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最終章 鼎、倒れる時

第二十八話 二六四年 夢は血に塗れ

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 その日の夜、鍾会はいよいよ姜維と進めていた計画を行動に移す為に蜀の要人、中でも絶対に外すことの出来ない旗頭となる人物である劉璿に話をする事になっていた。

 劉禅の後、三代目の蜀の皇帝になるはずだった人物である。

 姜維が言うには、劉禅ほど特異な存在では無いものの、皇太子として過不足無い人物であり、劉禅より常識的と言うだけで十分過ぎるくらいに適任でもあると言う評価だった。

 確かに劉禅は存在そのものが非常識と思えるところがあるので、常識の範疇と言うのであれば十分と言うのは鍾会も賛成だった。

「少し遅れているようだな」

 鍾会は、共に待っている姜維に尋ねる。

「皇太子であった劉璿様は、人を呼ぶ事はあっても呼ばれる事には慣れてないのです。念の為、私の部下達を迎えにやっていますので、今しばらくの辛抱を」

「いや、そう言うものだ。構わんよ」

 鍾会は笑って答える。

 姜維が何を考えているのかは完全に読み切る事は出来ていないが、最終的な目的は蜀の再興である事は間違い無い。

 その上では、今現在に限って言うのなら鍾会の協力は不可欠であるのだから、しばらくは警戒の必要は無い。

 それより、他の動きが気になる。

 今のところ胡烈は大人しいが、それも時間の問題だろう。

 元から血の気が多く、扱いづらいところがあった為に司馬昭も直属の部下に置きながら、他の司馬昭旗下の武将達の様な秘密裏な使い方ではなく、各地に転戦させて表立った動きをさせていたくらいである。

 武将としては優秀であっても、それは戦っている時だけの話であり、今回の様な場合にはただの頭痛の種でしかない。

 また、元々は蜀の武将でありながら魏に下った句安の動静も読めないところがあった。

 順当に考えるのであれば、考えるまでもなくこちら側につくだろう。

 しかし、句安に限って言えばそうとも言えない事情がある。

 句安は郭淮が雍州軍の司令官だった頃から雍州にいて、鄧艾との付き合いも長い。

 今も下手な事をしない様に軟禁の対象に入れているほどだ。

 それに、先日姜維が言っていた様にもし龐会が軍を率いて成都へやって来た場合も、多少厄介な事になる。

 結果的にやる事は変わらないにしても、準備期間を大幅に削られてしまう。

 出来る事ならそれは避けたいところだが。

 そう思っていた時、鍾会は不意に笑っていた。

「どうしました?」

「いや、私なりに問題点を洗い直していたら、不安要素が蜀の側より魏の側ばかりだったので、つい笑ってしまった」

 鍾会は笑いながら言う。

 まぁ、謀反を起こそうとしているのだから当然と言えば当然か。だが、司馬家の強引極まるやり方に不満を持つ者は多い。僕は毌丘倹や諸葛誕とは違う。

 鍾会はそう思いながらも、自分の計画の成功を信じて疑わなかった。

 が、それは大きな誤りであった事を鍾会が自覚する前に事は起こった。

 突然騒がしくなったのである。

「どうした、騒がしいな」

「た、大変です!」

 鍾会と姜維の元に、鍾会の兵士が駆け込んでくる。

「衛瓘将軍の軍が屋敷を包囲しています!」

「衛瓘だと? 奴一人に何が出来ると言うのだ! 奴の他に誰かいるはずだ!」

「龐会が来たのでは?」

 姜維の言葉に、鍾会は眉を寄せる。

「門をいかに抜けたと言うのだ?」

「今必要なのは、門を抜ける方法を知る事ではなくこの場を切り抜ける事です。あの衛瓘殿が独断でこれほど大胆な行動を取れるとは思えない以上、大胆に行動出来る後ろ盾を得たと考えるのが自然でしょう。その後ろ盾でもっとも有り得るのは……」

「確かに大将軍の言う通り」

「ここは二手に分かれて切り抜けましょう。この屋敷に守備兵は?」

「数百といったところ」

「私もです。が、戦って勝つのではなく、一旦この場を切り抜けるだけなら十分。蜀の大将軍府で落ち合いましょう」

 姜維と鍾会はそう言うと、それぞれの手勢を率いて屋敷を出ようとする。

 だが、鍾会はまもなく胡烈の息子である胡淵の一隊に補足された。

「裏切り者、見つけたぜ。観念するんだな」

「おのれ、小童が!」





 事が起きる少し前、すでに事態は動き出していた。

「夜も更けて、と言うほどの時間では無いものの、集団で動くのには向かない時間帯。何やらキナ臭いが、何を企んでの事かな?」

 夜の成都を移動する集団の前に、龐会が道を遮る様に立つ。

「何者だ」

 集団の先頭に立つ武将風の男が、龐会に向かって問う。

「魏の武将、龐会である。そちらは? 何の目的があって夜の闇に忍ぶ」

「魏ではどうか知らんが、蜀では貴人の行く手を阻むのは無礼とされる。一つ賢くなったところで、道を開けろ」

 武将風の男は、龐会に対して一歩も譲らずに言う。

「随分と強気だな。俺はそう言うのは嫌いじゃない。何か急ぎの用なのかな?」

「答えるつもりはない」

「まぁ、そう言うなよ。俺も治安について心配があると言う事で派遣されて来た身だ。今のところ成都の治安は悪くないし、蜀の地についても決して乱れていると言う程ではない。後はお前達さえ余計な事をしないでいてくれれば良いのだが」

「……時間稼ぎか」

 蜀の武将風の男が、龐会に言うでもなく呟く。

「鋭いな。蜀に姜維以外でこれほど切れる者が残っていたとは。面識は無いが、それほどの武将は多くない。張翼だな?」

「ほう、魏にも俺の名が広まっていたとは意外だな。姜維大将軍だけしか知られていないと思っていた」

「貴人の行く手と言っていたが、お前ほど一線級の武将が警護する貴人とは? 劉禅殿か?」

「答える義理は無い」

「それならそれで構わないが」

「お待たせしました」

 龐会の元に、杜預が合流する。

「手配は全て完了です」

「ご苦労様です、杜預将軍」

「俺は官吏です。これが本来の仕事ですよ」

 杜預はそう言うと、張翼の方を見る。

「ここからは、本来の役割とは違う仕事ですが」

 杜預は剣を抜く。

「謀反の企みは露見した! お前達の負けだ! 今すぐ投降して、裁きを受けよ!」

 杜預が宣言する。

「張翼、廖化、伯約を待たせる訳にはいかん。切り抜けるぞ!」

 そう言うと、馬車の中で守られていた人物が、剣を抜く。

「やはりそうなるか」

「俺らを抜けば、まだ勝目があると。安く見られたものだ」

 龐会は剣を抜くと、それを掲げる。

 それを合図に、道の左右に隠れていた兵達が姿を現し、槍の穂先を向ける。

「殿下をお守りしろ! 魏の武将といえど、大軍を率いて蜀へ来た訳ではない! 今日の、今、この場を切り抜ければ我々に勝機がある!」

「優秀な敵と言うのは、本当に困ったものだ。あの関羽の一族とか言う程度の敵であればどれほど楽だった事か」

 龐会は突進してきた張翼の剣を受け、その行く手を阻む。

「張翼将軍!」

 すぐに横手から廖化が助太刀に入ろうとするが、それは杜預に阻まれる事になった。

「おのれ、杜預か!」

「長く戦ってきた副将同士、一騎打ちと行きたいところだったが」

 杜預はそう言うと、すぐに後ろへ飛び退く。

 そこへ兵士達の槍が突き出され、廖化の体を何本もの槍が貫いた。

「これは戦ではなく、成敗だ。それに俺は官吏であって、武勲を誉れとしてないのでね」

 廖化が討ち取られた事による動揺は大きく、それを逃す様な杜預や龐会では無かった。

 龐会は張翼を押さえる傍らで杜預に頷きかけ、杜預もそれを受けてすぐに合図を送る。

 それによって張翼の後続である貴人を守る馬車を狙って一斉に矢が射掛けられた。

「劉璿様!」

 強敵を前にしても、蜀に対する忠誠心の厚い張翼は振り返らざるを得なかった。

 それが例え自分にとって致命的な、取り返しようのない失敗であったとしても。

 張翼の目に劉璿が無数の矢を受けるところが入ってきたのと、龐会の剣が張翼の胸を貫いたのはほぼ同時だった。

「皇太子、劉璿だったか。悪く思うなとは言わないが、こうなる覚悟はあったのだろう?」

 龐会は剣を抜くと、倒れずにこちらを睨む張翼に剣を向ける。

「最後の最期まで国に忠義を尽くす烈士、張翼。見事ではあるが、最期の賭けは外れだったな」

「……賭け、か。確かに」

 張翼は観念したものの、剣を手放そうとはしない。

「さあ、首を刎ねよ。俺は蜀の剣を持ったまま逝く。この剣で、魏の命脈を断ち切る為にも」

「やはり、嫌いじゃないよ。そう言うのは」

 龐会は剣を一閃させて、張翼の首を切り落とした。

「これで良かったのか? 杜預殿」

「蜀にはまだ劉禅様が健在であり、劉禅様の影響力は決して衰えておりません。むしろ下手に反逆しようとした劉璿様の方が批難される事でしょう。ここの制圧は俺がやっておきますので、龐会将軍は士季の屋敷へ。あの野郎を逃がす訳にはいきません」

「しかし、そこはすでに衛瓘が取り囲んでいるのでは?」

「はい。手配通り、衛瓘と句安で屋敷は完全に包囲していますし、胡烈将軍が突入してます。龐会将軍に行ってもらうのは、あくまでも魏の総意であると示して頂く為」

「なるほど、実に細やかだ。しかし、杜預殿であれば司馬家に連なる者なのだから、俺より適任では?」

「俺は鄧艾将軍の副将ですよ? 大将軍直属の龐会将軍より適任はいません」

「わかりました。では」

「ところで、田続は?」

 杜預が周囲を見回すのにつられて、龐会も周りを見る。

「……逃げたみたいですな。まったく、俺の近くにいるのが一番安全だと言っておいたのに」

「ま、何が起きても自業自得です」





「そこまでだ、姜維」

 姜維の行く手を阻んだのは、胡烈だった。

「胡烈将軍か。いつぞやの腕試しの機会到来と言う事ですかな?」

「本来であればそうしたいところだが、お前にだけは逃げられる訳にはいかない」

 胡烈はそう言うと、兵に姜維を捕らえる様に命令する。

「挑発に乗ってくれれば楽だったのですが、やはり将軍。そう簡単にはいかないか」

 姜維はそう言うと、兵の一人の手を取るとその手から剣を奪い取り、そのまま切り捨てる。

 さらに次の兵を切り、両手に剣を持つと逆に自ら胡烈の兵に斬りかかりに行く。

 左右に持つ剣で切り、あるいは防ぎ、また場合によっては剣を投げつけて新たな剣を拾うと姜維の周りには胡烈の兵の死体が並べられる事となった。

「さすが、智将でありながらその武勇、往年の趙雲とすら打ち合ったとか。俺もその時代に生まれたかったものだ」

 胡烈はそう言うと兵を広く展開させて、自ら姜維の前にその姿を現す。

「……さて、お望みの一騎討ちですが、受ける自信は?」

「無い」

 胡烈のまさかの答えに一瞬姜維は呆気に取られた。

 その一瞬の隙を突いて、胡烈は広く展開させた兵に、一斉に剣を姜維に向かって投げつけさせた。

 いかに人並み外れた武勇を誇ると言っても、左右に持つ剣だけで捌ききれる物量では無かった。

 姜維は致命傷を避ける為に剣を振って防ぐが、それでも腕や足に刺さり、あるいは深く切られる事となる。

「……まさか、ここまで手段を選ばない手を打てるとは思っていませんでした。胡烈将軍、申し訳ありませんが、貴方を侮っていましたよ」

 姜維は片膝をついて、それでも笑いながら胡烈に向かって言う。

「傅僉の時にもそう思ったが、出来る事ならこう言う場ではなく、正々堂々と戦ってみたかった」

「それは止めておいた方が良かったでしょう。私と胡烈将軍では、百戦したとしても私の百勝でしょうから」

「……だろうな」

 胡烈は否定するどころか、自分でも驚く程冷静にそう答える事が出来た。

 決して自分を卑下している訳ではない。

 だが、これまでの戦歴や戦の報告を見聞きしているだけで、姜維の人並み外れた傑物振りは分かっていた。

 自分だけではない。

 魏の武将であれば、誰もが姜維の前に膝を屈していただろう。

 ただ一人、鄧艾を除いて。

 鄧艾とて幾度も敗れた相手だが、それでも幾度かの勝利を上げた。

 あの名将郭淮や陳泰ですら防ぐ事が精一杯だったにも関わらず、鄧艾は打ち破り、さらに成都と言う天険の難所を陥落させたのである。

 もちろん武勇を比べる上でならば、胡烈は自分の方が明らかに劣っているとは思わない。

 が、もし戦場で姜維と戦う事になった場合、武勇を競うところまで戦う事は出来ないだろうとも思っている。

「だが、正々堂々とは口が裂けても言えないにしても、今日、この場での戦いは俺の勝ちだ、姜維」

「勝ち、か。何を持って勝利とする?」

 姜維はそう言うと、自らの喉を自らの手で切り裂いた。

「姜維!」

 胡烈が駆け寄ろうとしたその瞬間、姜維は左手で持つ剣で胡烈に斬りかかる。

 相討ちを狙ったのか、苦し紛れの玉砕戦法だったのかは分からないが、その決死の一撃は、しかし胡烈を捕らえる事は無く、胡烈の首を僅かにそれて空を切った。

 最期の瞬間まで敵として油断ならなかったせいか、胡烈の兵達は一斉に姜維に斬りかかってその体を切り刻む。

「……まさに麒麟の如き者であったぞ、姜維伯約」

 胡烈は全身に冷や汗をかきながら、切り刻まれる姜維をいつまでも見ていた。




 三国時代の一国、蜀漢の滅亡。
 それは劉禅が鄧艾に降伏を申し込み、魏がそれを受け入れた時ではなく、まさにこの時、この瞬間こそが蜀滅亡の瞬間と言えただろう。
 そして、一つの時代の終焉であり、新たな時代の始まりの瞬間でもあったかもしれない。
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