3 / 13
剣術担当→閨担当
夜◯皇太子の閨
しおりを挟む
隅々まで洗われた身体からは、ほんのりと石鹸の匂いが漂う。まるで女性や美少年の纏う香のような甘い香りは、自分のような男には不似合い。
これから自分を嫌う相手に愛されることなく抱かれるのだと思うと憂鬱な気持ちが滲んだ。それでも逃れることなどできない。この閨は勅令であり、今後数が月…もしくは数年続く。不安に揺れる胸が鼓動を少しずつ早めていく。ノックの数秒後、ガチャリと扉が開いた。
「…っ、ボロルフ・ベアルドでございます。」
緊張で思わず顔も見ずに頭を深々と下げた。
「お待ちしておりました。ベアルド様、どうぞこちらへ」
けれど出迎えたのは、レオンハルト様ではなかった。
髪を引っ詰めたメイドが視線も合わせずにボロルフを招き入れる。
「湯とタオルが置いてありますから、終わった後にご自分で綺麗にして下さい。ベッサイドに錠剤があります。余程痛みを伴う場合に使用するものですが、今回の場合は極力使わないようにして下さい。レオンハルト様の初物相手として宛てがわれていることを忘れずに。潤滑液もベッドサイドに置いてありますがベアルド様は基本、レオンハルト様に身を委ねる形で構いません」
彼女は、部屋にあるモノをざっくりと説明して更に奥へと進んだ。
王宮は俺が初物であると確信している様子だ。確かに、そうなのだが…。
しかし、行為の時には薬を使うことがあるとは知らなかった。
痛みを和らげるもののようだが、初物には使われないとなると、この役目が自分に回ってきたことに少し納得ができる。
「レオンハルト様、ベアルド様がいらっしゃいました」
「ああ、分かった。レイラちゃん、今日はもう良いよ。お疲れ様」
「はい、では失礼します」
早々にレオンハルト様とふたりっきりにされ戸惑う。
緊張でドギマギしながら恭しく膝を付き頭を垂れた。
「今晩から閨のお供をさせていただきます。ボロルフ・ベアルドでございます」
レオンハルト様は、広く大きなベッドの上で優雅にワインをお飲みになっている。
長い手足と色白な肌、王家特有のピンっとたった立ち耳と赤い瞳、顎下まである白い髪。
他国の貴族からも『美しさに、ため息が出る』と言われる一族だ。
「此処に」
ベッドへと招かれ、緊張で心拍数の上がる胸に知らぬふりをしながら立ち上がる。
足が重い、遠くはないはずなのに遠く感じる。
美しくも恐ろしい瞳がジッと自分を見ている。
やっとの思いでベッドに近づくと、レオンハルト様に腰を引かれ、ストンとベッドの上に座ってしまった。
酒で温まった白い手の甲が俺の頬をそっと撫でる。
「閨ではね、どんな相手でも恋人のように扱わねばならないんだ」
間近に迫ったレオンハルト様が冷え冷えとした表情で言う。いつもそうだ、俺はレオンハルト様に微笑んでいただいたことが一度もない。俺以外の人々には、とても優しく慈しむような微笑みを浮かべるというのに。俺には大抵こんな風に、目も合わせず冷たい。そんな彼は俺の顎を掴み、つまらなそうに、暇や間を潰すように唇をスリスリと撫でた。
その視線の冷たさに耐えきれず、項垂れるように顔を逸らしてしまった。
『どんな相手でも恋人のように扱わねばならない』
そんなことをわざわざ言うような相手を 何故、閨に呼ぶのですか。
何故、俺を選んだのですか。
どうして、俺を嫌いになったのですか。
聞きたいことが、ドロドロとした声が頭をぐるぐると回った。
レオンハルト様は、犯すことで自分に辱を受けさせようとしているのかもしれない。馬鹿な考えだと、あまりに無礼で失礼だと、捨てた思考が戻ってくる。今日まで、ずっと考えていたのだ。何故、自分のような騎士がレオンハルト様の閨に呼ばれたのかと…。
「申し訳、、ありません、」
そんなに、それほどまでに貴方は俺がお嫌いですか…。
慈しみの王子と呼ばれるこの真っ白なお兎に俺はどうしてきらわれてしまったのだろう。
この優しいお人に嫌われてしまうほど、俺は醜い存在なのだろうか。
涙は出ないけれど、心は悲しみを訴えていた。
「キスくらいは、取っておいてあげる。」
顔を背けた俺に一段と低い声で呟くように言った後、レオンハルト様はこの身をベッドに埋めるように押し倒した。はらりと白い髪が頬に掛かり、くすぐったい。腕を抑え込むように組み敷かれて、少しだけ恐怖心が湧いた。逃げようと思えば逃げられる。だって俺は、このお人よりずっと強い。けれども逃れられないのは、彼が皇太子であるから、これが勅令であるから…きっとそうだ。首筋にレオンハルト様の唇が触れる、柔らかくもゾクリとする感覚。ちゅう、ちゅっ、と音を立てながら開けさせたガウンの隙間に手が入り込む。初めて経験に無意識に体が震えた。
そうして、ついレオンハルト様の身を押し返すように触れてしまっていた。
ああ、しまった。
怒られてしまう、叱られてしまう。早く謝らなければと口をハクハクさせていると、キスをやめたレオンハルト様と瞳が合った。それから彼は、落ち着かせるように俺の髪や耳を撫でてくれた。
「気に入った者を傷付けないように、ちゃんと愛せるように、逃さないように、この時間が必要なんだ。聞いているだろうけど、僕が初物を相手するのは君がはじめて。痛かったり嫌なことがあれば、全て声に出して教えなさい。もちろん、気持ち良いというのもちゃんと口に出すんだよ? そうでないと、分からないからね。」
優しい手つきに、優しい声。
今まで、おおよそ自分に向けられたことのない、ふわふわとした柔らかなそれに俺の身体の強張りが少しだけほどけた。
これから自分を嫌う相手に愛されることなく抱かれるのだと思うと憂鬱な気持ちが滲んだ。それでも逃れることなどできない。この閨は勅令であり、今後数が月…もしくは数年続く。不安に揺れる胸が鼓動を少しずつ早めていく。ノックの数秒後、ガチャリと扉が開いた。
「…っ、ボロルフ・ベアルドでございます。」
緊張で思わず顔も見ずに頭を深々と下げた。
「お待ちしておりました。ベアルド様、どうぞこちらへ」
けれど出迎えたのは、レオンハルト様ではなかった。
髪を引っ詰めたメイドが視線も合わせずにボロルフを招き入れる。
「湯とタオルが置いてありますから、終わった後にご自分で綺麗にして下さい。ベッサイドに錠剤があります。余程痛みを伴う場合に使用するものですが、今回の場合は極力使わないようにして下さい。レオンハルト様の初物相手として宛てがわれていることを忘れずに。潤滑液もベッドサイドに置いてありますがベアルド様は基本、レオンハルト様に身を委ねる形で構いません」
彼女は、部屋にあるモノをざっくりと説明して更に奥へと進んだ。
王宮は俺が初物であると確信している様子だ。確かに、そうなのだが…。
しかし、行為の時には薬を使うことがあるとは知らなかった。
痛みを和らげるもののようだが、初物には使われないとなると、この役目が自分に回ってきたことに少し納得ができる。
「レオンハルト様、ベアルド様がいらっしゃいました」
「ああ、分かった。レイラちゃん、今日はもう良いよ。お疲れ様」
「はい、では失礼します」
早々にレオンハルト様とふたりっきりにされ戸惑う。
緊張でドギマギしながら恭しく膝を付き頭を垂れた。
「今晩から閨のお供をさせていただきます。ボロルフ・ベアルドでございます」
レオンハルト様は、広く大きなベッドの上で優雅にワインをお飲みになっている。
長い手足と色白な肌、王家特有のピンっとたった立ち耳と赤い瞳、顎下まである白い髪。
他国の貴族からも『美しさに、ため息が出る』と言われる一族だ。
「此処に」
ベッドへと招かれ、緊張で心拍数の上がる胸に知らぬふりをしながら立ち上がる。
足が重い、遠くはないはずなのに遠く感じる。
美しくも恐ろしい瞳がジッと自分を見ている。
やっとの思いでベッドに近づくと、レオンハルト様に腰を引かれ、ストンとベッドの上に座ってしまった。
酒で温まった白い手の甲が俺の頬をそっと撫でる。
「閨ではね、どんな相手でも恋人のように扱わねばならないんだ」
間近に迫ったレオンハルト様が冷え冷えとした表情で言う。いつもそうだ、俺はレオンハルト様に微笑んでいただいたことが一度もない。俺以外の人々には、とても優しく慈しむような微笑みを浮かべるというのに。俺には大抵こんな風に、目も合わせず冷たい。そんな彼は俺の顎を掴み、つまらなそうに、暇や間を潰すように唇をスリスリと撫でた。
その視線の冷たさに耐えきれず、項垂れるように顔を逸らしてしまった。
『どんな相手でも恋人のように扱わねばならない』
そんなことをわざわざ言うような相手を 何故、閨に呼ぶのですか。
何故、俺を選んだのですか。
どうして、俺を嫌いになったのですか。
聞きたいことが、ドロドロとした声が頭をぐるぐると回った。
レオンハルト様は、犯すことで自分に辱を受けさせようとしているのかもしれない。馬鹿な考えだと、あまりに無礼で失礼だと、捨てた思考が戻ってくる。今日まで、ずっと考えていたのだ。何故、自分のような騎士がレオンハルト様の閨に呼ばれたのかと…。
「申し訳、、ありません、」
そんなに、それほどまでに貴方は俺がお嫌いですか…。
慈しみの王子と呼ばれるこの真っ白なお兎に俺はどうしてきらわれてしまったのだろう。
この優しいお人に嫌われてしまうほど、俺は醜い存在なのだろうか。
涙は出ないけれど、心は悲しみを訴えていた。
「キスくらいは、取っておいてあげる。」
顔を背けた俺に一段と低い声で呟くように言った後、レオンハルト様はこの身をベッドに埋めるように押し倒した。はらりと白い髪が頬に掛かり、くすぐったい。腕を抑え込むように組み敷かれて、少しだけ恐怖心が湧いた。逃げようと思えば逃げられる。だって俺は、このお人よりずっと強い。けれども逃れられないのは、彼が皇太子であるから、これが勅令であるから…きっとそうだ。首筋にレオンハルト様の唇が触れる、柔らかくもゾクリとする感覚。ちゅう、ちゅっ、と音を立てながら開けさせたガウンの隙間に手が入り込む。初めて経験に無意識に体が震えた。
そうして、ついレオンハルト様の身を押し返すように触れてしまっていた。
ああ、しまった。
怒られてしまう、叱られてしまう。早く謝らなければと口をハクハクさせていると、キスをやめたレオンハルト様と瞳が合った。それから彼は、落ち着かせるように俺の髪や耳を撫でてくれた。
「気に入った者を傷付けないように、ちゃんと愛せるように、逃さないように、この時間が必要なんだ。聞いているだろうけど、僕が初物を相手するのは君がはじめて。痛かったり嫌なことがあれば、全て声に出して教えなさい。もちろん、気持ち良いというのもちゃんと口に出すんだよ? そうでないと、分からないからね。」
優しい手つきに、優しい声。
今まで、おおよそ自分に向けられたことのない、ふわふわとした柔らかなそれに俺の身体の強張りが少しだけほどけた。
31
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
悩ましき騎士団長のひとりごと
きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。
ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。
『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。
ムーンライト様にも掲載しております。
よろしくお願いします。
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました
おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる