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剣術担当→閨担当

二夜目※

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 覚えたての笑みを披露する日がやってきた。
 タイミングを見計らい、ここぞという時に練習の成果を発揮するのだ。
 前回とは、また別の緊張感のもと閨に入る。
 ベッドへ招かれ、腰を掛けるとレオンハルト様と目が合った。
 今だ、と思ったボロルフは鏡で散々練習した笑みを浮かべてみせた。

「……」

 視線は確かに合っていたはず。けれども、レオンハルト様は、俺の顔を見たまま黙り込んでいる。真っ白く長い立ち耳だけがパタタッと何度か動いた。けれども、するりと視線を逸らして深いため息を吐かれた。片手で額を覆い撫で、髪を掻き上げると深呼吸をするように深く長い息を吐く。同時に俺の笑みも消え、いつもの無表情に戻った。変わりに心臓がドクドクと嫌な音を立てる。

「……娼婦のマネごとでもしているの」

 どうやら俺は失敗したらしい。
 もしかすると、むしろ怒らせてしまったかもしれない。

「申し訳、ありません…」

 ひんやりとした空気に俺は骨を抜かれたみたいにヘナヘナと沈み、自分の膝へ情けなく突っ伏した。恥ずかしい…、何をしているのだろうか、俺は。こんなことで、自分の笑みでレオンハルト様が本気で喜んでくれると思っていたのか。ミュラ殿のような可愛らしい人であればレオンハルト様も笑った顔に魅力を感じるだろうが、好みでもないこんな大男の笑みなど何になる。それを自分でもできると疑わず、鏡の前で練習などと…。馬鹿な男だな、ボロルフ。

「聞いたよ、閨のことを何かと他の者に聞き回っているんだってね」

 ビクリと肩を揺らし、俺は恐る恐る顔を上げた。
 バレてしまっている。
 確かに口止めはしなかったが、まさかこんなにも早くレオンハルト様のお耳に入るとは思わなかった。
 動揺で忙しなく視線を動かしてしまう。
 死ぬかもしれない戦場ですら、これほどまでに緊張が高まった覚えはない。
 頭に浮かぶのは、ただひたすら謝罪の言葉ばかり。
 自分の身が下げられることもキャリアを失うことも恐ろしくない。
 ただ彼に失望されることが、ボロルフにとっては何よりも恐ろしかった。
 唇が謝罪や言い訳を吐こうとわななく。




「君のままで良い」



 レオンハルト様の手が俺の顔に触れる。驚いて顔を向けると、ルビーのような瞳と目が交わった。レオンハルト様は長い指で緊張で汗に濡れた短い髪をよけて、整えてくれる。すべての動作がスローモーションのように見えた。優雅で綺麗な此のお方に俺はぼんやりと見惚れた。

「あの子たちはプロなんだ、君は違う。そうだろう? 君は君のままでいて良い、むしろそうして呉れたまえ」
「…はい」

 プロ、確かにそうだ。
 俺のような素人に上手くできるわけがない。
 彼らが何年も掛けて培ってきたスキルだというのに、俺はなんて失礼なことを…。

「そう気を落とさないで。普段は笑わない君が僕のためにしてくれたんでしょう、ありがとう。でもね、できるなら次は本物の笑顔を見せて欲しい。僕はその方が嬉しいから」

 優しく穏やかな声。俺の髪や耳を撫でながら静かにそう言うレオンハルト様は、真剣な目をしていた。くすぐったくて、耳がパタパタと無意識に動く。

「ふっ、出会ったばかりの頃の君を思い出すね。あの頃の君も笑顔を作るのに必死で、怖い顔になってた」

 あっ、笑った。
 レオンハルト様が今、少しだけ笑ってくださった。
 トクリと俺の胸に妙な感覚が走る。
 痛みのような、苦しいような、それでいて柔らか。
 知らない感覚。
 俺は自分の胸を抑えて首を傾げた。

「どうかした?」
「いえ、なんだか妙な感じがして」
「苦しいの? 大丈夫?」
「辛いわけではないので大丈夫です。気の所為でしょう」
「そう? 何かあったら言うんだよ」
「はい」

 やっぱり、レオンハルト様はお優しい。
 俺のような者にも丁寧で、俺のことをちゃんと見てくれている。
 閨での会話は、剣術の時よりずっと穏やかで長い。
 専門的な会話しか無い剣術とは違い、少しだけレオンハルト様と本当の意味でお近付きになれるような気がする。
 俺の心の方が、どんどんレオンハルト様に開かれていく…。

「そろそろ、君に触れても良いかな」

 レオンハルト様の一言で空気は一変。会話をしているうちに自分の役割をすっかり忘れていた。手に手を重ねられると先程までとは打って変わって、閨の熱くトロリとした雰囲気になる。俺の心臓はまたうるさくなって、小さく頷くことしかできなくなってしまう。俺が頷くと、レオンハルト様の手がガウンの隙間に入り込み、そっと触れてくる。背後に回り込んだレオンハルト様は、俺の首をカプカプと甘噛した。

「んっ…、ん、…?」

 俺は、女性ではないのにレオンハルト様が胸を揉んでいる。それを不思議に思っていると、不意に乳輪の周りを撫ではじめた。くるくると指で円を描いたり、揉み込んだり、乳輪を摘み上げたり。すると、どうしたことか、触れられていない先端がもどかしそうにするのだ。

「ほぅら…、固くなってきた」

 言葉にされると、恥ずかしさが込み上げてくる。
 乳輪をくんっと見せつけるように中指と親指で摘み上げられる。
 人差し指が宙を迷うふりをして焦らすみたいにウロウロする。
 恥ずかしくて仕方がないはずなのに指先から目が、離せない。

「……っ」

 けれど、指は形を持ち始めたそれに触れること無くパッとはなされた。
 き…、期待、してしまった…。
 もどかしさにモゾモゾと身体が身動ぐ。
 陰茎はだらだらと涎を溢し、痛いくらいに硬さを持っていた。
 
「はぁっ、ふっ、ぅ」

 と、突然、ぷにぷにと乳首を押し込むように触れられ驚いた。

「ちいさくて可愛らしいね」

 そのままレオンハルト様は、俺の乳首をクリクリと転がしたり、きゅっきゅっと連続的に刺激したり、スリスリと撫でたりする。小さな甘い刺激に悶えていると、今度はレオンハルト様のお口に俺の乳首が食べられてしまった。ぢゅ~と吸われ、舌で転がすように舐められていると声が漏れて止まらなくなる。おまけに、いつの間にか後孔に指が入り込んでおり、ぐりぐりと前立腺を揉み込まれた。

「ぁっ、ふ、…くぅ、、ぅ、」

 呼吸は、どんどん荒くなって走ってもいないのに肩が上下した。直腸はレオンハルト様の指に絡みつき、もっと深く深くと何かを求めて蠢いた。俺の喉は息の抜けるような高い声を漏らし、悶える。けれどもレオンハルト様は静かになってしまわれて、俺は快楽をただひたすらに受けるだけ。

「はぁっ、…はぁっ、ぁっ、ん~~~」

 ついにその快楽に仰け反り、俺の震える陰茎から、はしたない精液が吐き出された。足先はピンっと伸びて、手はシーツを握り込む。腰がビクビクと痙攣し、押し寄せる快楽に目をぎゅっと瞑った。身体が呼吸を整えるために大袈裟に息をする。

「は、果てて、しまいました…」

 俺が射精をすると、閨は終わり。
 レオンハルト様はどうなさるのだろうかと、ふと思う。
 思わずレオンハルト様の股間に視線を向けようとして、やめた。
 俺なんかに、反応なさることなんてないと思ったから。
 それに気がついてしまったら、何だか立ち直れそうにない気がしてしまったから。
 
「ありがとうございました」

 ベッドの上で正座をし、レオンハルトに深々と頭を下げた。気崩れたガウンを直し、まだ力の入らぬ脚に力を込め、なんとかベッドの上から降りる。長く此処に居ては迷惑になってしまうだろう。お昼も公務やお勉強でお疲れでしょうからレオンハルト様には、早くお休みになって頂きたい。

「ねぇ、、っ」

 部屋を出ようとすると、レオンハルト様に引き止められた。

「そんな格好で自室に戻るのかい」
「…? え、ええ」
「湯浴みくらいしていったら?」

 確かに身体は汚れてしまっているが、ガウンを着てしまえば分からない。俺は生娘でも美少年でもないし、か弱くもないからそういう心配もない。それに自室へ戻るまでに誰かに会うわけでもないので、この格好で相手を不愉快にさせることもないだろう。何故ならこのレオンハルト様の閨に就いてから、俺の部屋はレオンハルト様のお部屋と近い屋敷に変わったのだ。レオンハルト様のお部屋にいつまでもお邪魔するわけにはいかないし、何よりも自室に湯浴み場が付いている。

「お気遣い、ありがとうございます。しかし大丈夫です、必要ありません。道すがら誰かに会うこともないですし、俺の自室にも湯浴み場があります」

 そう伝えると、レオンハルト様は少し黙り込んだ。
 部屋が薄暗いせいか、表情が分からない。

「着替えを用意してあるから入っていきなさい」

 レオンハルト様は、もう一度、湯浴みするようにと施した。
 二度も勧められたので俺は頷き、それに甘えた。
 湯には花弁が浮かんでおり、甘い良い香りがした。
 風呂上がりには、サテンの真っ白な寝間着が用意されており、サイズが驚くほどピッタリだった。着心地の良い、上質な寝間着。
 レオンハルト様が「その寝間着は、君のモノだよ」と仰られて、そのまま寝巻きを下さった。
 俺は、頂いた寝間着を着て自分の部屋へと戻った。
 次の閨のときにも持っていこう。
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