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はじまり
13話 雨雲で霞む双子座
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あれ…、俺、トんだ……?
「メソ様…!! ポルクス!メソ様が…!!」
「メソ様…!ごめん…、ごめんなさいっ!」
カストルとポルクス…?
眩しいくらいに美しい双子の顔が俺を覗き込む。ポルクスが飛びつくように抱き着いてきて、けれどもすぐに離れていく。ふたりはお星様のような瞳に涙を溜めて、ついには雨みたいにそれを降らせた。記憶を辿れば、自分の身に何があったのか、何故ふたりが泣いているのか、案外すぐに解ってしまった。寝心地のあまり良くない硬めのマットとシーツ。ここは、学園の保健室だろうか。まぁ、お尻は、思ったほど痛くない。俺のケツは頑丈らしい。
「僕たちが不甲斐ないから、メソ様をこんな目に合わせたんだっ」
「申し訳ありません……、謝ったって貴方様の摘まれた花を取り戻すことはできないというのに…、僕たちには謝ることしか…」
「……っ、……、、?」
気にするなと言おうと思って喉を震わせたけど、声が出ない。不思議に思って喉に触れてみるが、痛みも違和感もない。
「っ……、っ、??」
何度試しても、口がはくはくと動くだけで声が出ない。
その異変に気がついたのか、双子はさらに顔を寄せてきた。
「まさか、声が出ないのですか…?」
「アイツ…、生かしておく価値もない!!」
ガンッ!と音を立てて、ポルクスが自身の脚を打つ。そんなことをしてはいけないと、手で制するとポルクスはよりいっそう悲しい顔をした。ポルクスに気を向けていると、いつの間にかカストルが目の前から居なくなっている。慌てて探すと、彼は壁に飾られていた剣を持って何処かに向かう様子だった。
おいおい!待て!カストル、お前、まさか!
「……っ!…!」
「止めないで下さい、メソ様」
慌てて起き上がった俺に少し振り向いたカストルが暗い色をした瞳で言う。
「メソ様は、優しくて、誰にでも甘いから僕たちに任せた方が良いでしょ」
俺の肩を抑えて、諭すようにポルクスが言った。ポルクスの服をぎゅっと掴んで、視線で訴える。けれども彼は苦しい顔をするだけで、そのまま視線を逸らせてしまった。これは、絶対まずい。ふたりはきっと気が動転しているんだ。俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、このままじゃ人殺しになりかねない。
どうやって、止めたらいいんだ。
俺は重たい身体を引きずるようにベッドから下りて、カストルを追った。ポルクスが俺の名を呼んで咎めるように引き止めるけど、無視をする。
こんなつもりじゃなかった。
男同士の甘い恋愛模様が見たかった。でもだからって、こんな風にワザとらしく、わざわざ事を起こそうと、媚薬などといったものを作って、勝手に人を巻き込んで…。どう考えても全部、俺が悪い。何してんだろ、俺。「推しの邪魔はしたくない」と言っておきながら、余計なことばかりしているじゃないか。最悪だ、俺。
剣を持ったカストルは、重たい魔力を纏って、どんどんと扉へ近づいていく。
「………っ、っ!」待って、待ってくれ。
「…メソ様、貴方がどんなに引き止めようと僕はっ……!」
「っ…」
ふんわりとやわらかなのは、カストルの唇。胸ぐらを掴み、目を閉じて、俺はそっとカストルにキスをした。
何故かって、それしか思い浮かばなかったから。本当に俺の頭の中には、こんな知識やこんな情報しかない。殴られるのを覚悟し、やっとの思いで絞り出してできたのがキス。我ながら馬鹿だと思う。けれど、それは案外効果があったらしい。カストルの動きがピタリと止まり、固まった。瞑っていた目を恐る恐る開くと、俺みたいな男にキスをされてカストルは呆然としている様子だ。そりゃそうだ、こんな芋男にキスされて喜ぶやつがいるかってんだ。
カラン…カシャン…ッ
剣という名の鉄の塊が地面にぶつかる音が響く。
カストルの手からは力が抜け、美しい瞳は見開かれていた。
動かなくなったカストルを見て、俺はそっと唇から唇を放す。
俺、こんな綺麗な人に自分からキスしちゃう日が来るなんて思いもしなかったよ…。
互いに固まっていた数秒後、背後からダッダッダッ!と音が聞こえ、振り返ると目の前にはポルクスが居た。
「………!?」
肩をがっしりと掴まれたかと思えば、背伸びをしたポルクスに勢い良く唇に唇をくっつけられた。
全く、意味がわからない。
しかも唇は、ただ触れ合うだけではなかった。
俺の唇は、ポルクスの舌先で割り開かれ、ぬるりと口内に入り込んでくる。
したことのない行為に、はふはふと下手くそに呼吸を求め、絡みつく舌から舌を逃がす。
「……っ………っ、はっ……ふっ……」
声の出ない喉からは、乱れた呼吸だけが漏れる。
どうしたらいいのか、どうなっているのか、そもそも何が起こっているのか。
「~~~ッ!ポルクス!」
俺を呑み込むんじゃないかと言うほどの勢いでキスをするポルクスの肩を掴みカストルが怒鳴った。その声にびくりと肩を震わせるが、ふたりはお構いなしに睨み合う。
「なんで…っ、なんで、カストル兄さんなんだよ!」
ポルクスが今にも泣き出しそうな顔で言う。
「ポルクス、違う…きっと違いますよ……。メソ様は、僕をただ止めたかっただけです。それだけのために…」
「それでも…!それなら尚更、僕は…!」
どうしてだろう。
俺は何を間違ったのか、ふたりは酷く悲しい顔をしている。
ふたりを傷付けた。
はっきりとわかるのは、その事実だけ。
火事場の馬鹿力みたいな感じで、ようやく立っていた俺の腰が抜ける。へたりと冷たい床に座り込み、ふたりの傷付いた顔に胸が締め付けられ俯いた。顔を上げて、ふたりの顔を見ることができない。悲しい顔させたくせに、もう見るのが怖かった。ふたりに嫌われたくない。失望されたのではないか。呆れられた、怒らせた、悲しませた、傷付けた。きっと全部だ、俺が、そうさせた。
握り込んだ拳に、床に、ポタポタと雨が降る。鼻の奥がツーンと痛くなって、涙が止まらない。俺なんか泣いて良いような立場じゃないのに。もう本当にどうしたら良いのか、分からない。だって頭の中は、ずっと混乱したままなんだ。
「……っ、…っ…………っ…」
「「…メソ様……」」
「貴方は悪い子です、メソ様」
「悪い子には、お仕置きをしなくちゃいけないね」
耳元で双子に囁かれる「悪い子」という言葉。
ああ、きっとこのふたりは解っているのだ。俺が許されるための『罰』を求めていることを。
「メソ様…!! ポルクス!メソ様が…!!」
「メソ様…!ごめん…、ごめんなさいっ!」
カストルとポルクス…?
眩しいくらいに美しい双子の顔が俺を覗き込む。ポルクスが飛びつくように抱き着いてきて、けれどもすぐに離れていく。ふたりはお星様のような瞳に涙を溜めて、ついには雨みたいにそれを降らせた。記憶を辿れば、自分の身に何があったのか、何故ふたりが泣いているのか、案外すぐに解ってしまった。寝心地のあまり良くない硬めのマットとシーツ。ここは、学園の保健室だろうか。まぁ、お尻は、思ったほど痛くない。俺のケツは頑丈らしい。
「僕たちが不甲斐ないから、メソ様をこんな目に合わせたんだっ」
「申し訳ありません……、謝ったって貴方様の摘まれた花を取り戻すことはできないというのに…、僕たちには謝ることしか…」
「……っ、……、、?」
気にするなと言おうと思って喉を震わせたけど、声が出ない。不思議に思って喉に触れてみるが、痛みも違和感もない。
「っ……、っ、??」
何度試しても、口がはくはくと動くだけで声が出ない。
その異変に気がついたのか、双子はさらに顔を寄せてきた。
「まさか、声が出ないのですか…?」
「アイツ…、生かしておく価値もない!!」
ガンッ!と音を立てて、ポルクスが自身の脚を打つ。そんなことをしてはいけないと、手で制するとポルクスはよりいっそう悲しい顔をした。ポルクスに気を向けていると、いつの間にかカストルが目の前から居なくなっている。慌てて探すと、彼は壁に飾られていた剣を持って何処かに向かう様子だった。
おいおい!待て!カストル、お前、まさか!
「……っ!…!」
「止めないで下さい、メソ様」
慌てて起き上がった俺に少し振り向いたカストルが暗い色をした瞳で言う。
「メソ様は、優しくて、誰にでも甘いから僕たちに任せた方が良いでしょ」
俺の肩を抑えて、諭すようにポルクスが言った。ポルクスの服をぎゅっと掴んで、視線で訴える。けれども彼は苦しい顔をするだけで、そのまま視線を逸らせてしまった。これは、絶対まずい。ふたりはきっと気が動転しているんだ。俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、このままじゃ人殺しになりかねない。
どうやって、止めたらいいんだ。
俺は重たい身体を引きずるようにベッドから下りて、カストルを追った。ポルクスが俺の名を呼んで咎めるように引き止めるけど、無視をする。
こんなつもりじゃなかった。
男同士の甘い恋愛模様が見たかった。でもだからって、こんな風にワザとらしく、わざわざ事を起こそうと、媚薬などといったものを作って、勝手に人を巻き込んで…。どう考えても全部、俺が悪い。何してんだろ、俺。「推しの邪魔はしたくない」と言っておきながら、余計なことばかりしているじゃないか。最悪だ、俺。
剣を持ったカストルは、重たい魔力を纏って、どんどんと扉へ近づいていく。
「………っ、っ!」待って、待ってくれ。
「…メソ様、貴方がどんなに引き止めようと僕はっ……!」
「っ…」
ふんわりとやわらかなのは、カストルの唇。胸ぐらを掴み、目を閉じて、俺はそっとカストルにキスをした。
何故かって、それしか思い浮かばなかったから。本当に俺の頭の中には、こんな知識やこんな情報しかない。殴られるのを覚悟し、やっとの思いで絞り出してできたのがキス。我ながら馬鹿だと思う。けれど、それは案外効果があったらしい。カストルの動きがピタリと止まり、固まった。瞑っていた目を恐る恐る開くと、俺みたいな男にキスをされてカストルは呆然としている様子だ。そりゃそうだ、こんな芋男にキスされて喜ぶやつがいるかってんだ。
カラン…カシャン…ッ
剣という名の鉄の塊が地面にぶつかる音が響く。
カストルの手からは力が抜け、美しい瞳は見開かれていた。
動かなくなったカストルを見て、俺はそっと唇から唇を放す。
俺、こんな綺麗な人に自分からキスしちゃう日が来るなんて思いもしなかったよ…。
互いに固まっていた数秒後、背後からダッダッダッ!と音が聞こえ、振り返ると目の前にはポルクスが居た。
「………!?」
肩をがっしりと掴まれたかと思えば、背伸びをしたポルクスに勢い良く唇に唇をくっつけられた。
全く、意味がわからない。
しかも唇は、ただ触れ合うだけではなかった。
俺の唇は、ポルクスの舌先で割り開かれ、ぬるりと口内に入り込んでくる。
したことのない行為に、はふはふと下手くそに呼吸を求め、絡みつく舌から舌を逃がす。
「……っ………っ、はっ……ふっ……」
声の出ない喉からは、乱れた呼吸だけが漏れる。
どうしたらいいのか、どうなっているのか、そもそも何が起こっているのか。
「~~~ッ!ポルクス!」
俺を呑み込むんじゃないかと言うほどの勢いでキスをするポルクスの肩を掴みカストルが怒鳴った。その声にびくりと肩を震わせるが、ふたりはお構いなしに睨み合う。
「なんで…っ、なんで、カストル兄さんなんだよ!」
ポルクスが今にも泣き出しそうな顔で言う。
「ポルクス、違う…きっと違いますよ……。メソ様は、僕をただ止めたかっただけです。それだけのために…」
「それでも…!それなら尚更、僕は…!」
どうしてだろう。
俺は何を間違ったのか、ふたりは酷く悲しい顔をしている。
ふたりを傷付けた。
はっきりとわかるのは、その事実だけ。
火事場の馬鹿力みたいな感じで、ようやく立っていた俺の腰が抜ける。へたりと冷たい床に座り込み、ふたりの傷付いた顔に胸が締め付けられ俯いた。顔を上げて、ふたりの顔を見ることができない。悲しい顔させたくせに、もう見るのが怖かった。ふたりに嫌われたくない。失望されたのではないか。呆れられた、怒らせた、悲しませた、傷付けた。きっと全部だ、俺が、そうさせた。
握り込んだ拳に、床に、ポタポタと雨が降る。鼻の奥がツーンと痛くなって、涙が止まらない。俺なんか泣いて良いような立場じゃないのに。もう本当にどうしたら良いのか、分からない。だって頭の中は、ずっと混乱したままなんだ。
「……っ、…っ…………っ…」
「「…メソ様……」」
「貴方は悪い子です、メソ様」
「悪い子には、お仕置きをしなくちゃいけないね」
耳元で双子に囁かれる「悪い子」という言葉。
ああ、きっとこのふたりは解っているのだ。俺が許されるための『罰』を求めていることを。
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