9 / 13
剣術担当→閨担当→???
夜◯レオンハルトとの会話
しおりを挟む
閨に来いと言われ、叱られる心の準備をしてきたボロルフは、きっちりとした服装で閨を訪れた。すると、レオンハルトは驚いた様子で「どうしたの?そんな格好をして」とボロルフに言った。最初こそ驚いたものの不安げなボロルフを見て、青年は察した様子でソファに腰掛けさせる。ふたり向かい合わせに座ると、しばらく沈黙がつづいた。
「はじめに言っておくけれど『ミュラ』という名の閨係は存在しない」
静まりすぎた部屋、レオンハルトが放った言葉をボロルフは上手く理解できない。
「それは、どのような、意味でしょうか、、」
物分かりが悪いと呆れられるのを覚悟しながら聞いた。
レオンハルトは女中が用意した茶を啜りながら何度か瞬きをした。
ボロルフというと緊張で自分の前に差し出されたお茶に手を付けることができず、それは冷めていくばかりだ。
「その子は、僕と同じ赤い瞳を持っていたのではないかな」
そう言われ、思い出してみるとミュラ殿は確かに綺麗な紅玉の瞳を持っていた。それは、レオンハルト様に良く似た美しい色。だから、はっきりと覚えている。
「その瞳が何を意味するか、分かる?」
「…魔力を持つ者です」
「そう、その通り。赤い瞳は魔眼と呼ばれ、魔法を操ることのできる者を指す。ミュラは白猫などではないよ。僕と同じ兎。擬態や変身の魔法を得意とし、おまけに相手の心を読む」
皇族を皇族たらしめている理由。兎族が草食でありながら全ての獣人のトップに君臨する理由。それこそが燃えるような紅玉の瞳に齎された魔力、魔法のため。魔法を使えるのは赤い瞳を持つ者だけだ。その中でもその魔力を子から子へ代々受け継ぐことができたのは、兎族のみ…。
「はぁ…、ノワルだろうね。第三皇太子。こういう悪戯をするのはあの子しかいない」
まさか、けれど何のために?
「この間のアレもあの子の悪知恵でしょ、やっと合点がいった。ノワルには手を焼いているんだ」
この間のアレ、とは俺がレオンハルト様に笑みを見せたことだろう。俺は、自分の失態を思い出して無性に恥ずかしくなった。顔に熱が回っているのが分かる。俺はたまらず、顔を手のひらで覆った。
「今後、あの子にはあまり近づかない方がいい」
近づかない方がいいと言われボロルフは、はたと顔を上げて首を傾げた。
「何故ですか?」
「何故とは…、騙すように白猫の姿で君に近づき、心の内を覗いているのだよ? それに君に妙な悪知恵を教え込む」
ミュラがもしも本当にノワル様だったとして、確かに何故、姿や名を変えて俺の元に現れたかは分からない。けれども彼は自分の悩みを聞いてくれて、友人のようにお茶を楽しんでくれた。彼との時間は穏やかで楽しいものであったし、閨でのアドバイスも嬉しかった。特に何か嫌なことをされたわけではない。むしろ有意義な時間だった。
「俺はミュラ殿…、ノワル様との時間が楽しかったです。今日のように庭でお茶や会話を楽しむ相手が俺には他にいません。この性格だからか相談事をする相手もいませんから彼が熱心に聞いてくれるのが嬉しいばかりでした。…そう思うと姿や名は案外どうでも良いことなのかもしれません、ね」
もじもじと俯きがちに、なんとか自分の気持ちを言葉にする。剣ばかり握って固く分厚くなった手を安心させるように撫でた。話し終わり、レオンハルト様の言葉を待つ。けれども、なかなかお声が聞こえないので耐えきれずに顔を上げた。
「あっ……」
ボロルフはレオンハルトの顔を見て驚いた。
それは、彼が今にも泣き出しそうな表情をしていたから。
どうしようか、なんと声をかけようか。
そう迷い、何度も飲み込むように息を吸う。
無意識に彼に向かって手が伸びたとき、反対の手にレオンハルト様の手が重なった。
「……ボロルフは、ノワルを愛しているの…?」
苦しそうに胸を抑え、レオンハルト様がそう言った。
「あ、愛とかでは、、」
「僕よりも、ノワルのことが好き…?」
「す、好きと問われると、、好き?かもしれません、けれどそれは、レオンハルト様とは…っ」
こちらにゆっくりと身を寄せてくるレオンハルト様の呼吸が次第に乱れていく。
真っ赤な瞳に溜まった涙は今にも溢れそうだ。
「僕では君の相談相手にはなれない?」
相談相手…。さすがに本人に本人のことを相談することはできないと、ボロルフは言葉に詰まる。
「僕では、お茶を楽しめない?」
まだ一口も飲んでいない冷めきった紅茶を見て、レオンハルト様が言う。
明らかに様子のおかしいレオンハルト様は、俺の両肩を強く掴んだ。
痛みに顔を顰め、離して下さいとその手に触れる。
けれどもその手が離れることはなく、ボロルフはそのままソファーへ押し倒された。
「ねぇ、お願いだよ。あまりアレには近づかないで、苦しくなるんだ。君が他の男に笑顔を見せたりなんかしたら、僕は具合が悪くなる」
何故、レオンハルトがそんなことを言うのかボロルフには分からなかった。いつもなら簡単に逃げられるのに重力に押しつぶされるみたいに身体が重く動かない。その現状に、ただ酷く混乱した。眼の前のレオンハルトは、ついに紅の瞳から大粒の雨を降らせてしまっている。
彼は草食動物で自分よりずっと小さい。
力なら絶対に自分のほうが勝っているはずなのに、押さえつける手から身体を起こすことすらできない。
ボロルフは、心臓が波打つのを感じた。
それは、圧倒的な力に対する感じたことのない『恐怖』だった。
「れ、レオンハルト様…、どうか、お手をお離し、ください……」
「僕から逃げる気? 離れようっていうの?」
ボロルフの言葉にレオンハルトは怒りを露わにした。
充満する魔力は、ボロルフにとっては毒のよう。
過剰な魔力に耐えきれず、意識がぼんやりとしてくる、苦しい。
「逃さない…。君が逃げたら僕、死んじゃうんだから」
小さな光がスッと現れたと思うと、ボロルフの腕は頭上で一纏めにされていた。外そうと藻掻くが壊れないそれは、魔法によって作られた手錠。そうして気が付けば、ボロルフは、ふんわりとした広いベッドの上に転がっていた。
「はじめに言っておくけれど『ミュラ』という名の閨係は存在しない」
静まりすぎた部屋、レオンハルトが放った言葉をボロルフは上手く理解できない。
「それは、どのような、意味でしょうか、、」
物分かりが悪いと呆れられるのを覚悟しながら聞いた。
レオンハルトは女中が用意した茶を啜りながら何度か瞬きをした。
ボロルフというと緊張で自分の前に差し出されたお茶に手を付けることができず、それは冷めていくばかりだ。
「その子は、僕と同じ赤い瞳を持っていたのではないかな」
そう言われ、思い出してみるとミュラ殿は確かに綺麗な紅玉の瞳を持っていた。それは、レオンハルト様に良く似た美しい色。だから、はっきりと覚えている。
「その瞳が何を意味するか、分かる?」
「…魔力を持つ者です」
「そう、その通り。赤い瞳は魔眼と呼ばれ、魔法を操ることのできる者を指す。ミュラは白猫などではないよ。僕と同じ兎。擬態や変身の魔法を得意とし、おまけに相手の心を読む」
皇族を皇族たらしめている理由。兎族が草食でありながら全ての獣人のトップに君臨する理由。それこそが燃えるような紅玉の瞳に齎された魔力、魔法のため。魔法を使えるのは赤い瞳を持つ者だけだ。その中でもその魔力を子から子へ代々受け継ぐことができたのは、兎族のみ…。
「はぁ…、ノワルだろうね。第三皇太子。こういう悪戯をするのはあの子しかいない」
まさか、けれど何のために?
「この間のアレもあの子の悪知恵でしょ、やっと合点がいった。ノワルには手を焼いているんだ」
この間のアレ、とは俺がレオンハルト様に笑みを見せたことだろう。俺は、自分の失態を思い出して無性に恥ずかしくなった。顔に熱が回っているのが分かる。俺はたまらず、顔を手のひらで覆った。
「今後、あの子にはあまり近づかない方がいい」
近づかない方がいいと言われボロルフは、はたと顔を上げて首を傾げた。
「何故ですか?」
「何故とは…、騙すように白猫の姿で君に近づき、心の内を覗いているのだよ? それに君に妙な悪知恵を教え込む」
ミュラがもしも本当にノワル様だったとして、確かに何故、姿や名を変えて俺の元に現れたかは分からない。けれども彼は自分の悩みを聞いてくれて、友人のようにお茶を楽しんでくれた。彼との時間は穏やかで楽しいものであったし、閨でのアドバイスも嬉しかった。特に何か嫌なことをされたわけではない。むしろ有意義な時間だった。
「俺はミュラ殿…、ノワル様との時間が楽しかったです。今日のように庭でお茶や会話を楽しむ相手が俺には他にいません。この性格だからか相談事をする相手もいませんから彼が熱心に聞いてくれるのが嬉しいばかりでした。…そう思うと姿や名は案外どうでも良いことなのかもしれません、ね」
もじもじと俯きがちに、なんとか自分の気持ちを言葉にする。剣ばかり握って固く分厚くなった手を安心させるように撫でた。話し終わり、レオンハルト様の言葉を待つ。けれども、なかなかお声が聞こえないので耐えきれずに顔を上げた。
「あっ……」
ボロルフはレオンハルトの顔を見て驚いた。
それは、彼が今にも泣き出しそうな表情をしていたから。
どうしようか、なんと声をかけようか。
そう迷い、何度も飲み込むように息を吸う。
無意識に彼に向かって手が伸びたとき、反対の手にレオンハルト様の手が重なった。
「……ボロルフは、ノワルを愛しているの…?」
苦しそうに胸を抑え、レオンハルト様がそう言った。
「あ、愛とかでは、、」
「僕よりも、ノワルのことが好き…?」
「す、好きと問われると、、好き?かもしれません、けれどそれは、レオンハルト様とは…っ」
こちらにゆっくりと身を寄せてくるレオンハルト様の呼吸が次第に乱れていく。
真っ赤な瞳に溜まった涙は今にも溢れそうだ。
「僕では君の相談相手にはなれない?」
相談相手…。さすがに本人に本人のことを相談することはできないと、ボロルフは言葉に詰まる。
「僕では、お茶を楽しめない?」
まだ一口も飲んでいない冷めきった紅茶を見て、レオンハルト様が言う。
明らかに様子のおかしいレオンハルト様は、俺の両肩を強く掴んだ。
痛みに顔を顰め、離して下さいとその手に触れる。
けれどもその手が離れることはなく、ボロルフはそのままソファーへ押し倒された。
「ねぇ、お願いだよ。あまりアレには近づかないで、苦しくなるんだ。君が他の男に笑顔を見せたりなんかしたら、僕は具合が悪くなる」
何故、レオンハルトがそんなことを言うのかボロルフには分からなかった。いつもなら簡単に逃げられるのに重力に押しつぶされるみたいに身体が重く動かない。その現状に、ただ酷く混乱した。眼の前のレオンハルトは、ついに紅の瞳から大粒の雨を降らせてしまっている。
彼は草食動物で自分よりずっと小さい。
力なら絶対に自分のほうが勝っているはずなのに、押さえつける手から身体を起こすことすらできない。
ボロルフは、心臓が波打つのを感じた。
それは、圧倒的な力に対する感じたことのない『恐怖』だった。
「れ、レオンハルト様…、どうか、お手をお離し、ください……」
「僕から逃げる気? 離れようっていうの?」
ボロルフの言葉にレオンハルトは怒りを露わにした。
充満する魔力は、ボロルフにとっては毒のよう。
過剰な魔力に耐えきれず、意識がぼんやりとしてくる、苦しい。
「逃さない…。君が逃げたら僕、死んじゃうんだから」
小さな光がスッと現れたと思うと、ボロルフの腕は頭上で一纏めにされていた。外そうと藻掻くが壊れないそれは、魔法によって作られた手錠。そうして気が付けば、ボロルフは、ふんわりとした広いベッドの上に転がっていた。
24
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。


完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
悩ましき騎士団長のひとりごと
きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。
ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。
『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。
ムーンライト様にも掲載しております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる