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剣術担当→閨担当→???
●それは禁忌
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僕には、恐れていることがある。
僕は、レオンハルト・バニー。
魔眼を持った兎族の第五皇太子だ。
僕は第五皇太子だけれど、兄弟は3人しか残っていない。
魔力を操る魔眼持ちである兎族は長く強力な権力を持ち、支配を続けてきた。
繁殖能力が高いため閨係は常に数十人いる。
けれども、僕たち一族はどんなに子を成してもどんどん減っていく。
なぜなら、『寂しさ』という名の呪いに冒され続けているからだ。
魔眼の代償なのかもしれない。
僕の兄弟、皇帝の子どもたちが僕を含めて4人だけなのは、寂しさでみんな死んでしまったから。
僕ら兎族には、禁忌がある。
それは『たった一人を愛すること』だ。
僕らは、決して一人だけを愛してはいけない。
兎族を死に至らしめるもの、それは愛する者。
だから僕たちは、兄弟ですら殆ど顔を合わせることがない。
愛を求めてしまったら、死んでしまう。
死んでいった兄妹は皆、愛を求めた。
たった一人からの愛を望み、それが与えられないとなるとあっけなく衰弱する。
僕らは愛を求めては、いけない種族なんだ。
愛を求めて死ぬなんて、馬鹿げていると思っていた。皇族は度々、命を狙わられることがある。悪質なハニートラップに引っかかり何人も死んでいった。何代目かの皇帝もハニートラップで死んだ。魔眼を持つ者を支配者とするのを良しとしない者も多い。愛に飢えて死ぬ? ははっ、ほとほと呆れるね。愛という見えぬもので事切れていく兄妹たちを、僕は愚かだと思った。誰かを愛することも愛されたいと望むことも、すべて忘れてしまえばいい。大したことじゃない、愛さなければ良いだけ。そもそも、僕は愛だの恋だのというものに初めから興味がない。そんなつまらないまやかしに何故、皆惑わされるのだろう。僕は愛で死ぬことはないとそう、思っていた。
けれど僕の心は、ある日突然、一人の男によって奪われてしまった。
「呪いだ……、こんなもの、呪いに決まってる」
僕は恐れている、愛によって死ぬことを。
きっと何かの間違い、こんなものは勘違い。
僕は頭がおかしくなっているんだ。
自分よりずっと大きな男だった。
それも肉食の熊族。剣術を教えに来たという。
優秀な騎士だと聞いているが、いつも無表情で無愛想。
そんな男がずっとずっと頭から離れない…。
これ以上、近づいてはいけない。この呪いが、病が悪化しないようにと必死だった。彼を嫌悪しているような態度を取って、微笑みかけることもせず、会話も交わさない。僕は、自分の心を真っ向から否定しつづけた。そうしていれば、きっと治ると信じて。けれども、そんな僕の態度に悲しみを浮かべる男を見ていると胸がツキリと痛んでしまう。嫌われてしまったらどうしようと、怖くて仕方がなくなる。
触れたいと思う回数が増えていく。
日に日に苦しみや胸の痛みが強くなり、夜になると眠れなくなる。
剣術の授業がある日は浮足立って、胸がソワソワと騒ぐ。
男の側にいると幸せで、でも時折辛くもなった。
どんなに美しい雌や小動物を抱いても、胸が満たされない。
むしろ、何かがすり減っていく。
飢餓のような状態が永遠とつづくみたい。
背後に立ち、剣を握る僕の手に手を重ねる。僕よりずっと大きく逞しい手。筋肉に覆われた身体が密着し、心臓が馬鹿みたいに騒いだ。ほんのりと香った男の匂い。もうすぐ発情期なのだろう、甘い香りにクラクラした。けれども同時に湧き上がる苛立ち…。
「触る必要はあるの? 君は誰にでもこう教えるのかい」
思わず口に出た言葉に僕自身も驚く。
これは、嫉妬だ……。
他の誰かに、僕以外にもこんな風に触れているだろうか、なんて。
彼は自分のものではないのに。
しんしんと降り積もる真っ白な雪のような想い。
埋まらない寂しさで、心が凍えた。
愛して欲しいと、心が叫ぶ。
ならば、いっそのこと犯してしまえと思った。
自暴自棄だったのかもしれない。僕は彼のせいで頭がおかしくなってしまったんだ。
触れたら気が変わるだろうなんて、言い訳をして…。
どうやら愛して欲しいという本能に、僕は抗えなかったようだ。
一度、閨に呼んでしまったら歯止めが効かない。
結局、僕は愚かだと思い続けた者たちと同じ。
彼を最後まで抱かずに引き止めて、引き伸ばして、挙句の果てには閉じ込めてしまいたいとすら思う。それは、ほとんど猟奇的だった。想い人を閉じ込めた同族は、誰一人として生き残っていないというのに。彼が逃げてしまわないかと気が気でない。彼が誰かと言葉を交わすだけで、はらわたが煮えくり返るような気がする。他の者と目を合わせるくらいなら、その目を奪ってしまいたい。僕以外の名を呼ぶのなら、その声すら奪いたい。狂気じみた独占欲が止まらなかった。
嫉妬、悲しみ、愛への飢え…。
でも違う…、そうじゃないんだ。
僕は彼の愛が欲しい。苦しめたいわけじゃない。
自由を奪って自分だけの物にしても、彼はきっと僕に笑いかけてはくれないだろう。
ああ、そうだ。僕はただ彼の笑った顔が見たい。
あのときの、僕の心を一瞬にして打ち抜き虜にした笑顔を僕に向けてくれたらいいのに…。
僕は、レオンハルト・バニー。
魔眼を持った兎族の第五皇太子だ。
僕は第五皇太子だけれど、兄弟は3人しか残っていない。
魔力を操る魔眼持ちである兎族は長く強力な権力を持ち、支配を続けてきた。
繁殖能力が高いため閨係は常に数十人いる。
けれども、僕たち一族はどんなに子を成してもどんどん減っていく。
なぜなら、『寂しさ』という名の呪いに冒され続けているからだ。
魔眼の代償なのかもしれない。
僕の兄弟、皇帝の子どもたちが僕を含めて4人だけなのは、寂しさでみんな死んでしまったから。
僕ら兎族には、禁忌がある。
それは『たった一人を愛すること』だ。
僕らは、決して一人だけを愛してはいけない。
兎族を死に至らしめるもの、それは愛する者。
だから僕たちは、兄弟ですら殆ど顔を合わせることがない。
愛を求めてしまったら、死んでしまう。
死んでいった兄妹は皆、愛を求めた。
たった一人からの愛を望み、それが与えられないとなるとあっけなく衰弱する。
僕らは愛を求めては、いけない種族なんだ。
愛を求めて死ぬなんて、馬鹿げていると思っていた。皇族は度々、命を狙わられることがある。悪質なハニートラップに引っかかり何人も死んでいった。何代目かの皇帝もハニートラップで死んだ。魔眼を持つ者を支配者とするのを良しとしない者も多い。愛に飢えて死ぬ? ははっ、ほとほと呆れるね。愛という見えぬもので事切れていく兄妹たちを、僕は愚かだと思った。誰かを愛することも愛されたいと望むことも、すべて忘れてしまえばいい。大したことじゃない、愛さなければ良いだけ。そもそも、僕は愛だの恋だのというものに初めから興味がない。そんなつまらないまやかしに何故、皆惑わされるのだろう。僕は愛で死ぬことはないとそう、思っていた。
けれど僕の心は、ある日突然、一人の男によって奪われてしまった。
「呪いだ……、こんなもの、呪いに決まってる」
僕は恐れている、愛によって死ぬことを。
きっと何かの間違い、こんなものは勘違い。
僕は頭がおかしくなっているんだ。
自分よりずっと大きな男だった。
それも肉食の熊族。剣術を教えに来たという。
優秀な騎士だと聞いているが、いつも無表情で無愛想。
そんな男がずっとずっと頭から離れない…。
これ以上、近づいてはいけない。この呪いが、病が悪化しないようにと必死だった。彼を嫌悪しているような態度を取って、微笑みかけることもせず、会話も交わさない。僕は、自分の心を真っ向から否定しつづけた。そうしていれば、きっと治ると信じて。けれども、そんな僕の態度に悲しみを浮かべる男を見ていると胸がツキリと痛んでしまう。嫌われてしまったらどうしようと、怖くて仕方がなくなる。
触れたいと思う回数が増えていく。
日に日に苦しみや胸の痛みが強くなり、夜になると眠れなくなる。
剣術の授業がある日は浮足立って、胸がソワソワと騒ぐ。
男の側にいると幸せで、でも時折辛くもなった。
どんなに美しい雌や小動物を抱いても、胸が満たされない。
むしろ、何かがすり減っていく。
飢餓のような状態が永遠とつづくみたい。
背後に立ち、剣を握る僕の手に手を重ねる。僕よりずっと大きく逞しい手。筋肉に覆われた身体が密着し、心臓が馬鹿みたいに騒いだ。ほんのりと香った男の匂い。もうすぐ発情期なのだろう、甘い香りにクラクラした。けれども同時に湧き上がる苛立ち…。
「触る必要はあるの? 君は誰にでもこう教えるのかい」
思わず口に出た言葉に僕自身も驚く。
これは、嫉妬だ……。
他の誰かに、僕以外にもこんな風に触れているだろうか、なんて。
彼は自分のものではないのに。
しんしんと降り積もる真っ白な雪のような想い。
埋まらない寂しさで、心が凍えた。
愛して欲しいと、心が叫ぶ。
ならば、いっそのこと犯してしまえと思った。
自暴自棄だったのかもしれない。僕は彼のせいで頭がおかしくなってしまったんだ。
触れたら気が変わるだろうなんて、言い訳をして…。
どうやら愛して欲しいという本能に、僕は抗えなかったようだ。
一度、閨に呼んでしまったら歯止めが効かない。
結局、僕は愚かだと思い続けた者たちと同じ。
彼を最後まで抱かずに引き止めて、引き伸ばして、挙句の果てには閉じ込めてしまいたいとすら思う。それは、ほとんど猟奇的だった。想い人を閉じ込めた同族は、誰一人として生き残っていないというのに。彼が逃げてしまわないかと気が気でない。彼が誰かと言葉を交わすだけで、はらわたが煮えくり返るような気がする。他の者と目を合わせるくらいなら、その目を奪ってしまいたい。僕以外の名を呼ぶのなら、その声すら奪いたい。狂気じみた独占欲が止まらなかった。
嫉妬、悲しみ、愛への飢え…。
でも違う…、そうじゃないんだ。
僕は彼の愛が欲しい。苦しめたいわけじゃない。
自由を奪って自分だけの物にしても、彼はきっと僕に笑いかけてはくれないだろう。
ああ、そうだ。僕はただ彼の笑った顔が見たい。
あのときの、僕の心を一瞬にして打ち抜き虜にした笑顔を僕に向けてくれたらいいのに…。
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