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39話 捜索
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薄暗い開店前の店内、春樹は鬼の形相をした大男に胸ぐらを掴まれ震えていた。突然、店の大本、荻野財閥の息子、実質オーナーである荻野悟が来たかと思えば、その後ろにはまるでブッラクな世界の人間のような大男と子分のような金髪男。自分が何かをしでかしたのだと、瞬時に分かった、そして今日が命日なのだと悟った。
すると案の定、店に入って数週間で辞めてしまったバイトの銀二郎について聞かれ、春樹はどうにか罰を軽くして欲しい一心で洗い浚話した。事前に悟にダメだと言われていたバニーとしての接客やバイトであるのにVIP席につかせたこと︙、全てを話し終える前に、ずっと黙っていた大男に胸ぐらを掴まれた。近くで見ると、思っていたより若い、なんてどうでもいいことに意識を飛ばす。今にも殴りそうな勢いの大男を悟が止めた。
「ごめん。ちゃんとした店を選ばなかった。ごめん、俺が悪い。」
悠馬は掴んでいた手を離し、一度深呼吸をする。
「いや、働くって決めたのはギンジだ、お前のせいじゃない。そもそも店だって悪くない、働いてる人は誠意を持って働いてる、悪いのは店を受け持つ店長だ。上に立つ人間がこんなんでいいのかよ? ああ? 売上に目が眩んだか? 従業員守るのもアンタの仕事だろうが!」
まくし立てるように悠馬が言う。春樹はもっともな悠馬の言葉に俯いた。かっこ良い男だなと、悟は思った。こんなにも怒っているが、それに反して案外冷静で、状況を把握しつつ正論をぶつける。言いたいことをはっきり言いながら叱る姿にコイツは将来有望だ、なんて偉そうに関心する。自分の周囲には、今までいなかったタイプの人間。もっと早くに出会っていれば自分は、今のようにこんなにひねくれていなかったかもしれない。
「ナニナニ? こんなにイケメン集めてどうしたの?」
突然、背後から少年のような声が聞こえ、振り返る。そこには、女と見間違えるほどに華奢で可愛らしい青年がいた。明るい髪の猫っ毛に寝癖が付いている。
「う、うちのナンバーワンです。村瀬いのりくん、源氏名はイオリ。」
春樹が慌てて紹介する。
青年は、こんにちはー、と笑顔で返した。
いのりは、どうやら忘れ物を取りに来たらしい。
「ああ!」
突然、いのりが指をさして大きな声を出した。
「アンタ、最近この辺うろついてる金髪じゃん! イケメンのくせに誰かのストーカやってるって噂! ついにここまで来たわけ⁉」
「ち、ちがっ、ストーカじゃっ︙。」
否定しようと思い声を出したが、強く否定できずに蓮は口籠った。
そんな蓮に助け舟を出すように悟が間に入る。
「俺たちの友達がいなくなったんだ、半分失踪みたいな感じで︙。佐野銀二郎っていうんだけど、分かる? 背が高くて短髪の、最近店を辞めた。」
「ああ、アイツか。バイトだって聞いてたのに初日からVIPに入って、店の女の子たちから妬まれてたよ。そういえば、そいつをVIPに呼んだ男︙、気になったん︙」
「それって、どんな男だ? 名前は︙? 何かおかしいこととかっ。」
食い気味に聞く蓮に、まぁ、落ち着けといのりが宥める。
「よく来る、店にとっても太客の男。イケオジだけどボクはあんまり好きじゃないタイプ、向こうもボクには興味なかったみたいだけど。そういえば、最後に来た日もVIPにそいつを呼んで︙、あっ、、。」
少し青ざめたいのりが一呼吸おいて話しだしたのは、その日その男が銀二郎を持ち帰ったかもしれないという内容だった。あの日のシフトを終えた銀二郎を思い返せば、少し朦朧としており違和感があった。それでも立っていたし自分で歩いていたので、気にせず帰らせてしまったらしい。その後すぐにその男も帰った。いつもなら店に来てもすぐに帰るはずだがその日はやけに長く店にいたのも気になった。
「店が混んでたし、気にせず︙。いや、悪い、言い訳だね。ボクがしっかり注意してやれば良かった。何かあったら電話してよ、できることがあったら力になる。」
そう言って、スルスルと紙に電話番号を書き渡してくる。いのりは、可愛らしい見た目に反して、正義感が強く真面目な青年だったらしい。意外性に驚きつつも、蓮はありがとうと言った。
「たしか、予約の名前は『ユヅル』︙︙、ってちょっと!」
「なっ、蓮⁉」
「どこ行くんだよ!」
名前を聞いた途端、蓮は走り出し、勢いよく店を飛び出した。悠馬と悟も慌てて蓮を追い、店を出る。そのまま、駅の方に走っていく蓮を走って引き止めたのは悠馬だった。さすがは運動部の男、早かった。悟は息を切らしているが、悠馬は普段通りの呼吸で平然としている。
「一人で突っ走んな、俺たちがいる。俺だって、ギンジのことが心配なんだ。」
「︙悪い。」
素直な蓮に悠馬はニカッと笑ってみせた。
「俺、車、運転できるけど? 乗るか?」
悟が持ち腐れている外車のスポーツカーを借り、蓮と悠馬は乗り込んだ。行く先はプライベートビーチや高級別荘地が立ち並ぶ海。カーナビを設定して高速に入った。
悟はというと「金と権力はこういうときに使わないとな。」と言って情報収集に徹してくれている。
嫌な予感しかない恐ろしさと不安に、蓮はギリギリと拳を握りしめた。
すると案の定、店に入って数週間で辞めてしまったバイトの銀二郎について聞かれ、春樹はどうにか罰を軽くして欲しい一心で洗い浚話した。事前に悟にダメだと言われていたバニーとしての接客やバイトであるのにVIP席につかせたこと︙、全てを話し終える前に、ずっと黙っていた大男に胸ぐらを掴まれた。近くで見ると、思っていたより若い、なんてどうでもいいことに意識を飛ばす。今にも殴りそうな勢いの大男を悟が止めた。
「ごめん。ちゃんとした店を選ばなかった。ごめん、俺が悪い。」
悠馬は掴んでいた手を離し、一度深呼吸をする。
「いや、働くって決めたのはギンジだ、お前のせいじゃない。そもそも店だって悪くない、働いてる人は誠意を持って働いてる、悪いのは店を受け持つ店長だ。上に立つ人間がこんなんでいいのかよ? ああ? 売上に目が眩んだか? 従業員守るのもアンタの仕事だろうが!」
まくし立てるように悠馬が言う。春樹はもっともな悠馬の言葉に俯いた。かっこ良い男だなと、悟は思った。こんなにも怒っているが、それに反して案外冷静で、状況を把握しつつ正論をぶつける。言いたいことをはっきり言いながら叱る姿にコイツは将来有望だ、なんて偉そうに関心する。自分の周囲には、今までいなかったタイプの人間。もっと早くに出会っていれば自分は、今のようにこんなにひねくれていなかったかもしれない。
「ナニナニ? こんなにイケメン集めてどうしたの?」
突然、背後から少年のような声が聞こえ、振り返る。そこには、女と見間違えるほどに華奢で可愛らしい青年がいた。明るい髪の猫っ毛に寝癖が付いている。
「う、うちのナンバーワンです。村瀬いのりくん、源氏名はイオリ。」
春樹が慌てて紹介する。
青年は、こんにちはー、と笑顔で返した。
いのりは、どうやら忘れ物を取りに来たらしい。
「ああ!」
突然、いのりが指をさして大きな声を出した。
「アンタ、最近この辺うろついてる金髪じゃん! イケメンのくせに誰かのストーカやってるって噂! ついにここまで来たわけ⁉」
「ち、ちがっ、ストーカじゃっ︙。」
否定しようと思い声を出したが、強く否定できずに蓮は口籠った。
そんな蓮に助け舟を出すように悟が間に入る。
「俺たちの友達がいなくなったんだ、半分失踪みたいな感じで︙。佐野銀二郎っていうんだけど、分かる? 背が高くて短髪の、最近店を辞めた。」
「ああ、アイツか。バイトだって聞いてたのに初日からVIPに入って、店の女の子たちから妬まれてたよ。そういえば、そいつをVIPに呼んだ男︙、気になったん︙」
「それって、どんな男だ? 名前は︙? 何かおかしいこととかっ。」
食い気味に聞く蓮に、まぁ、落ち着けといのりが宥める。
「よく来る、店にとっても太客の男。イケオジだけどボクはあんまり好きじゃないタイプ、向こうもボクには興味なかったみたいだけど。そういえば、最後に来た日もVIPにそいつを呼んで︙、あっ、、。」
少し青ざめたいのりが一呼吸おいて話しだしたのは、その日その男が銀二郎を持ち帰ったかもしれないという内容だった。あの日のシフトを終えた銀二郎を思い返せば、少し朦朧としており違和感があった。それでも立っていたし自分で歩いていたので、気にせず帰らせてしまったらしい。その後すぐにその男も帰った。いつもなら店に来てもすぐに帰るはずだがその日はやけに長く店にいたのも気になった。
「店が混んでたし、気にせず︙。いや、悪い、言い訳だね。ボクがしっかり注意してやれば良かった。何かあったら電話してよ、できることがあったら力になる。」
そう言って、スルスルと紙に電話番号を書き渡してくる。いのりは、可愛らしい見た目に反して、正義感が強く真面目な青年だったらしい。意外性に驚きつつも、蓮はありがとうと言った。
「たしか、予約の名前は『ユヅル』︙︙、ってちょっと!」
「なっ、蓮⁉」
「どこ行くんだよ!」
名前を聞いた途端、蓮は走り出し、勢いよく店を飛び出した。悠馬と悟も慌てて蓮を追い、店を出る。そのまま、駅の方に走っていく蓮を走って引き止めたのは悠馬だった。さすがは運動部の男、早かった。悟は息を切らしているが、悠馬は普段通りの呼吸で平然としている。
「一人で突っ走んな、俺たちがいる。俺だって、ギンジのことが心配なんだ。」
「︙悪い。」
素直な蓮に悠馬はニカッと笑ってみせた。
「俺、車、運転できるけど? 乗るか?」
悟が持ち腐れている外車のスポーツカーを借り、蓮と悠馬は乗り込んだ。行く先はプライベートビーチや高級別荘地が立ち並ぶ海。カーナビを設定して高速に入った。
悟はというと「金と権力はこういうときに使わないとな。」と言って情報収集に徹してくれている。
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