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第一章 世界の果てに咲く花
生命の花 12
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凄まじい爆発音と共に黒い塊は弾け、彼女の持つ黒い剣はギリクの右肩から胸までを切り裂いていた。
「やはり、その剣には勝てないか」
ギリクは少し笑いながら言う。
「こんな物に頼らないと勝てないのが、情けないわ」
彼女はギリクに向かって言う。
「その剣は誰にでも使える物では無い。それを手に取り、それで敵を倒す事が出来たら、それはもう誇って良い事だ」
ギリクの声からは冷気が消えていた。
ただの疲れた男性の声であり、かつての虐殺者、亜人収容所の所長にして恐怖の象徴と言う名残は無い。
「最期に遺す言葉は無い? 伝え広めるかはともかく、私は覚えておいてあげるわよ」
「二度とその剣は使うな。勝つ為にその剣を使い続けると、引き返せなくなるぞ」
「ええ、分かってる」
「私を倒した女の名前を聞かせてくれないか? 六番でも構わないのだが」
「私の名はエテュセ。私が初めてこの剣で切った敵として、貴方を一生覚えておくわ。ギリク・トゥリア・エンハンス」
彼女はそう言うと剣を振り抜く。
ギリクの体は真っ二つに切り裂かれ、鮮血を吹き出しながら倒れる。
彼女とギリクが話していた建物だけではなく、野営地自体が嵐に見舞われたような惨状だった。
禁術『魔獣の落とし子』は、無敵の強さを誇る。それは何も間違っていないと言えるほど、その力は強大だった。
が、敗因があるとすれば、それは黒い剣だけではなく戦った場所の差も大きい。
基本的には寄生魔獣である『魔獣の落とし子』と戦う場所は、こんな拓けた場所ではなく、助けようとする者の体内で戦う事になる。
そこでこの野営地の様な惨状を作り出す無差別攻撃を行った場合、助けようとした者の体内を破壊する事になる。そうやって力をセーブしなければならない状況を作り出す事も、この寄生魔獣の恐ろしさでもあった。
戦いの終わった野営地を遠巻きに見守っていた残存兵力は、恐怖に彩られた表情で呆然としている。
彼女は黒い剣を異空間に送り、ベルトに挟んでいた『ナインテイル』を左手に持つと、無数の発輝色の鞭を広げる。
「これ以上敵対すると言うのなら、皆殺しにする」
彼女はそう言うと、『ナインテイル』を振り上げる。
「その必要はありません」
恐怖に震える兵士達の後ろから、澄み切った女性の声がする。
亜人収容所で待機して守られているはずのメルディスが、二三一やシェル達十数人に護衛されながらやって来たのだ。
「これ以上、無益な戦いを続ける意味はありません。戦いを望んだギリクの死をもって、この戦いの集結を宣言します。武器を捨て、帰るべきところへ帰りなさい」
「メルディス、ここで情けをかける必要なんてない。ここに残る奴等のほとんどは収容所に関わる連中よ。こいつらは殺されても仕方がない事をした連中なのは、分かってるでしょう」
彼女は敵意を剥き出しにして、兵士達を睨みつける。
絶対の恐怖だったギリクと戦い、最終的には手傷一つ負わずにギリクを切り捨てた人物である。昨日の『ナインテイル』での惨劇もあり、まだ残存兵力の方が亜人達より多いのだが戦意が残っていない状態で、彼女一人を相手にも戦う事など出来なくなっている。
「私の求めるモノは、そう言うところには無いわ。エテュセ、私に従いなさい」
メルディスは敢えて高圧的に彼女に言う。
(分かってくれたか、さすがメルディス)
彼女は心の中でそう言うと、思わず笑顔になりそうな表情を引き締める。
メルディスが宣言した通り、これ以上の戦いや流血に意味は無い。これまでも十分ではあったが、ここから先は戦いではなく虐殺であり、人間と亜人との間により深い溝を築くだけである。
ここで重要になってくるのが、主導者の格である。何があっても侮られる訳にはいかない立場であり、迫害を受けてきた亜人が人間に対して優位に立たなければならない。
彼女はメルディスにその話は出来なかったが、その為だけではない事はメルディスには分かっていた。
人間に対してと同じ様に、亜人に対しても見せておかなければならなかった。
リーダーはメルディスであり、彼女は実行部隊の一人でしかない。どれほどの力を持っていたとしても、彼女はメルディスに仕えているという立場であると全員に知らしめなければならない。
それは二三一やシェルにも話せず、メルディスに堂々と彼女より上位であると示してもらわなければならなかった。
それをメルディスは分かっていたようだ。
誰が一番上かを明確にしておかなければ、内部分裂を簡単に引き起こす事になる。脅威的な戦闘能力を持つ彼女であっても、メルディスに逆らえないというところを見せておくと、他の亜人がメルディスに歯向かう事も無い。
見た目の割に察しの良い二三一は、この二人が演技している事に気付いているかも知れないが、この場にいる者達に上下関係をアピールする事は出来る。
「まだ殺したりないわ」
彼女はそれでも『ナインテイル』を振って威嚇する。
残る兵士の半数近くが逃げ出すが、メルディスは残る兵士達の間を割って彼女に近付く。
「これ以上血を流す意味は無いでしょう。貴女の感情だけで、これ以上の流血は認めません」
メルディスが両手で彼女の左手を包み込むと、『ナインテイル』も消える。
「この戦いは終わったの。戻りましょう、次の戦いの為に」
「やはり、その剣には勝てないか」
ギリクは少し笑いながら言う。
「こんな物に頼らないと勝てないのが、情けないわ」
彼女はギリクに向かって言う。
「その剣は誰にでも使える物では無い。それを手に取り、それで敵を倒す事が出来たら、それはもう誇って良い事だ」
ギリクの声からは冷気が消えていた。
ただの疲れた男性の声であり、かつての虐殺者、亜人収容所の所長にして恐怖の象徴と言う名残は無い。
「最期に遺す言葉は無い? 伝え広めるかはともかく、私は覚えておいてあげるわよ」
「二度とその剣は使うな。勝つ為にその剣を使い続けると、引き返せなくなるぞ」
「ええ、分かってる」
「私を倒した女の名前を聞かせてくれないか? 六番でも構わないのだが」
「私の名はエテュセ。私が初めてこの剣で切った敵として、貴方を一生覚えておくわ。ギリク・トゥリア・エンハンス」
彼女はそう言うと剣を振り抜く。
ギリクの体は真っ二つに切り裂かれ、鮮血を吹き出しながら倒れる。
彼女とギリクが話していた建物だけではなく、野営地自体が嵐に見舞われたような惨状だった。
禁術『魔獣の落とし子』は、無敵の強さを誇る。それは何も間違っていないと言えるほど、その力は強大だった。
が、敗因があるとすれば、それは黒い剣だけではなく戦った場所の差も大きい。
基本的には寄生魔獣である『魔獣の落とし子』と戦う場所は、こんな拓けた場所ではなく、助けようとする者の体内で戦う事になる。
そこでこの野営地の様な惨状を作り出す無差別攻撃を行った場合、助けようとした者の体内を破壊する事になる。そうやって力をセーブしなければならない状況を作り出す事も、この寄生魔獣の恐ろしさでもあった。
戦いの終わった野営地を遠巻きに見守っていた残存兵力は、恐怖に彩られた表情で呆然としている。
彼女は黒い剣を異空間に送り、ベルトに挟んでいた『ナインテイル』を左手に持つと、無数の発輝色の鞭を広げる。
「これ以上敵対すると言うのなら、皆殺しにする」
彼女はそう言うと、『ナインテイル』を振り上げる。
「その必要はありません」
恐怖に震える兵士達の後ろから、澄み切った女性の声がする。
亜人収容所で待機して守られているはずのメルディスが、二三一やシェル達十数人に護衛されながらやって来たのだ。
「これ以上、無益な戦いを続ける意味はありません。戦いを望んだギリクの死をもって、この戦いの集結を宣言します。武器を捨て、帰るべきところへ帰りなさい」
「メルディス、ここで情けをかける必要なんてない。ここに残る奴等のほとんどは収容所に関わる連中よ。こいつらは殺されても仕方がない事をした連中なのは、分かってるでしょう」
彼女は敵意を剥き出しにして、兵士達を睨みつける。
絶対の恐怖だったギリクと戦い、最終的には手傷一つ負わずにギリクを切り捨てた人物である。昨日の『ナインテイル』での惨劇もあり、まだ残存兵力の方が亜人達より多いのだが戦意が残っていない状態で、彼女一人を相手にも戦う事など出来なくなっている。
「私の求めるモノは、そう言うところには無いわ。エテュセ、私に従いなさい」
メルディスは敢えて高圧的に彼女に言う。
(分かってくれたか、さすがメルディス)
彼女は心の中でそう言うと、思わず笑顔になりそうな表情を引き締める。
メルディスが宣言した通り、これ以上の戦いや流血に意味は無い。これまでも十分ではあったが、ここから先は戦いではなく虐殺であり、人間と亜人との間により深い溝を築くだけである。
ここで重要になってくるのが、主導者の格である。何があっても侮られる訳にはいかない立場であり、迫害を受けてきた亜人が人間に対して優位に立たなければならない。
彼女はメルディスにその話は出来なかったが、その為だけではない事はメルディスには分かっていた。
人間に対してと同じ様に、亜人に対しても見せておかなければならなかった。
リーダーはメルディスであり、彼女は実行部隊の一人でしかない。どれほどの力を持っていたとしても、彼女はメルディスに仕えているという立場であると全員に知らしめなければならない。
それは二三一やシェルにも話せず、メルディスに堂々と彼女より上位であると示してもらわなければならなかった。
それをメルディスは分かっていたようだ。
誰が一番上かを明確にしておかなければ、内部分裂を簡単に引き起こす事になる。脅威的な戦闘能力を持つ彼女であっても、メルディスに逆らえないというところを見せておくと、他の亜人がメルディスに歯向かう事も無い。
見た目の割に察しの良い二三一は、この二人が演技している事に気付いているかも知れないが、この場にいる者達に上下関係をアピールする事は出来る。
「まだ殺したりないわ」
彼女はそれでも『ナインテイル』を振って威嚇する。
残る兵士の半数近くが逃げ出すが、メルディスは残る兵士達の間を割って彼女に近付く。
「これ以上血を流す意味は無いでしょう。貴女の感情だけで、これ以上の流血は認めません」
メルディスが両手で彼女の左手を包み込むと、『ナインテイル』も消える。
「この戦いは終わったの。戻りましょう、次の戦いの為に」
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