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第一章 世界の果てに咲く花
収容所 14
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六の少女は瞼の異様な重さに戸惑ったが、頑張って目を開く。
想像以上に陽の光が眩しく、とても目を開けていられない。右手を顔の前にかざそうとしたのだが、感覚が無いのでピクリとも動かす事が出来なかった。
少しずつ目を開こうとして光に慣れてくると、自分が今何処にいるかも分かった。
(うわっ、私、あの死亡率九十パーセント以上のベッドに寝かされてる。本当に死にかけたんだね)
他人事の様に六の少女は思う。
ここで目を覚ます前の状況を思い出してみると、自分でもいかに無謀な行動だったかを思い知らされる。
体を動かす事は出来ないが、記憶を手繰ってみると読んだ本の内容や、この収容所に入れられる前の逃亡生活を隅々まで思い出せるので、おそらく脳には異常は無さそうだ。自覚症状が無いだけかもしれないが、今のところは絶望的な脳障害や後遺症などは無く無事に済んだと思われる。
もっとも体をまったく動かせないのを、無事と言えるかどうか。
しかし、六の少女の計画ではどうしてもここに留まる必要があった。その為にも所員の手によって大怪我をして、商品として移動させられない、もしくは商品として表に出せない状況を作りたかった。
それが危険な賭けであった事は分かっていた。
だが、無抵抗に研究所に引き取られても、六の少女の状況は良くならない事もよくわかっていた。
もし六の少女に誤算があったとすれば、彼女が予想していた以上に彼女が恐れられていた事だった。
彼女の計画の全てを読み取る事は出来なかったかもしれないが、所長がいないタイミングでの六の少女の行動は、どう考えても不自然だった。スパードなら、とは言わないまでも冷静に考えれば露骨な挑発には何か裏がある事くらい簡単に見抜けただろう。ところが、いかに酒に酔っていたとはいえその判断が付かない程に所員達は六の少女を恐れていたのだ。
(あれ? メルディスがいる)
看病してくれていたのか、ベッドに突っ伏す様な感じでメルディスが眠っていた。
こちらに顔を向けているので、六の少女でもメルディスの寝顔を確認出来た。
(寝顔も綺麗だな。まつ毛長いし。よく見たら凄い不公平の塊だね)
六の少女が今動かせるのは瞼と眼球くらいなので、眺めるものは今のところメルディスの美しい寝顔くらいしかない。
仕方が無いのでメルディスの寝顔を眺めていると、メルディスが目を覚ます。
最初はぼんやりしていたメルディスだが、六の少女と目が合うと、目を見開いて驚いていた。
「る、ルー先生!」
メルディスが悲鳴の様な声を上げて、何処かへ走っていく。
すぐに慌てた様な表情でルーディールとメルディスが二人で戻ってくる。
「目が覚めたみたいね。どう? 気分とか悪くない?」
「ぶえべ」
答えようとしたのだが、口から出てきたのは言葉では無く、言った本人ですら驚くほどの奇怪な音だったので、六の少女は言葉を飲み込む。
「まさか目を覚ましてくれるとは思わなかったわ。私達に出来る事はやって来たつもりだけど、貴女の回復力をもってしても後一ヶ月は絶対安静よ。今は動けないかもしれないけど、動けるようになってからも大人しくしてる事。良いわね?」
優しい口調ではあるが、ルーディールは強く念を押す。
出来る事なら今すぐにでも動きたいところではあるが、いくらなんでもそれが不可能な事は十分過ぎる程分かっている。
ルーディールやメルディスも驚いていたが、六の少女自身も今生きて、意識を取り戻した事が奇跡である事は自覚している。
「でも、目を覚ましてくれて良かった。一週間も意識が戻らなかったんだから。もうこのまま意識が戻らないかと思ったわ」
安堵した表情でメルディスが言う。
(一週間、か。長いと言えば長いけど、まあそこは仕方ない。それにプラス一ヶ月。動けるようになるのは夏頃か)
この地域の季節を考えて、計算してみる。
この収容所に来たのが初春、それから一ヶ月ほどして暴行事件を起こした。そこから回復するのにさらに一ヶ月と言う事なので、この地域では夏に入る頃になる。
この地域では一年の半分以上が冬であり、春、夏、秋は駆け足で駆け抜けていく。
「一週間も心配させたんだから、ちゃんと説明してもらうわよ」
「メルちゃん、目を覚まして意識もしっかりしてるみたいだけど、まだまだ重体なんだからゆっくり休ませましょう。メルちゃんも疲れてるでしょ? 今日はゆっくり休んで」
ルーディールの柔らかい声は、目を覚ましたばかりで痛みすら感じる事の出来ない六の少女をやさしく包む。その言葉に導かれるように、六の少女は眠りにつく。
彼女の戦いはこれからが本番だった。
想像以上に陽の光が眩しく、とても目を開けていられない。右手を顔の前にかざそうとしたのだが、感覚が無いのでピクリとも動かす事が出来なかった。
少しずつ目を開こうとして光に慣れてくると、自分が今何処にいるかも分かった。
(うわっ、私、あの死亡率九十パーセント以上のベッドに寝かされてる。本当に死にかけたんだね)
他人事の様に六の少女は思う。
ここで目を覚ます前の状況を思い出してみると、自分でもいかに無謀な行動だったかを思い知らされる。
体を動かす事は出来ないが、記憶を手繰ってみると読んだ本の内容や、この収容所に入れられる前の逃亡生活を隅々まで思い出せるので、おそらく脳には異常は無さそうだ。自覚症状が無いだけかもしれないが、今のところは絶望的な脳障害や後遺症などは無く無事に済んだと思われる。
もっとも体をまったく動かせないのを、無事と言えるかどうか。
しかし、六の少女の計画ではどうしてもここに留まる必要があった。その為にも所員の手によって大怪我をして、商品として移動させられない、もしくは商品として表に出せない状況を作りたかった。
それが危険な賭けであった事は分かっていた。
だが、無抵抗に研究所に引き取られても、六の少女の状況は良くならない事もよくわかっていた。
もし六の少女に誤算があったとすれば、彼女が予想していた以上に彼女が恐れられていた事だった。
彼女の計画の全てを読み取る事は出来なかったかもしれないが、所長がいないタイミングでの六の少女の行動は、どう考えても不自然だった。スパードなら、とは言わないまでも冷静に考えれば露骨な挑発には何か裏がある事くらい簡単に見抜けただろう。ところが、いかに酒に酔っていたとはいえその判断が付かない程に所員達は六の少女を恐れていたのだ。
(あれ? メルディスがいる)
看病してくれていたのか、ベッドに突っ伏す様な感じでメルディスが眠っていた。
こちらに顔を向けているので、六の少女でもメルディスの寝顔を確認出来た。
(寝顔も綺麗だな。まつ毛長いし。よく見たら凄い不公平の塊だね)
六の少女が今動かせるのは瞼と眼球くらいなので、眺めるものは今のところメルディスの美しい寝顔くらいしかない。
仕方が無いのでメルディスの寝顔を眺めていると、メルディスが目を覚ます。
最初はぼんやりしていたメルディスだが、六の少女と目が合うと、目を見開いて驚いていた。
「る、ルー先生!」
メルディスが悲鳴の様な声を上げて、何処かへ走っていく。
すぐに慌てた様な表情でルーディールとメルディスが二人で戻ってくる。
「目が覚めたみたいね。どう? 気分とか悪くない?」
「ぶえべ」
答えようとしたのだが、口から出てきたのは言葉では無く、言った本人ですら驚くほどの奇怪な音だったので、六の少女は言葉を飲み込む。
「まさか目を覚ましてくれるとは思わなかったわ。私達に出来る事はやって来たつもりだけど、貴女の回復力をもってしても後一ヶ月は絶対安静よ。今は動けないかもしれないけど、動けるようになってからも大人しくしてる事。良いわね?」
優しい口調ではあるが、ルーディールは強く念を押す。
出来る事なら今すぐにでも動きたいところではあるが、いくらなんでもそれが不可能な事は十分過ぎる程分かっている。
ルーディールやメルディスも驚いていたが、六の少女自身も今生きて、意識を取り戻した事が奇跡である事は自覚している。
「でも、目を覚ましてくれて良かった。一週間も意識が戻らなかったんだから。もうこのまま意識が戻らないかと思ったわ」
安堵した表情でメルディスが言う。
(一週間、か。長いと言えば長いけど、まあそこは仕方ない。それにプラス一ヶ月。動けるようになるのは夏頃か)
この地域の季節を考えて、計算してみる。
この収容所に来たのが初春、それから一ヶ月ほどして暴行事件を起こした。そこから回復するのにさらに一ヶ月と言う事なので、この地域では夏に入る頃になる。
この地域では一年の半分以上が冬であり、春、夏、秋は駆け足で駆け抜けていく。
「一週間も心配させたんだから、ちゃんと説明してもらうわよ」
「メルちゃん、目を覚まして意識もしっかりしてるみたいだけど、まだまだ重体なんだからゆっくり休ませましょう。メルちゃんも疲れてるでしょ? 今日はゆっくり休んで」
ルーディールの柔らかい声は、目を覚ましたばかりで痛みすら感じる事の出来ない六の少女をやさしく包む。その言葉に導かれるように、六の少女は眠りにつく。
彼女の戦いはこれからが本番だった。
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