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5話 今夜の約束① (モブ微※)

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 言われた通り、銀二郎は悠馬の待つカフェに来た。深呼吸をしてドアを開ける、店内の席から背の高い男を見つけ出し座った。

「お待たせ︙。」

 腕を組んだ大男が睨むようにこちらを見る、怒りに満ちた視線に銀二郎は震え上がった。
 
 こ、怖い︙。

「ごごごごめんなさい!」

 思わず、その場で頭を勢いよく下げて謝罪をする。
 この歳になって、叱られる日が来ようとは。

「謝んな。とりあえず座れ、そんで全部話せ。」

「は、はい。」

 取り調べを受ける犯人のような気持ちで、施されるまま席に座る。気不味さに視線をそらせ、店員に差し出されたテーブルの上の水をジッと見つめた。無言の悠馬に、銀二郎はポツリポツリと蓮との関係の経緯を洗いざらい話した。

「その、蓮くんが男の人とそういう関係になったって噂を聞いて︙、僕から声を掛けた。」

 そしてOKをもらってしまった。
 正直、奇跡だと思った。

「自分でも、どうして声を掛けたのか分からない。それでも、蓮くんから了承を得られてしまったから。」

「︙はぁ。」

 悠馬が深いため息を吐く。緊張で喉が酷く渇く。何度もコップの水に口を付け、ついに飲み干してしまった。

「お前は、その関係どう思ってるんだ?」
「どうって。」
「辛くないのか? 恋人になりたいとか、思わないのかよ。」

 剣呑な眼差しが銀二郎に向けられる。それは、彼からの優しさで心配してくれているのだと、分かっている。

「︙思わないよ。好きになった人が僕と一緒に過ごしてくれるんだ。嫌われるかもしれないコトをお願いして、それでも良いって言ってくれて︙そんな我が儘言わないよ。」

「、、わがまま...」

「だって、男なんだよ...僕」
 分かっていても、それでも。

「関係ないだろ、そんなの」

「関係あるんだよっ!!」銀二郎は、怒鳴るように言った。こればかりは、関係ないとは言えない。


「僕、蓮くんが本当に好きなんだ...ごめん」

「、、、わかってる」

 それから悠馬は「うーん」とか「あー」とか言いながら頭を抱えてしばらく唸っていた。そして、ヨシッと言った彼は銀二郎を真っ直ぐ見た。

「俺は、お前と三本木との関係をやめろとは言わない」

「じゃあ...っ」と言った言葉を切るように悠馬がつづける。

「ただし!お前が辛くなったり嫌な思いや嫌なことされたら、すぐに俺に言うこと」

 その時は、俺が三本木を殴ってやる!と物騒なことを言った。

 だけど、、、

「...うんっ、ありがとう」
 優しいな、悠馬くんは...こんな僕なのに心配してくれる。息苦しかった、胸のモヤに酸素が与えられるみたいに、呼吸がしやすくなる。

「ギンジは泣き虫だな」デカイくせに、と笑われる。

 ほっとした、許してくれる人がいる。それだけで気持ちが軽くなった。蓮との関係にはやっぱり、銀二郎の中で少し罪悪感があった。

 悠馬くんが少しだけ分かってくれた...。
 

「今日も会うのか?」

「うん!」

「週末だもんな」
 ニヤリと笑って、悠馬がからかうように言う。銀二郎はウロウロと視線を泳がせて「、、うん」と照れくさそうに返事をした。


 店から出た悠馬は、嫌なことあったら、すぐ言えよ。と銀二郎に遠くから大きな声で言って、帰って行った。










 銀二郎は一度、家に帰ってシャワーを浴びることにした。

 蓮がしたい、といつ言ってくれるかわからないし...準備大事!


 今夜、誘われたのは行ったことのない初めて知るバー。銀二郎はお酒が弱い、打ち上げや時折、人数合わせで呼ばれる合コンなんかでもあんまり飲んだりしない。それにバーなんてお洒落なお店にはあまり行ったことがない...。


 シャワーを終えて、クローゼットを見た銀二郎は悩む。

「何、着ていけば良いんだろう...」

 一人呟きながら銀二郎は、お気に入りの黒いパンツに白いシャツを着て、その上から淡い黄土色のニットを被る。秋の夜風は冷たいから、これくらいが丁度良いだろう。

「...お金、、、」

 蓮に呼ばれる度、ホテル代を払っているので結構ギリギリだ。親からの仕送りは使わず、バイト代を蓮との時間に使っている。もっと時給の良いバイトを探すかシフトを増やさなければ、と考えている。


 
 銀二郎は添付された場所にナビを設定して向かう。歩くと遠いので、地下鉄に乗った方が良さそうだ。


「着いた...」

 ビルの中に店があるらしい、派手な看板がいくつも電灯している、華やかな夜の街。
 緊張する、、、!本当にこの場所で合っているのだろうか。



 数分前、蓮からメールが送られてきた。

<オギノサトルって名前出して店に入って>

 予約制のお店らしい...高そうだ。僕以外に、誰かいるのかな。ぼんやりとそんなことを考えながら、ビルに入り店の名前を探す。

 あ、ここだ。

 重たいドアを開けると、薄暗く照明がキラキラとした内装が見える。その先にもうひとつ重厚なドアがあって中は見えない。

「いらっしゃいませ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」と男の人が話しかけてくる。

「あっ、えっと、、オギノサトルさんって人の予約で...」

「オギノ様のお連れ様でしたか...!ご来店ありがとうございます。どうぞ、こちらへ」
 ハッとしたような表情で深々と頭を下げた男は、重たそうなドアを開き銀二郎を丁寧に案内する。


「あっ...あんっ!」
「いっ、いいっいっちゃうう!」

 スタッフに導かれるまま中に入ると、女の淫らな声が聞こえだした。客たちは人目があるにも関わらず、それぞれの席でセックスを楽しんでいる。

 銀二郎に案内した男性スタッフは気が付けばいない。やたらと広くて豪華な席。銀二郎はわけもわからず呆然として立ち尽くした。

「…なっ、なんですか!?ここ!」
 やがて徐々に落ち着き、誰に言うでもなく叫んだ。

「ハプニングバーよ、お兄さん知らないで来ちゃったの?」
 後ろから声が聞こえて驚く。少し離れた隣の席に居た、口紅の濃い女が銀二郎の腕に絡み付き、布を纏っていない胸をあてる。

「あっ、その...僕っ、」
 いやだ、、なんだ、この人は。
「あら?何?お兄さん、もしかしてソッチ?」
 
 ソッチという言葉に反応して、銀二郎の頬は自然と赤く染まった。

「VIPにいるから、良いなと思ったのに。その様子じゃ、予約したお友達もソッチね、残念」

 そう言って、女はいなくなって行く。ほっとしたのも、つかの間すぐに誰かが話しかけてきた。

「君、男相手に来たんだって?」
 見知らぬ、年配の男性。少し小太りの男は、裸のまま近付いてくる。

「えっ、あ、その...」

「こういう店は初めてで緊張してるのかな?」
 男は銀二郎の太ももに手を置いて撫でるように触った。

「僕、呼ばれて来て。待ってる人がいるんです...っ」

「待ってる人?良いじゃないか、ここはそういう店だよ。誰とヤッたって構わない」
 あからさまな言葉を言いながら、男は銀二郎のシャツの中へ手を入れはじめた。

「や、だめ、です」
 一体、何が起こっているのか分からない。

「かわいいね、顔真っ赤だ」
 手が段々と上に伸びて行き、銀二郎の胸の飾りに触れる。

「あっ...やっ、蓮くんっ」




「けっこー楽しそうじゃんか、ギンジロー」
 呼んだばかりの名の人が目の前に現れた。

「ダメだよ、おっさん。何のためのVIP席だと思ってるの?呼ばれてないVIP席には座っちゃいけないの、知ってるだろ?」
 と、蓮の横にいる男が言った。

 この人、昼に蓮くんと話してた人だ...。

「お、荻野財閥...!!」

「おっさんのバーの権利無くしちゃおうか?」

「す、すみません...!」

「いくら出す?」

「えっ?」

「この店に入れる権利の剥奪と金出すのどっちにする?」








 どうやら、このバーは蓮の友人である「荻野悟」が趣味でやっているらしい...。荻野は、有名な荻野財閥会長の次男坊だそうだ。

「ごめんねー、ルール守れないヤツは会員にさせないようにしてるんだけど」
 そう言うと、荻野は銀二郎にニッコリと笑った。
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