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第2話 成長
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それから2人の約束はずっと続いた。
カールは王族で魔法が使えた。
彼の力は防御能力で、俺が元の世界の話をするときはいつも透明な障壁を張って聞こえないようにしてくれた。
俺の知識はちょっとだけ彼の役に立った。
じゃがいもの調理方法とか、水仙は食べたら毒だから間違えないようにニラと離して育てる程度だけど。
俺も彼の婚約者としてふさわしいように、王太子妃教育を受けた。
学力は問題ないが、女のふるまいを覚えるのが辛かった。
いやもっとつらかったのが女たちとの付き合いだ。
俺は向こうで一人っ子だったから、女がこんなに嫌味や嫉妬の塊だとは知らなかった。
俺は家柄も美貌も記憶力も抜群にいい。
そしてカールの婚約者だ。
そりゃ妬みの温床にもなるよな。
俺だって女の子が砂糖菓子みたいな、甘ったるいだけではないとは思っていたよ。
だけどここまで足を引っ張ろうとしたり、相づちを打ったりしただけなのに俺が言ったことにされるなど色々あるとは思ってなかったんだ。
それを庇ってくれるのもカールだった。
俺が剣を習いたいと言ったら、さすがに無理だったが譲歩してくれた。
「叔母上のように剣はさすがに許可できないが、護身術は習えるようにしよう」
馬に乗りたいと言ったときもだ。
「有事の時のために乗れた方がよい」
そう王妃殿下に進言してくれた。
一番は王太子妃教育で煮詰まったら、婚約者との交流と称して連れ出してくれることだ。
ホントに出来た男だ。
カールと結婚する女性は幸せになるだろう。
俺たちは成長して、だんだん大人の体になっていった。
こっちの母が巨乳だったのでそうなるかと思ったが、胸はさほど大きくならなかった。
どうやら祖母に似たらしい。
銀髪に青い目のせいか、氷姫なんて言われる。
ただ単に男言葉がとっさに出ないように、口数を少なくしていただけなんだけど。
見た目イメージってスゲーな。
カールはすらっと背が高くスマートな体形だが、実際にはなかなかの筋肉質で着やせしている。
金色の髪に緑色の瞳で、相変わらずお日様みたいな笑顔を見せてくれるのだ。
2人きりになったときに二の腕を触らせてもらった。
なかなかいい上腕二頭筋だった。
「いいなぁ、俺筋肉つかないからさ」
「クラリスは普通の女性よりも華奢だからね」
「なぁ、もしかして腹も6つに割れてる?」
「えっ? まぁ一応……」
「見せて見せて! シックスパック‼」
そう言ってお腹に手を伸ばしたら、怒られた。
「こら、さすがにはしたないよ。
障壁は張ってるけど、護衛達には見えているんだから」
「ごめん、ごめん」
「君だって、私に胸をさわらせろって言われたら嫌だろう?」
「別にいいよ? こんなささやかなもの」
俺が片乳をカールの背中に当てたら、ものすごく怒られた。
「ク、ラ、リ、ス」
「ホント、ふざけました。
ごめんなさい」
「わかればよろしい。
あと筋肉に触るのも、その……胸を当てるのも私以外にしてはいけないよ」
「それは大丈夫!」
本当は庭師の爺さんがなかなかのいい腕しているので気になっていたが、さすがに俺は見た目だけは極上の美少女なので止めておいた。
ふしだらなんて噂になったら、カールに迷惑がかかるしな。
他にも変化があった。
俺に月のものが訪れるようになったことだ。
いちおう保健の時間でそういう話は聞いていたけど、実際なって見るとすべての女性たちが尊敬の念で輝いて見えた。
こんなに苦しくて、辛いことを、女性たちは毎月耐えて頑張っていたのか!
俺は貧血によるめまいに悩まされていたが、血の元になる肉をガンガン食べることは下品だとされていた。
でも辛い。
向こうの母親が鉄剤とか、サプリメントとか飲んでたなぁ。
俺の体調を気遣ってくれるカールに相談したら、お茶会のセイボリー(塩辛いもの)にローストビーフやレバーペーストのサンドイッチにミートパイなどを入れてくれるようになった。
ただ一言、
「月のもので辛くても私か、信頼できる女性にしか言ってはいけないよ」
月のものは定期的に来る。
つまり俺が妊娠できる日程がよその人間に知られたら、妨害工策があるかもしれない。
注意しなくてはならない。
そしてカールも俺も、閨教育が入るようになった。
俺には本を見せられて、演技指導というものがあった。
初夜はカールに任せればいいが、気持ちがよくなくても気持ちいいフリをすることがマナーなのだ。
声を上げ過ぎてもダメだが、反応がないのは萎えるのだそうだ。
女への夢はほぼ消えていたが、さすがに演技なのかもしれないと聞くと辛かった。
カールの方は実践教育だったようだ。
お相手は美貌で知られる某伯爵の未亡人だ。
もちろん直接言われたわけではない。
ただカールが俺に触れる時の感じがこれまでも丁寧だったが、より宝物に触れるような感じになったのだ。
どうかしたのか聞いたときの、カールの男としての自信に満ち溢れた微笑みを見た時にわかった。
それは中学のクラスメイトが童貞を捨てたって言ったときと同じ感じがしたのだ。
お相手は俺とカールが出る夜会に、件の伯爵夫人が出席しなくなったから推測した。
閨教育の相手に俺が嫉妬しないようになのかな?
カールは素敵だから、その逆かもしれない。
だがこのことは俺を落ち着かなくさせた。
俺たちはこのままだとあと数年で結婚する。
俺はカールとエッチして、子どもを産むのか?
そんな決心はつけられなかった。
俺は男なのだ。
だけどカールの側には俺しかいない。
でも恋人探しはどうなっているのかも聞きにくかった。
彼は優秀な王太子として、仕事がたくさんあるのだ。
前ほど一緒にいられる時間も減ってきたから、内緒話も簡単にできやしない。
つまり恋人を作る暇もないのだ
俺自身、社交界を牛耳るように今までのような飾りの少ない簡素なドレスはダメだと言われた。
コルセットを締めて、宝石やレースやリボンに興味を持たなくてはいけない。
流行を作るくらいの気概でいなくてはならないのだ。
それ以上に困るのが女同士のマウントの取り合いだ。
次期王太子妃として、王妃殿下のすぐ下の地位にいなくてはならない。
俺はどうしても理知的過ぎて、すぐに加熱する女のヒステリーが我慢ならない。
それでもなんとか耐えて、いつも冷たく微笑んでいる。
そんなことが出来るようになるなんて、教育とは恐ろしい。
とにかくこのままじゃダメだ。
だけどどうしたらいいのかわからない。
俺の不安は膨らんでいく一方だった。
--------------------------------------------------------------------------------
生理予定日がわかることで、王太子に会わせないように事故に遭わされたり、他の男の子どもを妊娠するように襲われたりなど、危険がいっぱいになるのです。
貴族って怖いですね。
6/21 私の中の「異世界じゃがいも問題」が解決いたしましたので、ジャガイモとニラに付け加えていた別名を消しました。
ご興味がある方はカクヨムの私の近況ノートをどうぞ。
https://kakuyomu.jp/users/sayokichi/news/16817139555879747096
カールは王族で魔法が使えた。
彼の力は防御能力で、俺が元の世界の話をするときはいつも透明な障壁を張って聞こえないようにしてくれた。
俺の知識はちょっとだけ彼の役に立った。
じゃがいもの調理方法とか、水仙は食べたら毒だから間違えないようにニラと離して育てる程度だけど。
俺も彼の婚約者としてふさわしいように、王太子妃教育を受けた。
学力は問題ないが、女のふるまいを覚えるのが辛かった。
いやもっとつらかったのが女たちとの付き合いだ。
俺は向こうで一人っ子だったから、女がこんなに嫌味や嫉妬の塊だとは知らなかった。
俺は家柄も美貌も記憶力も抜群にいい。
そしてカールの婚約者だ。
そりゃ妬みの温床にもなるよな。
俺だって女の子が砂糖菓子みたいな、甘ったるいだけではないとは思っていたよ。
だけどここまで足を引っ張ろうとしたり、相づちを打ったりしただけなのに俺が言ったことにされるなど色々あるとは思ってなかったんだ。
それを庇ってくれるのもカールだった。
俺が剣を習いたいと言ったら、さすがに無理だったが譲歩してくれた。
「叔母上のように剣はさすがに許可できないが、護身術は習えるようにしよう」
馬に乗りたいと言ったときもだ。
「有事の時のために乗れた方がよい」
そう王妃殿下に進言してくれた。
一番は王太子妃教育で煮詰まったら、婚約者との交流と称して連れ出してくれることだ。
ホントに出来た男だ。
カールと結婚する女性は幸せになるだろう。
俺たちは成長して、だんだん大人の体になっていった。
こっちの母が巨乳だったのでそうなるかと思ったが、胸はさほど大きくならなかった。
どうやら祖母に似たらしい。
銀髪に青い目のせいか、氷姫なんて言われる。
ただ単に男言葉がとっさに出ないように、口数を少なくしていただけなんだけど。
見た目イメージってスゲーな。
カールはすらっと背が高くスマートな体形だが、実際にはなかなかの筋肉質で着やせしている。
金色の髪に緑色の瞳で、相変わらずお日様みたいな笑顔を見せてくれるのだ。
2人きりになったときに二の腕を触らせてもらった。
なかなかいい上腕二頭筋だった。
「いいなぁ、俺筋肉つかないからさ」
「クラリスは普通の女性よりも華奢だからね」
「なぁ、もしかして腹も6つに割れてる?」
「えっ? まぁ一応……」
「見せて見せて! シックスパック‼」
そう言ってお腹に手を伸ばしたら、怒られた。
「こら、さすがにはしたないよ。
障壁は張ってるけど、護衛達には見えているんだから」
「ごめん、ごめん」
「君だって、私に胸をさわらせろって言われたら嫌だろう?」
「別にいいよ? こんなささやかなもの」
俺が片乳をカールの背中に当てたら、ものすごく怒られた。
「ク、ラ、リ、ス」
「ホント、ふざけました。
ごめんなさい」
「わかればよろしい。
あと筋肉に触るのも、その……胸を当てるのも私以外にしてはいけないよ」
「それは大丈夫!」
本当は庭師の爺さんがなかなかのいい腕しているので気になっていたが、さすがに俺は見た目だけは極上の美少女なので止めておいた。
ふしだらなんて噂になったら、カールに迷惑がかかるしな。
他にも変化があった。
俺に月のものが訪れるようになったことだ。
いちおう保健の時間でそういう話は聞いていたけど、実際なって見るとすべての女性たちが尊敬の念で輝いて見えた。
こんなに苦しくて、辛いことを、女性たちは毎月耐えて頑張っていたのか!
俺は貧血によるめまいに悩まされていたが、血の元になる肉をガンガン食べることは下品だとされていた。
でも辛い。
向こうの母親が鉄剤とか、サプリメントとか飲んでたなぁ。
俺の体調を気遣ってくれるカールに相談したら、お茶会のセイボリー(塩辛いもの)にローストビーフやレバーペーストのサンドイッチにミートパイなどを入れてくれるようになった。
ただ一言、
「月のもので辛くても私か、信頼できる女性にしか言ってはいけないよ」
月のものは定期的に来る。
つまり俺が妊娠できる日程がよその人間に知られたら、妨害工策があるかもしれない。
注意しなくてはならない。
そしてカールも俺も、閨教育が入るようになった。
俺には本を見せられて、演技指導というものがあった。
初夜はカールに任せればいいが、気持ちがよくなくても気持ちいいフリをすることがマナーなのだ。
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女への夢はほぼ消えていたが、さすがに演技なのかもしれないと聞くと辛かった。
カールの方は実践教育だったようだ。
お相手は美貌で知られる某伯爵の未亡人だ。
もちろん直接言われたわけではない。
ただカールが俺に触れる時の感じがこれまでも丁寧だったが、より宝物に触れるような感じになったのだ。
どうかしたのか聞いたときの、カールの男としての自信に満ち溢れた微笑みを見た時にわかった。
それは中学のクラスメイトが童貞を捨てたって言ったときと同じ感じがしたのだ。
お相手は俺とカールが出る夜会に、件の伯爵夫人が出席しなくなったから推測した。
閨教育の相手に俺が嫉妬しないようになのかな?
カールは素敵だから、その逆かもしれない。
だがこのことは俺を落ち着かなくさせた。
俺たちはこのままだとあと数年で結婚する。
俺はカールとエッチして、子どもを産むのか?
そんな決心はつけられなかった。
俺は男なのだ。
だけどカールの側には俺しかいない。
でも恋人探しはどうなっているのかも聞きにくかった。
彼は優秀な王太子として、仕事がたくさんあるのだ。
前ほど一緒にいられる時間も減ってきたから、内緒話も簡単にできやしない。
つまり恋人を作る暇もないのだ
俺自身、社交界を牛耳るように今までのような飾りの少ない簡素なドレスはダメだと言われた。
コルセットを締めて、宝石やレースやリボンに興味を持たなくてはいけない。
流行を作るくらいの気概でいなくてはならないのだ。
それ以上に困るのが女同士のマウントの取り合いだ。
次期王太子妃として、王妃殿下のすぐ下の地位にいなくてはならない。
俺はどうしても理知的過ぎて、すぐに加熱する女のヒステリーが我慢ならない。
それでもなんとか耐えて、いつも冷たく微笑んでいる。
そんなことが出来るようになるなんて、教育とは恐ろしい。
とにかくこのままじゃダメだ。
だけどどうしたらいいのかわからない。
俺の不安は膨らんでいく一方だった。
--------------------------------------------------------------------------------
生理予定日がわかることで、王太子に会わせないように事故に遭わされたり、他の男の子どもを妊娠するように襲われたりなど、危険がいっぱいになるのです。
貴族って怖いですね。
6/21 私の中の「異世界じゃがいも問題」が解決いたしましたので、ジャガイモとニラに付け加えていた別名を消しました。
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