上 下
27 / 29
パン屋と最推しと俺

25話 双子座は、名探偵。

しおりを挟む


 屋敷の自分の部屋に戻ると、そこは蝋燭の炎によってぼんやりと明らんでいる。
 驚いたけれど、決してそれを表情には出すことはしない。
 むしろ、今まで彼らが俺の行動を見逃していてくれたことの方が驚きなのだから。

「「おかえりなさい…、メソ様」」

 薄明かりの中、睨むような二人の眼光に俺は、静かに瞳を閉じた。
 さぁ、どのように言い訳をすべきか…否、言い訳なんてすべきじゃあない。
 この場をどのようにして収めるかが重要だ。

「毎週深夜、此処を抜け出して何故、今日までお母上様にもお父上様にも咎められなかったのか考えたことはありますか?」
「…はい、すみません。それに関しては、ありがとうございます」

 自分で掛けた声の制限魔法を解除し、答える。本当に、この双子様に隠し事をするのは難しい。俺は正座をして、双子様は仁王立ちだ。他所から見れば、もうどちらが主人であるか分からない状態である。だが、これに関しては俺が100%悪いので、土下座する勢いである。本当にごめんなさい。そんで、母上と父上に黙っていてくれて…、他の従者からも上手く隠してくれてありがとうございます。感謝しかありません。
 
「何から問い詰めたらいいのか、もう分からないよ。」
「…はい、すみません」
「メソ様は、僕らから聞きたいことはありますか?」
「うっ…、そうですね、その、どのくらい、どれだけのことを、いかほどご存じで…?」

 何となく分かる…。おそらく、二人の堪忍袋の緒が切れたのだと。
 もう、仏の顔も無くなってしまったのだと。
 ので、いっそのこといっぺんに叱られてしまいたい!
 自分、どうなってもいい覚悟です!

「はぁ…、ご自身の部屋に地下を作り、テンタルクを生かしたまま飼っていることですか?」

 綺麗に編んだ三つ編みの先をいじいじしながら、カストルが言う。
 げっ、バレているかもしれないと思っていたが本当にバレていたとは。

「本当は、ずっと前にスピカの魔法など解いてしまっているというのに、声が出ぬよう毎度ご自身で魔法を掛け直していたことですか?」
「僕たちの使い古したハンカチやネクタイや下着の果てまで収集していることかなぁ?」
「なぁっ…!」
「あと、下町のパン屋に貢いでること?」
「みっ、貢いではない!」
「閨事は、上手になりましたか?」
「…っ!み、見ていたんですか⁉︎」

 閨事という単語に思わず大きく反応してしまう。
 耳が燃えるように熱くなるのを感じながら、ガバリと顔を上げた。

「「はぁ?」」
「本当にそういうことしてたんだ?」
「まさかとは思っていましたが…」
「なっ!鎌をかけましたね!ずるいですよっ!」

 焦って俺がそういうと、二人の冷たい視線に射抜かれた。
 ごくりと、生唾を飲み込む音が自分の喉から聞こえてくる。

「それとも、まだ二ヶ月の謹慎が解けていないと言うのにくんを地下室に匿っていることぉ?」
「…⁉︎」

 そ、それもバレている⁉︎  スピカに異変はなかったはずだが!
 スピカが何かされているのではないかと、不安がよぎるが、それはすぐに双子様によって否定された。

「安心してください、彼には何もしていませんよ」
「テンタルクの餌になっている時点で、相当可哀想だもん」
「メソ様は、僕たちよりエグいことしますね」

 な、人聞きの悪い!これは、利害の一致だ。同意の上で、彼はテンタルクの世話をしてくれているんだ。むしろ、スピカが進んでテンタルクを可愛がっているのだから!拷問のようなものと一緒にしないでいただきたい。

「うわぁ、メソ様ってたまに本気でわかっていないときあるよね。こわーい」
「僕がアレの立場じゃなくて本当に良かったです…。まぁ、アレも大概ですが」
「恨みつらみや仕返しじゃないのが一番怖いところだよね」

 何やらぶつぶつ陰湿な陰口を言われているようだが、俺には聞こえない。
 うん、聞こえない、何も。

「本当に何もかも筒抜けだったわけですね」
「ええ。メソ様は時々、いえ、かなり抜けていますから」
「夢中になればなるほど、杜撰ずさんだよねー」

 今度は、ド直球に、ストレートにぶつけられた。
 あいわかった、よく聞こえましたよ。
 こんな主人じゃあ、双子様もさぞ大変なことでしょう…、とほほ。
 
 さて、気分を改めて、湯浴みでもしよう。ああ、その前に、とっくにバレてしまっていたことだし、ついでに今日買ったパンと美味しそうなミルクスープの土産を差し入れにスピカとテンタルクの様子でも見に行きますかな。なんて、考えていると、押さえつけるように両肩を掴まれた。た、立ち上がれない…。目の前には、怖い顔をした双子様。

「何を、勝手に話が終わった顔しているんですか?」
「言っておくけど、これからだから、ちょっと謝ったくらいじゃ終わらないことくらいわかってるでしょ」

 なんか、このまま有耶無耶にすればイケる気がしたけど無理でした。
 俺は、余計に双子様の怒りを煽ってしまったようだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

悪役令嬢の義弟に転生した俺は虐げられる

西楓
BL
悪役令嬢の義弟になったときに俺はゲームの世界に転生したことを知る。ゲームの中で俺は悪役令嬢に虐待される悪役令嬢の義弟で、攻略対象だった。悪役令嬢が断罪するその日まで俺は… 整いすぎた人形のような美貌の義父は… Rシーンには※をつけてます。 ※完結としていたのですが、その後を数話追加しますので連載中に戻しました。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

悪役令嬢の兄になりました。妹を更生させたら攻略対象者に迫られています。

りまり
BL
妹が生まれた日、突然前世の記憶がよみがえった。 大きくなるにつれ、この世界が前世で弟がはまっていた乙女ゲームに酷似した世界だとわかった。 俺のかわいい妹が悪役令嬢だなんて!!! 大事なことだからもう一度言うが! 妹が悪役令嬢なんてありえない! 断固として妹を悪役令嬢などにさせないためにも今から妹を正しい道に導かねばならない。 え~と……ヒロインはあちらにいるんですけど……なぜ俺に迫ってくるんですか? やめて下さい! 俺は至ってノーマルなんです!

異世界転生したけどBLだった。

覚える
BL
「行ってきまーす!」 そう言い、玄関の扉を開け足を踏み出した瞬間、 「うわぁぁ〜!?」 玄関の扉の先にはそこの見えない穴があいてあった。俺は穴の中に落ちていきながら気を失った。 気がついた時には知らない屋敷にいた――― ⚠注意⚠️ ※投稿頻度が遅い。 ※誤字脱字がある。 ※設定ガバガバ            などなど……

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

ラノベ世界に転生した僕の、バッドエンドのその先は…

もうすぐ3時
BL
気が付いたら赤ちゃんになってました。 しかも、 愛読書の中の登場人物(悪役ポジション)になっているようです。(遠い目)

処理中です...