デリヘルで恋を終わらせたい。

セイヂ・カグラ

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本編

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 インターホンが鳴り、ドアを開けると、そこには俺とそう年の変わらない好青年が立っていた。

「ご指名ありがとうございます。本日、担当するミネです。」
「ど、どうぞ、、よ、よろしくお願いしますっ。」

 緊張で心拍数が上がる。
 全力疾走をした時みたいだ。
 少し明るめの髪、運動でもしているのだろうか、ほどよく筋肉がある。
 青年、ミネが玄関から一段上がった部屋に入ると、自分の視線が上に向いた。

「背…、お高いんですね。」
 
 ついポロッと独り言が漏れる。
 あまり自分より背の高い人間とは遭遇したことがない。
 すると、ミネは一瞬だけ不思議そうな顔をして、ふんわりと柔らかく笑った。
 勢いで予約したのでキャストの情報をあまり読んでいなかった。

「ああ、オレ、バスケやってたんですよ。192センチです。でも、ツカサも身長高めだよね。」
「えっ。」

 突然、下の名前で呼ばれ、頭を撫でられ驚いた。すると、ミネはクスっと笑って、そんなにびっくりした?と首を傾げる。これから、やらしいことをする相手なのだということを会話があまりに心地よくて忘れていた。コミュニケーション能力の高い人とはこういう人のことを言うのだろう。そういえば奏も、初対面の人とすぐ仲良くなるタイプだったよな。なんて、奏のことを思い出してしまった、ダメだ、今くらい忘れよう。

「事前にカウンセリング項目に記入してくれたでしょ? ニックネームに『ツカサ』って書いてあったから…。それと、タメ口に○がついていたけど大丈夫ですか? 変更あれば言って下さいね。」
「あっ、いえ、変更無いです。大丈夫。」
「じゃあ、タメ口で。ツカサもタメ口で良いからね。リラックスして。」

 はじめて呼んだデリヘルに勝手がよく分からず、とりあえず飲み物をすすめた。すると、ミネは一瞬固まって、それから大口を開けて笑いはじめた。ひとしきり笑って落ち着くと、ミネは「本当はお客様から差し出される飲食は禁止なんだけど、ツカサくんだから良いか。貰っちゃおうかな。」と言って、お茶を選んだ。どうやら、飲食に薬物を混ぜられキャストが危険な目に合うことが時々あるらしい。初対面で俺を信用して大丈夫なのか、と聞くとミネはまた楽しげに笑った。

 ミネは話しやすくて優しい。はじめてだと、カウンセリングに記入があったからなのか、まずは世間話からはじまった。高校時代の話や仕事の話、ミネが何故この仕事をしているのか、などゆったりとした時間を過ごすことで徐々に緊張は解けていった。
 
 基本、料金は前払いで行為中に延長やオプションなどがあると、終わってからプラス料金として支払う形らしい。もちろん高額だけれど、野球を辞めて社会人になってから仕事をするのに精一杯だった俺には、大した趣味もなく、生活費以外の出費はほとんど無い。だから、痛手を負うほどでもなかった。

 会話をはじめて10分か15分ほどたった頃、ミネがそっと俺の手に触れてきた。

「そろそろ、はじめようと思うんだけど、良いかな?」

 従わせるような視線が向けられ、さっきまで落ち着いていた心臓が、また走りはじめる。それでも、今日の決意を無駄にしたくない一心で、俺は小さく頷いた。

「セーフワードは『おにぎり』であってる?」
「あっと、えーっと、『おにぎり』だったけ?」
「『おにぎり』、だったよ、くふふふっ。」

 俺の決めたセーフワードにミネがまた笑う。
 彼は、ゲラなのだろうか。
 いいや、俺が不慣れなだけかな。

「じゃあ、少しづつ触れていくからね。マッサージだと思って。」
「う、うん。」

 ベッドに移動すると、ミネがバッグの中から大きめのタオルを何枚か出し、ひいていく。服を脱ぐように指示され、慌てて脱でいく。それから、さあ座ってと施され、大人しく従った。自分より大きな手が腿を撫で腰を掴む。ぴくりと身体が反応して震える。

「んっ…、あっ。」

 柔らかな唇が首筋や腹に触れ、くすぐったさに声が漏れてしまう。慌てて、唇を噛みしめていると男らしい手が頬に触れ、親指が口に入り込んできた。

「ぐっ……、ふっ。」
「声、我慢しなくて良いからね。僕、ツカサの声、聞きたいな。」
 
 少し、怖いと思ってしまう。
 自分で呼んでおいて、男のくせに、今更。
 じわりと瞳に涙が浮かぶ。

「怖い? 大丈夫? 嫌だったらすぐにセーフワードを言ってね。逆にツカサがセーフワードを言うまでオレは止まれないから。」

 セーフワード…。
 ミネは、まるで子どもをあやすみたいに俺の髪を撫でる。

「っ…、はっ、。」
「大丈夫、ゆっくりで良いから、ちゃんと聞いてるよ。」

 ミネの優しい声に安心する。
 この人なら大丈夫じゃないか、酷い目にあったりしないんじゃないか。
 むしろ、はじめてがこの青年であることは幸運かも知れない。

「……っ、……て、、ぃ。」
「ん? ごめん、聞こえなくて。」


「抱いて、欲しい、です。」

 羞恥心で耳まで赤くなる、顔が熱い。
 ミネは、目を大きく開くと拳を口元に当て目を細めた。

「今の、けっこうキタかも……。ツカサくん可愛いね。」

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