ジャガイモ

坂田火魯志

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第三章

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「ほら、黒ビールの中に卵を入れて」
 「ああ、それで飲んでるよな」
 「あれも凄くない?」
 「いや、最初見て驚いたよ」
  夫婦でドイツの食生活についてあれこれと話す。
 「それが朝御飯なんだからな」
 「朝からビールね」
 「それがこっちじゃ普通なんだな」
 「そうね」
  首を傾げさせながらの話であった。
 「けれど私達はね」
 「こんなにお肉にビールばかりで大丈夫かな」
 「気をつけないといけないわね」
 「ああ、そうだな」
 「ところでさ」
 「いい?」
  その二人に幸一と幸二が声をかけてきた。
 「一つ聞きたいけれど」
 「どうかな」
 「何だい?」
 「どうかしたの?」
 「お肉はわかったけれど」
 「ビールも」
  二人はそれはわかるというのだった。しかしである。
 「それでもまたジャガイモ?」
 「これジャガイモだよね」
 「ええ、そうよ」
  母は丸く弾力のあるそれをフォークで刺しながら母に問う。母もすぐに言葉を返してきた。
 「小麦粉と一緒に練ったのよ」
 「またジャガイモなんだ」
 「本当に朝昼晩って」
 「普通よね」
 「ドイツだからな」
  母も父もそれぞれ顔を見合わせて話をする。二人は既にドイツといえばジャガイモだと。頭の中で完全に納得してしまっているのだった。
  そしてだ。そのうえで子供達に対して言うのだった。
 「いいじゃない。美味しいでしょ?」
 「ジャガイモ嫌いか?」
 「嫌いじゃないけれど」
 「それでもジャガイモばかりだから」
  二人が言うのはこのことだった。
 「ねえ、飽きない?」
 「いい加減に」
 「飽きないように料理してるわよ」
 「そうだよな」
  だが両親はこう二人に返すのだった。
 「ほら、今日はそれだし」
 「昨日はマッシュポテトだったしな」
 「結局ジャガイモなんだね」
 「そればかりなんだ」
 「とにかく食べなさい」
 「いいからな」
  今日は結構強引に食べさせられた。それはこの日だけでなくとにかく来る日も来る日もジャガイモばかりだった。二人は辟易さえしていた。
  それで二人になるとだ。うんざりとした顔で話をするのだった。
 「またジャガイモなんだろうね」
 「それしかないしね」
 「何だよ、ドイツって」
 「パンより食べてるじゃない」
  こう話してうんざりとした顔になるのであった。
 「朝も昼も晩もってね」
 「何かっていうとジャガイモで」
 「何でこんなにジャガイモばかりなんだろうね」
 「訳わからないよ。パンより多いじゃないか」
  こんな話をする日々だった。そしてある日である。彼等は学校の図書館に入った。そしてそこで本を読んでいた。ドイツ語であるがそれどわかるのだ。
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