クマ族最強の騎士は皇太子に抱かれるお仕事をしています。

セイヂ・カグラ

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剣術担当→閨担当

午後◯剣術の稽古

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 鐘が鳴り、慌てて中庭を抜け出したボロルフは着替えを済ませて稽古用の木刀を手に取った。大丈夫、あと十分はある。走るのはあまり良くないことだけれど、急げば三分前には辿り着けるだろう。そう思い稽古場へ駆け出した。

 予想通り、三分前に稽古場に着く。全力で走ったせいか、呼吸が少しだけ乱れている。それもすぐに落ち着き、ただボロルフの顎には小さな水滴が伝った。

 それからは、いつも通りの何ら変わらない稽古が始まった。
 時々、レオンハルト様と目が合うが逸らされてしまう。
 閨とは違う冷え冷えとした空気に胸がキシリと痛んだ。
 レオンハルト様の剣術力は非常に高い。護衛など付けなくても心配無いだろう。

 それでも、レオンハルトが剣術でボロルフに勝てたことは一度もない。

「朝、君が中庭にいるのを見かけたのだけれど」
 
 数分の休憩時のこと。レオンハルト様が冷えた茶を飲みながら問うてきた。

「確かに中庭に居ました」
「そう。誰かと話していたね、誰かな」
「…閨係のミュラ殿です」
「随分と楽しげに見えたけれど」
「…えっと、仲良くさせて頂いております」
「仲良く…ね。稽古に遅れそうになるほど夢中だったんだ?」

 詰問するように会話を進められ、ボロルフは混乱した。
 走ってしまったが、稽古には遅れていない。数分前には着いていたはずだ。
 他に何か粗相をしてしまっただろうかと考え、焦る。  

「まだ他の閨係に何か聞きたいことでも?」
「い、いえっ。ミュラ殿とは、友人として親しくさせていただいております。悩みや相談事を聞いて頂いているのです」
「相談事…」

 もしや、レオンハルト様はミュラ殿のことをとても気に入っていらっしゃるのではないだろうか。
 はっ、俺がミュラ殿にちょっかいをかけているとお思いになられたのかもしれない。
 そうか、レオンハルト様はミュラ殿のことを……。

 途中まで考えて、ボロルフはブンブンと頭を振った。
 それより今は、どうにか誤解を解いて、弁明しなければ。

「レオンハルト様! 決してレオンハルト様のお考えになられているようなことはございませんっ。」
「僕が考えていること?」
「はい、自分とミュラ殿はただの友人関係であります。ただ俺が一方的に、いえ…、なんというか、その、話しやすくて、、頼りにさせて頂いていると良いますか、、気があるとかではなくっ、」

 話せば話すほど凍りついていく空気。
 話はしどろもどろに、緊張で喉が張り付いた。

「もういいよ」

 バサリと斬るようにレオンハルト様が言う。
 剣を持って立ち上がり、稽古へと戻っていかれるレオンハルト様の背を見て、俺は、か細くなった声で申し訳ありませんと言った。
 それからというもの、仕事だと言うのに頭の中がぐるぐるとして身が入らなかった。
 真面目にやらねばならないと思うのに、頭が勝手に考える。

「ボロルフ。今夜、僕の閨に来なさい」

 稽古が終わった頃。すっかり気落ちしているボロルフにレオンハルトが小さく耳打ちした。

「はい…」

 仕事を全うできなかった自覚のあるボロルフは静かに頷いた。
 ボロルフの小さな熊の耳が、しょんぼりと垂れ下がる。
 猫のように尻尾が長ければ、くるんっと股の間に入り込んでいただろう。
 熊族よりもうんと小さくか弱く見える兎族。
 眼前の青年より一回りも二周りも大きな男は、その時ばかりは誰よりも小さく見えた。

 失敗をしてお叱りを受けるのは久々だ…。

 軍では厳しい稽古が多かったが、優秀であったボロルフは早々に上官地位に昇進。だからそれほど多く叱咤されたことがない。本当はボロルフが失敗を誰よりも恐れ、叱られたくないと怯えていることを知っている者は少ない。

「はぁ……」

 自室で剣を磨きながらボロルフは深い溜め息を吐いた。
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