【本編完結】君に都合のいい体

セイヂ・カグラ

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30話 甘い

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 近頃、銀二郎には蓮からの呼び出しが増えていた。ずっと呼び出されていなかったのが嘘のように頻繁に会っている。最近では、一緒に食事をするようにまでなった。それに、蓮が奢ってくれることが多くなったのだ。

「ぎんじろー。何食べたい?」

 ホテルにあるメニューをピラピラとめくりながら、蓮は銀二郎に聞いた。 

「いいの?」

 何だか申し訳なくて、銀二郎のほうが困った顔をする。
 けれど、蓮は不思議そうな表情で、別に気にすることじゃないだろう、と言った。

「でも、ほら、僕は蓮くんのためにバイトしてるようなものだしっ。」

 少し照れくさそうに頬を掻きながら、だから自分に払わせてくれと曖昧げに伝えてみた。親から十分な仕送りを貰っている銀二郎は、お金に困っているわけではない。バイトを始めたのも蓮と会うようになってからだ。

 本当に蓮くんのため・・・、連くんになんだ。

 けれど、そう言う銀二郎に蓮は少し不服そうに唇を尖らせた。

「俺、別に金に困ってるわけじゃないけど。・・・なんなら、バイト辞めればいいじゃん。最近、銀二郎バイトばっかで、あんま、、呼んでも、来ない、、し。」

 徐々にしどろもどろになる蓮の言葉。何を言われたのか、一瞬理解できなくて、銀二郎はゆっくりと脳で噛み砕いた。小さな沈黙がホテルの部屋に流れていく。途端に蓮は、ガブガブとペットボトルの水を飲み干した。

「あ、えっと・・・。」

「・・・・・・。」

「唐揚げ・・・・・・、頼もうか、な?」

 気の利いた冗談も言えず、銀二郎は沈黙に耐えかねてそう言った。蓮は、顔を背けたまま備え付けの受話器を取って、何事もなかったように注文をはじめる。

 最近、蓮くんに甘やかされているような気がする。
 さすがに自惚れすぎているだろうか?


 それから、二人で黙々と食事し終えホテルを後にした。







 銀二郎は今、人生で最も布の少ない服を着させられていた。

「うん・・・!うん・・・!やっぱり、ぼくの目に狂いはなかった。」

 蓮の誘いを断ってまで来た、バイト先への初出勤。早々に後悔している。僕の感にも狂いはなかったようだ。
 透けるほど薄い白の半袖のシャツに屈強な筋肉が大胆に見えるぴっちりとした黒のベスト。なのに下は紐のような黒のパンツだけ。頭には可愛らしいウサギの耳。

「本当に、これを着なくちゃだめですか・・・?」

 こんなにも可愛らしい衣装をガタイが良く、雄雄しい自分が着ても似合わないと思う。華奢で細身な青年ならまだしも自分はそれなりに筋肉があり、背丈は成人男性の平均より何十センチも高い。けして、可愛さを求められるような男ではないのだ。

 別に時給が高くなくても構わない、と言っても春樹に断られる。悟坊っちゃん、ぼくに頼み込んできたんだよ、なんていう春樹の嘘に銀二郎は本気で考え込んでしまう。挙げ句「人手が足りないんだ」と泣きつかれてしまっては、お人好しの銀二郎は受け入れるしかなくなってしまう。押せばどうにかなる、春樹はニヤリとほくそ笑んだ。

「初日だから、今日はおしぼりを渡すのと、空いたグラスや食器を片付けるだけでいいよ。先輩方にいろいろ教わりながらやって。わからないことがあれば、遠慮なく聞いていいから。ぼくも手取り足取り、教えてあげるよ♡」

 慣れない衣装に、モジモジとする銀二郎の腰にトントンと触れながら春樹は説明をする。銀二郎の頭の中は、まだグルグルとしていた。けれども、店は開店し客は入り始めている。逃げ出すわけにも放棄するわけにもいかず、銀二郎は言われた通りにおしぼりを渡すべく一歩踏み出した。



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