ウザキャラに転生、って推しだらけ?!表情筋を殺して耐えます!

セイヂ・カグラ

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はじまり

15話 ああ、王子様よ!

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 はて、なかなか来ることのない保健室を飛び出してきたのは良いものの、ここが学園の何処であるかイマイチ分からない。扉の向こうからは、カストルとポルクスの声が聞こえてくる。なぜなら、追いかけてくる二人を少しだけ閉じ込めているから。まぁ、これは事故防止。うん、大丈夫。あの双子様は優秀だからすぐに抜け出してくるだろうけど、スピカを見つけるまで少しの時間でも離れられればいい。その頃には双子様も落ち着いているだろう。血迷っていたと気がつくはずだ。

 足早に歩き、キョロキョロとスピカを探す。どこにいるのだろうか。スピカの魔力を探していると、不意にとびきり強い魔力にぶつかった。…なんだこの強すぎる魔力は。まるで、俺の大好きなあの人みたい。

「!」

 目の前に突如として現れた、太陽よりも眩しい光。思わず目をつぶってしまうくらい、まばゆい。やわらかな金髪が揺れ、淡い桃色の瞳と目が合う。太陽くらい眩しいお星様、俺にとっての最推し、神様。そのお人は、俺と目を合わせると、スッとその目を薄くした。

「おい、お前…いつもオレを見ている奴だね……」
「…(ユ、ュ…ユピテル様!?)」

 な、なっ、こんなところに、最推し?! 
 ど、どいうことだ、頭が混乱する。
 いや、まて、そんなことより、今、なんとおっしゃった?!

「ほう? このオレに話しかけられて、表情一つ変えないとは」

 と、とりあえず逃げよう。光合成(?)しすぎて、灰になる。
 え~と、相手は王子様だから頭を下げて…。

「おい待て。今度は逃さないよ?」

 そう言って、ユピテル様は、俺の腕を強く掴んだ。そりゃあ、もう痛いくらい。だが、そんな痛みなど気にならないほど、心臓の方がドクドクと痛い。思わず緩みそうな頬を必死に抑えているせいで表情筋が攣りそうになる。そんでもって俺の頭の中は、出せない声や表情とは真逆に、非常にうるさいことになっていた。

「……(なっ!?えっ、へっ!?う、うううでを、最推しに腕を掴まれ…さ、触れられている…?!こ、こんな、だめだ、死んでしまう!俺なんかに触らないでください!王子様!汚れちゃいますよっ!さようなら、王子様!俺のことなんか忘れてください!最推しをこんな間近で見れて嬉しいけど、でも、俺の推し活に触ったり会話したりなんてありえないんですーー!)」

 腕を振り払おうとするが、力が強すぎて掴まれた腕が抜けない。それどころか、より一層力が増して、いよいよ痛みに顔が歪んだ。ギリギリと音を立てて骨が軋む。

 はぁっ…、はぁっ…、けれどもなんて美しい…。
 麻酔のようなユピテル様の美しさに思わず、目が奪われてしまう。

「何?今度は、このオレを睨むのかい?」
「…っ、」

 そう言われ、俺はブンブンと慌てて首を横に振った。

「……(いやいや、睨むとかではなく…! ただ、離してほしくてですね! はぁっ!なんて長いまつ毛…! 瞳は桃色で、色が白くて、なんて綺麗なんだろう! 怒っているんですか? ユピテル様が俺に向かって怒りという感情をぶつけていらっしゃる…。いや、待てよ?落ち着けぇ、落ち着け。俺は睨んでるんじゃないんです! そろそろ腕が痛くってですね! ああ、やっぱ声が出ないって不便かもしれない。利き手を掴まれてちゃ、文字も書けないし…、どう伝えるべきか)」
 
 声を出せない俺の頭の中は、いつも以上に文字列が多い。
 というか、我ながら本当にうるさい。

「民衆や…、生徒たちの中からお前の視線だけ強く感じてきた。お前は、どこからともなくいつもオレに視線を送ってくるね? その分厚い眼鏡越しであれば、気が付かないと思ったかな? いつもコソコソと隠れて覗き見ているようだけど、お前はタッパが他より大きいから、こちらからもよく見えるんだ。見ていない、知らないなど白をきらないでくれよ。」

 俺のストーカー行為を一気に言い放ったユピテル様は、落ち着かせるように小さく呼吸を整えた。

「……一体、何を企んでいる?」

 不愉快そうに眉をひそめて、ユピテル様が俺を睨む。強く掴まれたままの腕は、血流が止まって変色しはじめた。

「……っ!(なっ、ぁ、そんな、見てたのがバレていたなんて…。いやいや、その前に!俺、何も企んでません!その、人を追い詰めるような冷たい視線、低い声っ…。かっこよすぎて俺、もう本当に灰になりそうです。)」
 
 動揺に少しだけ、目を見開いた俺の表情の変化に気が付いたユピテル様は、ニヤリと口角を上げた。さながら、ようやく裏切り者を見つけたように、獲物を捕らえた獣ののように、悦楽に似た歓喜を小さく瞳に映して。

 はっ、ちょっと待てよ…。

 この恐ろしい瞳を俺は知っている。ゲーム内で何度も見た。何時間も眺める日だってあった、描かれる彼のキャラデザの表情の中で最も好きな瞳。残虐で、王子とは思えない極悪さを持ち、魅惑にも思える悪魔をチラつかせる。俺の大好きな、ユピテル様。

 俺の最推しユピテル様は暴君だ。だからこそ、恋人のためなら何でもする。例えば、(プレイヤー)恋人に言い寄っただけで相手を処刑してしまったり、恋を邪魔するのなら王であるお父上、恋人の家族すら手に掛けようとしたり、恋人を拘束、軟禁、監禁。ゲーム内では、その独占欲のあまり、バッドエンドになりがちだ。攻略できたと言う人は、課金勢の中からでもほぼ聞いたことがないほどの難キャラ。そういうドSで横暴な権力を振りかざす、悪にも似た愛情表現がキャラとして好きだった。だ、け、ど!! いざ目の前にいると思うと少々…、いや、かなり怖い気がしてくる。それは、今にも折られてしまいそうな俺自身の腕が悲鳴を上げているから余計。

 だって、なんかほら、気に入らない者は処刑処刑!処刑!な王子様だから…つまり………。
 ユピテル様を見すぎた視姦罪とかで処刑されちゃったりして!?
 しかも、今まさに俺の腕、折られちゃいそうだし!
 いやっ、いやー!! 俺まだ死にたくないよぉ!!
 もっとBL世界、楽しみたいよォ(泣)

「フッ、だんまりしたまま答えないつもりなんだ。このオレを前にしていい度胸じゃないか」
 
「……っ(いい度胸もなにも…今は、訳あって声が出ないんですっ。そんな、逆らうとか企んでるとかじゃなくて…!だって、俺、俺…、ずっと、あなたのことが………)」
「まさかお前、ただオレを好いているなどと馬鹿げたことを言うわけじゃないだろうね?」
「……!」
 
 ジッとユピテル様に見つめられて、そう言われ、顔がぼっと熱くなった。
 思わず目を逸らして俯き、タイルの床を見た。
 そんなの、好きに決まってる…!


 
「……?ははっ!まさか本当に…!ははっ!おもしろい、気に入ったよ。そうかそうか、お前はオレを好いていると。あはははっ!」

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