デリヘルで恋を終わらせたい。

セイヂ・カグラ

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本編

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 しばらく、沈黙が流れたような気がする。静かな部屋、遠くで何かの機械のモーターがやけに大きく聞こえた。押さえつける力は変わらなくて、だからすごく痛かった。痛かったんだ。

「泣くほどオレが嫌なの…?」
 
 ぼそりと小さく呟かれた言葉。
 
 嫌い…?
 まさか、その逆だ。
 なんてこと、言えない。

 俺が答えずに視線を逸らすと、奏はため息を吐いた。

「あっそ……。良いよ、望み通り終わらせてあげる。全部、無かったことにしてやるよ。」









▼side 奏

「ぃあ…っ!ぁあっ、かな、でぇっ。」

 筋肉質な背に汗が滲む、それといくつもの歯型とキスマークという名の鬱血。うつ伏せに押さえ込み、腰を荒々しく掴んだせいで、手の痕が残っている。指先で司の広い背中を撫でてやるとビクッと震えた。くぐもった悶える声、耳まで赤く染まって、時折見える瞳は濡れて、もう何もかもぐちゃぐちゃ。この獰猛な興奮を隠すつもりなどない。

 こんな風に犯してやりたいと、ずっと思ってきた。

「司ぁ、気持ちいい?」
「ぅう…、ぁ、や、ぁ…。」
「オレたち、親友じゃなくなっちゃったんだよぉ。ねぇ、わかる?」
「ぁあっ、や、、ひ…っ。」
「もう、わかんないかな。」

 
 腹が立って、司を押し倒して無理矢理犯し始めてからどのくらいが経っただろう。

 始めは「嫌だ、やめろ。」と暴れていた司だったが、何度も何度も強制的に射精させると段々静かになった。それでも口だけは動くみたいで、「なんでこんなことするんだ。」だの「悪かった、謝るからやめてくれ。」だの小さな声で抵抗するものだから、司が毎日着ているスーツのネクタイで声を奪った。

 指を3本ほど飲み込むようになったのを確認して、自分の欲望を司の中にねじ込む。今までで一番興奮しているかもしれない。司は、目を見開き喉が見えるほど大きく口を開けて息を詰めた。それから、困惑したように腹を撫でて、ぽろぽろと涙を流した。その反応に欲情するのと苛立つのを同時に感じて、躊躇なく奥まで中を穿つ。ズンズンと揺さぶる度、壊れたおもちゃみたいに司は喘いだ。泣いている姿が、ひどく煽情的。腰の動きと連動するみたいな連続性のある呻きと喘ぎ。前立腺を何度も刺激してやると、きゅうきゅうと吸い付くように締め付けた。熱い、どこもかしこも熱を帯びている。確実に快楽を拾っている司を見ていると、一度、射精をしたくらいじゃ興奮を抑えられなかった。

 きっと、嫌われてしまっただろう。
 後悔をするのは目に見えている。
 それでも、やめられなかった。

 だって、ずっと触れてみたかったんだ。
 
 何年も何年も親友の仮面を被ったまま、押し殺してきたものがある。
 いつか、伝えようと思っていた。
 玉砕覚悟で…、いいや、絶対に手に入れるつもりだった。
 どんな手を使ってでも囲い込んで、大事に育てて食ってやろうと思っていた。
 自分の中で異常な何かが大きく膨らんで、破裂するのが今日だっただけ。

 






 物静かな青年の涙を見たその瞬間、何かが生まれると同時に崩壊していくのを感じた。

 真面目で無口、図体がデカくて、いわゆる塩顔、女子に人気、そんなイメージ。自分もそれなりに女子に人気がある自覚はあった。女子の間ではよく、司派か奏派かというくだらない議論が行われていた。だから、どんなやつか気になって、オレから話しかけたのがはじまり。

 話してみると案外良いやつで、オレたちはどんどん仲良くなった。お互い運動が好きだったし、よく喋るオレと聞き上手な司で相性が良いみたい。高校も同じ学校に進学して、ますます互いに信頼を寄せ合った。オレは女遊びが得意で、司は相変わらず真面目。めんどうになったら別れて、また別の女が勝手に寄ってくる。楽な遊びだと思っていたのだから、我ながら最低。

 そんなことを繰り返し、呑気に過ごしていた、ある日のこと。
 
 司が泣いているのを偶然見かけた。

 ゾクゾクとした、震えるような感覚。
 どうしたの?大丈夫?そう声を掛けることが当たり前のはずなのに、喉が乾いて声が出ない。
 変わりにオレの身体に現れたのは、どうしょうもないほどの笑みだった。
 
 オレ、なんで笑っているんだろう。

 躊躇なく伸びた手で司の頬を伝う涙を拭う。司は、驚いた表情でこちらを見た。笑みを隠し心配そうに眉を下げれば、司は動揺したみたいに瞳を揺らして顔を逸らす。

 その時、自分の身体が痛いくらい反応していることに気が付き、興奮しているのだと知った。
 今までで付き合ってきた女には感じてこなかった興奮。
 帰宅後、泣いている司を思い出して自慰に耽った。

 不思議なのは、女が泣いていても面倒でむしろ苛立つだけだということ。司の涙だけが、オレをおかしくさせた。だから、司のせいでもあるんだ。

 司は、オレに少し執着があるようだった。それでいい、むしろもっと深く依存して欲しい。オレがいなくちゃ、死んじゃうってくらい依存させたかった。オレに彼女ができると、司はあからさまに落ち込んだ。ひどく悲しい顔をする司がたまらなくて、取っ替え引っ替え女遊びを司に見せつけた。真面目そうなことを言いながら、苦しそうな表情をしてくれる司が愛しい。司のいる横で女を抱いたときの興奮や快感が忘れられなくて、馬鹿の一つ覚えみたいに何度も繰り返した。

 でも、そのうち、司の様子がおかしくなった。
 夜中、トイレに籠もっていると思ったら吐いている。
 日に日に、司の顔色が悪くなっていく。
 女を連れて行く度、疲弊していく司に気が付いて、自分のしていることが怖くなった。
 それと同時に、支配欲が満たされるのも感じた。

 だから、手に入れた気でいたんだ。
 司は、もうオレから離れられないんだって。

 なのに、部屋から追い出された時、崖から落とされたみたいな気持ちになって、呆然と自分の部屋に戻った。気持ちが落ち着いて冷静になってくると、いよいよ我慢できずに、また司のアパートに行った。合鍵で部屋に入ると、男物の見知らぬ靴。ああ、確か客が来ると言っていたなと思い出して、声を掛ける。居間にいないのを確認して、1LDKの寝室の扉を開けた。

「開けるな‼」
 
 司から本気で怒鳴られたのははじめてだった。
 扉の向こう、視線の先。
 男がいて、司がいて、心臓がドグドクと嫌な音を立てる。
 明らかに、そういう行為をしていたと分かる乱れたふたり。

 混乱して、酷いことを言ったような気がする。

 司が自分以外の男に無理矢理に犯されたのだと思って…、思いたくて。これは司の意思じゃないんだと、自分に言い聞かせた。きっと、何かの間違い。

 どんな関係? 
 何をしてたの? 
 男が好きなの? 
 失恋した?
 相手は誰?
 その男は、ただの遊び相手?
 他にも、お前を抱いてきた男がいるの?
 オレの知らない間に司は男とセックスしてきたの?

 抱きしめ合う司と見知らぬ男を見たときの絶望感。
 息ができないくらい、胸中を黒いものが蠢いて蝕むような…。
 この恋が歪んだ気持ちなのは、とっくのとうに知っている。

 それからのことは、あまり記憶がない。
 気が付けば、怒りのままに司を犯していた。



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