋はとても楽しく幸福です。しかし……、そのうちに、だんだんと苦しくなります。」
「苦しくなる? 幸福なのに何故だ?」
「ウェルギリウス様が恋をすれば、きっと分かる日が来ますよ。」

 それ以上をスミスは教えてくれなかった。
 けれど、スミスの言葉が頭に残る。
 それと同時にフランドールとのお茶会を何度も思い出した。
 王子様、と呼ぶ声が耳に残って消えなかった。




 
「ウェル! 来てくれたのか!」
 
 背の高い少年がオレの方に笑顔で走り寄ってくる。
 その姿にオレの頬も思わず緩んでしまう。

「ああ、婚約者に会うのも王子の役目だからな。」
「ははっ、何いってんだよ。早く屋敷に入って、お茶を淹れてもらおう。ベェルもきっと待ってる。」

 オレがさり気なく腰に腕を回しても、フランは笑うだけ。
 特に気にした様子もない。
 それどころか、従者のもとに戻っていく。

 あの日、婚約破棄できるようにお互い頑張ろう、だなんてことを言った気もするが婚約破棄をする気など更々ない。出会った頃とは随分違うフランに…正直、夢中だ。まぁ、オレとフランの関係は悪くない。雑な敬語も外れ、一人称は「俺」になった。おまけに愛称で呼びあっているのだから、むしろ良好、なんの心配もない。

 このまま結婚してしまえば、フランは完全にオレのもの。
 フランがオレに恋をするのは、結婚してからでも遅くない。
 なんなら婚約しているのだから、すでにオレのものだ。

 従者との距離が近いのは…、少し気になるが大丈夫だろう。
 オレは第一皇太子、いざとなれば、ね…?

「ああ、そういえばね、ウェル。」
「なんだ? フラン。」

 ハムサンドを食べながらベェルシードの淹れたお茶を飲み、フランが思い出したかのようにこちらを向く。ニコニコと可愛らしい笑顔にオレも綻ぶ。ツリ目がちな瞳が愛しい。あの日、嫌いだと言ったのは、とうに撤回している。

「俺、父上にお願いして、剣術の先生を付けてもらえることになったんだ!」
「…は? 剣術の先生だと?」
「おう! いっつも王子様に教えてもらってばかりじゃ悪いからな。」

 剣術の先生…?
 ただでなくても最近、フランもオレも勉強で忙しかったりで会えていないのに、そんなものを付けたら、更に会う時間が無くなるじゃないか!

「オレがいるから、教師などいらないだろう?」

 それに、オレの教えたものをフランがそのまま受け継ぐと嬉しい。

「俺、ウェルより強くなりたいんだ。そんで、ウェルに何かあったら守ってやる! そのうち気づいたら強くなってるはずだ、待ってろよぉ?」

 そんなふうに拳を握りながら宣言するフラン。オレは、そんな彼の短い黒髪に手を伸ばした。さらさらとした髪を撫でる。フランは、そんなオレの手をそっと掴み、何だよ?と笑う。掴まれたままの腕を今度は目尻に移し、撫でる。柔らかそうな唇を眺めながら、言葉を紡いだ。

「君に守られるつもりはない。オレが…、オレがフランを守りたい。だから、強くなる必要なんてない。」
「ふっ、なんだよそれ。でも、ありがとな?」

「フラン…、オレ……。」

「お互い守り合おうぜ! 俺たちだもんな!」

 いつもの大好きな笑顔で、凍えるほど冷たい言葉が吐かれた。
 いつかのスミスの「恋は幸福だが苦しい。」という言葉を思い出す。
 
 親友……、そうか。
 フランにとって、オレたちはただの親友。
 婚約者ですら、ない。

「……フランの気持ち、オレ絶対変えてみせる。」
「え……っ、そんなに? 変わんないと思うけどなぁ。」

 いいや。
 変えてみせるよ、フラン。
 

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...