明日の貴方は過去

紫・煉

文字の大きさ
上 下
3 / 5
The beginning

第3話 命を笑う平和

しおりを挟む
「黙れ。」

 裸と言っても過言ではない美女が向いた方向に塔があると予想したリューマは、再び等に辿り着くことができた。

「きたぞぉ! ってあれ、なんだこの穴。」

 それは爆発によるものなのか、塔が建っていた真下に、底の見えない大きくて深い空洞。

「アァアッ! ん? 足がつかないぞ? まさ…かぁああ!?」

 すると四足歩行の謎のイケメンは尻に噛み付いた二足歩行のヤギを連れて焦り走っていたが、その先に大きな空洞があるとは考えもしなかっただろう。ヤギと共に底の見えない深い空洞の中に飛び込んだ。

「ギェエエエエエ!?」

「ニッハハハ! あのイケメンアホなのか? ヤギを背負って飛び降りたぞ!」

 リューマはその姿に涙浮かべながらお腹をおさえて大爆笑していた。

「さぁ、私たちも行くわよ。」

 お、そうだな。

 謎のイケメンの跡を追う形でリューマも飛び降りた。

「イヤッホォ! いっくぜぇ!」

「馬鹿!? 飛び降りてどうすんのよ!」

 アイラは焦っている様子。

 ん? おめぇが行くわよって言ったんじゃないか。

「飛び降りろとは言ってないでしょ!? 下に衝撃を和らげるものがなかったらどうすんのよ? それこそ死ぬわよ。」

「ガァアッ!? 先に言えよぉ!」

「君はアホかぁ!」

 リューマは底の知れない空洞を落ちる中、胡座をかき、腕を組んだ。

 んー、なるようになれ。死んだら死んだ。うん!

「その冷静さはどこから来るのよぉ!?」

 そしてリューマは胡座をかいたまま、固すぎず柔らかすぎず、謎の物体の上に落ちた。

「「グハッ!?」」

 そのしたの物体から何かを痛がる声を放たれていた。しかしそれは2人の声だった。

「ん!? ヤギだ。ってことはイケメンさん…おぉ! やっぱイケメンさんだ!」

「痛て。ん? お前かよ! ぶった斬るぞ!?」

「またまたぁ。そういえばヤギってグハッって声出すっけ?」

 リューマとそのヤギはお互いの目を見つめ合っていた。やがてヤギは勘違いを解くためなのか、ただ単にリューマが重いからなのか、鳴き声を放った。

「メェエエ!!」

「うん、メェだ! おっかしいな。」

「俺の下にも誰かいるのか?」

 オールのノラが使える謎のイケメンは、リューマの存在とそれとは別の存在、謎の男に気づいていた。

「重いんだよ貴様ら!!」

 すると2人の下敷きになっていた謎の男は馬鹿力でリューマと謎のイケメンを投げ飛ばした。

「うわ、なんだ!? ほぇ、やっぱもう1人いたのか?」

「誰だ貴様ら!? この爆発は貴様らの仕業か!?」

「おめぇこそ誰だ!? あの爆発のど真ん中なのになんで生きてるんだ? 神様か!」

「ザッハハ、僕は石の灰龍はいりゅうと契約を交わして力を得たんだ。そう、僕の体は岩石そのもの! 爆発ごときにやられる訳がない!」

 気の強い男なのに対して僕を使うそのギャップは場の空気を静めた。

「ばっかじゃねぇの?」

「は!?」

「うん。」

「ぶっ潰すぞ貴様ぁ!」

 空気の読めないリューマは思わず喧嘩を売ってしまっていた。

 そして真っ暗な空間はキラキラ輝く霧によって照らされてゆく。

「なんだこれ?」

「氷の霧だよ。氷はグラスのような性質を持っていて、光を屈折させることができる。それを利用して外の明かりを屈折させたのよ。」

 やるじゃん、アイラ。流石は俺の大賢者。

「黙れ。」

「おぉ、なんか知らないけど明るくなったな。って、えぇえ!?」

 謎の男は驚きを隠せなかったのか、思わず叫んでしまっていた。その視線の向こうにはリューマ。そしてリューマもまたその姿を見て驚いていた。

「えぇえ!? スネーキ?」

 それはゲームが現実化する前、同じ学級の世界中で知られている超有名人、スネーキ。彼はゲーム実況者である。

「貴様もこのゲームの中に転生されたのか?」

「うん、まぁ、そゆことだ。って、おめぇのせいで現実化したようなもんじゃないか!?」

「それは、すまない。だがこれで良かった! 見よ、この非常人的な力を! イリュージョンストーン!」

 スネーキは壁の石を自由自在に動かしてみせた。

「おぉ、すっげぇな! うらやますぃ!」

「君も力が使えるわよ。」

 あ、そうだった。でも見せる訳にもいかないしな。

「君にしては賢い選択だわ。」

「ところでリューマ、貴様ここで何しに来たんだ?

「え、そりゃ、この塔で暴れてる奴をぶん殴りに来た。おめぇもそうじゃねえのか?」

 スネーキは顔に微笑みを浮かべた。

「それは残念だ、この塔で暴れていたのは僕だ。だが君に僕は倒せない。諦めたまえ。」

「んだとこら!? ギャフンと言わせてやる。」

「実際にギャフンと言う人はいませんが?」

 うるせぇ、アイラ。ちなみに、今の俺はこいつに勝てるのか?

「あの爆発を食らっても無傷という石のような頑丈な体と、周囲の壁を自由自在に操られるこの状況、さらに氷との相性を考えると、勝てる確率は0,941%と言ったところでしょう。」

 いやだからなんでそんなパッときもい数字を出すんだよ。理系ドラゴンめ。

「ま、ちょうどいい、イケメンさん、こいつをぶった斬ってくれ。」

 謎のイケメンの方に目をやるが、ヤギに刀を喰われ、その受け難い事実から現実逃避して地面に伏せていた。

「…だめだあいつ。」

「ヤギが苦手みたいだね。」

「余所見は禁物だぜ?」

 そうしてるリューマにスネーキは容赦なく飛びかかり、石のような硬い拳で一撃を食らわせた。

「グッ!」

 壁には殴り飛ばされたリューマの体の跡ができていた。

 痛ぇ! これ死ぬぞ、アイラ。

「死ぬわね。」

 床を凍らせることは可能なのか?

「君が想像すれば、実力さえあれば可能だわ。」

 想像か、簡単だな。んー。

「ダッ!?」

 壁に貼り付けにされていたリューマをスネーキはもう1発殴った。

 リューマの顔は変形していてもおかしくないはずが、非常人的な超回復力により、なんとか形を保っているようだが、顔は文字通り血で染まっていた。

「ほぉ、2発殴っても死なないとはな。褒めてやるぜ、リューマ。ついでだ。石の能力の真の力を拝めさせてあげよう。」

「何してるのよ、さっさと地面を凍らして!」

 リューマは考え事をしてる模様。

 ちょっとな、技名を考えていてよ。ちょっと待っとけ。

「技名? そんなの後でいいじゃない!本当に死ぬわよ?」

 お、いいの思いついた!

「アイスフ…グハッ!?」

  なんだ!? 地面から!?

 地面や壁からスネーキが現れ、あらゆる方向からリューマを殴って殴って殴り続けた。

「どうしたどうした? せっかくゲームが現実化したんだ、何もできずに死ぬのか? まぁ、それが貴様の運命ってものだろうよ。ザッハハ!」

 スネーキは慈悲深い感情は微塵もなく、時には下から、時には横からとリューマの全身の骨を砕け続けた。

 ダァアア! 痛ぇ痛ぇ痛ぇ! 10階の高さから落ちた気分だぁ。

「10階から落ちたことあるの?」

 いや、ねぇ。

「いい加減にしろぉ! アイスフロア!」

 リューマは床に両手を当て、技を放った。

 痛みと怒り、焦りが混じり合ったその勇気ある行動は床や壁、全てを凍らせて見せた。それは紫色に輝く氷。こんな状況でなければ誰もが魅了されていたであろう美しさ。

「想像以上にすごいじゃない。」

「おい、スネーキ。これでお前はもう、好き勝手に暴れることはできないぞ!」

「んな!? 地面に潜り込めない、貴様も能力者だったのか!」

「ニッヒヒ、これで正々堂々と勝負ができるってわけだ。」

「何自信満々な面こいてんだよ。ザッハハハ! ザッハハ!」

 だがスネーキは今までにない程の笑いを見せた。

「何がおかしい!?」

「確かにこれで俺は石を自由自在に操れないし、石を通して移動もできない。だが、俺自身の力を忘れたわけでは、ないだろうな?」

 そうだった、こいつは石の能力者。岩石のように硬い。アイラ、こいつも凍らせることができないのか?

「生物自体を凍らせることは不可能だが、その周辺の空気を凍らせることで動きを止めることは可能だわ。」

 お、それいいね。んー、フローズンってのはどうだ?

「勝手にしなさい。」

ケチだな。

「よし、フローズン!…って、あれ?」

 何も起きないぞ、アイラ。

「馬鹿なのか君は? 君が床を凍らせたのは触れたから。これもまたその物体に触れないと意味がない。」

 先に言ってくれよ。

「そこまで馬鹿だとは思っていなかったわ。」

「どうした? 実力が足りないのか? 残念な奴だな。ではこっちから仕掛けるぞ!」

 勢い良く飛びかかったスネーキは、凍っていた床により、滑りこけた。

「痛て。なんだよ、卑怯だぞ貴様!」

「正々堂々じゃないわね。」

「ニッヒヒ、氷の上を滑れないのか? アホだな。」

「んじゃ貴様は歩けれるのか?」

「歩く? 氷の上は滑るもんさ。」

 元々スケートを習っていたリューマ。それがここで役立つとは誰が予想したのだろうか。リューマは滑りを楽しみながら立つこともできないスネーキに近づき、やがて触れた。

「フローズン。」

 するとスネーキの周囲の空気は瞬時に凍り、スネーキは生きたまま氷漬けにされた。

「よし、これでギャフンと言わせ…っておい! これじゃギャフンと言わせられないじゃないか!」

「問題はそこかよ!」

 アイラも流石に驚きを隠せない程、リューマの思考は解せないものであった。

 これで静穏が戻ると思われたその瞬間、スネーキの身動きを止めた氷は砕け、スネーキが出てきた。

「んだぁ!? お前どうやって? って、イケメンさん!? 何やってんだよ!?」

 謎のイケメンは刀と共にヤギを凍っていたスネーキに投げ飛ばしていた。

「ハァ、ハァ、焦ったぜ。生きたまま凍らせてたまるか!」

 息ができなかったせいか、スネーキは息が荒い。

「おめぇ! 邪魔するなイケメンさん!」

 と、謎のイケメンを引かせるように言いかけるものの、謎のイケメンは聞こえやしない。

「視覚の次は聴覚かよ。」

「爆発のせいかもね。それにしても、厄介なことになりましたわね。さぁ、次はどうする、リューマ?」

 どうするって、また凍らせればいんじゃないか?

「そうだね。」

 スネーキは真正面から飛にかかった。リューマの顔面や腹、肩を殴った。

「グッ!」

 痛い痛い痛い! 死ぬ死ぬ死ぬ!

「なるほどな、貴様はとんでもない回復力の持ち主って訳か! だが回復する暇も与えなければただのゴミ! さぁどうする? どうする!? ザッハハ! ケンをいじめていたあのリューマはどぉした!?」

 言葉もまた強力な武器。リューマは身体だけでなく、精神的にも相当なダメージを受けているだろう。

「ザッハハハ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロゲで戦闘力特化で転生したところで、需要はあるか?

天之雨
ファンタジー
エロゲに転生したが、俺の転生特典はどうやら【力】らしい。 最強の魔王がエロゲファンタジーを蹂躙する、そんな話。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

さよならまでの六ヶ月

おてんば松尾
恋愛
余命半年の妻は、不倫をしている夫と最後まで添い遂げるつもりだった……【小春】 小春は人の寿命が分かる能力を持っている。 ある日突然自分に残された寿命があと半年だということを知る。 自分の家が社家で、神主として跡を継がなければならない小春。 そんな小春のことを好きになってくれた夫は浮気をしている。 残された半年を穏やかに生きたいと思う小春…… 他サイトでも公開中

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...