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はじまり

10話 一番星にプレゼント

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 テンタルクのオナホは、少し改良が必要そうだった。双子様にサンプルを頂き、観察しているとテンタルクの一部であるにも関わらず、オナホの中に射精した精液で養分を得てしまい、復活しようとしている様子が見られた。しぶとい、と言うべきか生命力の強い魔物だ。使い捨てのつもりで作ったが、これではテンタルクを育てていることと変わりない。そこで、俺はオナホの改良に至った。ざっくり簡単に説明するとテンタルクの全ての核となる部分を事前に破壊しておくのだ。そうすると、それはただのテンタルクの死骸となる。無機質なシリコンのオナホと変わりないということだ!

 さてさて、俺の最高傑作『発情誘発ボンボン』をスピカに渡すべく、ひっそりとポケットに潜ませていたのだが…何故か最近、双子様がいつも以上に離れない。だからスピカを見つけても渡すタイミングがないのだ。良く考えてみれば、双子様を治験に呼んだのは失敗だった。このボンボンの作用も事細かに説明してしまったし…俺は一体、何をやっているんだろう。とんだ大馬鹿者じゃないかっ。それでも、俺の今回の使命はスピカにこのボンボンを渡すこと。そのために徹夜をした、身体も張った、恥を忍んだ。そして俺は、双子様を巻いた。仕方がなかったんだ、これは双子様にこそバレてはいけない。

 あぁっ、楽しみだ!
 スピカに誘惑される双子様!
 まるで教会の壁画のようなワンシーンとなるだろう。

 俺は高揚する胸を押さえ早朝、いつもの図書室に向かった。重たく大きな扉を押すと、そこには眩しいほど輝くレモン色の小さな頭。紙をめくる指先、椅子に座る姿からはちょこんという音が聞こえそう。ギーと木の軋み、そっと締めたつもりでも扉がバタンっと音を立てる。

「…!メソ様っ、今朝も来てくれたのですねっ」

 眩しすぎる笑顔でこちらを振り向くスピカに俺はあまりの光の強さで思わず目を瞑った。俺があんないじわるをしてもこの輝き…。椅子から立ち上がったスピカがこちらに駆けてくる。そして、両手を広げるとふんわりと胸の中に飛び込んできた。やわらかなお日様のような匂いがする少年を受け止め、俺も笑みを返した。

「おはよう、スピカ。今朝も偉いな」
「いいえ! メソ様が来ると分かっていたから待っていました」
「ふふっ、可愛いことを言うやつだ」

 このハグが最近では、恒例行事のようになっている。胸の上から俺を見上げる瞳はキラキラしていて「可愛い…」と思わず漏れてしまう。最近では、スピカを弟みたいに感じるほどだ。健気で努力家、親切でとにかく良い子なんだ。嫁に出すのが悲しくなる!

 よしよしとやわらかなレモン色の髪を撫でてやる。スピカは猫や犬のように目を細めて、気持ちよさそうな顔をする。このままでは、彼の可愛さで話が進まない。それにかんばせが美しすぎる…! 俺は、牛乳瓶の底みたいな眼鏡をそっと外した。そうすると、もうなにも見えない。ぼんやりと形が分かるくらいで、顔は見えなくなる。うん、これで集中できるな。「座ろう」と声をかけて、ふたり椅子に腰掛ける。眼鏡は、机の上に置いておいた。

「あっ、また眼鏡を外してる!ふふっ、おれ、メソ様の眼鏡を外したお姿、結構お気に入りなんです」
「ほう、それは嬉しいな」
「外してくれたら目が合うし、メソ様の瞳は真っ黒で夜空みたいだし、切れ長でシュッとしていて、とっても綺麗…。メソ様は、いつも、おれなんかのこと綺麗っていうけど、おれはメソ様の方が、うんと綺麗だと思ってます」

 スピカが俺の頬に手を伸ばし、そう言ってくれる。
 そのやわからな指先はとてもあたたかい。

「でも、メソ様が眼鏡を外される姿をこんなにも見ているのはおれくらいでしょ?」
「ははっ、そうだな。あとは、カストルとポルクスくらいだ」  

 笑いながらそういうと、頬から移り耳を触れていたスピカの指にきゅっと力が入った。
 少しだけ痛みを感じて顔を顰めてしまう。

「っ……?」

 けれどもそれは一瞬で、それっきりスピカの手は離れていった。

「あぁ、そうだ。一番、重要なことを忘れていた」
「重要なこと?」
「そうだ。スピカにプレゼントをだな!」
「ぷ、プレゼント…! なぜ、おれのために?」
「スピカ、もうすぐ誕生日だろう」

 そう言いながら、ポケットに忍ばせていたボンボンを取り出す。街で購入した花がらの小さな缶のケースに適当に詰めただけの簡素な梱包だけれど、思いはいっぱい詰まっている。それをそっと、スピカの前に出す。

「じ、実はそれ、手作りなんだ」
「…あ、ありがとうございますっ」

 缶の蓋を開けたスピカは「わぁっ…!」と声を出した。きっと、キラキラとした綺麗な瞳で子どものようにはしゃいだ顔が見れただろう。でも、まだ眼鏡は付けられない。そんなもの見たら虜になって肝心の説明ができない。

「まだ、食べてはいけないよ」
「えっ、どうして…」
「それはね、スピカが心に決め人の前で食べるんだ」

 俺が急に真剣な声を出すものだから、スピカも座り直してこちらに向き直る。

「心に決めた人…?なぜ」
「そのお菓子の名は『発情誘発ボンボン』だ」
「は?」
 
 俺は、改めて発情誘発ボンボンの説明をする。食べれば媚薬、相手にはフェロモンが漂う最高のおクスリ♡ この世界に違法薬物という概念がなくて良かった。もしもそんな概念があったら、こんなものを作ってしまった俺はすぐに獄中行きだ。

「な、なぜ、おれにこれを……?」
「なぜ、か……」

 さすがに、貴方が最高の受けだからです!とは言えない。

「ま、まぁ、スピカの気持ちを応援したいから、かな? ほら、スピカには好きな人がいるだろう?」
「えっ…!」
「ふっ、この俺にバレていないとでも?」
「そ、そんな、まさかっ、、」

 スピカは、急に俯いてモジモジとしている。うっすらと見える頬は赤らんで、恥じらっているみたいだ。

 あぁっ!かわいい!
 眼鏡を掛けてちゃんと見たいぃっ!

「あっと、そうだそうだ。これが解毒薬のタブレットだ、何かあったらこれを齧るとすぐに効く。でも、フェロモンを嗅いだ相手には興奮がどうやら残るらしい。だからフェロモンを嗅がせた相手には、このスプレーをかけなさい、一定時間眠ってくれる。言っておくがフェロモンを嗅いだ人間にしか効かないぞ。あと、それを使うなら1回一粒~二粒にしなさい。二粒以上、食べると頭が回らなくなって困る。でないと腰も立たないし、熱くてつらい、奥もジンジンして、布が擦れても……ごほんっ、まぁ、とにかく容量は守ってだな!」

 いかんいかん、あのときのことを思い出してしまった。こんな男の体験談など誰も聞きたかないだろう。しかもこんなにも美しいお星様の前で…危ないところだった。

「メソ様も、試したんですか?」

 スピカの声とは思えないほど、冷たく低い声。
 両肩を掴まれて、目を見据えられている…ような気がする。見えないケド。
 問責するようなスピカからは、ゾクッとするのうな恐ろしさを感じた。
 というより、強力な魔力を向けられている。
 え?なんで?怒ってる…?

「もう一度聞きます、試したんですか?」
「あっ、ああ。治験のために、な、はじめは効きが悪くって、つい、あとから二粒、口に……」

 お、俺、何口走ってんだろう。
 あれ?なんか、スピカがちょっと怖い。

「そのとき、他の誰かも治験に参加しましたか?」

 や、やばい、これ、答えても答えなくても殺されるんじゃ……!
 肩を掴む手がギリギリと痛い。

「聞き方を変えましょうか? 誰と治験を行いましたか?」
「ふ、…ふた、ご、、カ、カストルとポル、クス……」
「……へぇ~」

 ち、違うんだ!
 君からカストルとポルクスを奪おうとしたわけじゃない!
 言い訳をしたいのに声がでない…。
 圧倒的な魔力の圧に腰が抜ける。

「そっか、メソ様は、おれを嫉妬させる天才だね」

 えっ!嫉妬してくれた…?
 喜んでいいのか分からないけど、計画通りになった気がして一瞬、口角が緩む。
 恐怖を感じながらも笑みを浮かべた。
 当たり前だが、それが良くなかったらしい。
 スピカは一層、低く恐ろしい声で言った。

「違いますね、おれを苛立たせる天才かな?」

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