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はじまり
2話 美しい双子座
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「聞きましたよ」
「メソ様は僕たちを解雇するおつもりで?」
部屋に戻ると、例の件の双子が仁王立ちで立っていた。とても従者とは思えない態度である。けれども、そんな二人がとても眩しい。思わずニヤけてしまいそうになるのを必死に抑えながら、その顔面の造形美に集中した。推しを目の前にした喜びと、元来のコミュ障が喧嘩をするが、とにかく重要なことだけを伝えなければ…。
「か、解雇はしません。ただ俺を放任してください。着替え、風呂、食事、すべて自分で、できますので」
片手をぴしっと双子に向けて、淡々と告げる。
以前、メソであった頃は風呂、着替え、食事、髪のセットに至るまであらゆる全てを双子に任せていた。
そんな、推しに触れられるなんて、ましてや触れるなんてそんなこと…。
「やれやれ、メソ坊っちゃんは反抗期のようですね」
「メソ様に全て一人でできるとは思えないね」
呆れたように双子に笑われるが、俺はこの意見を覆すことはない。何故なら前世の記憶があるからな。今の俺、今のメソには料理だってできる。一人暮らし歴12年の独り身男をナメるなよ。
「あ、あと半径一メートル以内に入らないでください」
「「はぁ⁉」」
俺は推しを遠くで眺めたい派だ。できれば画面越しくらいが丁度いい。
まぁ、メソはもともと気難しい?タイプなのでこれくらいのことを言っても問題ないだろう。
双子は顔を見合わせているが、俺は気にしない。
この美しい顔を2つも毎日拝めるなんて幸福すぎてバチが当たりそう。
まぁ、ほどほどの距離で楽しむとしよう。
ほどほど、そうほどほどにね。
【翌朝】
「あぁあっ、七三分けが難関すぎるんだが!!」
朝、顔を洗い、用意された制服に着替えた俺はメソのトレードマークである七三分けに挑戦していた。だが、単純なように見えてこれが案外難しい。メガネを付けたまま髪をいじれないので外してるが、そうするとド近眼なので全く髪の様子が見えない。できたと思ってメガネを付けると髪がハネていたり、余計な毛が余っていたりと朝から大苦戦。そうこうしているうちにいつもなら朝食を食べはじめる時間になってしまう。いかんいかん、このままでは遅刻してしまう。
「ぅう、くそぅ、致し方がない…」
俺は、七三分けを目指していた前髪を苛立ったままくしゃくしゃにして部屋を飛び出した。
「おはようございます。お父様、お母様」
「まっ、まぁっ!メソちゃまっ!」
「いやはやこれは…珍しい……」
朝食の時間に数分ばかり遅れてきた俺の方を見た二人は目を見開いている。
そして、そこには双子の姿も。朝からお美しい限りだ。
生まれてきてくれてありがとう。
「時間がないので、食べたらすぐに行きますね」
成長期故か、腹の減りを感じる。腹の減りと遅刻しそうなのとで俺は、むしゃむしゃと朝食をかき込むように飲み込んで平らげた。
ああ、まずい。このままでは本当に遅れてしまう。
俺は風紀委員でありヲタクだからな、朝には仕事がある。
そう、朝は必ずと言って良いほどイベントが起こるのだ。
それを見ずして、ヲタクを名乗れるものか!
「じゃあ、行ってきまーす!」
学園に向かう馬車には、双子も乗っているが気にしない。気になるが、気にしない。俺は空気、モブ、背景である。二人の距離が近くなったときだけ、睨むように盗み見るのだ。朝から双子は仲良しだ。双子の禁断の愛なんかも悪くない。可能性は無限大、俺の幸福も無限大。イチャイチャしてくれ、双子よ。う~~ん、さてさて、どちらを右(受け)に置いたものか。悩むところである。
前世を思い出し、すっかり腐男子なヲタクと化したメソは妄想に耽る。だがその顔に表情はなく、まるで鉄のようであった。ただ、真顔で虚空を見つめるメソに双子は多大な違和感と異常さを感じていた。
▼
場車内、カストルとポルクスは耳打ち合いながらヒソヒソとメソについて話していた。目の前に居るメソは、ぼんやりとしておりこちらに興味は無さそうだ。否、時々こちらを盗み見るように睨む視線が眼鏡の下から感じ取れる。けれども思考がどこかにいっているといえばよいのだろうか、とにかく意識がどこかに行っていて双子の話に耳を傾ける様子は無さそうだった。
メソのグルグル眼鏡から視線を受け取れるのは自分達くらいだと、双子は思っている。だってこんなにも分厚い眼鏡は、グルグルと円を描きその瞳を隠してしまう。
「ねぇ、兄さん。こんなにあからさまに反抗期が来るものなの?」
「…メソ様が変わり者なのはいつものことですが馬鹿真面目のあの人が、まさかこだわりの七三分けを捨てるとは……」
「そう!それだよ!あの七三分けをやめちゃうなんてさっ、本当に大丈夫なの?メソ様、この間倒れてからおかしくなっちゃったとしか思えない」
「頭でも強く打ったのでしょうかね…」
「「…はぁ」」
カストルとポルクスの溜息が同時に吐き出される。
メソ本人はサラサラとした少し長い前髪を気にもとめて居ない様子。
揺れる馬車の中、双子にじっと見据えられていることにすら気が付かず、学園で起こるかもしれないイベントに密かに高揚しているだけである。
(ああ、一目でいいから最推しに会いたい…)
その願いがすぐに叶うことになるなど、この時のメソは思いもしなかった。
「メソ様は僕たちを解雇するおつもりで?」
部屋に戻ると、例の件の双子が仁王立ちで立っていた。とても従者とは思えない態度である。けれども、そんな二人がとても眩しい。思わずニヤけてしまいそうになるのを必死に抑えながら、その顔面の造形美に集中した。推しを目の前にした喜びと、元来のコミュ障が喧嘩をするが、とにかく重要なことだけを伝えなければ…。
「か、解雇はしません。ただ俺を放任してください。着替え、風呂、食事、すべて自分で、できますので」
片手をぴしっと双子に向けて、淡々と告げる。
以前、メソであった頃は風呂、着替え、食事、髪のセットに至るまであらゆる全てを双子に任せていた。
そんな、推しに触れられるなんて、ましてや触れるなんてそんなこと…。
「やれやれ、メソ坊っちゃんは反抗期のようですね」
「メソ様に全て一人でできるとは思えないね」
呆れたように双子に笑われるが、俺はこの意見を覆すことはない。何故なら前世の記憶があるからな。今の俺、今のメソには料理だってできる。一人暮らし歴12年の独り身男をナメるなよ。
「あ、あと半径一メートル以内に入らないでください」
「「はぁ⁉」」
俺は推しを遠くで眺めたい派だ。できれば画面越しくらいが丁度いい。
まぁ、メソはもともと気難しい?タイプなのでこれくらいのことを言っても問題ないだろう。
双子は顔を見合わせているが、俺は気にしない。
この美しい顔を2つも毎日拝めるなんて幸福すぎてバチが当たりそう。
まぁ、ほどほどの距離で楽しむとしよう。
ほどほど、そうほどほどにね。
【翌朝】
「あぁあっ、七三分けが難関すぎるんだが!!」
朝、顔を洗い、用意された制服に着替えた俺はメソのトレードマークである七三分けに挑戦していた。だが、単純なように見えてこれが案外難しい。メガネを付けたまま髪をいじれないので外してるが、そうするとド近眼なので全く髪の様子が見えない。できたと思ってメガネを付けると髪がハネていたり、余計な毛が余っていたりと朝から大苦戦。そうこうしているうちにいつもなら朝食を食べはじめる時間になってしまう。いかんいかん、このままでは遅刻してしまう。
「ぅう、くそぅ、致し方がない…」
俺は、七三分けを目指していた前髪を苛立ったままくしゃくしゃにして部屋を飛び出した。
「おはようございます。お父様、お母様」
「まっ、まぁっ!メソちゃまっ!」
「いやはやこれは…珍しい……」
朝食の時間に数分ばかり遅れてきた俺の方を見た二人は目を見開いている。
そして、そこには双子の姿も。朝からお美しい限りだ。
生まれてきてくれてありがとう。
「時間がないので、食べたらすぐに行きますね」
成長期故か、腹の減りを感じる。腹の減りと遅刻しそうなのとで俺は、むしゃむしゃと朝食をかき込むように飲み込んで平らげた。
ああ、まずい。このままでは本当に遅れてしまう。
俺は風紀委員でありヲタクだからな、朝には仕事がある。
そう、朝は必ずと言って良いほどイベントが起こるのだ。
それを見ずして、ヲタクを名乗れるものか!
「じゃあ、行ってきまーす!」
学園に向かう馬車には、双子も乗っているが気にしない。気になるが、気にしない。俺は空気、モブ、背景である。二人の距離が近くなったときだけ、睨むように盗み見るのだ。朝から双子は仲良しだ。双子の禁断の愛なんかも悪くない。可能性は無限大、俺の幸福も無限大。イチャイチャしてくれ、双子よ。う~~ん、さてさて、どちらを右(受け)に置いたものか。悩むところである。
前世を思い出し、すっかり腐男子なヲタクと化したメソは妄想に耽る。だがその顔に表情はなく、まるで鉄のようであった。ただ、真顔で虚空を見つめるメソに双子は多大な違和感と異常さを感じていた。
▼
場車内、カストルとポルクスは耳打ち合いながらヒソヒソとメソについて話していた。目の前に居るメソは、ぼんやりとしておりこちらに興味は無さそうだ。否、時々こちらを盗み見るように睨む視線が眼鏡の下から感じ取れる。けれども思考がどこかにいっているといえばよいのだろうか、とにかく意識がどこかに行っていて双子の話に耳を傾ける様子は無さそうだった。
メソのグルグル眼鏡から視線を受け取れるのは自分達くらいだと、双子は思っている。だってこんなにも分厚い眼鏡は、グルグルと円を描きその瞳を隠してしまう。
「ねぇ、兄さん。こんなにあからさまに反抗期が来るものなの?」
「…メソ様が変わり者なのはいつものことですが馬鹿真面目のあの人が、まさかこだわりの七三分けを捨てるとは……」
「そう!それだよ!あの七三分けをやめちゃうなんてさっ、本当に大丈夫なの?メソ様、この間倒れてからおかしくなっちゃったとしか思えない」
「頭でも強く打ったのでしょうかね…」
「「…はぁ」」
カストルとポルクスの溜息が同時に吐き出される。
メソ本人はサラサラとした少し長い前髪を気にもとめて居ない様子。
揺れる馬車の中、双子にじっと見据えられていることにすら気が付かず、学園で起こるかもしれないイベントに密かに高揚しているだけである。
(ああ、一目でいいから最推しに会いたい…)
その願いがすぐに叶うことになるなど、この時のメソは思いもしなかった。
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