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第8話 最終話
しおりを挟むターナー侯爵家は3日ももたなかった。
父が彼らの寄り子に対して寄り親を変えるなら攻め込まないと宣言したからだ。
我がラ・トゥール公爵家を寄り親にせよとは言わなかった。
だから彼らは近しい家柄にすり寄り、相手もそれを了承したのだ。
ただしボストン男爵家だけはそれを許さなかった。
男爵は死に、男爵夫人は彼女の実家が寄り親を変えていたので特別に許された。
ターナー侯爵家は現侯爵を失い、後継ぎのキーラの兄が負けを認め、領地と賠償金を差し出してきた。
彼らは落ちぶれて侯爵位を維持できず、子爵まで落ちぶれた。
ラ・トゥール公爵家も名誉を守る戦いだったので、兵士以外の平民に手を出すこともないし、貴族や兵士も全員を滅ぼすことはしなかった。
たとえそれで恨まれても、それを受けて立つ心意気がある。
それが貴族なのだ。
わたくしの決闘を受けなかったキーラは、その点で貴族として劣っていたのだ。
キーラとアイラはあれから王宮から出なかった。
彼女たちは私たちの戦いを不当なものだと訴えたが、貴族法に則った戦いだったと認められるとさらに肩身が狭くなった。
そうしてレオナルド殿下も庇ってあげることが出来なくなっていった。
そんなときアイラに会いたいと、養母のボストン男爵夫人が王宮を訪れた。
彼女はアイラを抱きしめながらこう言った。
「お前が殿下に手を出さなければこんなことにならなかった。
キーラ様も決闘を受けてくださればこんなことにならなかった」
男爵夫人は髪に刺していたかんざしでアイラとキーラを殺害し、自身も喉を突いて自害してしまった。
あの卒業パーティーから4日目のことだった。
男爵夫人を生かしておくように言ったのはわたくしだ。
まさかこんなにうまくいくとは思っていなかった。
ボストン男爵夫妻がアイラのことで、中立派の貴族から非難を受けているのを見たことがあった。
同じ寄り子からもアイラがキーラに守られていたので表立った行動はなかったが、無視されていたようだ。
いつも申し訳ないと頭を下げている真面目そうな姿が印象に残っている。
そのときに男爵は夫人をいたわるように背中をさすっていた。
仲の良い、愛し合うよい夫婦だったのだろう。
そんな夫婦が養女のせいで、死に別れる羽目になったとしたらどうするだろう?
殺すまではいかなくても、何らかの制裁を加えるだろうと思っていた。
男爵夫人が何もしなかったら、アイラ達には名誉棄損の裁判を起こすつもりだった。
おかげでこれ以上、面倒な転生者たちと関わらずにすんだ。
さてレオナルド殿下だが、残念ながら彼は王太子を降りることはなかった。
なぜなら王妃の子は彼だけだったからだ。
バカな子ほどかわいいというやつなのだろう。
わたくしにとっては一生の恥だが、たかが国内での婚約破棄だ。
ラノベでは廃嫡、幽閉、去勢して国外追放とあるけれど、婚約破棄とわたくしへの名誉棄損だけでは無理だ。
ターナー侯爵家との戦争が認められたのも、レオナルド殿下を守るためなのだ。
彼は純情を踏みにじられた被害者(笑)として扱われることになった。
よく調べずに婚約破棄をしたため、彼の持つ直轄地で最も良いリース領をわたくしへの慰謝料として下げ渡すことになった。
今後の彼の財産は大幅に減ることだろう。
それから彼は中立派のエリントン伯爵令嬢と婚約し、結婚した。
ラ・トゥール公爵家のわたくしとも、ターナー侯爵家のキーラとも結婚できず、さらに下になると彼女しか残っていなかったのだ。
いや本当は誰も残っていなかった。
エリントン伯爵令嬢も婚約していたのだが浮気者の婚約者とうまくいっておらず、王命として婚約解消をしてくれる家を募っていたので、喜んで解消した。
「わたくしは殿下に浮気は許さないつもりよ。
世継ぎができない以外で側妃なんて認めないわ」
この結婚で王家はますます弱っていくだろう。
エリントン伯爵家は中立派であまり力が強くないし、強力な後ろ盾のある側妃を得ることもできないから。
さてわたくしのことだが、ラ・トゥール公爵家は弟が生まれているので父が持っていた伯爵位を受け継ぎ、王子からもらった領地の名を取り、リース女伯爵となった。
結婚はすぐにはしないつもりだったのだけど……。
ファビアンから「ご褒美ください」と詰め寄られて抱きしめられたら、2人とももう我慢が出来なくなってしまったのだ。
彼は立派な騎士であり、子爵でもあるから、傷物の女伯爵など娶らなくてもよかったのに。
だけどわたくしのために命がけの決闘に名乗りを上げたこともあり、ちょっと早すぎることに目をつぶれば、これでよかったと父からも祝福された。
「お前は無駄に才能と金を持っているからな。
ファビアンがもらってくれるなら無能な婿が来なくて安心だ」
だそうだ。
ゲームの父と今の父に大きな違いを感じる。
あの元義母はファビアンに薬を使ったように、父にも薬を使っていたのかもしれない。
わたくしは思うのだ。
アイラもキーラも前世での記憶にとらわれ過ぎたのだ。
現実を見て自分の立場を知り、真面目に真摯に生きていけばアイラは殿下に手を出すことはなかったし、キーラもあのようなことにはならなかったはずだ。
わたくしの行動はほとんど悪役令嬢だった。
だけどそれはゲームのヒロインの立場から見た場合だけの事。
貴族令嬢としてはあれで正解だったのだ。
おかげでわたくしが心から愛し、最高に愛してくれる素晴らしい夫と結ばれることができた。
窓の外にはわたくしたちの息子と娘が小さな木剣を持って、ファビアンに教わりながら素振りをしている。
その姿はあの時よりは幼いけれど、わたくしたちが子どもの頃に似ていた。
わたくしは幸せを噛みしめながら、窓を開けて彼らをお茶に誘うのだった。
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次話はあとがきです。
作品解説と悪役令嬢婚約破棄ものに思うことが書いてあります。
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