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パン屋と最推しと俺
25話 双子座は、名探偵。
しおりを挟む屋敷の自分の部屋に戻ると、そこは蝋燭の炎によってぼんやりと明らんでいる。
驚いたけれど、決してそれを表情には出すことはしない。
むしろ、今まで彼らが俺の行動を見逃していてくれたことの方が驚きなのだから。
「「おかえりなさい…、メソ様」」
薄明かりの中、睨むような二人の眼光に俺は、静かに瞳を閉じた。
さぁ、どのように言い訳をすべきか…否、言い訳なんてすべきじゃあない。
この場をどのようにして収めるかが重要だ。
「毎週深夜、此処を抜け出して何故、今日までお母上様にもお父上様にも咎められなかったのか考えたことはありますか?」
「…はい、すみません。それに関しては、ありがとうございます」
自分で掛けた声の制限魔法を解除し、答える。本当に、この双子様に隠し事をするのは難しい。俺は正座をして、双子様は仁王立ちだ。他所から見れば、もうどちらが主人であるか分からない状態である。だが、これに関しては俺が100%悪いので、土下座する勢いである。本当にごめんなさい。そんで、母上と父上に黙っていてくれて…、他の従者からも上手く隠してくれてありがとうございます。感謝しかありません。
「何から問い詰めたらいいのか、もう分からないよ。」
「…はい、すみません」
「メソ様は、僕らから聞きたいことはありますか?」
「うっ…、そうですね、その、どのくらい、どれだけのことを、いかほどご存じで…?」
何となく分かる…。おそらく、二人の堪忍袋の緒が切れたのだと。
もう、仏の顔も無くなってしまったのだと。
ので、いっそのこといっぺんに叱られてしまいたい!
自分、どうなってもいい覚悟です!
「はぁ…、ご自身の部屋に地下を作り、テンタルクを生かしたまま飼っていることですか?」
綺麗に編んだ三つ編みの先をいじいじしながら、カストルが言う。
げっ、バレているかもしれないと思っていたが本当にバレていたとは。
「本当は、ずっと前にスピカの魔法など解いてしまっているというのに、声が出ぬよう毎度ご自身で魔法を掛け直していたことですか?」
「僕たちの使い古したハンカチやネクタイや下着の果てまで収集していることかなぁ?」
「なぁっ…!」
「あと、下町のパン屋に貢いでること?」
「みっ、貢いではない!」
「閨事は、上手になりましたか?」
「…っ!み、見ていたんですか⁉︎」
閨事という単語に思わず大きく反応してしまう。
耳が燃えるように熱くなるのを感じながら、ガバリと顔を上げた。
「「はぁ?」」
「本当にそういうことしてたんだ?」
「まさかとは思っていましたが…」
「なっ!鎌をかけましたね!ずるいですよっ!」
焦って俺がそういうと、二人の冷たい視線に射抜かれた。
ごくりと、生唾を飲み込む音が自分の喉から聞こえてくる。
「それとも、まだ二ヶ月の謹慎が解けていないと言うのに一番星くんを地下室に匿っていることぉ?」
「…⁉︎」
そ、それもバレている⁉︎ スピカに異変はなかったはずだが!
スピカが何かされているのではないかと、不安がよぎるが、それはすぐに双子様によって否定された。
「安心してください、彼には何もしていませんよ」
「テンタルクの餌になっている時点で、相当可哀想だもん」
「メソ様は、僕たちよりエグいことしますね」
な、人聞きの悪い!これは、利害の一致だ。同意の上で、彼はテンタルクの世話をしてくれているんだ。むしろ、スピカが進んでテンタルクを可愛がっているのだから!拷問のようなものと一緒にしないでいただきたい。
「うわぁ、メソ様ってたまに本気でわかっていないときあるよね。こわーい」
「僕がアレの立場じゃなくて本当に良かったです…。まぁ、アレも大概ですが」
「恨みつらみや仕返しじゃないのが一番怖いところだよね」
何やらぶつぶつ陰湿な陰口を言われているようだが、俺には聞こえない。
うん、聞こえない、何も。
「本当に何もかも筒抜けだったわけですね」
「ええ。メソ様は時々、いえ、かなり抜けていますから」
「夢中になればなるほど、杜撰だよねー」
今度は、ド直球に、ストレートにぶつけられた。
あいわかった、よく聞こえましたよ。
こんな主人じゃあ、双子様もさぞ大変なことでしょう…、とほほ。
さて、気分を改めて、湯浴みでもしよう。ああ、その前に、とっくにバレてしまっていたことだし、ついでに今日買ったパンと美味しそうなミルクスープの土産を差し入れにスピカとテンタルクの様子でも見に行きますかな。なんて、考えていると、押さえつけるように両肩を掴まれた。た、立ち上がれない…。目の前には、怖い顔をした双子様。
「何を、勝手に話が終わった顔しているんですか?」
「言っておくけど、これからだから、ちょっと謝ったくらいじゃ終わらないことくらいわかってるでしょ」
なんか、このまま有耶無耶にすればイケる気がしたけど無理でした。
俺は、余計に双子様の怒りを煽ってしまったようだった。
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