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45話 結び
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ソファのクッションと毛布に埋もれる銀二郎を蓮は眺めていた。
「銀二郎、俺の恋人になって。」
気がつけば耐えきれなくなって、そう口に出してしまっていた。
本当は、もっとちゃんと言いたかったけど︙。
「どうしたの? 何か、あった?」
具合悪いのは自分の方なのに、銀二郎は心配そうに問う。彼が、そんなことを言うわけがない。さっきの「好き」という言葉だって幻聴じゃなかったとしてもおかしい。ぼんやりとする頭の中でもはっきりとする答え。
蓮としては、今すぐにでもこの青年を組み敷きたい気持ちを理性で必死に抑えている。浴衣のはだけた襟から覗いていた首筋の噛み跡や胸元の鬱血痕、着替えさせるために脱がせた身体には胸元や腿の内側にまで痕が残されていた。腹が煮えたぎる感覚がして、全部、何もかもを自分で上書きしたくて、塗り替えたくて︙。こんなにも激しい感情が自分にあったことに驚く。
あの時、うっすらと腫れた頬に気がついて、怒りと同時にどうしようもなく泣きそうになった。銀二郎にこんなことをした男を殴りたくなった。それでも、その男を殴るよりも先に銀二郎を抱きしめる方が先だと思って、迷わず海に入った。
こちらの気持ちを何もわかっていない銀二郎に蓮は内心苦笑する。他人からの好意に鈍感すぎる、そういうところが危ないってのに。
「銀二郎、これ受けとって欲しい。」
いつの日か、渡しそびれた鍵を大きな手に握らせる。
「海に入っていくお前見て︙、すげぇ、怖かった。」
怖かった。
死んでしまうんじゃないかって。
自分の前から消えてしまうんじゃないかって。
やっと、この気持に気がついたのに。
「銀二郎を、失うことが、怖かった。」
蓮の頬を生ぬるい涙が伝った。
もう何年も泣いていなかったのに、泣き方なんて忘れたと思っていたのに。
「好きだ、好きだよ銀二郎。」
みっともないとわかっていても、溢れ出した涙は止まらない。
どうやって泣き止めばいいのか、わからない。
「もう、どこにもいかないで︙。ずっといっしょにいて。」
伝えたいことはたくさんあるはずなのに、あふれる言葉は子どもみたいだ。
そんなことを思っていると身体がぐっと引き寄せらる。それは思いのほか力強く、蓮は銀二郎の上にのしかかった。大きな腕と柔らかい筋肉に包まれる、温かなぬくもりに心が落ち着く。そして大きな手が蓮の頭をヨシヨシと撫でた。
「蓮くんが助けに来てくれたから、僕はここにいる。
蓮くんのおかげなんだ、ありがとう。
来てくれて嬉しかった。」
ふわふわとした低くて心地の良い声。
大の男が、こんなの恥ずかしいと分かっていても、今はこの腕の中から離れたくない。
「銀二郎、俺の恋人になってくれる?」
少し上目使いで蓮は甘えるように言った。
そんな態度に思わず頷きそうになるのを銀二郎は慌てて落ち着かせた。もしかしたら彼は混乱しているのかもしれない、なんてあれこれ頭の中で考える。ここまで来て、蓮の言葉を信じていないわけじゃない。︙ただ、怖いのだ。もし、やっぱり違ったと言われたら? 飽きたと言われたら? 別れようって言われたら? もう二度と立ち直れない。それなら、何人もの中の一人である方がいい。人間は貪欲だ、一回でも手に入れてしまえば際限なく溺れていく。
ただ、自分が怯えているだけ。
それだけで、この手を振り払って本当に良いのか?
そんなの、
きっと、いつか必ず後悔する。
答えあぐねている銀二郎の手を蓮がギュッと握った。自分の手の中に収まる鍵の存在をより一層感じる。嬉しくないわけがない。
顔を上げた不安げな蓮の顔には、まだ涙が残っている。
自分のために泣いてくれる人。
助けに来てくれた、探してくれた人。
思い返せばこの前も彼は自分を守ってくれた。
信じても良いのだろうか︙。
否、信じたい。
銀二郎は、恐る恐る蓮に顔を近づける。
そして、ふわりと柔らかな唇にそっと口吻た。
「銀二郎、俺の恋人になって。」
気がつけば耐えきれなくなって、そう口に出してしまっていた。
本当は、もっとちゃんと言いたかったけど︙。
「どうしたの? 何か、あった?」
具合悪いのは自分の方なのに、銀二郎は心配そうに問う。彼が、そんなことを言うわけがない。さっきの「好き」という言葉だって幻聴じゃなかったとしてもおかしい。ぼんやりとする頭の中でもはっきりとする答え。
蓮としては、今すぐにでもこの青年を組み敷きたい気持ちを理性で必死に抑えている。浴衣のはだけた襟から覗いていた首筋の噛み跡や胸元の鬱血痕、着替えさせるために脱がせた身体には胸元や腿の内側にまで痕が残されていた。腹が煮えたぎる感覚がして、全部、何もかもを自分で上書きしたくて、塗り替えたくて︙。こんなにも激しい感情が自分にあったことに驚く。
あの時、うっすらと腫れた頬に気がついて、怒りと同時にどうしようもなく泣きそうになった。銀二郎にこんなことをした男を殴りたくなった。それでも、その男を殴るよりも先に銀二郎を抱きしめる方が先だと思って、迷わず海に入った。
こちらの気持ちを何もわかっていない銀二郎に蓮は内心苦笑する。他人からの好意に鈍感すぎる、そういうところが危ないってのに。
「銀二郎、これ受けとって欲しい。」
いつの日か、渡しそびれた鍵を大きな手に握らせる。
「海に入っていくお前見て︙、すげぇ、怖かった。」
怖かった。
死んでしまうんじゃないかって。
自分の前から消えてしまうんじゃないかって。
やっと、この気持に気がついたのに。
「銀二郎を、失うことが、怖かった。」
蓮の頬を生ぬるい涙が伝った。
もう何年も泣いていなかったのに、泣き方なんて忘れたと思っていたのに。
「好きだ、好きだよ銀二郎。」
みっともないとわかっていても、溢れ出した涙は止まらない。
どうやって泣き止めばいいのか、わからない。
「もう、どこにもいかないで︙。ずっといっしょにいて。」
伝えたいことはたくさんあるはずなのに、あふれる言葉は子どもみたいだ。
そんなことを思っていると身体がぐっと引き寄せらる。それは思いのほか力強く、蓮は銀二郎の上にのしかかった。大きな腕と柔らかい筋肉に包まれる、温かなぬくもりに心が落ち着く。そして大きな手が蓮の頭をヨシヨシと撫でた。
「蓮くんが助けに来てくれたから、僕はここにいる。
蓮くんのおかげなんだ、ありがとう。
来てくれて嬉しかった。」
ふわふわとした低くて心地の良い声。
大の男が、こんなの恥ずかしいと分かっていても、今はこの腕の中から離れたくない。
「銀二郎、俺の恋人になってくれる?」
少し上目使いで蓮は甘えるように言った。
そんな態度に思わず頷きそうになるのを銀二郎は慌てて落ち着かせた。もしかしたら彼は混乱しているのかもしれない、なんてあれこれ頭の中で考える。ここまで来て、蓮の言葉を信じていないわけじゃない。︙ただ、怖いのだ。もし、やっぱり違ったと言われたら? 飽きたと言われたら? 別れようって言われたら? もう二度と立ち直れない。それなら、何人もの中の一人である方がいい。人間は貪欲だ、一回でも手に入れてしまえば際限なく溺れていく。
ただ、自分が怯えているだけ。
それだけで、この手を振り払って本当に良いのか?
そんなの、
きっと、いつか必ず後悔する。
答えあぐねている銀二郎の手を蓮がギュッと握った。自分の手の中に収まる鍵の存在をより一層感じる。嬉しくないわけがない。
顔を上げた不安げな蓮の顔には、まだ涙が残っている。
自分のために泣いてくれる人。
助けに来てくれた、探してくれた人。
思い返せばこの前も彼は自分を守ってくれた。
信じても良いのだろうか︙。
否、信じたい。
銀二郎は、恐る恐る蓮に顔を近づける。
そして、ふわりと柔らかな唇にそっと口吻た。
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