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50話 最終話
しおりを挟む次の日、体調が良くなり落ち着いた銀二郎はバイト先、そして悟と悠馬に会いにいった。
「︙心配かけてごめんなさい。」
深々と頭を下げる銀二郎に悟が慌てて首を振った。
「元はと言えば俺の紹介したところが悪かったせいだし。まさか、あの人が俺の店に入り浸っているとは思わなかったんだ︙本当、ごめん。」
しょんぼりと項垂れる悟の頭に悠馬がポンっと手を置いた。
「あの男のことは、コイツが手を回してくれたらしいから心配すんな。ギンジがちゃんと戻ってきて良かった。おかえり。」
じわじわと涙が溢れてくる。また泣き虫がはじまったと悠馬が笑い、悟が涙を拭おうと手を伸ばした。が、銀二郎の身体が後ろに引っ張られ後退した。
「気安く触んな。」
ずっと黙っていた蓮が銀二郎の腰を取りギッと悠馬を睨んだ。手に入れた途端に独占欲丸出しかよ、とため息交じりに悟が言った。
「なんだ、上手くいったみたいだね。残念。」
「︙うん。」
残念と言いつつ微笑む悟に銀二郎は照れくさそうに肯定した。
「まぁ、もし蓮に飽きたら俺にしなよ。」
「ふざけたこというなよ、悟。銀二郎が俺に飽きるわけないだろ。」
「はっ! どうだか~?」
悟の挑発に蓮がイライラする。それをまた更におちょくって、しまいに頬の抓り合う。まるで小学生のような喧嘩がはじまった。あのときもお前は!お前だってと口喧嘩もはじまる。悠馬は呆れて、帰りたそうだ。
「あ、これって兄弟喧嘩だ︙。」
「兄弟喧嘩?」
「うん。蓮くんと悟くんは腹違いの兄弟なんだって。」
「へぇ、腹違いの兄弟︙、きょ、兄弟⁉ はぁ⁉」
「もしかして悠馬くん聞いてなかったの?」
「ヤクザだってのは、知っちまったけど︙。」
まさか兄弟だったとは。いや、思い返せば似ている気がする。悠馬はひとり納得して、うんうんと頷いた。それから、後処理があると言って悟は帰っていった。その際、悠馬も一緒にということだったので、そのまま解散した。
▽
あれから一年、今日は銀二郎の誕生日だ。引き払われてしまい家の無くなった銀二郎だったが、気がつけば蓮と同棲状態になっていた。カフェのバイトもまた戻れて、幸い大学も休学にしていたので元通り通えている。大変なことと言えば、少々蓮が心配性なくらいで、それだって幸せといえば幸せだ。
「おかえり、ダーリン。」
授業を終えてマンションに帰ると、すでに蓮が準備をはじめていた。食べきれないのではないかというくらいのご馳走がおしゃれなテーブルに並べられている。今日はお酒を飲んで良いとの許しが出たので銀二郎はご機嫌だ。導かれるままソファに座る、その横に蓮もふわりと座った。金髪がサラリと揺れる、美しい顔が優しく微笑んだ。
「無くしたって落ち込んでただろ?」
渡されたのは箱を抱きかかえる黒うさぎの飾り。あの日、海に投げ捨てられた黒うさぎをもう一度探しに行ったが、やっぱり見つからなかった。蓮はまたガチャを回しに行けばいいだろう、と言うがあれじゃなきゃ意味がないと言って銀二郎はしばらく落ち込んでいたのだ。
「あれは見つからなかったけど、俺から銀二郎にプレゼント。」
「かわいい︙。ありがとう!」
「礼を言うのは、まだ早い。箱、開けてみろ。」
そう言われて、黒うさぎの持っている箱をそっと開けた。中には、シンプルなデザインのリングが2つ入っていた。大きいものとそれより少し小さいもの。
「内側に俺と銀二郎のイニシャルを彫って貰った。」
部屋のライトが反射して銀のリングに反射する。
「誕生日おめでとう、銀二郎。
ずっと、一緒にいて欲しい。受け取ってくれますか?」
蓮は膝を付き、銀二郎の左手を取る。
銀二郎はコクコクと頷き、笑って返した。
「︙うん、うんっ。」
銀二郎の答えに、蓮が頬を綻ばせた。
大きい方のリングを箱から抜き取り、薬指にそっと嵌めた。
サイズはピッタリ。
「はぁ︙、緊張したぁぁ。」
ソファに溶けるみたいにもたれ掛かって、蓮は安心した顔をした。それからガバっと勢いよく起き上がると、ずいっと自分の左手を銀二郎に差し出す。
「夫夫になるんだ、俺にも指輪嵌めてよ。」
呆気にとられながらも、銀二郎は箱からもう一つのリングを取り出し蓮の左手の薬指に嵌めた。蓮はご満悦といった様子で眺めて、リングにキスを落とした。
「愛してるよ。」
「︙、僕も、愛してる。」
銀二郎もぎこちなく自分のリングにキスをした。
幸せすぎて死んじゃいそうだ︙。
次の日、パートナーシップ制度を利用して蓮と銀二郎は家族になった。
これからもきっと多くの困難がある。
それでも二人なら乗り越えられると思うんだ。
喧嘩したり、笑ったりそんな時間が幸せなんだ。
長い道のりで色々あったけど、僕がこの王子様を射止めたんだと思うとなんだか不思議な感じがする。
「おはよ、銀二郎。」
「おはよう、蓮くん。」
毎朝、顔を見る度に、この人を好きになって良かったと思える。
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