ダグラス君

坂田火魯志

文字の大きさ
上 下
1 / 7

第一章

しおりを挟む
               ダグラス君
 勝手信一郎は広島生まれで大学を卒業して防衛庁の事務官に採用された、面長で細い顎に痩せた頬を持っている青年だ。黒髪をセンター分けにしていて背は一七〇位だ。顔と同じく身体つきも痩せている。
 彼は就職し研修の後で正式に勤務することになったが。
 彼は出身地である広島にある呉かそこに近い場所での勤務、陸空海のどの自衛隊でもそうなると考えていたが。
 人事に言われたことにだ、彼は思わず声をあげた。
「厚木ですか」
「はい、あちらになりました」
 人事のお姉さんが彼に笑顔で答えた。
「頑張って下さいね」
「厚木って関東ですね」
「神奈川県です」
「そうですよね、てっきりです」
 勝手は予想が外れて驚いている顔で述べた。
「私は広島かその辺りだって思ってました」
「こうしたことはです」
 人事、それはというのだ。
「よく『ひとごと』と言われますね」
「人事を日本語読みしたらですね」
「はい、そうなりますし」
 それでと言うのだった。
「ですから」
「正直何処に行くかはですか」
「わからないです」
 そうしたものだというのだ。
「ですから」
「私もですか」
「実際広島やその周りの勤務とはです」
「限らなかったんですね」
「北海道や青森、沖縄の可能性もありましたよ」 
 より遠い場所にというのだ。
「その可能性もありましたよ」
「そうでしたか」
「はい」
 お姉さんは勝手に微笑のまま答えた。
「それでこの度はです」
「最初の勤務地はですか」
「厚木となりました」
「そうですか、それじゃあ」
「あちらで頑張ってきて下さい」
「厚木っていいますと」
 勝手はお姉さんにあらためて厚木の話をした。
「あれですよね、アメリカ軍の基地がある」
「海軍ですね」
「そうですよね」
「むしろ海上自衛隊がアメリカ軍の基地の敷地の一部を借りています」
「そうした形になりますか」
「はい」
 実はそうなるというのだ。
「私達が居候です」
「そうした場所ですね」
「楽しい場所ですよ。私もいたことがありますが」
 お姉さんは微笑のまま厚木のことをさらに話した。
「基地の設備は充実していてアメリカ軍の施設でも遊べて」
「アメリカ軍そちらもよくて」
「安く飲める場所もありますし」
 酒、それもというのだ。
「基地の外の相模原市もいい場所ですよ」
「そんなにいい場所ですか」
「美味しいお店、カラオケボックスも多くて」
「そうなんですか」
「行っていい場所です」
「じゃあ楽しく過ごせるんですね」
「間違いなく、ですから」
 それでと言うのだった。
「楽しんできて下さい、面白い方もおられますし」
「面白い方ですか」
「その方ともお話をされる機会があればされて」 
 そうしてというのだ。
「厚木での勤務と生活を満喫されて下さい」
「そこまで言われるのなら」
 勝手も頷いた、そしてだった。
 彼は厚木の海上自衛隊整備補給隊の資材班に配属となった、厚木は航空機も多く何かと仕事が入り大変だった、だが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

魔法少女☆優希♡レジイナ♪

蓮實長治
キャラ文芸
九州は阿蘇に住む田中優希は魔法少女である!! 彼女に魔法の力を与えたスーちゃんは中生代から来た獣脚類の妖怪である!!(妖精かも知れないが似たようなモノだ) 田中優希は肉食恐竜「ガジくん」に変身し、人類との共存を目論む悪のレプタリアンと、父親が育てている褐牛(あかうし)を頭からガジガジと貪り食うのだ!! ←えっ?? 刮目せよ!! 暴君(T-REX)をも超えし女王(レジイナ)が築く屍山血河に!! 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)

申し訳ないが、わたしはお前達を理解できないし、理解するつもりもない。

あすたりすく
キャラ文芸
転生して、偶然出会った少年に憑依した女性が、転生した世界の常識とか全部無視して、ルールを守らない者達を次々と粛正していくお話です。

神命迷宮 -東京Dead End-

雪鐘
キャラ文芸
この世界は感情に支配されている。 その意味を私は理解していなかった。 私は未来がたとえ苦しいものであっても、戦うことを諦めないよ。絶対に。 ※このお話は神命迷宮(小説家になろう版:https://ncode.syosetu.com/n8297gz/)(アルファポリス版:https://www.alphapolis.co.jp/novel/851127492/491575071)のスピンオフ、東京視点になります。 メインのお話(1章・危惧する未来)までを読んでおくことをオススメします。 表紙画像提供:ROSE様(Twitter:@ROSE_H_1012)

宮廷の九訳士と後宮の生華

狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――

風と翼

田代剛大
キャラ文芸
相模高校の甲子園球児「風間カイト」はあるとき、くのいちの少女「百地翼」によって甲賀忍者にスカウトされる。時代劇のエキストラ募集と勘違いしたカイトが、翼に連れられてやってきたのは、滋賀県近江にある秘境「望月村」だった。そこでは、甲賀忍者と伊賀忍者、そして新進気鋭の大企業家「織田信長」との三つ巴の戦いが繰り広げられていた。 戦国時代の史実を現代劇にアレンジした新感覚時代小説です!

女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)
キャラ文芸
・ただ今《女装と復讐は街の華》の続編作品《G.F. -ゴールドフィッシュ-》を執筆中です。 - 作者:木乃伊 - この作品は、2011年11月から2013年2月まで執筆し、とある別の執筆サイトにて公開&完結していた《女装と復讐》の令和版リメイク作品《女装と復讐は街の華》です。 - あらすじ - お洒落な女の子たちに笑われ、馬鹿にされる以外は普通の男子大学生だった《岩塚信吾》。 そして彼が出会った《篠崎杏菜》や《岡本詩織》や他の仲間とともに自身を笑った女の子たちに、 その抜群な女装ルックスを武器に復讐を誓い、心身ともに成長を遂げていくストーリー。 ※本作品中に誤字脱字などありましたら、作者(木乃伊)にそっと教えて頂けると、作者が心から救われ喜びます。 ストーリーは始まりから完結まで、ほぼ前作の筋書きをそのまま再現していますが、今作中では一部、出来事の語りを詳細化し書き加えたり、見直し修正や推敲したり、現代の発展技術に沿った場面再構成などを加えたりしています。 ※※近年(現実)の日本や世界の経済状況や流行病、自然災害、事件事故などについては、ストーリーとの関連性を絶って表現を省いています。 舞台 (美波県)藤浦市新井区早瀬ヶ池=通称瀬ヶ池。高層ビルが乱立する巨大繁華街で、ファッションや流行の発信地と言われている街。お洒落で可愛い女の子たちが集まることで有名(その中でも女の子たちに人気なのは"ハイカラ通り") 。 ※藤浦市は関東圏周辺またはその付近にある(?)48番目の、現実には存在しない空想上の県(美波県)のなかの大都市。

さようなら私のナミダくん

春顔
キャラ文芸
 高校の国語科の教員になった兼森麗子(かねもりれいこ)。不器用で、授業も人間関係も上手くいかず、好きな人には「つまらない」と言われる始末。  悲しみに暮れて立ち寄った神社で、涙の滴が枯れかけの花に注いだことをきっかけに、花の精が「恩返し」にやって来て――!?  るい、という美少年に励まされながら、今更変えられない大人の生き方を、少しずつ見直していく物語。  不器用な女性の、青春ストーリー。  青春に、年齢なんて関係ない!  人の、頑張る姿は美しい! ――けれども、大人の世界はやっぱり甘くない!?  赤髪の彼との出会いが、縁結びの神様からの贈り物だと気付くのは――彼が泣けるようになってからの、また別のお話――。  そんな、職員室を中心に巻き起こる、青春に、ときめいて、共感して、励まされてください。

処理中です...